威風堂々とディスコソングにノリノリで、高級スーツをビシッと決めた英国紳士がパブに教会秘密基地、撃って殴って蹴散らして、おまけに花火がドッカン!ドッカン!おまえらこれが真のスパイ映画だ!
作品情報
キングスマン
- 原題:Kingsman: The Secret Service
- 製作:2014年/イギリス/129分/R15+
- 監督:マシュー・ヴォーン
- 原作:マーク・ミラー/デイヴ・ギボンズ
- 脚本:ジェーン・ゴールドマン/マシュー・ヴォーン
- 撮影:ジョージ・リッチモンド
- 音楽:ヘンリー・ジャックマン/マシュー・マージェソン
- 出演:コリン・ファース/タロン・エガートン/サミュエル・L・ジャクソン/マーク・ストロング/マイケル・ケイン
予告編動画
解説
高級スーツを着込んだ英国紳士が、荘厳なる『威風堂々』、ノリノリディスコソング、レッドネックご用達カントリーなどに乗せて凄惨なるお祭りを開催しているスパイアクション映画です。
原作&監督は『キック・アス』のマーク・ミラーとマシュー・ヴォーンのゴールデンコンビ。主演は『英国王のスピーチ』のコリン・ファースに、『SING/シング』のタロン・エガートン。ヴィラン役には『ミスター・ガラス』のサミュエル・L・ジャクソン。
主題歌を担当するのはイギリスを代表するポップグループのテイク・ザットで、『Get Ready For It』。随所で使用されている既成曲も素晴らしいのですが、このエンディング曲も必聴です。テイク・ザットはマシュー・ヴォーンのお気に入りなのでしょうね。
主題歌/テイク・ザット『Get Ready For It』
あらすじ
どこの国にも属さず、秘密裏に世界の危機を救う国際諜報機関“キングスマン”。任務中に何者かによって殺害された“ランスロット”の欠員を補うため、ベテランエージェントの“ガラハッド(コリン・ファース)”が選んだのはエグジー(タロン・エガートン)という若者だった。
実はエグジーの亡き父はキングスマンで、ガラハッドの命の恩人でもあった。現在は貧困地区で目的もなく無軌道に暮らすエグジーだったが、そんな彼に紳士として、スパイとしての才能を見いだしたガラハッドは、次期キングスマン候補生として彼を推薦する。
ガラハッドの期待にこたえて、難関な新人試験を次々に突破していくエグジーだったが、その裏側でアメリカのIT長者ヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)による人類縮小計画が進行しつつあった!
感想と評価/ネタバレ有
『キック・アス』によって一躍ボンクラ映画界の寵児となったマシュー・ヴォーン。大味な『X-MEN』シリーズにおける唯一の傑作『ファースト・ジェネレーション』もものにし、次なる刺客として送り込んできたのがこのスパイ映画『キングスマン』。
彼のすべての監督作を偏愛しているボクといたしましては、雨が降ろうが槍が降ろうが爆弾落とされようが大急ぎで馳せ参じなければなりません。予告編も素晴らしかったですからね!
正しきスパイ映画とは?
冷戦終結後、世界を我がものにしようとたくらむ荒唐無稽なヴィランは映画界から追放の憂き目に遭い、迷走の末ひたすらリアル路線をひた走ることとなった近年のスパイ映画。『007』シリーズしかり。『ミッション:インポッシブル』シリーズしかり。
そんな矮小化に背を向け、古き良き荒唐無稽で壮大なスパイ映画へのオマージュを全開にしたこの作品は、まさにリアル路線への宣戦布告です。実は現在のリアル路線のほうをボクは支持していたのですけど、これには素直に燃えてしまいましたね!
高級スーツに身を包んだ最高にクールでセクシーな英国紳士=スパイ。秀逸なアイデアと多彩な魅せ方によるガジェットの数々。あまりに壮大で狂っているヴィランの人類縮小計画。ひたすら荒唐無稽ではありますが、そのひたすら感がよいのです!
これが新世代スパイ映画だ!
