『ボーダーライン』(2015)感想とイラスト メキシコ地獄巡り

映画『ボーダーライン』のイラスト

『ボーダーライン』なのか?『Sicario』なのか?タイトルに翻弄された我々は、メキシコ地獄巡りに振り回され、圧倒的無力感に打ちひしがれ、遠く聞こえる銃声にただ立ちすくむのみ。

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目次

『ボーダーライン』(2015)感想とイラスト メキシコ地獄巡り

  1. 作品データ
  2. 予告編動画
  3. 解説
  4. あらすじ
  5. 感想と評価/ネタバレ多少
  6. 腰痛持ちを殺しにかかる映画
  7. ここは地獄の一丁目
  8. ガイド不在の地獄観光
  9. 音と映像が彩る地獄世界
  10. 優しきSicario(暗殺者)
  11. ネタバレによる負け犬の遠吠え

作品データ

『ボーダーライン』
Sicario

2015年/アメリカ/121分/R15+
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:テイラー・シェリダン
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:ヨハン・ヨハンソン
出演:エミリー・ブラント/ベニチオ・デル・トロ/ジョシュ・ブローリン/ダニエル・カルーヤ

予告編動画

解説

主人公と一緒に前後不覚のまま恐怖の地獄巡りを体験させられてしまうクライム・サスペンスです。

監督は『灼熱の魂』『複製された男』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。主演は『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のエミリー・ブラント。共演に『ハンテッド』のベニチオ・デル・トロ、『ノーカントリー』のジョシュ・ブローリンなど。

撮影監督はいまだオスカー無冠が不思議でならない『007 スカイフォール』のロジャー・ディーキンス。音楽を担当するのは『プリズナーズ』でもタッグを組んだヨハン・ヨハンソン。この人って『悪童日記』もやってたのね。

あらすじ

FBIの誘拐即応班を指揮する女性捜査官のケイト・メイサー(エミリー・ブラント)。ある誘拐事件の容疑者宅へと突入をした彼女たちのチームは、そこで数十体にも及ぶ誘拐被害者たちの死体を発見する。

その背後にはメキシコの麻薬カルテルの存在があった。カルテルの壊滅と最高幹部のひとり、マヌエル・ディアス拘束を狙う国防総省のマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)のチームへと引き抜かれたケイト。

マット、そしてチームに同行する謎のコロンビア人アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)とともに、国境を越えてメキシコのフアレスへと向かったケイトが目にしたものは、法も正義も存在しない暴力が支配する戦場であった……。

感想と評価/ネタバレ多少

いまや押しも押されぬサスペンス・ミステリー映画界の巨匠となった感すらあるドゥニ・ヴィルヌーヴ。その名声の高まりはとどまるところを知らず、ついにはあの傑作SF映画『ブレードランナー』の続編をオファーされるまでに至る。

リドリー・スコットがメガホンを取らないと聞いた瞬間こそ天を呪うたものの、代役がヴィルヌーヴだと知って慌てて信心を取り戻しました。それぐらい彼の撮る映画にハズレはない。彼の作品は超絶重くて腰に来るのだよ!腰に!

腰痛持ちを殺しにかかる映画

そんなズシリと腰に来るヘビー級の映画ばかり撮っているヴィルヌーヴ待望の新作。腰痛持ちにはたまりませんなぁ。今回の題材はアメリカとメキシコの国境で繰り広げられる麻薬戦争。そんな地獄に前後不覚のまま放り込まれる戦場の牝犬。

ベニチオ・デル・トロが出ているあたり、ソダーバーグのオスカー受賞作『トラフィック』を彷彿とさせますが、ヴィルヌーヴはソダーバーグのようなハッタリで勝負をする監督ではなく、映画に芯があるのです。我々の腰を破壊する超重量級の芯が。

その芯は何かと申しましたら、観客を地獄の底へと叩き落としてやる!という悪魔の呪いなわけです。その呪いにまんまとかかってしまった我々哀れな子羊は、地獄の僻地でただ何もできず無力感に打ちひしがれるのみ。主人公とともに。

ここは地獄の一丁目

映画の冒頭で主人公と我々に手渡される、地獄行きのチケットからして胃と腰に来ます。誘拐事件の容疑者宅へとアタックをかける戦場の牝犬、もといエミリー・ブラント演じるこの映画の主人公ケイト。そこで彼女が目にする第一の地獄。

突入作戦の緊張感、ヨハン・ヨハンソンによる重低音のスコア、そして壁の奥からジロリとこちらを覗いて「こんにちは」している、無数の人、人、人、人の死骸。直立不動の死体の内壁。屈強なFBI捜査官もゲロゲロの地獄絵図。

彼らは何ゆえこんなむごたらしい殺され方をしたのか?脅迫、見せしめ、享楽、恐ろしい想像はいくらでも浮かんできますが、結局のところ理由はよくわかりません。この映画には理由のわからない死体がゴロゴロゴロリンしておるのです。

ガイド不在の地獄観光

そんな地獄の一丁目へと迷い込んだケイトは、さらなる地獄へのパスポートをサンダル男から手渡されます。おそらくは嘘八百で塗り固められた、サンダル男ことマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)の軽薄ないかがわしさ。

そして寡黙な謎の人物アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)。彼らのチームの一員であるメガネバンドのジェフリー・ドノヴァン。かなりオッサンポイントの高い映画です。そんな濃ゆいオッサンたち同伴で地獄観光をさせられるケイト。

