公開前からヘイト野郎どもの格好の餌食になってしまったリブート作。胸を張って言おうではないか「フェミニズム映画で何が悪い?」と。ただね、映画としてはね、ボクはね……。
作品情報
『ゴーストバスターズ』
Ghostbusters
- 2016年/アメリカ/116分
- 監督:ポール・フェイグ
- 脚本:ケイティ・ディポルド/ポール・フェイグ
- 撮影:ロバート・D・イェーマン
- 音楽:セオドア・シャピロ
- 出演:クリステン・ウィグ/メリッサ・マッカーシー/ケイト・マッキノン/レスリー・ジョーンズ/クリス・ヘムズワース
参考 ゴーストバスターズ (2016年の映画) – Wikipedia
予告編動画
解説
主要キャストを全員女性にとっ替えたことによって一部のバカどもからストレス発散のサンドバックにされてしまったアクションコメディです。言わずと知れた1984年の『ゴーストバスターズ』のリブート作。
監督は『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』のポール・フェイグ。主演は同作にも出演していたクリステン・ウィグとメリッサ・マッカーシーに、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズ。4人とも「サタデー・ナイト・ライブ」出身のコメディエンヌです。
主題歌を担当するのはフォール・アウト・ボーイ。オリジナル版の主題歌であるレイ・パーカー・Jrの『Ghostbusters』を、ラッパーのミッシー・エリオットをフィーチャリングしてカバーしております。
主題歌/フォール・アウト・ボーイfeat.ミッシー・エリオット『Ghostbusters (I’m Not Afraid)』
あらすじ
コロンビア大学で教鞭をとる物理学教授のエリン(クリステン・ウィグ)。しかし過去に共同執筆した心霊現象に関する著作の存在が明るみになり、非科学的だとして学内の笑いものになったばかりか、終身雇用を狙っていた大学を追われるハメに。
その原因となる封印したはずの著作をネットで販売していたのは、共同執筆者であり過去の親友でもあったアビー(メリッサ・マッカーシー)だった。しかし彼女との再会によって本物のゴーストと遭遇したエリンは、昔の情熱を取り戻すことに。
天才エンジニアのホルツマン(ケイト・マッキノン)、元地下鉄職員のパティ(レスリー・ジョンズ)を仲間に加えた彼女らは、幽霊退治の専門会社「ゴーストバスターズ」を設立。おりしもニューヨークでは急激にゴースト事案が発生中であった……。
感想と評価/ネタバレ無
本公開は8月19日からですが、4日間だけの先行上映をやるとのことでさっそく観てまいりました。本国アメリカで映画の公開前から不当なバッシングにさらされていた本作。その主な理由は「主要キャストがおばさんになってる!」からだってさ。
肛門括約筋がギチギチすぎる奴らがいるもんですわ。だいたい観る前から性別や人種、容姿をネタに背後から鈍器で攻撃してくるような奴らは、ボクと同じ人間のクズです。ボクがそんなクズどもと唯一違う点は、観てから攻撃するということ。
というわけで、ここ日本では好意的に受け入れられているこのリブート作ですが、ボク的にはいまいち乗りきれなかったのです。別にキャストが女性に変更されたからなんて理由ではなく、普通に乗れなかった。それではさっそくその感想をば。
リブート企画としての成功
映画としては乗れませんでしたが、リブート企画としてはアリだと思います。ハロルド・ライミスが亡くなったいま、オリジナルメンバー再結集によるパート3の製作は不可能ですので、ここまで思いきった変更のほうが企画としては面白いでしょう。
特に主要キャストをすべて女性に替えたことにより、社会の反応がオリジナルとは真逆になっていたのが興味深い。どれだけ幽霊退治で活躍しようとも、その功績は社会的に評価されることがなく、日陰者ヒーローとしての役割を押しつけられる。
こういう性差別の構造をコメディという外殻に落とし込んでいるわけですけど、そういうフェミニズム的視点がヘイト野郎には気に喰わんのですかね?『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のときにもこういう輩は存在しましたが、だってこれは現実でしょって話。
そんな逆境的境遇のなかで奮闘する、若くもキレイでもないおばさんたちの、それもオタク女どもの友情というドラマも効いております。エリンとアビーの絆。おそらくは孤独だったホルツマンの想い。パティの強烈ビンタ。企画としては成功です。
