『けんかえれじい』感想とイラスト 喧嘩道の行き着く先は?

この記事は約5分で読めます。

映画『けんかえれじい』高橋英樹のイラスト(似顔絵)
ひとつ喧嘩はガンのつけ~♪ふたつ喧嘩は肝っ玉~♪みっつ未来の大物だい!大ちゃんアッチョレ人気者~♪……ん?なんか途中から違う歌になっているような気もしますが、細かいことは気にせずに、野明、東京へ行くぞ!

スポンサーリンク

作品情報

『けんかえれじい』

  • 1966年/日本/86分
  • 監督:鈴木清順
  • 原作:鈴木隆
  • 脚本:新藤兼人
  • 撮影:萩原憲治
  • 音楽:山本丈晴
  • 出演:高橋英樹/浅野順子/河津祐介/片岡光雄/恩田清二郎

参考 けんかえれじい – Wikipedia

予告編動画

解説

戦前の岡山を舞台に、喧嘩に明け暮れる中学生“麒六(キロク)”がその先に見る「何か」を描いた痛快青春アクションコメディです。

監督は先日93歳にして亡くなられた『東京流れ者』『殺しの烙印』の鈴木清順。主演はいまやバラエティ俳優と化した桃太郎侍・高橋英樹。共演には『赤胴鈴之助』シリーズの浅野順子、『ガメラ2 レギオン襲来』『ガメラ3 邪神覚醒』の河津祐介など。

スポンサーリンク

感想と評価/ネタバレ有

『東京流れ者』に続く、これまで未見であった鈴木清順映画の鑑賞企画第2弾。児童文学作家の鈴木隆による自伝的長編小説をもとに、新藤兼人が脚本を書き上げた青春痛快活劇。のはずだったのですが、脚本が気に入らなかった清順は先輩・新藤兼人を無視して大暴走。

ろくな説明もないまま怒涛のテンポで突き進む物語はもうなんのこっちゃわかりません。バンカラと呼ばれる戦前の中学生が喧嘩に明け暮れる毎日を描いただけの内容なのですけど、細かな説明をほぼ放棄しており、誰が何とどうなってこうなったのか皆目わからんのです。

喧嘩の拡大化

主人公の麒六を演じるのはいまやバラエティ俳優と化した高橋英樹。当時23歳の高橋に中学生を演じさせる時点で壮絶な違和感がありますが、彼のどこかすっとぼけた愛嬌と純情がいい感じの快活さを生み出しており、前半は額面どおりの青春活劇と言って差し支えないかと。

麒六は下宿先の年上の女学生・道子さんに想いを寄せる純情少年で、おそらく喧嘩などには本心ではなんの興味もないはずなのですけど、どこからどう出て来たのかさっぱりわからないスッポンなる男に喧嘩の腕を見初められ、そこから彼の不本意な喧嘩道が始まるのです。

高橋同様とても中学生には見えないおっさんどもとの喧嘩シーンもダイナミズム満載で面白いのですが、やはりここでの見どころは日本家屋の構造を活かした動きと構図、そして夜桜の下を歩く麒六と道子の姿であり、つまりは純愛メロドラマにこそあるのです。

道子への想いを喧嘩へと転換させた白昼夢のごとき暴れっぷりと、自身の暴れん坊をもって道子愛用のピアノを奏でる麒六の純情変態喧嘩道のなんたる愛らしさ。リビドーを抑えるためのタナトスへの傾倒。しかしここから麒六の快活さに暗雲が立ち込めることとなります。

麒六のまっすぐな純情は権威、権力への反感というかたちで現出し、軍事教練にやって来た教官と衝突。岡山を出奔する羽目へと陥り、会津若松の親戚の家へと身を寄せることに。そこでも彼は権威に盾突き、より大きな暴力の渦へと呑み込まれ、もはや快活さは失われます。

会津若松における白虎隊との死闘においては、快活さが消え失せた代わりに陰惨さが目立ち始め、もはや喧嘩とは呼べない暴力へと雪崩れ込み、それは最終的により大きな暴力、つまりは戦争へとつながっていくのだろうという余韻を残して映画は唐突に幕切れます。

ここで重要な役割を果たすのが、原作にも脚本にもなかったという二・二六事件の思想的指導者とされる北一輝と麒六との邂逅で、このシーンでの極端に照明を落とした異空間描写はほとんど幽界といえ、闇のなかから怪しく浮かび上がる北一輝の鋭い眼光には戦慄を覚えます。

以前の快活さは失われ、道子との恋にも破れ、軍靴の足音忍び寄るなか、すでに逃れられない暴力の渦へと呑み込まれた麒六は、クーデターというより大きな喧嘩の魅力へと引き寄せられていき、東京行きを即断。彼は喧嘩に明け暮れる毎日のなかでいったい何を見たのか?

