好きなモノには手を出しちゃあなりません。好きだからこそ手を出してはならんのです。うかつに手を出すと、手痛いしっぺ返しを喰らうことになりますぜ、旦那。
作品情報
百日紅~Miss HOKUSAI~
- 製作:2015年/日本/90分
- 監督:原恵一
- 原作:杉浦日向子
- 脚本:丸尾みほ
- 音楽:富貴晴美/辻陽
- 声の出演:杏/松重豊/濱田岳/高良健吾/美保純/清水詩音
予告編動画
解説
葛飾親子がドタバタ日常ドラマのなかでたま~に絵を描くアニメーション映画です。天才浮世絵師として世界に名高い葛飾北斎の娘、葛飾応為(お栄)をモデルとした、杉浦日向子の漫画『百日紅(さるすべり)』を原作としております。
監督は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』の原恵一。制作は押井守作品でお馴染みのProduction I.G。声の出演は杏、松重豊、浜田岳などの、あまり好きではないプロの声優以外で固められておるのがちと残念。
あらすじ
江戸の下町で暮らす23歳の女浮世絵師お栄。彼女の父親は当代随一の人気絵師である葛飾北斎であった。父の代筆を務めながら、居候の善次郎やライバル門下生の国直などと賑やかな毎日を過ごすお栄。そんな彼女には、離れて暮らす目の見えない妹、お猶がいた。
移りゆく四季のなかで、火事に妖怪、恋に色気、お猶との時間、さまざまな騒動や経験を通して、絵師として、ひとりの女性として成長していくお栄であったが、嵐の予感とともにまた百日紅が咲く季節がやって来るのだった……。
感想と評価/ネタバレ多少
『クレヨンしんちゃん』という枠を飛び出した傑作、『オトナ帝国』『戦国大合戦』の原恵一監督による待望の新作でありました。初めての実写作品である『はじまりのみち』を挟んで、長編アニメ映画としては『カラフル』以来5年ぶりとなります。
Production I.Gとのコラボでいったいどういう化学反応が生まれるのか?さらなる前進が見られるのか?それとも変化か?非常に期待をして待っておりました。
でっかいテレビ
もったいぶったところで仕方がないので、さっそく結論から申し上げさせていただきますと、その期待はものの見事に裏切られてしまったのです。
慣れない環境、少ない予算、限られた時間のなかでよくやったと見ることもできるでしょうが、過去の傑作と比較したらただの凡作、ただのアニメ映画、いや、映画まで昇華することはできていなかったのではなかろうか?単なるテレビシリーズの総集編みたいな感じでしたね。
杉浦日向子による原作は未読ですので安易な比較はできませんが、原作の主要エピソードを単純に数珠つなぎしたような、核となる物語が存在しない短編集のような構成でした。
女絵師が見よう、描こうとしているもの。目の見えないお猶に見えている世界。北斎にしか見えない世界。見える、または見ようとしている世界が核だとも、北斎一家の日常、市井の生活、お栄という女性の歩んだ道が核だともいえますが、どれもこれも弱すぎますよね。映画を支える核、足りえておりません。
どうせやるなら徹底的に
基本的に原恵一という監督は動的なものより静的なものを描くことに長けており、どうやらいつも以上にそういう演出を志向していた傾向があるものの、必ずしもそれが成功していたとは言いがたく、むしろ中途半端。
どうせなら徹底的に平板な静的ドラマを目指したほうがよかったのではなかろうか?監督が「3か月もかけた!」と豪語した、動的演出なぞはいっそのこと排除してしまって。それこそ、人の生死すら日常の延長として。
アニメだからといって動的である必要はないわけですからね。同じ意味で、ロック調の音楽なんぞもあまり必要ではなかったように思います。
『オトナ帝国』と『戦国大合戦』という、プログラムピクチャーの枠を飛び出した2本の傑作号泣映画によって定着してしまった、「泣きの監督」というレッテルから離れたいという意識も働いていたのでしょうかね?