コメディとしての失敗
リブート企画としては成功だと思いますが、肝心の映画としてはいまいち面白くなかった。その理由はひとえに笑えなかったから。解説にも書いたとおり今作の主要キャスト4人は、全員が「サタデー・ナイト・ライブ」出身のコメディエンヌたちです。
オリジナルの出発点もここですので、やはりリブート企画としては間違っていない。しかし、彼女たちが披露する芸や話術がどうにもボクには面白くなかった。実はオリジナルに対する評価も似たようなものですので、これはボク自身の感性の問題かも。
基本的にアメリカンコメディが昔から苦手でして、何が面白いのかさっぱりわからない。映画バカですので、「ろくろが~」とか「ジョーズの市長が~」とかにはニヤリとするものの、彼女たちのぬるい下ネタやお喋りにはキョトンとしてしまうの。
演出的にも野暮ったいというか、現代にあるまじきリズムとテンポの悪さでイライラしてしまいました。画的にキメてこないのも気持ちが悪い。出動シーンとか登場シーンとかもっとキメてこいよと思ってしまう。ヘタクソなのか?
SFアクションとしての爆発
コメディとしてはいまいち笑えず、演出の野暮ったさにもイライラしてしまったボクの評価は、「普通に面白くない」というものでした。それを最後に挽回してくれたのがまさかのSFアクションとしての爆発。一転ここではキメまくりなのです。
ゴーストたちのデザインや描写には文句もありますが、多彩なSF的ガジェットを駆使したCG全開アクションは素直に楽しかった。喋くりではなく視覚的な笑いも効いております。それを一手に引き受けたのがクリス・ヘムズワースと言えるでしょう。
そしてこの映画で唯一鳥肌が立った瞬間、ケイト・マッキノン演じるホルツマンによるベロベロ二丁拳銃アクション!往年のテーマ曲がかかるなか、華麗にゴーストたちを駆逐していく彼女の雄姿は見事なまでのキメまくり!やればできるじゃん!
このホルツマンのパンキッシュなキャラクターは、お世辞にも演技が上手いとはいえないマッキノンの微妙さ、浮き加減、でもカッコいいビジュアル、破天荒さによってなんとも表現しづらい魅力を放ってましたよね。絶妙の違和感とでも申しましょうか。
言いたいことを言おう
リブート企画としては間違ってないが、喋くりコメディとしてはやや対象を選び、むしろCG全開のSFアクションとしてハジけていた、なんとも評価の難しい本作。結局のところいちばん笑いをかっさらっていたのがクリヘムだというのもなんだか皮肉。
頭は空っぽでも顔と体さえよければマスコットとして愛される。過去の遺物ともいえるお飾りヒロインの役割を性別逆転で演じたクリス・ヘムズワースが、それを承知したうえで活き活きと突き抜けたバカを演じて最も目立っていたという皮肉な現実。
ここ日本での意外な高評価にも、アメリカでのゆがんだバッシングに対する逆のバイアスがかかっているのではないかと勘ぐってしまうのは、性根のねじれたボクだけだろうか?不当に叩かれていたから擁護したくなるって感情ね。
そんなゲスの勘ぐりをあれやこれやと考えてしてしまうのも、ひとえにこの映画を思いのほか楽しめなかったボクがいるから。この映画を叩くとヘイト野郎と同じになるのでは?という自己防衛本能。でも言おう。ボクはこの映画、面白くなかった。
ちなみにもうよっぽどのことがないかぎり3Dで映画を観る気はないので、本作も2D字幕版での鑑賞であります。3D版の評判が非常によろしいようですので、そちらで観直したら評価も変わってくるかとは思いますが、たぶん観ないでしょうね。
何度も言っているようにあまり好きな映画ではありませんが、エンドロールはなかなか楽しい作りになっているので必見です。最後にオマケもありますので、気になる方はどうぞ途中退席なぞなさらぬように。これを観るかぎりは次もやる気満々ですよって。
オリジナルキャスト出演シーン
おまけとしてオリジナルキャストの出演シーンを追加で登場順にまとめておきます。
- ビル・マーレイ
心霊現象研究家の権威として登場。主人公たちをペテン師扱いする役どころとして、オリジナルキャストとしては最も目立ったかたちで出演しております。しかしあの退場の仕方は笑っていいのやら泣いていいのやらですな。
- アニー・ポッツ
今回の事件の首謀者が働くホテルのフロント係として登場。初見では彼女だけ発見できなかったのですけど、下記のサイトで教えていただきました。いつもながら情報が細かい!
