『ディーパンの闘い』感想とイラスト 暴力の歴史

映画『ディーパンの闘い』のイラスト

戦いに明け暮れ、すべてを失い、暴力からの逃走を図った男。その名はディーパン(仮)。ふたたび愛する者たちが出来たとき、彼の野生が、野獣が解き放たれるのだ!

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目次

『ディーパンの闘い』感想とイラスト 暴力の歴史

  1. 作品データ
    1. 予告編動画
  2. 解説
    1. あらすじ
  3. 感想と評価/ネタバレ有
    1. 暗闇から猫耳
    2. 難民が求めるもの
    3. 家族になろうよ
    4. ヒストリー・オブ・バイオレンス
    5. ラストの光

作品データ

『ディーパンの闘い』
Dheepan

  • 2015年/フランス/115分
  • 監督:ジャック・オーディアール
  • 脚本:ジャック・オーディアール/トマ・ビデガン/ノエ・ドゥブレ
  • 撮影:エポニーヌ・モマンソー
  • 音楽:ニコラス・ジャー
  • 出演:アントニーターサン・ジェスターサン/カレアスワリ・スリニバサン/カラウタヤニ・ヴィナシタンビ/ヴァンサン・ロティエ

予告編動画

解説

心温まる疑似家族の形成を思わず暴力が突き破ってしまうという社会派バイオレンス・ドラマです。第68回カンヌ国際映画祭のパルム・ドール受賞作。

監督は『預言者』のジャック・オーディアール。主演はスリランカ内戦の元兵士で、演技経験ゼロというアントニーターサン・ジェスターサン。『ルノワール 陽だまりの裸婦』のヴァンサン・ロティエが素人集団の脇を固めます。

あらすじ

内戦が続くスリランカですべてを失った元兵士(アントニーターサン・ジェスターサン)。難民としてフランスに入国するため、“ディーパン”という新たな名前を与えられ、赤の他人である女と少女と偽りの家族を演じることに。

なんとか難民審査をパスした3人は、パリ郊外の集合団地に住み込みの管理人として移り住むことに。慣れない異国の地での生活にさまざまなトラブルが発生するものの、ようやく手にした平穏のなかでささやかな幸せをつかもうとしていた彼ら。

偽りの家族から本当の家族へと変わりつつあった3人。しかしそんな彼らを新たな暴力が襲う。ようやく手にしかけた幸福を守るため、ディーパンのなかで捨て去ったはずの戦士としての本能が呼び覚まされるのであった……。

感想と評価/ネタバレ有

第68回カンヌ国際映画祭で、あの『サウルの息子』を抑えてパルム・ドールに輝いた作品。大好きなジャック・オーディアール監督作ということでこれも劇場で観たかったのですが、出不精により断念。なんとまあ難儀な面倒くさがり屋ですわ。

んでまあ今回の自宅鑑賞と相成ったわけでありますが、パルム・ドール受賞も納得の傑作でありましたな!現代的テーマのなかで心温まる疑似家族形成を謳うのかと思いきや、最後にオーディアール流任侠魂が炸裂してしまうという怪作なのですよこれ!

暗闇から猫耳

スリランカ政府と“タミル・イーラム解放のトラ”によって26年にわたって繰り広げられた内戦。その戦いの渦中で愛する妻と子を失い、すべてに疲れ果て、名前を変え、赤の他人を家族と偽ってフランスへと渡って来た武装勢力の人殺し、ディーパン(仮名)。

冒頭からすでに内戦は事後処理で、無造作な死体の山と空虚な男とものすごく現実的で適当な家族が出来上がる状況を、さささっと描写していくオーディアールの無駄のなさ。余計なものは描かない。つまりは暗黒。真っ暗闇。

そんな暗闇から何やらピカピカチカチカした発光体が。なんだろう?ここ…こ、これは!?ディーパン(仮名)のドッヘに光り輝く猫耳が!ああ~なんたる死んだような顔。なんというシュールすぎる映像。すでに傑作のニオイがプンプンしております!