しかもガイドはいっさいなし。とりあえずついて来い。黙って見てろ。この投げやり感。しかも見せられるのは想像を絶する地獄。正義も法も存在しない暴力が支配する戦場。高架下になにげに吊るされた死体、突然の銃撃戦、拷問、花火。

メキシコの実情。麻薬カルテルの非情さ。それと対峙するための心構えとは?そのへんの説明を主人公にも我々にも何ひとつしてくれず、次に何が起きるのかわからない緊張感の底なし沼へと叩き落とすガイド不在の地獄観光。

主人公が「何がなんなのか説明しろ!」とパニックを起こすのもさもありなん。ボケッと鼻くそほじりながら観ている我々だってパニックなのです。つまり主人公とのシンクロ。彼女の恐怖は我々の恐怖であり、彼女の怒りは我々の怒りでもある。

音と映像が彩る地獄世界

そんな説明皆無の地獄観光をさらに地獄たらしめているのが、ロジャー・ディーキンスによるカメラとヨハン・ヨハンソンによる音楽。これが地獄の緊張感を、不安感を、絶望感を、そして無力感を加速度的に高めておるのです。

地獄を見渡す超俯瞰映像。夜を夜として、闇を闇として映し出す暗黒世界。思いがけずのマジックアワー。暗視ゴーグルの視界。闇から生まれたSicario(暗殺者)。名匠ロジャー・ディーキンスらしい多彩な撮影技術の数々。美しいけど地獄だわ。

そして映画音楽家としてのキャリアは浅いものの、今回恐るべきスコアを書いてみせた新鋭ヨハン・ヨハンソン。唸るようなパイプオルガンの重低音が印象的なメインテーマの不気味さもさることながら、やはり白眉は音楽とも音響ともつかないノイズ。

ヘリの回転翼が、銃が、人間が、機械が奏でる音と劇伴との融合。これにはボクの胃が、腰が、肛門がミシミシと唸りをあげ、興奮とも緊張とも恐怖ともつかない地獄へと見事にいざなわれてしまった。恐るべきヨハン・ヨハンソン!

優しきSicario(暗殺者)

恐怖の地獄巡りへと強制連行されてしまった主人公。彼女が目撃、体験することとなるメキシコ麻薬戦争の現実。巨悪と対峙するために自らも悪に染まる善悪の境界(ボーダーライン)。珍しく映画のテーマを表した意味のある邦題でしたな。

まあこれを付けた人の解釈をゴリ押ししている感は否めない、ストレートかつネタバレな邦題ではありますが、関係ないこたぁないので許容範囲でしょう。しかしこの映画の真のタイトルは『Sicario(暗殺者)』なのであります。

世界に秩序をもたらすために、奪われた大切な存在のために、進んで闇へとおちた悲しきヒットマンの報われない戦い。たぶんこの人って凄く優しいんだよね。優しいがゆえに、大切なものを無情にも奪われたときに心が死んでしまった。

主にこのSicarioの存在を中心に据えた後半の脚本にはやや難もあり、肛門が破裂しそうなほどの緊張感を誇っていた前半よりテンションは下がってしまったのだけど、鑑賞後にまたいろいろと思うところもあり、考えは微妙に変化してきております。

そのへんの詳細は後述するとして、アメリカまで急接近してきた新たなる戦争、秩序回復を目的とした暴力、倫理観の揺らぎ、メキシコの家族とアメリカの単身、嘆きのSicario、圧倒的無力感、こいつぁやっぱり超絶ヘビーだぎゃ!

確実にこの映画を鑑賞後、ボクの腰痛は悪化しました。ついでにいぼ痔も。腰もお尻も満身創痍。おすすめです。問答無用におすすめではありますが、やっぱりヴィルヌーヴの映画は超絶重くて腰に来るのだよ!腰に!

個人的評価:8/10点

ネタバレによる負け犬の遠吠え

ここからはそれなりのネタバレ込みで、前述いたしました思うところをちょっと書いていきますので、未見でネタバレを嫌う方は読まないように。

度を越した不親切によって尋常ではない緊張感を生み出していた前半に比べて、やや凡庸なアンチヒーロー譚と化していた後半の展開には、先に書きましたように不満があります。終始、影の薄い主人公の存在に対しても。

しかし、悪を倒すのではなく秩序を取り戻すための暴力と、それに加担する復讐の暗殺者というマチズモに対して、倫理観から異を唱えようとした主人公の置いてけぼり、蚊帳の外感はちょっとこれまでにない描写だったのではないでしょうか?

状況に翻弄され、意を決して何かアクションを起こそうとしても何もできない、何もさせてもらえない、圧倒的無力感と敗北感。物語の主人公としてはおよそありえない立ち位置ですが、彼女の無力感と敗北感は我々のものでもある。

ただこの恐ろしい現実を傍観しているだけで、状況に参加することは叶わない。打ちひしがれるのみ。そういう意識の共有。そのための置いてけぼり。実質的な主人公はデル・トロであるが、このために名目上の主人公がブラントであるのは必然。

そうか。これはボクの大好きな負け犬映画の系譜だったのだ。不正な捜査に、行きすぎた暴力に、敢然と「NO!」を突きつけようとするものの、圧倒的な闇の力によって何ひとつ行動できないように抑え込まれてしまう。ホロホロと涙を流しながら。

そこにいるのに参加させてもらえない。何もさせてもらえない。なんという負け犬感。彼女の無力感はボクのものだ。彼女の敗北感もボクのものだ。やっぱりこいつは超絶腰に来る映画だわ。泣いてなんかない。泣いてなんかないよぉぉぉ……。

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