あきらかに続編を意識した終わり方ですが、次作『殺しの烙印』で日活の社長の逆鱗に触れて同社を追われた清順は、『続・けんかえれじい』の脚本を執筆したものの映画化の夢はかないませんでした。麒六の暴力が行き着く先を観てみたかった気もしますが、まあ仕方ないか。

しかしこの『けんかえれじい』のラストシーンはどっかで観たことあるぞ?って押井守ファンなら周知の事実でしょう。『機動警察パトレイバー』の初期OVA版第5話『二課の一番長い日(前編)』のラストシーンはこの映画に対するオマージュなのですよね。

いまさらようやく観たわけですが、そのそっくり加減にはおじさんびっくり!でも真似したくなる気持ちもわかる引きと高揚感をもった秀逸な終わり方でして、これはやはり続編を観てみたかったか!?ああ~ホントいまさらハマったんだけど、鈴木清順よなぜ死んだ!

個人的評価:7/10点

DVD&Blu-ray

VOD・動画配信

『けんかえれじい』を定額見放題なおすすめ動画配信サービスは(2018年12月現在。最新の配信状況はビデオマーケットのサイトにてご確認ください)。

喧嘩映画の感想ならこちらも

『たかが世界の終わり』感想とイラスト 天才が描く家族の肖像
映画『たかが世界の終わり』のイラスト付き感想。ネタバレ多少。12年ぶりに一堂に会した家族水入らず。そこで噴出する、怒号、絶叫、罵り合い。ここはなんといううだるような暑さだ。ああ~鬱陶しい。ひたすら鬱陶しい。なんて鬱陶しい天才だ。グザヴィエ・ドラン、貴様天才だ!

短い映画好きにおすすめ

時は金なり!90分以内でも面白いおすすめ映画10選
年をとると複合的要因によって必然的に長い映画を観るのが困難となってきます。しかし観たい!面白い映画を観たい!そんなボクやあなたにおすすめのサクッと短いけどビシッと面白い映画を紹介してやるぞ!

コメント

  1. ダムダム人 より:

    お久しぶりです。
    この作品は見たことは無いのですが、NHKの少年ドラマシリーズで
    放送したのを見た記憶があります。
    記憶に残っているのは、道子さんを見舞いに行った時
    お母さんが部屋の外で泣いていたシーンが印象的でした。
    それとすっぽん先輩が兵隊にとられて戦地で亡くなった事も
    印象に残っています。

    最初は気弱だった主人公が、少しづつ変わっていくのが
    見ていて面白かったです。

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      ダムダム人さん、お久しぶりです。そしてコメントありがとうございます!

      『けんかえれじい』のドラマ版なんてのもあったのですね。知りませんでした。そちらは原作に忠実に作られているようですが、映画版はもはや別物かと思われます(笑)。青春活劇の体裁を借りた清順ワールド全開の内容でして、ただならぬ違和感を愛好する変態にとっては大好物の作品だと思いますので、映画版のほうもぜひ!

  2. おーい生茶 より:

    当作はハチャメチャ映画でした。
    スパイクロッドさんのような玄人向けですね。

    でも映像はまあまあ良かったです。
    喧嘩シーンはそこそこ見られましたし。
    夜桜の下を二人で歩くシーンは僕も好きです。
    夜桜バックに着物姿の女性を横から撮る素晴らしいショットでした。

    脚本は新藤兼人さんなんですね。
    新藤さんと言えば監督を務めた名作「鬼婆(1964)」。
    スパイクロッドさんのおすすめホラー映画ページに鬼婆が無いのは意外です。
    海外の監督にも好評で最近だとヘレディタリーの監督も褒めていましたよ。

    • おーい生茶さん、コメントありがとうございます!

      脚本としてはそうとう破綻しているんですけど、それを強引な画力によって立て直した変な映画でしたよね。ボクはストーリーよりもビジュアル重視の人間ですので、どうにもこういう映画には目がないのです。

      新藤兼人監督の『鬼婆』は未見です。邦画に関しては素人も同然でして、いやはや勉強が足りません。そっちにも食指を伸ばす時間があったらいいんですけどねぇ……。