下ネタと暴力とお喋りのはざまで純愛を貫いた意外と真面目な言うほどクソ無責任でもない俺たちの俺ちゃん、デッドプールが帰ってきたぞい!さらに下品に、より過激に、しっかり真面目に、なっちゃってるんじゃねーの、これ?
作品情報
『デッドプール2』
- 原題:Deadpool 2
- 製作:2018年/アメリカ/120分/R15+
- 監督:デヴィッド・リーチ
- 脚本:レット・リース/ポール・ワーニック/ライアン・レイノルズ
- 撮影:ジョナサン・セラ
- 音楽:タイラー・ベイツ
- 出演:ライアン・レイノルズ/ジョシュ・ブローリン/モリーナ・バッカリン/ジュリアン・デニソン/ザジー・ビーツ/T・J・ミラー/レスリー・アガムズ/カラン・ソーニ/ブリアナ・ヒルデブランド
予告編動画
解説
R指定の型破りな一匹狼ヒーロー、デッドプールが、未来からやって来たサイボーグ戦士に命を狙われる少年を救うため、新聞広告によって募集した最強鬼やばヒーローチーム“Xフォース”を結成するという大ヒットヒーローコメディ映画の第2弾です。
監督は前作のティム・ミラーから『ジョン・ウィック』『アトミック・ブロンド』のデヴィッド・リーチへと交代。主演は前作から引き続きもちろんライアン・レイノルズで、モリーナ・バッカリン、T・J・ミラーなども続投。
新規参入組としては未来からやって来たサイボーグ戦士ケーブル役に『グーニーズ』のジョシュ・ブローリン、Xフォースの紅一点ドミノ役にテレビドラマ『アトランタ』で高く評価されたザジー・ビーツなど。日本からは忽那汐里が参戦しております。
前作の感想から読みたいという方はこちらから
感想と評価/ネタバレ有
従来の行儀がいいヒーロー映画とは一線を画す下ネタ&バイオレンスへと容赦なく邁進し、その汚らしさの上に美しい純愛を描いてみせた前作『デッドプール』は、ヒーロー映画嫌いのボクでもこうべを垂れる快作でありました。
R指定でありながら異例の大ヒットを飛ばし、製作費も倍増してウハウハウホウホで臨んだ続編。まあいろいろとパワーアップはしておりますが、そのパワーアップが前作を超えることに結びついているかと言ったらちょいと疑問で、個人的にはわちゃわちゃしすぎかな?
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』なんかと同じくネタバレ厳禁の映画ですが、ネタバレせんことには何も書けない映画だとも思いますし、観た以上はなんか書きたいということでネタバレです。ネタバレによるけっこうな酷評だと思うのでどうぞご注意を。
アメコミあるある
てなわけでさっそくネタバレ。いきなりヒロイン死にますよって。前作であれだけいろんなプレイで愛し合い、必死になって救ったヒロインのヴァネッサを続編のためにあっさり殺しますよって。いわゆる「冷蔵庫の中の女性」ってやつですわな。
ヒーローをヒーローとして確立させるために大事な女性を作劇の駒としてぶっ殺すという、なんとあの『グリーン・ランタン』が語源になったとされる皮肉なアメコミあるある。正直申しまして、ボクはこのRG的早くあるある言いたい演出の時点でしらけてしまいました。
デップーにとっての動機となりうるのは恋人ヴァネッサしかいないっちゅうのは理解できますが、にしてもありきたりだしやるのが早すぎる。んでもって喪失によって向かう方向が疑似家族形成、ファミリー映画だというのもそれに輪をかけてあるある言いたすぎる。
『シビル・ウォー』だって、『ガーディアン・オブ・ギャラクシー2』だって、『ジャスティス・リーグ』だって、『LOGAN/ローガン』だって、み~んな疑似家族映画だったんだぞ。いまやファミリーはアメコミ映画のトレンド。それに異端児デップーが乗るかねぇ?
