『突破口!』感想とイラスト 100%ドン・シーゲル

映画『突破口!』ウォルター・マッソーのイラスト(似顔絵)

男ドン・シーゲルが『ダーティハリー2』の監督を蹴ってまで作りたかった映画。作家主義?んなもん知らねえよ!愛すべき脱力系監督の神髄が詰まった誇り高きB級映画なのだこれは!

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目次

『突破口!』感想とイラスト 100%ドン・シーゲル

  1. 作品データ
    1. 予告編動画
  2. 解説
    1. あらすじ
  3. 感想と評価/ネタバレ多少
    1. ファーストインプレッション
    2. 不敗神話
    3. 愛すべき中年親父
    4. 説明不要
    5. 早い、安い、旨い

作品データ

『突破口!』
Charley Varrick

  • 1973年/アメリカ/111分
  • 監督:ドン・シーゲル
  • 原作:ジョン・H・リース
  • 脚本:ハワード・ロッドマン/ディーン・リーズナー
  • 撮影:マイケル・C・バトラー
  • 音楽:ラロ・シフリン
  • 出演:ウォルター・マッソー/ジョー・ドン・ベイカー/ジョン・ヴァーノン/アンディ・ロビンソン

予告編動画

解説

意図せずしてマフィアの隠し金を強奪してしまった中年男の華麗なる立ち回りを描いたクライム・アクションです。原作はジョン・H・リースの犯罪小説『The Looters』。

監督はサム・ペキンパーとクリント・イーストウッドのお師匠様として知られるB級職人のドン・シーゲル。主演は『サブウェイ・パニック』のウォルター・マッソー。共演に『組織』のジョー・ドン・ベイカー、『ダーティハリー』のアンディ・ロビンソンなど。

あらすじ

ニューメキシコの小さな田舎町で農薬散布の仕事をしている、元曲芸飛行パイロットのチャーリー・ヴァリック(ウォルター・マッソー)。しかしコンバインの登場によって仕事を奪われた彼は、起死回生を狙って銀行強盗を計画。

妻のナディーンと無鉄砲な若者ふたりを仲間に引き入れ、綿密な計画によって田舎の銀行を襲撃したチャーリーだったが、首尾よく金はせしめたものの、運悪く警察と遭遇。激しい銃撃戦と逃走劇の末に仲間のひとり、そして最愛の妻ナディーンを失う。

生き残ったチャーリーとハーマン(アンディ・ロビンソン)は強奪した金が75万ドルもあったことに呆然とする。なんとその金はマフィアの隠し金だったのだ。警察とマフィアの両方から追われることになったチャーリーは、事態打開のためにある秘策を練るのだった……。

感想と評価/ネタバレ多少

主演のイーストウッドと自身の名を世界にとどろかせた傑作『ダーティハリー』。念願の大ヒットを飛ばしたドン・シーゲルが、『ダーティハリー2』の監督を蹴ってまで制作したかった映画。それがこの『突破口!』であります。

ドン・シーゲルといえばやはり『ダーティハリー』、そして自らも最高傑作と評する『白い肌の異常な夜』がありますが、最もドン・シーゲルらしい映画はこの『突破口!』ではなかろうかとボクは思っております。それではその理由をつらつらと解説していきましょう。

ファーストインプレッション

冒頭ののどかな早朝といった牧歌的な日常風景から、襲撃目標であるウエスタン信託銀行、星条旗と銀行の旗のあいだに映る主人公たちの車、そして子供たちが遊ぶブランコをとらえたクレーン撮影がまず素晴らしい!良い映画というのはファーストショットでわかるもの。

カメラの動きもさることながら、ここでブランコと子供という、およそ銀行襲撃とは程遠いほのぼのとした日常をぶち込んでくるあたり、殺伐とした暴力と子供が呑気に遊ぶ平和を地続きとしてとらえるシーゲルのシニカルさがうかがえます。もうこれだけで緊迫感3割増し。

この秀逸なオープニング以外にも、実はもういちどこのブランコと子供は印象的な使われ方をするのですよね。一見すると意味がなさそうで、もの凄い効果を生み出す謎の演出。明確な説明はできませんが、なんかもうそれだけで面白いの。「バーイ!ミスター!」

不敗神話

そんな日常のなかに暴力が紛れ込んだ銀行襲撃シーンの血なまぐささは、何事もドライに描き出すドン・シーゲルの面目躍如。銃で撃たれたら人はあっけなく死ぬのです。警備員も、仲間のチンピラも、警官も、そして最愛の妻であるナディーンも。

死んだ人間はただの肉塊。それなりの敬意と生きていた頃の愛情は示しますが、大事なのはいま生きている自分たち。愛する妻の亡骸を捨てた車に残し、火薬を撒き、木っ端みじんに爆破する。なんという生き残るための、勝利するための、自分のための非情な決断でしょうか。

血も涙もないひどい話だ。と、思われる向きもあるでしょう。しかしこれがある意味における人間の本質。達観した人生観、生き残るための戦術、勝つための戦略、非情さは同世代の監督ロバート・アルドリッチと相通じるものがありますよね。ゆえにふたりは不敗なの!

