『サウルの息子』感想とイラスト 神よ、救いたまえ

映画『サウルの息子』のイラスト


ゾンダーコマンドの命は短い。そのなかで彼らは何を残そうとしたのか?サウルが求め続けた祈りは、はたして誰に向けられたものだったのだろうか……。

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目次

『サウルの息子』感想とイラスト 神よ、救いたまえ

  1. 作品データ
    1. 予告編動画
  2. 解説
    1. あらすじ
  3. 感想と評価/ネタバレ多少
    1. ゾンダーコマンド
    2. アウシュヴィッツアトラクション
    3. ボカシを細目で覗き見る
    4. すでに死んだ男
    5. もやもやぼけぼけ

作品データ

『サウルの息子』
Saul fia/Son of Saul

  • 2015年/ハンガリー/107分
  • 監督:ネメシュ・ラースロー
  • 脚本:ネメシュ・ラースロー/クララ・ロワイエ
  • 撮影:エルデーイ・マーチャーシュ
  • 音楽:メリシュ・ラースロー
  • 出演:ルーリグ・ゲーザ/モルナール・レヴェンテ/ユルス・レチン

予告編動画

解説

自宅にいながらアウシュヴィッツを疑似体験して吐きそうになるほど三半規管と精神をやられる戦争ドラマです。第68回カンヌ国際映画祭のグランプリ受賞作。

監督はハンガリーの巨匠タル・ベーラの一番弟子と目されるネメシュ・ラースローで、これが記念すべき監督デビュー作。出演陣は誰ひとり知りませんが、皆いい面構えをしております。

あらすじ

1944年の10月。アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所でゾンダーコマンドの一員として死体を処理していたサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、ガス室でまだ息のある少年を発見する。結局は殺されてしまったこの少年はどうやらサウルの息子らしい。

ガス室を生き延びた少年の遺体は解剖の対象となり、囚人医師のもとへと送られる。彼に解剖の中止を懇願したサウルは、自分の息子らしき遺体にユダヤ教式の埋葬を施してやろうと、ナチスの目を盗んで奔走するのだったが……。

感想と評価/ネタバレ多少

劇場で観たかったのに観れなかったこの『サウルの息子』。んなもんで今回のレンタルDVDによる鑑賞と相成りました。観了した率直な感想といたしましては、やはり劇場で観るべきだったなと。巨大スクリーンで体感すべき映画だったなと。

まあ過ぎたことをいくら悔やんだところで時間は巻き戻せませんので、自宅のこんまいテレビでの鑑賞とはいえとりあえず観られたことに感謝。感謝?何を甘ったれたことのたもうてやがるてめえ!この映画はな、地獄そのものなんだよ!じ・ご・く!

ゾンダーコマンド

なんか『野火』の感想でも同じようなことを書いたような気がしますが、しつこい性格なのでどうぞご容赦ください。この映画の主人公であるサウルは、囚人でありながらナチスによってある仕事を与えられている“ゾンダーコマンド”でした。

「“ゾンダーコマンド”。カッコいい響きだな~」と思ったあなた。同感です。ボクもカッコいいと思いました。ナチスドイツは無駄に名称や兵器がカッコいいの。んでもってそんなとこにこだわってるから戦争に負けるの。勝ちにこだわれよって話。

いささか話がそれましたな。響きはすこぶるカッコよく、ともすればそんなふうに呼ばれてみたいとすら思わせるゾンダーコマンド。しかし彼らが与えられた仕事、その後の末路を知ってしまうと、頼むから勘弁してくれよって話。

命を人質に取られた彼らがナチスによって与えられた仕事。それは主にガス室などで無残にも虐殺された、同胞であるユダヤ人の死体処理であった!実際に手を下すのはナチスであるが、死体を触るのはやだからお前らやれよって話。

マジ勘弁してくださいよ。無理っすよ。しかもナチスによる大量虐殺の事実を知っている身分であるため、情報漏洩防止のためにほとんどが3か月、長くても1年以内にガス室に送られるというご無体。なんという働き損!恩赦はねーのかって話。

