『刑事グラハム/凍りついた欲望』感想とイラスト 愛の前に涙する殺人鬼

映画『刑事グラハム/凍りついた欲望』のイラスト

『ハンニバル・レクター』シリーズ初の映画化作品。本当はこの俺が長兄のはずなのに、なんだこの不当な扱いは!俺だけ1980年代生まれだからってバカにすんなよ!

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目次

『刑事グラハム/凍りついた欲望』感想とイラスト 愛の前に涙する殺人鬼

  1. 作品データ
    1. 予告編動画
  2. 解説
    1. あらすじ
  3. 感想と評価/ネタバレ多少
    1. マイケル・マンの男の美学
    2. レクターの映画ではない
    3. 越えてはならない一線
    4. 不当な扱いは許しません!

作品データ

『刑事グラハム/凍りついた欲望』
Manhunter

  • 1986年/アメリカ/120分
  • 監督・脚本:マイケル・マン
  • 原作:トマス・ハリス
  • 撮影:ダンテ・スピノッティ
  • 音楽:ザ・レッズ/ミシェル・ルビーニ
  • 出演:ウィリアム・ピーターセン/キム・グライスト/トム・ヌーナン/ジョアン・アレン/デニス・ファリーナ/ブライアン・コックス

予告編動画

解説

イタコ捜査官とブサメン殺人鬼が対峙するサスペンス・ミステリーです。トマス・ハリスによる『ハンニバル・レクター』シリーズの第1作を原作としており、こちらが正真正銘の映画化作品第1号であります。

監督は『ヒート』『ブラックハット』のマイケル・マン。主演は『L.A.大捜査線/狼たちの街』のウィリアム・ピーターセン。こちらのレクター博士はアンソニー・ホプキンスではなくブライアン・コックスが演じております。

あらすじ

殺人鬼の心理へと自らをシンクロさせて事件を捜査する元FBI捜査官のウィル・グレアム(ウィリアム・ピーターセン)。しかしこの捜査方法は自身への負担が大きく、心に深い傷を負った彼は退職し、家族とともにマイアミで静かに暮らしていた。

そんな彼のもとに昔の同僚であるジャック(デニス・ファリーナ)が現れ、満月の夜に発生した一家惨殺事件の捜査を依頼される。いったんは躊躇したものの、事件解決のために現場復帰を決意するグレアム。

犯人の異常な心理へと迫るために彼がまず訪れたのは、自分に消せないトラウマを植え付けた張本人であり、現在は刑務所へと収監されている、伝説の連続殺人鬼ハンニバル・レクター(ブライアン・コックス)のもとだった……。

感想と評価/ネタバレ多少

『刑事グラハム/凍りついた欲望』という邦題で、日本ではひっそりと公開されて忘れ去られていった本作。

その後、同一の原作シリーズ第2作を映画化した皆さんご存知『羊たちの沈黙』の大ヒットにより、『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』に改題されてビデオ発売。しかし、2002年に同一原作の『レッド・ドラゴン』が再映画化されたことにより、再び存在を葬り去られる。

なんという数奇な運命をたどった作品でありましょうか。しかも、2002年版を先に鑑賞した輩による悪評がはびこり、不当に貶められている現状には我慢がなりません。

まあボクもこの作品のイメージが強すぎて、実はいまだに2002年版を観ておりませんので、あまり偉そうなことは言えんのですけど、固定観念によってこの作品の真髄を見誤っているのはもったいないと思うのですよね。

マイケル・マンの男の美学

監督はマイケル・マン。撮る映画のすべてを良くも悪くもスタイリッシュに変換させてしまう独自の美学をもった映像作家。その特性はオープニングからすでに発揮されております。

抜けるような青空からゆっくりと下がっていくカメラ。そして映し出される、砂浜の流木にやや距離を置いて逆向きに腰かけているふたりの男。もうこのワンカットのみでボクはこの映画が好きになってしまいましたね!

切り返しの対話。夜景ショット。チープなシンセ音。MTV的演出。マイケル・マン特有の過剰なスタイリッシュ映像と、1980年代的なチープさが現代の観客に嫌われた理由かもしれませんけど、それがいいんじゃないですか!