ではこの映画は古き良きスパイ映画を現代へと再現した単なるノスタルジアなのでしょうか?いいえ違います。この映画で最も注目すべき点は、そんな古き良きスパイ映画の世界でひたすら展開されるレイティング無視の殺戮ショーにこそあるのです!
ここが従来の古き良きスパイ映画とは完全に一線を画す最大最高要素でありまして、偉大な先例に対するリスペクトをしっかりと示しながらも、けっして同じものは作らない。狙うのはあくまでそれらを超える新たなスパイ映画の創造であり、挑戦なのです。
予告編でも印象的に使われていたパブファイトなんかはまだまだ序の口で、本当にひたすら悪趣味で、痛快で、最高にカッコいいアクションシーンの連続なのであります!とりわけキリスト教原理主義者らが集う教会を舞台にしたコリン・ファースの大立ち回りなんて鳥肌もの!
黒人もユダヤも同性愛も進化論も認めない狂信者どもと、ダンディズムの塊のようなセクシー中年紳士が、きれいに撫でつけた髪を色っぽく乱しながら繰り広げる、多種多様な武器が咲き乱れる眼福、悶絶、失禁、脱糞確実なあまりに美しい血祭り地獄絵図。
まさかあのコリン・ファースにここまでやらしてしまうとは!飛んで!撃って!投げて!刺して!絞めて!燃やして!木っ端みじん!なんという凄惨で美しくて華々しい光景であろうか。
これらのアクションというよりかはほぼ殺戮ショーを、とんでもないスピードで時にスローモーションをかましながら、けっこうな長回しによるワンカットで撮っているというのがこれまた最高なのです!
細かなカットなんぞは割らずに、殺戮における人体の躍動的エモーションを、誤魔化さず、包み隠さず、露悪的なまでに我々観客に見せつけてくる。これは我々ボンクラに対する挑戦である!よっしゃ!どっからでもかかって来いや!
悪趣味ポップセンスに完敗
そんな我々ボンクラの対決姿勢をあざ笑うかのように繰り出された、美しいクラゲ花火を彩るイギリス第2の国歌とも言われる『威風堂々』。
荘厳なメロディに乗せて次々と美しい花を咲かせて弾け飛ぶ無数の頭、頭、頭たち。しかもその頭は選民思想でゆがんだ各国首脳や一部の金持ちども。醜く汚れきった彼らにこんな美しい最期を演出してあげるなんて、マシュー・ヴォーンって本当に最低かつ最高ないい人よね。
そしてノリノリのパーティには絶対欠かせないディスコソング、KC&ザ・サンシャイン・バンドによる『Give It Up』。
あかん……完敗ですわ!いつもながらなんちゅう選曲センスしとるんや!人類縮小計画の実行ソングにこんなノリノリディスコソングを採用するなんて!なんという悪趣味きわまりないポップセンス!完全に参りましたよマシュー・ヴォーン!人間ってなんて醜くて美しいの♡
これ以外の使用楽曲もキレキレのセンスで、とりわけボクにとって思い入れの強い2曲をさらに紹介させていただきます。1曲目は映画冒頭で使用されたダイアー・ストレイツの『Money for Nothing』。当時は最先端だった3DCGを駆使したPVも必見。
そしてもう1曲は、エンディングにおけるエグジーとスウェーデン王女による例のシーンで使用された、英国の伊達男ブライアン・フェリーによる『Slave To Love』。映画のラストを高貴な王女様のケツの穴で締めくくるこの気高いバカセンス!アースホール万歳!