前作の純愛路線はそこに焦点を置かないアメコミ映画界のなかでキラリと光る独自性がありましたが、今作のファミリー路線はまさにトレンド中のトレンド。しかもその動機づけが冷蔵庫あるあるってんだから、異端児デップーさんも地に落ちたもんよ。
実は真面目な田舎ヤンキー
まあ結局のところ前作でもそうでしたが、言うほど異端児ではない真面目ちゃんなんですけどねデップーは。今作でも差別に、虐待に、復讐に敢然と「NO!」を突きつけており、ホント根は真面目なんです。暴力行使にしても小悪党ぶった斬ってるだけですからね。
そういう意味ではちゃんと観客に嫌われないように作ってるな~とは思いますが、実はおセンチで仲間思いなステレオタイプの田舎ヤンキーみたいでボクはあまり好きではありません。前作でもそういうニオイはありましたが、この続編によってさらに強まった感じ。
忌まわしき虐待の記憶による復讐心に憑かれ、未来で大量虐殺を現出させる殺人鬼へと成り果てる少年と、そんな彼に家族を殺され、復讐のために時間を越えてやって来たサイボーグ戦士との復讐の連鎖のはざまで、同じく大事な存在を奪われた俺ちゃんが見せる自己犠牲。
正直「あ~あやっちゃった」って感じです。自分自身と重なるラッセルとケーブルとの悲しい復讐の連鎖を止めるためには当然のあるある行動ですが、この映画あるあるが多すぎやしないか?脚本のお粗末さを自虐的なギャグにしているのも逃げの防御線ですわ。
だいたいこの一連の事件によって仲間を、家族を得るというまさにファミリー映画なわけですが、それは単なる表層でしかなく、詰まるところデップーの気持ちはヴァネッサにしか向いていないように見えるのも問題。すべての動機はヴァネッサ発着なのですから。
彼女を想い、彼女に言われ、彼女のためにやった正義の行い。その気持ちの向かう先はラッセルやケーブルではなく、やっぱりあくまでヴァネッサですよね。疑似家族なんて見せかけ。これは前作同様に実は真面目な田舎ヤンキーの純愛映画だったっちゅうわけです。
でもまあ言うほど悪くはない
とまあ時勢も読まず、いつもどおり好き勝手な罵詈雑言を書いておりますが、実は書いている文言ほどこの映画に怒っているわけではないのもいつもどおりの既定路線。いや、けっこう普通に楽しんではいたのですよ。ただ求めていたものとは明らかに違うなと。
監督が代わったせいかな?デヴィッド・リーチは『ジョン・ウィック』『アトミック・ブロンド』ともにいまいち乗れなかったからな。でも雇われ監督って感じで彼の個性はいまいち発揮されていなかったような気も。折れた腕による無理矢理チョークスリーパーぐらいか?
それよりもアクション的見どころはXフォース唯一の生き残り、幸運の女神に愛されたドミノちゃんによるひとり『ファイナル・デスティネーション』発動でしょうな。ウルトラ事故シーンも最高ですが、やはり白眉はラストバトルで見せたピタゴラスイッチの美しさ。
グロも前作以上の破壊ぶりで、とりわけ不死身の俺ちゃんが主人公らしく体張って魅せてくれておりますよ。ジャガーノートに胴体まっぷたつにされた切断面のビロビロなんてまあ旨そうなこと。でも他人に任せず自分ですべて請け負うところもホント真面目よね。
真面目といえば下ネタ方面が言葉だけになり、画的なサービスがなくなっていたのはどういう了見かな?まあ速攻でヴァネッサ殺しちゃったんで仕方ないか。そのへんはジョシュ・ブローリンとコロッサスのムチケツで我慢のしどころ。しかしいいケツしてんなぁジョシュ。
でもまだ続く文句の嵐
ジョシュ・ブローリンのムチケツにはサノス以上の迫力と男気とムチムチがあった。実はなにげにこの『デッドプール2』を支えていたのは彼のケツと顔なのだと思います。有無を言わさぬ存在感を誇るケツと顔。『デップー2』はジョシュのケツ顔によって救われていたのだ。
ゆえに物語中盤で彼がヴィランの役を降り、倒すべき悪役不在となったヒーロー映画はしっかりどっしりとした幹を失い、枝葉をウロウロチョロチョロするこぢんまりとしたものになっていたのは残念っちゃあ残念。まあその手のお約束はほかにお任せってことかな?
ウロウロチョロチョロと言えば、ギャグのネタにする対象も範囲がさらに大きく細かくディープになった印象で、これをパワーアップと呼んでいいのかどうか微妙な塩梅。いや気づいてハマったときはそりゃ面白いんですが、どうにも楽屋ネタ、身内ネタに走りすぎかな?