アウシュヴィッツアトラクション

そんなゾンダーコマンドとして背中にバッテンを書き殴られているサウル。冒頭、この映画の主人公であるサウルが登場するまでの映像はぼやぼやのピンぼけ。再生不良?撮影ミス?と思ったらぬるっとサウルが現れて、ようやく焦点が合います。

しかし焦点が合っているのはサウルのみで、それ以外は依然としてぼけぼけ。サウルの顔面や背中にへばりついて移動するカメラはスタンダードサイズ。ただでさえ狭い画角の大部分をサウルが占領してしまっているので、余計に状況がつかめない。

ぼけぼけのサウルの周囲では、どうやらぼけぼけとは似ても似つかぬ阿鼻叫喚が繰り広げられている模様。どこかへ連行される人の群れ。すすり泣き。ひそひそ話。怒声。裸の群れ。閉じられる扉。悲鳴。ようこそ皆さんアウシュヴィッツへ。

見えるモノと隠されているモノ。長回し移動撮影。音響。徹頭徹尾サウルに寄り添いながらも、かすみの向こうを凝視せずには、耳をすまさずには、想像せずにはおれない。ようこそ皆さんアウシュヴィッツへ。うちの売りは地獄の疑似体験だよ!

ボカシを細目で覗き見る

そんな地獄のアウシュヴィッツを強制的に疑似体験させてくれるこの映画。評判の映像、演出が吐きそうになるほど気持ち悪いという最大の賛辞を送ります。気持ち悪いし疲れる。怠惰な日常でゆるみきった五感を無理矢理に研ぎ澄まされるというか。

物語としてはいたって単純です。ゾンダーコマンドとして働かされている囚人のサウルが、ガス室で自分の息子らしき遺体を発見。その子をなんとかユダヤ式の埋葬で弔ってやりたいと、ユダヤ教のラビを探して収容所内を奔走する。

そんな単純な物語がなにゆえこうも気持ち悪く疲れるのか?それは意図的な情報量のカットにあるのでしょう。すでになかばゾンビと化した男に寄り添い続けるカメラ。彼の見たくないものには意図的にボカシがかけられてしまう。

感覚の遮断。平衡の崩壊。劇中でサウル自身が語っているように、すでに彼は死んだも同然であり、心はズタボロに壊れきっているということ。しかし我々観客は、彼が見たくないものとして遮断してしまっているモノにこそ注視してしまう。

見えないモノを必死に見ようとする覗き根性は、隠された情報を補うというよりかは増幅させる音響凶器によって後頭部を殴打され、もはや瀕死のていであります。焦点を外したモノにこそ観客の焦点を向けさせる。斬新だけど疲れるわ~。

すでに死んだ男

観客の疲労感をよそに、ひたすら我が子の正式なる埋葬を求めてラビを探し続けるサウル。その裏側で進行するゾンダーコマンドたちの決起作戦。その渦中へと否応なしに巻き込まれながらも、そんなものにはまったく興味のないサウルさん。

恐るべき自己中モード全開。みんながなんやかんやと世話を焼いてくれるのに、んなこた知ったこっちゃない。そこまで息子のことを想ってたんだねサウルさん。これが最後の息子孝行。なんて感慨にふけっていたボクのドタマをぶん殴った爆弾発言。

「お前に息子はいない」。……………なぬ!?いないって、ほんじゃあの子は?ここから物語はいよいよミステリー的要素を孕んだ怒涛の展開を!見せるわけでもなく、あいかわずぼけぼけの背景のなかを「我が子」のために奔走し続けるサウルの姿。

そうか、サウルはゾンビだったんだ。極限状態のなかで以前のサウルは死に、荒涼とした心に残った最後の人間らしさに従い、それ以外のすべてを無視し、「我が子」への祈りを、自らの救済を求めたゾンビと化してたんだ……。

もやもやぼけぼけ

そんなサウルの願いは神へと届いたのだろうか?個人的な祈りは、集団の救済へともつながるのだろうか?集団を無視した個人的祈りへの奔走。それがひいては集団への祈り、救済へとつながるのかどうかはボクにはわかりません。

ぼけぼけのアウシュヴィッツ疑似体験に身も心も疲れ果て、ボクの足りない頭もかすみがかったぼけぼけ状態であり、サウルの行動への理解、判断がもやもやぼけぼけしてしまってどうにも答えが出てきません。いや、これは出ているということか?