継承されていく力
最後に高貴な王女様とケツハメしているのでなんですが、この『キングスマン』はボンクラ青年の成長物語でもあるのです。自らの進むべき道を見失っていた青年が、父親代わりとなる存在から新たなる道を示され、いっぱしの男になっていくケツハメ成長譚。
過去の名作の例を示し、階級が人の価値を決めるのではなく、マナーが人を作るのだと説くハリーの言葉には、イギリスに根強く残る階級制度に対する監督のスタンスが見てとれますね。父から息子へと受け継がれていくものは、身分や財力などではなく人としての規範、信念、そして行動する力であると。
この『キングスマン』はヴォーンの出世作『キック・アス』と同じ「継承」の物語だったというわけです。ゆえに衝撃的なハリーの途中退場が演出されたのでしょうね。大きな悲しみと喪失を乗り越えることが、エグジーにとっての最後の試練であり継承の最終段階となった。
スパイ、階級、継承。これらのキーワードから浮かび上がるのはマシュー・ヴォーンの謎めいた出自ではありますが、それはまた別の話。気になる方はどうぞ下記を参照してみてください。
ヒット祈願の想いを込めて
てなわけで、往年の古き良きスパイ映画へのリスペクトを示しながら、ひたすらバイオレンスで、悪趣味で、そのくせポップでクールな、新たなスパイ映画の地平を切り開いた傑作中の傑作と言っても過言ではなく、本当に至福の129分でありました。
こんな最低に最高な映画で、名優コリン・ファースが良識派ドン引きのバイオレントでひたすらセクシーな大活躍を見せる。もうこれだけで十分に元は取れてしまいますが、ほぼ新人に等しいタロン・エガートン君の奮闘も忘れてはなりません。これからの活躍に期待大ですな。
ほかにも、安定、鉄板、ハゲの誉れマーク・ストロングの渋み。義足の殺人マシン“ガゼル”を演じたソフィア・ブテラの躍動感。エグジーの相棒J.Bの愛らしさ。そして現代へとよみがえったキチガイヴィラン、ヴァレンタインを演じたサミュエル・L・ジャクソンの盛大なるゲロ死に。
このヴィランのキャラクター造形をはじめとして、そこかしこに散りばめられたアメリカ批判の底意地の悪さときたらもう。イギリス人って本当に陰湿よね。そのくせアメリカで大ヒットという怪現象。アメリカ人ってのは懐が深いのかバカなのかわかりませんな。
さてさて、ここ日本での興行ははたしてどうなることやら?『キック・アス』も『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』も一部の熱狂的支持に対して興行はいまいち振るわなかった。やはり容赦のないバイオレンス描写がネックとなっておるのですかね?
となるとこの『キングスマン』も危ねーぞ!なんせ威風堂々たる人体破壊映画ですからな!日本におけるマシュー・ヴォーンの今後のためにも、皆さまぜひとも劇場へと足をお運びください!絶対に損はさせない、最低なのに最高な快作ですから!
個人的評価:9/10点
続編/『キングスマン:ゴールデン・サークル』
日本では健闘したものの興行収入は10億円へと届かなった『キングスマン』ですが、世界的な興行収入は4億ドル突破の大ヒットで、2017年の9月に続編である『キングスマン:ゴールデン・サークル』が公開され、来年1月5日にはここ日本にもようやく上陸の運びとなりました。
前作でお亡くなりになったと思われたあの方もどうやら登場するようで、今度はアメリカの同盟組織も交えたさらなるバイオレントで、悪趣味で、愉快痛快、最低最高の血みどろ花火がドッカンドッカン打ち上げられることでしょう。こりゃ来年は年明けからお祭り騒ぎじゃい!
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
『キングスマン』が定額見放題なおすすめ動画配信サービスはU-NEXT(2020年4月現在。最新の配信状況はU-NEXTのサイトにてご確認ください)。
コメント
私も観てきましたよ〜。ほんと面白かったです。
敵のヴィランさん、私はてっきりパーティ会場で踊ってくれると期待したんですが。
あのいでたちだとR&Bでカッコ良く歌って踊る役回りかと。
元は映画監督という設定でしたよね?
でも彼自身はエンターテナーじゃないんですね。
だったら作った映画もそんなに面白くないんだろうなぁ、とか思いました。
ケフコタカハシさん、コメントありがとうございます!
お返事が遅くなってしまって申し訳ありません。
サミュエル・L・ジャクソン演じるヴィラン。
彼のキャラクターは軽薄なアメリカという国そのものですよね。
この描き方はホントに意地が悪い!