『レディ・プレイヤー1』なんかでも同様の不満、多少の置いてきぼり感を喰らったのですが、いくら面白くてもそりゃお前他人のふんどしだろ?しかもそれで相撲とりすぎじゃね?臭くね?って思っちゃいますよね。冒頭で嗅いだニオイを思い出せよデップー。
新聞広告によって手に入れた頼れる仲間Xフォースの死にざまにしても、個々に見ると愉快で鬼畜な無駄死になのですが、見せ方のテンポが悪くていまいちハジけない。ブラピのカメオには心底びっくらこいて爆笑したけどね。ビル・スカルスガルドの無駄遣いも。
あとエンドロールのオマケが最大爆笑ポイントだという評価に異論はなく、「でっけえ仕事が入ったぜい」という黒歴史のセルフ銃殺封印なんて最高でしたが、本編のターニングポイントすら過去改変してしまうのは俺ちゃんらしくあっても少々やりすぎ。
不死身の男が最愛の存在との死別を経験し、死ねない体で死へと接近しながら、互いに殺すことを目的としたラッセルとケーブルとのはざまで、自らの命をかけることによってその愚かさに気づかせるという作品にしては、肝心なところで人の生死を軽く扱いすぎ。
いや、ドーピンダーの件はいいのよ、あれはあれで最高最悪な覚醒だから。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のクリステンかキルステンかダンストだから。しかしヴァネッサの件はだったら最初から殺すなよ。これこそ都合のいい「冷蔵庫の中の女性」であってあーだらこーだらうんぬんかんぬん……。
『Take On Me』を聴きながら
というわけで、文句を吐き出すととめどなく嘔吐し続けるゲロゲロ体質でありまして、これ以上やると俺ちゃんファンからコメント欄でイジメられそうなのでグッと汚物を呑み込んで自重します。自重ついでに最後はちゃんと褒めてみましょう。
疑似家族は見せかけでやはりデップーのヴァネッサに対する「愛」が主題であった本作。なかば忘れかけていた「死」によって世界を隔てられてしまったふたりが、デップーの成長と獲得によって障壁を超え、ふたたび出会うシーンの美しさは格別でしたよね。
しかもこのシーンで流れているのがa-haの名曲『Take on Me』のアコースティックバージョンだというのも粋な演出。
原曲は1985年に全世界で大ヒットを飛ばした名曲で、実写とアニメーションとを融合させたPVでも話題になりました。世界の違うふたりが境界を越えて出会うわけであり、それは非常にメタ的でもあり、つまりは『デッドプール』の世界観を的確に表した選曲なのです。
そんな名曲をバックに昔のウェイドの姿でふたたびヴァネッサと抱き合う幸福感に胸打たれない人はいないでしょう。ボクも打たれました。打たれたからこそ!その後の安易な過去改変にはらわた煮えくり返ってあーだらこーだらうんぬんかんぬん……(以下自主規制)。
個人的評価:5/10点
コメント
こんばんわ。
イキナリヒロインを脚本の都合で(?)殺したり、テンポが悪かったり、序盤で「これはダメかも・・・」と思いきや、007の傑作OPが始まったりヒーロー以外の映画ネタまで必要の何倍も当たり前のように放り込むことから、「ああ今回はコメディ映画なんだ」と割り切って見ることにしました。登場キャラ自体も脚本に言及してるので制作側も意図してるのでしょうね。
と、言うのも前作のデッドプールが話としてキッチリ纏まっていることに感心しつつも、シリーズ1作目のハリウッド的説明作品のような構成だったり、こういう枠に嵌ったノリを求められるキャラじゃないんじゃないかという思いが抜けなかったからです(ライアンレイノルズの過去を思うと胸を打つものもあるのですけどね)
なのでこんな偏ったバランスの映画の方がデッドプールにはお似合いのように思えました。何より、チームXフォース結成のくだりを始め、今作には相当笑わせて頂いたのでこっちの方が自分は好きかな・・・
もちろんこの記事で指摘されてる自己犠牲オチも「またコレか」感ありましたがもともと後追いを考えてたキャラだしまぁええかと思いました。と、言うより個人的にはプラス要素がこういうマイナス要素よりずっと大きかったです。
自分はこのシリーズには理論的に正しいとか正しく無いで動いて欲しくないので、エンドロールのアレを無理やり通して次回作で普通にヴァネッサ出てきても普通に納得すると思います。いやけどちょっと動揺くらいはするか…
わるいノリスさん、コメントありがとうございます!
第1作は構成的に非常に計算された手堅い作品でしたからね。キャラ的にはぶっ飛んでんだけどお話としては凄くまとまっていてよく出来ているという、微妙なバランスの上に成立している作品なんだと思います。で、それを踏まえたうえで、この続編はおふざけの部分をさらにぶっ飛ばしておっしゃるとおりコメディへと振りきれたんだと思うのですが、ちょっと盛りすぎで拾いきれない、ついていけないところがあったのがボクの乗りきれなかった原因かもしれません。あと珍しく吹き替えで観たのもあかんかったのかな?字幕で観るとまた違った印象をもつかもしれませんので、ソフト化の折には字幕版で再鑑賞してみたいと思います。
シリーズ第3作、もしくはスピンオフ作品でしごくあたりまえのようにヴァネッサが出てきたら、あれだけ怒っていたことも忘れてたぶん爆笑してしまうでしょうね(笑)。すでに普通になかったことになっとんかい!と(笑)。