愛すべき中年親父

けっして負けない男、ドン・シーゲル。弟子のひとりであるサム・ペキンパーが常に負ける男の美学を描いていたのとは対照的ですが、これはひとえにシーゲルの人柄が関係しているのでしょうね。酒とお姐ちゃんが大好きな脱力系の愛すべき中年親父。

その人柄はこの映画の主人公、チャーリー・ヴァリックことウォルター・マッソーともシンクロします。焦らない、慌てない、怒らない、飄々としたやる気があるんだかないんだかよくわからない、常に面倒臭そうにしている中年親父。もうシーゲルそのものですね。

でもそんな表層とは裏腹に、静かに先を読み、黙って考え、淡々と実行し、まんまと勝利してみせる。とてもやる気がありそうには見えないのだけど、マフィアの追撃をかわすため、彼がダラダラと歩き回って何事かを準備、実践している姿こそがこの映画の醍醐味なのです。

説明不要

強奪した金がマフィアの隠し金だったことが判明した瞬間から、彼はおそらくそのやる気のない見た目の裏側で脳ミソをフル回転させ、生き残るためのすべを、勝利するための戦略を練りに練っていたのでしょうね。誰にもそのことを明かさずに。

この映画の何が素晴らしいって、彼が考え、実行している計画を誰にも明かさない、観客にすら説明しないという点なのです。なぜハーマンと自分の歯の治療記録をすり替えたのか?なぜ墓穴を掘るような行動ばかりしているのか?なぜ敵の懐へと飛び込んだのか?腕時計は?

すべては彼自身の綿密な計画にもとづくもの。敵を誘い込み、身代わりを立て、邪魔者を消し、お姐ちゃんをつまみ喰いしながら、最後にひとり勝ちするための完璧な計画。初めはただ不可解だった行動の数々が、きれいに一本の線につながった瞬間の痛快さよ。

巧みにバラ撒かれた伏線を見事に回収していく圧巻のクライマックス。しかしここでもこれ見よがしの説明はいっさいしない。いま見せたからお前わかるだろ?ってあっさり感。現代の説明過多な作品とは一線を画す、無駄のない職人芸がひたすらカッコいい!

早い、安い、旨い

見た目はさえない中年親父の巧みな処世術を描いた傑作クライム・アクション。オツムの足らない無駄にギラギラした相棒のアンディ・ロビンソン。事態を楽しんでいるような刺客のジョー・ドン・ベイカー。保身のために動き回るジョン・ヴァーノン。

そこに主人公ウォルター・マッソーを加えた、この事件に対する温度差もこの映画の面白いところ。いいもんとわるもん、勝ち組と負け組とにかかわらずみんな人間臭くて魅力的なのです。仲間の復讐を誓う警察と、恐怖にかられる支店長の弱さも忘れちゃいかんところですね。

無駄に露出の高いお姐ちゃんが出てくるところもエロ中年の神髄を見るようで、心温まりますなぁ。元曲芸飛行パイロットという伏線を効かせた、ラストの複葉機と車との壮絶なチェイスシーンも必見です。ちょっとほかではお目にかかれない珍しい趣向で楽しませてくれますよ。

男ドン・シーゲルが約束された成功をかなぐり捨ててまでどうしても作りたかった映画。しかし、私財をはたいて作家性に走ったような内容ではなく、あくまでドン・シーゲルらしさを追及した片意地張らない、背伸びをしない、身の丈に合った、早くて安くて旨いB級映画。

こういうところもドン・シーゲルらしくて好感がもてますね。高級志向なんてまやかしには目もくれない。安くても、汚くても、旨けりゃいいんだよ!旨けりゃ!

個人的評価:8/10点

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コメント

  1. koolhand より:

    私もつい最近見たのですが、期待値以上の面白さでした
    感想としてはチャーリーは一番敵に回したくないタイプです(笑)

    ドン・シーゲルがダーティハリー2を蹴ってまで作りたかったという逸話も
    劇中にある「イーストウッドには見えない」と言うネタを思い出しました!

    • spikerod より:

      koolhandさん、コメントありがとうございます!

      確かに敵に回したくはないですね(笑)。飄々とこちらの上を行かれる感じで、こりゃ勝負になりませんわ。だからといって味方にしたら安心なのかといったらそんなこともなく、いいように使われて末路はアンディ・ロビンソンかも(笑)。こういうしたたかな中年親父というのは本当に魅力的ですよね。イーストウッドではこういう味わいは表現できないので、これをやりたかったからこそ『ダーティハリー2』のオファーを蹴ったのかも。しかしドン・シーゲルが監督した『ダーティハリー2』もちょっと観てみたかった。残念ながらシリーズでも失敗作の部類ですからねあれは。

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