にしては、やはり中途半端だという印象は拭えません。あくまで日常の延長として、カットが変わったらもうそうなっていた、ぐらいのあっさり感のほうがある意味では衝撃的で、忘れがたい作品になっていたやもしれません。
好きなモノには手を出すな!
一部で指摘されている、着付けや櫛の位置のミス。以前に原監督自身が否定していた気持ち悪いアニメへと接近してしまったデザイン。モノローグの多用。緻密な音響を邪魔している音楽。絵を描くという行為のダイナミズムの欠如。ただそこにいるだけ妖怪。あくまでほどほどの映像クオリティ。あくまでほどほどのキャスティング。
う~む、丁寧に、奥ゆかしく、情緒深く描写された人々の想い。とりわけ雪景色でたわむれるお猶の愛らしさ、儚さ、やがて訪れるであろう未来には、さすがの原恵一節が感じられて心中をかき乱されたものの、全体的には最後まで乗れずじまい。
やはり思い入れのありすぎる原作の監督は引き受けるべきではないような気がしますね。好きすぎるものは好きすぎるものとして、棚の上に祀っておくのがベストだと思います。うかつに手を出すと大火傷をしてしまいますから。
個人的評価:3/10点(期待していたからこその辛めです)
コメント
こんばんは。
原恵一監督の新作なので期待していたのですが、微妙ですね・・・(^_^;)。
杉浦日向子さんが原作というのも期待のひとつでした。
ただ漫画家としての杉浦さんの画風と原監督とは少々ギャップがあるなとは思っていました。
TV放映を待っています(^_^;)。
コメントありがとうございます、バニーマンさん。
これはあくまでボクの偏った意見ですので、
ほかの方の感想はおおむね、というかかなり良いと思いますよ。
ボクの意見はあくまで少数派ですので、参考程度に♪
こんにちは。
カリメン2号です。
初めてコメントを書かせて頂きます。
久しぶりの原恵一監督作品と言うことで、期待していたのですが…。
あまり良い出来ではなさそうですね。
さすがに「クレヨンしんちゃん」シリーズで、2本もの大作を作ってしまった後では、観客の評価も厳しくなりますからね。
はじめましてカリメン2号さん。
コメントありがとうございます!
そうですね、『クレしん』の2作が本当にすごすぎますので、
どうにもハードルが高くなってしまってるのは事実だと思います。
ですのでボクの評価もあえて厳しめにつけています。
「こんじゃもんじゃねーだろテメー!」ってことです(笑)
ただの監督が撮った映画なら5点か6点あげてもいいような気がしますけど、
なんせあの原恵一ですから。
ですので、ほかの方は普通に楽しめるかもしれませんよ。
ほかのブロガーさんの感想を読んでもおおむね好評ですから。
私は未観ですが、期待をしています。同時に、スパイクロッド氏と同様の危惧も抱いています。
ということは、スパイクロッド氏の言う通りなんでしょうね。
私はアニメより実写の方が良い様な感じがします。それも「時代劇」ではなく、自毛で髪を結い、男子は実際に月代を剃り、着物の衿には垢やシミがあり、女子は腋毛を生やし、夏は上半身モロ肌脱いで団扇で仰ぐ、そんな生々しい生活臭溢れる映像でもって、生々しいハリウッドの「華麗なる激情」とか「炎の人ゴッホ」みたいな内容にする。
そんな映画、出で来ないかな。
晴雨堂ミカエルさん、コメントありがとうございます!
全体的な評判は上々のようですので、ボクのような反応はむしろ少数派かと。
まあ過去の傑作からくる期待値の高さが影響してしまいましたかね。
『華麗なる激情』も『炎の人ゴッホ』も未見ですけど、
そういうリアリズムに根差した真の時代劇なら観てみたいですね。
なんか日本では出てきそうにないですけど(笑)
そこまで徹底した時代考証に基づいた江戸の風情を描くというのであれば、
別にたいした物語もドラマも必要ではなかったと思います。
もうその描写だけで魅力的ですよね!
