『悪魔のシスター』感想とイラスト 後味最悪な覗きの哲学

映画『悪魔のシスター』のイラスト

覗きの哲学とは何か?それは恋い焦がれた対象に触れることは永遠にかなわないという、諦念と無力感とそれでも消せない情熱の三重苦。この『悪魔のシスター』とはつまりそういう映画なわけです!

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目次

『悪魔のシスター』感想とイラスト 後味最悪な覗きの哲学

  1. 作品データ
  2. 解説
  3. あらすじ
  4. 感想と評価/ネタバレ有
  5. 胎児よ胎児よ何故踊る?
  6. 『サイコ』と『裏窓』の分割
  7. 怪物たちが踊り狂う白黒の悪夢
  8. 後味最悪ゆえに最高

作品データ

『悪魔のシスター』
Sisters

1973年/アメリカ/92分
監督:ブライアン・デ・パルマ
脚本:ブライアン・デ・パルマ/ルイザ・ローズ
撮影:グレゴリー・サンダー
音楽:バーナード・ハーマン
出演:マーゴット・キダー/ジェニファー・ソルト/ウィリアム・フィンレイ/チャールズ・ダーニング

解説

覗いている男をカメラが覗いて観衆が覗いて観客が覗いて最後の最後まで電柱登ってまで覗きまくるデ・パルマ渾身の覗き映画、ではなくてサイコスリラー。

監督は『殺しのドレス』の愛すべき映画小僧ブライアン・デ・パルマ。主演は『悪魔の棲む家』のマーゴット・キダー。共演に『真夜中のカーボーイ』のジェニファー・ソルト、『ファントム・オブ・パラダイス』のウィリアム・フィンレイなど。

音楽を担当するのはヒッチコックとのコンビで知られるバーナード・ハーマン。ヒッチコックのやることはすべて真似するデ・パルマ。ついには長年のパートナーの晩年を看取ることに。

あらすじ

視聴者参加のクイズ番組に出演しているモデルのダニエル(マーゴット・キダー)。そこで知り合ったフィリップと食事を楽しんでいるとき、彼女の前夫だと名乗るエミール(ウィリアム・フィンレイ)が現れ、強引にダニエルを連れ帰ろうとする。

怯えるダニエルをアパートまで送り届けたフィリップは、そのまま彼女と一夜を共にする。翌朝、誰かと激しく口論するダニエルの声で目を覚ましたフィリップ。相手は同居している妹のドミニクで、彼女はどうやら精神を病んでいるようだった。

薬の買い出しを頼まれたフィリップが帰宅し、ダニエルが眠るベッドへと近づいたそのとき!ドミニクらしき女性からナイフでめった刺しにされてしまう!それを目撃していた向かいのアパートの女性記者グレース(ジェニファー・ソルト)は……。

感想と評価/ネタバレ有

作家性の強い実験的作品(といっても『BLUE MANHATAN II・黄昏のニューヨーク』しか観てないのだが…)を撮っていたデ・パルマが、彼が本来いるべき世界、サスペンスやホラーの暗い闇へと満を持して乗り込んできた記念すべき作品。

それがこの『悪魔のシスター』であります。ヒッチコックが好きすぎて、ヒッチコックを模倣し、ついにはヒッチコックを超えたサスペンスの巨匠、デ・パルマ。それでは彼の初サスペンス、ホラーとはいかなるものだったのか?

胎児よ胎児よ何故踊る?

タイトルデザインからおどろおどろしさがおどろおどろしく踊り狂っております。音楽はヒッチコックの盟友(のちに破局)として知られるバーナード・ハーマン。ミユ~ンポワ~ンという間の抜け加減が逆にこちらを不安にさせる抜群のスコア。

そのミユ~ンポワ~ンな旋律のなかで映し出される胎児のスライド群。胎児よ胎児よ何故踊る、と関係のない『ドグラ・マグラ』への郷愁にチャカポコチャカポコ踊り狂っておる阿呆に突きつけられる、とどめのシャム双生児写真。

冒頭から禍々しい魅力と戦慄を発散させております。これから楽しく美しい見世物小屋が開幕するぞ~ってなもんです。あ、ごめんなさい。あくまで一部の変態向けでありまして、正常な精神の持ち主は気分を害されるやもしれませんのでご注意を。

『サイコ』と『裏窓』の分割

そして始まる変態待望の本編。いきなり映し出されるのは美女の着替えを覗いているニヤけた男。その覗き魔を覗いているカメラ。覗きカメラの映像を覗いている公開クイズショーの観衆。これら一連の覗き祭りを覗いている我々観客。

いきなりの覗き多重構造!この映画が覗きに対する高尚な考察を提示したものであることを高らかに宣言した感動的な幕開けであります。映画とは覗くことであり、覗きとはすなわち映画である。彼の哲学がサスペンスと初めて出会った瞬間。

この結婚の幸福感が最高潮に達したのが、伝説的ともいえるスプリットスクリーンを駆使した、死にゆく男が助けを求めて覗いた先と、その断末魔を覗き見た向かいの住人という、スリリングな相関関係がぶち上げる惨劇の幕開け。