まあかといってイギリスをべた褒めしているわけではなく、
実はけっこうそこに対する描写も辛辣なんですけどね。
このへんのバランス感覚がさすがはマシュー・ヴォーンです。
結構好きですね、この映画。
英国紳士のスパイ観が存分に描かれていました。
本当にアメリカ人を皮肉っていて、アメリカ映画でもよく
「イギリス人は気取っている」
というのの意趣返しかと思いました。
でも終始テンポが良く、無駄な恋愛シーンもなくて楽しめました。
ミス・マープルさん、コメントありがとうございます!
教会を舞台にしたキリスト教原理主義者たちとの大立ち回り、
『威風堂々』、『Give It Up』が最高でしたね!
アメリカ人をコケにし倒している点も含めて、
やはりマシュー・ヴォーンの悪趣味なのにポップな感性は、
ほかに類を見ない貴重なセンスだと思います。
確かに無駄な恋愛シーンはないわけですけど、
そのぶんBL的なにおいをチラつかせているのもさすがですよね。
おー! キックアスのマシュー・ヴォーン!
これは観ないといけませんね!
今からレンタル始まるが楽しみです。
バニーマンさんコメントありがとうごいます!
そうなんですよ!あの『キック・アス』のマシュー・ヴォーン監督なのであります!『キック・アス』に勝るとも劣らない、いや、悪趣味だという点においてははるかに凌駕していると言っても過言ではない、まさに威風堂々たる爆発乱闘映画でありました。レンタル解禁の暁にはぜひとも鑑賞してください!
こんばんは!先日コードネームアンクルの方にも書き込みさせていただきました。イラストお上手ですね。そして楽しい!こんなに簡潔にまとめてらっしゃって且つ全部面白い。画才だけでなく素晴らしい文才も持ち合わせてらっしゃるのですね~。すごいわ。
これからもちょこちょこ立ち寄らせていただきます。
ちなみに…私はキングスマン中毒患者です。
16回映画館行きました。昨年6月からBD所有していたにも関わらず…。
もう何回見たんだかわかりません。セリフまで頭に入って居かねない勢いです。
どこかいけるところで上映してるとなると行かずにはいられない。
ひたすらあの美しいチャーチファイトを大画面で見たいがために。
・・・ビョーキですね。
それでは。
れんかさんこちらにもコメントありがとうございます!
お褒めただいて非常に恐縮であります。少しでもいい絵を描きたい!もっとわかりやすくて面白い文章を書きたい!と思って、日夜大好きな映画のイラストと感想をシコシコと製作しておるのですけど、これがなかなか思うようにはいかないのが現実。しかしこうして他人から褒められると浮かれ踊るお調子者でもありますので、ボクの精神衛生上おおいに役立っております。ありがとうございます!
『キングスマン』劇場鑑賞16回!とてつもない数字ですね!いや、でも気持ちはわかります。それぐらい興奮する映画でしたからね。チラホラと続編の情報も流れてきておりますので、そちらにも期待大ですよね!はたしてあのお方は生きていたのかどうか!?今から楽しみでなりません。
やっと観れましたよ、英国紳士による”紳士的”な殺戮ショー!
初めてこの映画を知ったときは「よくある王道アクション映画かあ」なんて思い、避けてしまっていました。
ですが、あの 映画を観たからイラスト描いた のスパイクロッドさんが「燃えてしまいました」と高得点をつけていたので、すぐにケーブルテレビで録画して キングスマンを観ました!
もう、最高です。 とくにあの、教会でのお祭りシーンではテンションMAXでした。
スパイクロッドさんの記事に感謝です。
ボンドレイクさん、コメントありがとうございます!
スパイアクション映画もやや食傷気味ですので、「よくあるやつだろ」と思ってしまうことは致し方ないことです。しかしこの『キングスマン』はそんじょそこらの凡百スパイアクションとは格が違うのですよね!おっしゃるとおり最高にセクシーな英国紳士ハリーが例の教会で見せる大殺戮劇はもはや祭りで、血沸き肉躍るとはまさにこのこと!Blu-rayを購入してここだけをいったい何度観たことか!ボンドレイクさんもキングスマン沼へとハマり込んだことが誠に喜ばしいです。続いて『キングスマン:ゴールデン・サークル』にも手を伸ばすことをおすすめしておきます。