ニコラス・ウィンディング・レフンの『ドライヴ』なんかが当たる時代なんですから、そろそろこの作品も再評価される時期が来たのではないでしょうか?

レクターの映画ではない

物語としては、連続猟奇殺人事件を中心とし、引退した元敏腕FBI捜査官、自己の変革を望む殺人鬼、そしてレクター博士とのトライアングルが形成されております。

『羊たちの沈黙』からこの作品に入った方は、レクター博士の存在感と活躍の薄さに不満を感じておられるようですけど、それは致し方ありません。レクターは三角形を支える一点にすぎず、この作品の主人公はトラウマを抱えた捜査官と殺人鬼の二点にあるわけですから。

レクター逮捕の過程でダークサイドに接近しすぎ、精神に異常をきたして引退したグレアム。彼の危なっかしいイタコ捜査の緊張感と、再び闇へと落ちてしまうかもしれない恐怖感。善と悪、光と闇のはざまでもがき苦しむグレアムの姿がよいのです。

そして、幼少期のトラウマと、異形の者としての劣等感から愛に飢える悲しき殺人鬼のダラハイド。彼もグレアムと同じく、闇の中で一瞬の光を体験したことにより、そのはざまでもがき苦しむひとりの哀れな男なわけです。

このトラウマを抱えたふたりの男が必然的に出会い、対峙し、対決する。彼らの進むべき道の選択がこの映画のキーなのです。ふたりの最終的な選択は、手に汗握る緊張のクライマックスでややわかりにくく示されています。

越えてはならない一線

手にしかけた愛を信じることができずに、最後の一線を越えてしまったダラハイド。アイアン・バタフライが爆音でかかるなか、とうとう身も心も異形の者と化してしまった哀れなブサメン殺人鬼の姿には、同じブサメンとして涙を禁じえません。映画史上に残る哀れな殺人鬼像として生涯忘れられませんね。

対して、ダラハイドの凶行を止めるためにひた走るグレアム。ここでの彼の姿は、明らかに一線を踏み越えたダークサイドの住人そのものであります。

本来は知の人であるグレアムが、武によって事件を終結させようとしている点がその証拠です。幸運だったのは、残念ながら彼にはそれだけの武の力が備わっていなかったということですね。そのおかげでギリギリ踏みとどまることができたグレアムは、最後に自己確認をして映画は終わります。

不当な扱いは許しません!

かなり強引さが目につく脚本、前述した過剰ぎみの演出と、確かに問題点も多い映画ではあるのですけど、マイケル・マン独特の美意識に支えられた、傷ついた男たちのサスペンスとしては上々の仕上がりで、これを駄作として切り捨てる向きにはまったく賛同できません。

レクター博士がブライアン・コックスでもいいじゃない!この飄々とした渋みもけっこう悪くないじゃない!っていうかコックス版レクター博士のほうが先輩なんだからね!そこんとこ忘れてもらっちゃ困りますぜ。

個人的評価:7/10点

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コメント

  1. バニーマン より:

    こんな作品があったんですね。
    『レッド・ドラゴン』は確か観たような記憶が・・・(^_^;)。
    『刑事グラハム/凍りついた欲望』なかなか興味が惹かれる作品ですね。
    TVで放映されないかな(笑)。

  2. スパイクロッド より:

    バニーマンさん、コメントありがとうございます!
    そうなんですよね~。
    存在を忘れられたうえに、不当な悪評にさらされている、
    実に不憫な作品なのですよこれは。
    機会があったらぜひ観てみてくださいね!
    でも放映やDVDを探すとなると、
    『刑事グラハム/凍りついた欲望』ではなく、
    改題された『レッドドラゴン/レクター博士の沈黙』で探さなければなりません。
    ホントに不憫な作品ですわ……。

  3. タキザワリョウヘイ より:

    これは確かに埋もれすぎた名作ですね。
    自分の中では「マイケル・マン監督作品=超スタイリッシュな映像美!超イカスVA系サントラ!超骨太なキャスティング!」という図式が成り立つきっかけな作品です。
    ダラハイド役のトム・ヌーナンが静かながら強烈なキャラクターを終始醸し出していて自分としては理想の殺人鬼役でした。
    ウィリアム・ペーターセンも(マジで)あぶない刑事役がハマってました。グレアム役に入れ込み過ぎて次の仕事では髪を染め直してまで気持ちを切り替えなければならなかったそうです。
    自分としてはサントラも古臭くてマイアミバイスみたいに聴こえなくもないんですが大好きです。特にダラハイド覚醒シーンで流れるPrime Movers の”Strong as I am”が爽やかなのに殺人シーンで流れてても違和感ないぐらい陰惨な雰囲気にハマっていてイイ。
    しかしやはり一番の見所は監督とダンテ・スピノッティが作り上げた映像の美ですね。撮影や編集もさることながらロケセレクションも絶妙。個人的に「レッド・ドラゴン」との最大の差はここだと思います。カメラマン同じなのにw
    実はアメリカに住んでいたころBlu-ray版を買ってみたのですが、映像や音響はともかく特典が予告編だけだったので、仕様は日本版DVDと大して変わらないです。特典つきで観たければインタビューや未公開シーンのついた旧DVD版があります。
    最近だと映画秘宝の特集本で絶賛されてたので、そろそろ日本でも再評価されてほしいですね。

  4. スパイクロッド より:

    タキザワリョウヘイさんこちらにもコメントありがとうございます!
    ホントにこれは埋もれすぎです!マイケル・マンの味が最大限に発揮された傑作のひとつだというのに、なんなんでしょうね日本でのこの不当な扱いは?おっしゃるとおりこの映画の刮目ポイントは圧倒的映像美なのですよね。やはり『レッド・ドラゴン』との差は監督の差ということになるのでしょうかね?というわけで、敬遠してきた『レッド・ドラゴン』もそろそろ観なければなりませんかね!?

  5. タキザワリョウヘイ より:

    レッド・ドラゴンは全体的に画に閉塞感があってマン作品のようなこだわりは感じなかったですね。
    キャストは悪くないんですがエドワード・ノートンのグレアム役は残念ながらペーターセン版とは比ぶべくもないです。
    でも一番残念なのはやはりグレアム対ダラハイドの対決よりホプキンス版レクター博士の出番がメインになってしまっていることです。結局あのキャラをまた出したくてやっただけなんじゃないかと。
    ブレット・ラトナー監督作品の中では間違いなく最高傑作でしょうが、やはりマイケル・マンのセンスとは比べようがなかった、というべきでしょうか…

  6. スパイクロッド より:

    タキザワリョウヘイさんコメントありがとうございます!
    なるほど。やはり『羊たちの沈黙』の大ヒットを受けてのリメイクなわけですから、やはりアンソニー・ホプキンス演じるレクター博士がメインになっているのですね。ホプキンス版のレクターありきの映画というわけですか。でもまあ近いうちにでも観てみようかとは思っております。観ずにぶつくさ言ってるのもあれですので。そのうえでのマイケル・マン版との比較もしてみたいと思っております。

  7. らびッと より:

    レッド・ドラゴン僕好きですよ。
    羊たちの沈黙やハンニバルは監督のアクがかなり強く出ている作品だと思うのですが、それに比べてレッド・ドラゴンは比較的観やすい映画だった気がします。
    俳優陣が豪華なので作品としても軽くなっておらず、十分見応えある作品に仕上がっています。
    レクター博士=アンソニー・ホプキンスをまた観れるだけでもお得感のある映画なので気が向いたらご覧になられたらと思います。
    僕は逆に観よう観ようと思ってマイケル・マン版は未見なのでそろそろ観ようかなと思います。

  8. スパイクロッド より:

    らびっとさんコメントありがとうございます!
    もうひとつの『レッド・ドラゴン』、けっこうお好きな方が多いのですね。確かにジョナサン・デミやリドリー・スコットと、本作の監督であるブレッド・ラトナーとはまったくタイプの異なる監督ですよね。彼の監督作では最もよい仕上がりという評価も聞きますので、やはり近いうちに食わず嫌いせず観てみましょう。そのときにはこのブログで紹介いたしますのでぜひ遊びに来てください!そして、この『刑事グラハム/凍りついた欲望』もぜひ鑑賞してみてください!

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