- ダン・エイクロイド
クライマックスでエリンが止めたタクシーの運転手として登場。おそらくこの人の老けっぷりがオリジナルキャスト中最強で、パッと見ではホントにただのおじさんです。時の流れは無常なり。
- アーニー・ハドソン
葬儀屋を営んでいるパティの叔父さんとしてラストに登場。彼の出演シーンだけは正直予測できましたよね。
- シガニー・ウィーバー
ホルツマンの師匠として満を持してのエンドロールに登場。『宇宙人ポール』ぐらいから最後にカメオ出演しておいしいところをかっさらっていく彼女。省エネで印象的かつおいしい仕事をしておりますな。
ハロルド・ライミスは2014年に亡くなられておりますので出演シーンはありませんが、彼へと捧ぐメッセージにはウルッときちゃいますね。あ、そうそう。なぜだかオジー・オズボーンも出ておりますのでファンの方はお見逃しなく。
個人的評価:4/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
『ゴーストバスターズ』が観られる動画配信サービスはNetflix、U-NEXT、TSUTAYA TV。おすすめは定額見放題のNetflix(2018年12月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。
コメント
個人的にジェンダーの話は別に盛り込んでいいし、全員女性キャストもかまわないんですが、ギャグとキャラクター分け、そして社会的弱者やマイノリティを描くならもっと徹底的に、と思いました。
ギャグは好みもあるから置いておくにしても、キャラクターの身体的シルエットはもう少しバラけさせても良かった気がします。ドラマ相棒のロゴみたいに。
また、若くも綺麗でもないオバサンなのがいいという意見もありますが、あえて超美人で善良ではあるがから回るキャラを入れてパーティの仲を引っ掻き回し、しかも中盤性同一性障害の男性だとわかり、お互いのコンプレックスを理解して、はれて女性として受け入れられるくらいの、明るく徹底的に茶化しながらも優しい流れみたいなものが欲しかったな。で、ラストバトル仲間のピンチにはるな愛みたいにケンジが顔を出したりすんの。
全体的に映画のトーンを何処にもってきたいのかが分かりにくい感じでした。コメディが中途半端というかファミリー向けでどぎついのが出来ないせいかな?
ともかく復活は嬉しい限り。
世間も女性キャストだから嫌、というより期待したのがオリジナルキャストによるキャラのその後ムービーだったからってのが大きいんじゃないかな?
オリジナル版のキャラの話題のふり方とか長年のリークの出し方が今回特段下手だったような気がします。
個人的にはゲイ、レズビアン、バイセクシャルの混成チームでも良かった。
(눈_눈)さんこちらにもコメントありがとうございます!