発狂したドミニク嬢によってアソコの横を、口を、背中をめった刺しにされたフィリップ氏の体から流れ出る真っ赤な絵の具の衝撃もさることながら、やはりこの一連のシークエンスの見どころは覗きとスプリットスクリーン。

『サイコ』的な惨劇と、『裏窓』的な目撃を分割表現し、死体の隠蔽を図るダニエルとエミール、事件現場へと迫りくる目撃者のグレースと警察という、ひとつの状況を取り巻くふたつの局面がスリリングに描かれた鮮やかなまでの手際。

この惨劇のバックで流れ続ける、バーナード・ハーマンによる過剰におどろおどろしいスコアの不気味さもあわせて、いやがうえにもヒッチコックを想起してしまいますが、模倣をブラッシュアップさせてオリジナルに並んだ瞬間とも言えるでしょう。

怪物たちが踊り狂う白黒の悪夢

ドミニクによる凶行を目撃してしまった隣家のグレース。彼女は野心旺盛な新聞記者で、この事件の真相を暴いてやろうとオットセイ並みにやる気まんまん。そんな彼女をサポートするのがチャールズ・ダーニング扮する太めの私立探偵。

このふたりのやりとりはややコメディタッチで描かれており、暗い惨劇と呪われた秘密のあいだをつなぐ一服の清涼剤的役割を果たしてくれております。そしてここでも繰り返される覗きのリフレイン。家探しする探偵の姿を覗き見る新聞記者。

ここで手に入れた異様に重たいカウチと、シャム双生児分離手術という重要な証拠。ここから物語は終局に向けて一気呵成に転がり出します。カウチが送られたカナダはケベックへと向かう探偵。そして郊外の精神病院へとたどり着いた記者。

ふたりがたどり着いた先で覗き見たもの。薬、催眠術、そして悪夢。モノクロで映し出されたトッド・ブラウニングも真っ青のフリークス大行進。なんという悪意のかたまり!天然の『フリークス』とは異なるどす黒い悪意がここには渦巻いている!

ここでも鳴り響くバーナード・ハーマンによるミユ~ンポワ~ン。白黒で彩られた奇形の悪夢をさらにおどろおどろしくバージョンアップさせる、過剰な楽器たちによる喧騒の旋律。しかしこの映画の悪意はこんなもんではなかった。

後味最悪ゆえに最高

この『悪魔のシスター』における最大の悪意は、大本となる殺人事件がなきものとして永遠に封印されるという後味の悪さにあります。事件の真相を知っているのはそれを覗き見ていた観客のみ。しかしすべては闇へと葬り去られてしまう。

見ていたのに、知っているのに、それをどうすることもできないこの無力感。被害者であるフィリップ氏が本当にただの「いい人」だったという事実もこれに拍車をかけます。このカタルシス皆無の後味の悪さは『めまい』と通じるものがある。

いや、こと後味の悪さという点においては『めまい』を凌駕しているかもしれない。ヒッチコックを愛し、真似し、ついにはそれを超えてしまった瞬間。ラストショットの苦いブラックジョークがそれを証明しております。最後の最後まで覗き!

愛するヒッチコックへのリスペクトを全開にしながら、思いがけずその対象を超えてしまったデ・パルマ真のデビュー作。最後となりましたが、主演を務めたマーゴット・キダーの舌足らずなフランスなまりの英語も魅力的。なんかやらし~の。

個人的評価:7/10点

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コメント

  1. 当摩泰久 より:

    はじめまして。当摩泰久と申します。作曲・ピアノにたずさわっております。

    ドビュッシーと
    ヒッチコックとデ・パルマが大好きで
    世の中の新作より両者をTsutayaで借りてしまう・・・そのような日常の中で
    「映画を観たから」さんのサイトにたどり着きました。

    ・・・私は文章表現にも とても興味を持っています。
    Amazonの レヴュアさん・yukkie_cervezaの評が魅力的なので
    以前から 参照
    (採り上げられた書籍、DVDを 全てはとても観きれないものの)してきましたが

    「映画を観たから」さんの コメントも
    今後大いに参考にしたいと思います。

    当摩泰久

    • spikerod より:

      当摩泰久さん、コメントありがとうございます!

      クラシックは門外漢ですが、ヒッチコックとデ・パルマは大好きです。特にヒッチコックの模倣を極めることによって唯一無二の作家性を獲得したデ・パルマは、ボクにとって愛すべき映画監督のひとりであります。話題の新作より奇抜な旧作のほうに食指を伸ばしてしまう。わかります。ボクもそんな変な奴のひとりですから(笑)。

      ボクの映画レビューを気に入っていただけて感謝の極みではありますが、基本、自分勝手な妄想世迷い言のたぐいでありますので、あまり信用なさらないように(笑)。またいつでも遊びにいらしてください。さらなる妄想世迷い言に磨きをかけてお待ちしておりますので!

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