もやもやぼけぼけしているということは、彼の行動に真の意味での共感、理解ができていないということ。かすみの向こうに注視させる地獄のアウシュヴィッツ疑似体験ツアーとしては衝撃的だったが、その先の祈りへの意識が希薄だったということ。

サウルの行動と祈りが何へとつながるのか、頭では理解できても心が動かされないのです。もっと周りも見ろよと思ってしまう。いやこれは、現実生活で周りも見ずに突っ走る自己中な自分への裏返しなのか?あら、お恥ずかしい。

個人的評価:7/10点

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コメント

  1. ミス・マープル より:

    おっしゃる通りモヤモヤした映像が印象的でした。
    サウルがこだわったのは同胞をガス室に送ることで少しの期間生きながらえることを選択した自分への罪悪感とそれを解消するために、多分自分の息子ではない子供の正式な埋葬にこだわったのだと思っています。
    ラストにロシア人?の子供が彼らの居場所を教えたのに、その子供の姿が光り輝いていましたよね。それが彼の心の救済がなされたことを描いていたのかな、と勝手に解釈しています。

  2. スパイクロッド より:

    ミス・マープルさんコメントありがとうございます!
    もやもやアウシュヴィッツ疑似体験がとにかく強烈な映画でしたね。サウルの罪の意識と救済の渇望、「自分の息子」への祈りがやがてはすべてのユダヤ人への祈りへとつながる。頭ではわかってるんですけど、どうにも実感として理解できないというか。あの少年を目撃したときのサウルの微笑みはメタ的でもありますよね。あの視線は我々のほうを向いているともとれる。映画の鑑賞者である我々に対して、この事実を、祈りが伝わった、継承されたことを確認しての笑顔ともとれる。だとすると実感として彼の祈りを理解していないボクなんかは失格ですね。すまんサウル!

  3. ダムダム人 より:

    この作品は知っていましたが、経済的に辛いのと
    あまりにも重そうなので、見送りました。

    昔、同じような内容の「灰の記憶」というのが有りました。
    こちらは、公開終了後に知ったので、同じく見ていません。

    予告を見ましたが、主人公になった様な疑似体験が出来そうな感じですね?
    (見終わった後、しばらく食欲が無くなりそうです。)

    閑話休題
    サイトの引越し完了、おめでとうございます。
    実は以前のサイトでは、ブラウザが固まったり
    動作が非常に重かったりして、実に不思議な現象が起きていました。
    (初めはそんな事無かったのですが、途中からおきました)
    今度はまったく無いので、助かります

    • spikerod より:

      ダムダム人さん、コメントありがとうございます!

      想像されているとおり非常に重たい映画でありますよ。まさに主人公とともに地獄のアウシュヴィッツを疑似体験するという趣の映画であります。しかも彼が見たくないものとしてシャットダウンしているもやもやにこそ注視させられるわけでして、これがまた異常に疲れるのであります。しかし観るべき映画だとは思います。『灰の記憶』という映画はまったく存じておりませんでしたが、同じくゾンダーコマンドを主人公にした映画のようですね。ちょっと気になります。

      いちおうの引っ越しは完了しておりますが、新しい環境に合わせた過去記事の修正が残っておりますので、まだまだそちらに時間を取られそうです。以前のサイトでの不具合はライブドアのほうでの問題でしょうかね?なんにせよ、そういう不具合がなくなっただけでも引っ越しをして正解だったと言えます。

  4. らびッと より:

    こんなに恐ろしい映画は久しぶりに観ました。
    ピントが合っていない表現方法はそれによってあれだけ凄惨な内容でもレイティングに引っかからず誰でも観れるようになっている点もすごいと思うんですよね。

    • spikerod より:

      らびッとさん、コメントありがとうございます!

      本当に恐ろしい、疲れる、でも凄い、絶対に観るべき映画ではありましたね。ボクはてっきりこの映画のレイティングはR15+ぐらいだろうと思っておりましたので、あとで調べてG指定だったと知ったときには驚きました。映っているものはそうとうやばいのに、ピントがぼけていればレイティングにはひっかからないんですね。単純な言葉尻や見えているか見えてないかによってこういうことが決められていくのも、正直どうかとは思いますけど。

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