おっしゃるとおりジェンダーを語っても、フェミニズム映画になってもいっこうにかまわないのですけど、映画として面白くなければすべて意味のないものになってしまうのですよね。そしてやるならやるでもっと徹底的にやるべきだった。結局は行儀のよいフェミニズム映画の範疇にとどまってしまっていたのも失敗だと思います。(눈_눈)さんのアイデアが現実化していたらかなり突っ込んだLGBT映画になっていたでしょうね。そしてもっと批判も大きかったと思います。でもそんな野次なぞ黙らせる圧倒的に面白い映画を撮れば勝ちなのですから!そういう意味では今作はやはり失敗だと思います。コメディとしてもジェンダー映画としてもね。
やっぱり中途半端な感がありましたよね。
ズートピアよろしく、声高に弱者であることを叫んでいる側もまた誰かを無自覚に傷つけていること、誰もが羨むような境遇に見える人も誰にも言えないコンプレックスを抱えて生きている、ってのは必要だったと思います。
そういったものがなかったためジェンダー問題への問題提起ではなく、単に男への文句を(しかもボンクラな自分を棚上げして)垂れ流しているだけだと受け取られてしまったのかも。ゆえにバッシングが加熱した側面もある気がします。
なんなら圧倒的に自立した女性たちにしてボンクラな男性を罵り倒すのもありだったかな。ボンクラ同士だとそこはかとなく、お前が言うなって雰囲気は拭いきれないから。
でもやっぱり同性愛者をバッシングしている宗教家さえも敵に回すだけの勇気があれば、ってアメリカじゃ難しいかぁ。でもだからこそアメリカ映画がやらなきゃ!とも思います。
ズートピアが性差や格差、偏見差別をコメディとして描くうえでの教科書かもしれませんね。
底抜けに、無意味に、無根拠に自信に溢れて明るいのがアメリカ人のイイトコじゃん。あらゆる『差』を笑い飛ばせるような脚本を頑張っておくれ。
グーニーズ、レインマン、バックトゥザフューチャー、ジングルオールザウェイ、あの頃いつだってアメリカ映画は僕らボンクラに優しかったじゃないか。
今更ながら始めまして。
イラストに興奮してたら挨拶忘れちゃってました。
イラスト、大変かっこいいです!
それではまた。
(눈_눈)さん再度のコメントありがとうございます!
『ズートピア』は映画としての基本的な面白さも破格なのに、そのうえで根深く残る差別と偏見の構図まで提示してしまったわけですから、確かにお手本にすべき教材ではありますが、あれはやはり破格の存在として棚の上に祀っておくのが無難かとは思います。これを実践する難しさはこのリブート版『ゴーストバスターズ』が証明してしまったようなもんですよね。こういうデリケートなテーマを扱う場合は批判はもちろん覚悟のうえで、突き抜けた何かをきちんと提示してもらえないと支持できないよって話です。無難なコメディの中で無難なジェンダー論ぶち上げてもそりゃ響かんよって話。だったらそれこそおっしゃるように底抜けボンクラ映画としてもっと突き抜けてほしかった。まあボクらボンクラが歓喜するだけで、興業的には失敗に終わるかもしれませんけどね(笑)。
イラストはまあ昔取った杵柄と申しますか、下手の横好きと申しますか、これぐらいしか人との違いをアピールできない凡人でありまして、日々、自分のヘタクソと格闘しながらも少しでも良いモノを描こうとまあ頑張っている次第であります。どうぞまたボクのヘタクソなイラストと駄文を読みに遊びに来てください。少しでも楽しんでいただけるように精進しておきますので!
ハロルド・ライミス氏ですが、スタッフロール以外にも意外な形で出ていたような。
(この確認のためだけに二度見に行ってしまいました)
こちらの記事にも言及してブログ記事書きましたので、ご笑覧ください。
ma-kunさんコメントありがとうございます!
ハロルド・ライミスの登場シーンですが、ほかの方の感想を読んで「そうだったのか!?」と思いました。でも覚えてないので確証がないし、もう一度観に行く気もなかったので、うちの記事では言及しなかった次第です。これからそちらの記事を拝見させていただいて、勉強させていただきますね!