無駄のない的確さで暗闇から猫耳ディーパンぬるりを演出してみせたオーディアールの剛腕鉄腕。ここ以外にも闇から何かが現れる、または消えていく映像が非常に印象的。ディーパンの内なる獣性を象徴するジャングルゾウさんなんかもまたしかり。

難民が求めるもの

戦士としての本能を内に秘めながら、戦いのなかであまりに多くのものを失って「疲れたよパトラッシュ」状態へと陥り、ドッヘに猫耳つけて死んだような顔で海を渡ったディーパン(仮名)。彼を難民だと定義するのには疑問もあるが、これが我々日本人の知らない難民問題の現実なのでしょう。

これに対してなんやかんやと言える立場にはない無知なボクですが、国を捨ててまで、嘘をついてまで、平和を、平穏を求める想いというのはいかほどなのでしょうか?平和ボケした我々日本人には想像もできませんが、それほど平和は、平穏は尊いということ。

平和を求めてやって来る側と、それを受け入れる側。その想いの温度差は、つまるところどこへ行こうが争いは、内戦は、暴力は続いているという現実。かたちは違えど、世界は戦いであふれ返っているという現実。

家族になろうよ

そんなこととは露知らず、平和を、平穏を求めて海を渡って来たディーパンと偽家族ご一行様。慣れない異国の地でまず彼らが対峙しなければならない現実。言葉、貧困、居場所。新たなる彼らの闘いの始まりです。

その困難のなかで時には衝突しながらも、必然的に絆を深めていく偽家族ご一行様。そりゃそうですわな。頼れる者は結局この3人しかおらんわけですから。争いを離れたつかの間の平穏のなかで、偽家族から本当の家族へとゆるやかに変化していく彼ら。

平和な生活という光を求めて国を捨て、共通の困難のなかでかりそめから真実の家族へとなりかけていたディーパンたちが求めた光は、このフランスの地にあったのだろうか?答えはこの集合団地へと初めてやって来たディーパンたちをとらえたカメラが、ゆっくりと上昇していく秀逸なショットが示しています。

団地全体を取り仕切る麻薬ギャングらしき男たち。屋上には銃を携えた見張りのチンピラ。出所したリーダーを祝う飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。やがて始まる彼らギャング間での内部抗争。ここにも内戦があり、ここも戦地でしかなかったという現実。

ヒストリー・オブ・バイオレンス

偽の妻役であるヤリニが求めたイギリスであっても、そしてここ日本であったとしても、そこにはかたちの異なる内戦が、戦いが繰り広げられているのです。この映画が突きつけてくる現実は、どこへ行こうが我々を捕らえて離さない争いという名の監獄の存在。

平和を求めてやって来た異国で直面するかたちの異なる戦争。その渦中にいやおうなく巻き込まれていくディーパン一家(偽)。祖国を離れても彼を見逃してはくれない忘れがたい暴力の歴史。そのなかでもがき苦しむディーパンの熱唱が胸に突き刺さります。

ここからこの映画は難民問題を扱った社会派、そしてその困難のなかで形成される疑似家族ものとは大きく様相を違えていき、かりそめの家族を守るために発動されるディーパンの闘争本能を描いた、まさかの殴り込み任侠映画と化してしまうのです!

これがこの映画を傑作たらしめているゆえん!ここでの剛腕鉄腕オーディアールによるアクション描写の鮮烈さはちょっとよそでは拝めませんよ。尋常ではない臨場感、バイオレンス、独特の視点、そして本能をむき出しにしたディーパンの無双ぶり。ヒリヒリするぜ!

ラストの光

闇のなかで微かな光を求めたディーパンたちの闘いは、想いは、はたして結実したのでしょうか?この映画のラストを観るかぎり、ディーパン一家(真)にはようやく幸福な光が訪れたようにも錯覚してしまいます。そう、夢のように幸福な光の描写によって。

しかし、あのジャック・オーディアールがこんな安易な幸福感を演出するだろうか?こんな安易な、ありえない、夢のようなハッピーエンドを描くだろうか?あえて多くは語りませんが、つまりあのラストは見かけどおりのものではないということ。

これがこの『ディーパンの闘い』を傑作たらしめているもうひとつのポイント。ボクはこのあまりの幸福感がせつなすぎて涙が出そうになってしまった。彼らが求めていた光がかたちになった瞬間。いま、この瞬間に、ディーパンに見えているであろう光景。

ディーパンの髪を、頭をやさしく撫でてあげているヤリニの手。その手の動きには彼に対する愛おしさがあふれているように思えます。必死に何かを受け止め、つなぎ止めようとしているように思えます……。

個人的評価:8/10点

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