残念ながらこの作品は中途半端かと……。
個人的にはそんなにモノローグが邪魔をしていたとは思えませんでしたが、作品の魅力を損なわれなければモノローグの多さは関係ないと思っておりますので。音響と音楽のバランスも絶妙だと思いました。特にお栄とお猶が船に乗ってから波が現れるまでの音響と音楽のバランスは見事だと思いました。反対意見で申し訳ありません。劇場で5回観てきたもので。
窓さん、コメントありがとうございます!
反対意見でもぜんぜんかまいませんよ!
5回も観てきたということは非常にお好きなのですね、この作品が。
ほかの方の感想もおおむね好評のようですので、
おそらくボクの感想のほうが少数派だと思います。
原恵一監督の作品は大好きですべて観ているので、
少々ハードルを上げすぎたきらいはあるものの、
ボク的にはやはり文句を言いたくなる内容だったのですよね。
いちばん言いたかったことは、
こういう話をやるのなら別に映画でなくてもよかったのでは?
ということです。
テレビの連続ものでこれをやっていたらかなり高評価だったでしょう。
まあそのときはクオリティの問題がまた発生してしまいますけど。
映画としてのニオイがあまり感じられなかった。
ボクの低評価はこれに尽きると思います。
ただし点数のほうはあえての辛めですので、
普通の監督だったら5点か6点はあげてもいいと思っていますよ。
ただあの原監督ですからね。
こんなもんじゃねーだろ!ってことです。
こんにちは♪
もっと描けるだろう、というのは確かにありましたね
なにかが足りないというのは同意です
傑作短編映画足りえる最大のものがかけてる印象です
なので、平凡ながらも情緒は描けていると思った次第です
あと現代的な音楽は合わないと私は思いました
makiさんコメントありがとうございます!
確かに情緒はありますよね。でも何かが足りない。それが映画としての芯だったのか、原監督の原作を超えてやるという心意気だったのか、ボクにはよくわかりませんが、とにかく「お前こんなもんじゃないだろ!」って感じでした。
昨年、宮崎映画祭の原恵一監督をお呼びしての上映で観てきました。
原監督の大ファンの自分としてもちょっと作品への入りにくさを感じました。
大まかなあらすじだけで出来るだけ余計な情報を入れずに映画は観るようにしているのですが、この作品は原作を読んでから観た方がいいような気がしました。
また、主人公などのキャラクターのせいなのか今まで原監督の映画にあった自分の心に寄り添うような感じがちょっと少なかったような感じもしました。
作品の中で1番心惹かれたのは雪のシーンだったのですが、あのシーンは映画オリジナルのようで原監督の映画のこういうところが好きなんだなと改めて実感させられました。
DVDやブルーレイももう出ているのでもう1度観直してみようと思っているので、また観てみると印象が違ってくるかもしれません。(レンタルがDVDだけなのが不満)
そういえば「はじまりのみち」まだ観てなかったからそろそろ観ようかと思います。
余談ですが上映会の前にロビーで原監督が公衆電話で話していて、聞いてはいたけど携帯とか本当に持ってないんだと思い眺めていました。
らびっとさんコメントありがとうございます!
ボクも大好きな原恵一監督の新作ということで非常に期待をしていたのですけど、同じく入りにくかったですね。原作ファンの方にはおおむね好評だったようですので、まずその前提があるのかもしれません。原監督も原作の大ファンらしいですから。でもらびっとさんと同じくあの雪のシーンは非常によかったですよね!こういう情緒を描くことに長けた監督ですので、その部分でもっと攻め込んでほしかった。アニメで日本映画ができる数少ない才人なわけですから。
『はじまりのみち』はいい映画ですよ。初の実写でこう来たか!って感じです。しかし原監督はやはりパソコンも携帯も持っていないのですね。徹底しているというかなんというか。さすがです!