『ザ・スクエア 思いやりの聖域』感想とイラスト 猿の振り見て我が振り猿真似

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映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』テリー・ノタリーのイラスト(似顔絵)

思いやりと信頼を掲げる芸術作品の理想を信じる男が犯した小さな悪事。そこから暴き出される現代社会の欺瞞は、彼を、この映画の登場人物すべてを、そして我々観客をも次々となぎ倒していく容赦なきブーメラン。

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作品情報

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

  • 原題:The Square
  • 製作:2017年/スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク/151分
  • 監督・脚本:リューベン・オストルンド
  • 撮影:フレデリック・ウェンツェル
  • 出演:クレス・バング/エリザベス・モス/ドミニク・ウェスト/テリー・ノタリー

参考 ザ・スクエア 思いやりの聖域 – Wikipedia

予告編動画

映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』予告編

解説

「思いやりと信頼」をテーマにしたアート作品「ザ・スクエア」を発表した現代美術館のキュレーターが、その理想とは程遠い軽はずみな行動によって窮地へと陥っていく姿を描いた風刺コメディです。

監督は『フレンチアルプスで起きたこと』のリューベン・オストルンド。第70回カンヌ国際映画祭で『聖なる鹿殺し』や『ラブレス』を押しのけて見事パルム・ドールに輝いております。

参考 第70回カンヌ国際映画祭 – Wikipedia

主演は『蜘蛛の巣を払う女』のクレス・バング。共演には『ハイ・ライズ』のエリザベス・モス、『マネーモンスター』のドミニク・ウェスト、『キングコング:髑髏島の巨神』や『猿の惑星:聖戦記』などで知られるモンキーモーションキャプチャ俳優テリー・ノタリーなど。

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感想と評価/ネタバレ有

身につまされるほど情けなくも愛らしい「男らしさ」を徹底的にコケにした『フレンチアルプスで起きたこと』のリューベン・オストルンドの新作。その底意地の悪さに大きな期待を寄せてはおりましたが、まさかカンヌで最高賞のパルム・ドールまで獲ってしまうとは。

んでまあMっ気丸出しでいたたまれない居心地の悪さを体験に公開初日鑑賞を決めてきましたが、皆さんご安心ください。この監督の性格の悪さはさらなる領域へとパワーアップを果たしており、笑っている観客の腹部も情け容赦なくグサグサ刺してきますから。

みんな悪人ではない…が

現代美術館のキュレーターを務めるクリスティアン。そんな彼が次なる展覧会の目玉として発表したのが、地面に正方形を描いただけの作品「ザ・スクエア」。このなかでは「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という思いやりと信頼をテーマにした作品だった。

そんなある日、スリによって携帯と財布を盗まれたクリスティアンは、GPSを使って犯人のマンションを特定。面白半分でそこの全戸に脅迫文を投函して犯人をあぶり出すことに。結果、盗品は無地に手元へと帰ってきたものの、ここから彼の人生は大きく狂い始めるのだった……ってのが簡単なあらすじ。

長身のイケメン親父で、ファッショナブルなスーツに身を包み、芸術への造詣も深く、そのテーマや理想を信じ、弱者や困っている人を無視する傍観者ではない、人間らしい人間性を備えながら成功を手に入れた中年男の、どこで何をどう間違ったかの意地が悪い転落劇。

一言で申すならけっしてクリスティアンは悪人ではない。そう、ボクもあなたもけっして悪人ではない。でも人は邪悪ではなくても時として間違いを犯し、気づかぬうちに他者を傷つけ、その深層に眠る差別や偏見、無関心を暴かれ、みっともない醜態をさらすもの。

そんな醜態という名の人間の本性を暴き出し、「どうです皆さんみっともないでしょう!」とニコニコ笑いながら我々観客のことも同時に串刺しにしてくるのがこの映画であり、ヘラヘラ笑いながら実は自分自身を笑っていたことに気づき、背筋に冷たいものが走るのであります。

みんなどこかがなんかおかしい

思えば最初からこの映画はどこか居心地が悪かった。クリスティアンにインタビューをする女の背後でちょっとだけ見切れているスタッフの姿。映ってはいけない何かがすでに紛れ込んでいる絶妙の不自然さ。そういやこの女の質問も典型的なバカインタビューで非常に不快。

随所で象徴的に映し出される物乞い(ロマ?移民?)の存在と、彼らとは完全に隔絶したスウェーデン社会。そんな普通だけどいびつな朝の風景のなかで発生する、クリスティアンの集団スリ被害。「助けてー!」と叫ぶ女を助けようとした親切心につけ込む卑劣な犯罪。

この映画には無数の傍観者(我々観客も含む)が登場しますが、このシーンはその象徴たる演出でしょう。「助けてー!」という声を聞きながら、「面倒は嫌だ」「危険かも」「誰かがやるだろう」「会社に遅刻する」と、さまざまな理由で状況をスルーする我々傍観者たち。

そんななかでわずかな親切心から状況へと参加したクリスティアンがスリ被害に遭い、さらにはここから自身の人間としての卑小さ、欺瞞、矛盾を暴き出されていくという皮肉。理想と現実は違う。芸術の高邁な理想を信じる男が現実にそれを実践できるかどうかはまた違う話。

「思いやりと信頼」を問う「ザ・スクエア」の精神とは真逆な、貧困層が暮らすマンションへと投函された脅迫まがいのビラ。面白半分で投函されたこのビラの真意には、部下のなにげない「典型的なスウェーデン人」という言葉があったのではないかと邪推できます。

そう見られたくないちっぽけな男のプライド。そんなプライドが現出させる人の欺瞞を暴き出すカオスの到来。謎の逆脅迫状。クリスティアンのビラによって濡れ衣を着せられた怒り狂う少年。安易な炎上商法へと手を染める愚かな広告会社。犬。赤ん坊。チンパンジー。

チンパンジー?冒頭の女性記者といざセックスするべ!という段階で彼女の部屋を闊歩してアート作品をこしらえる謎のチンパンジーの登場が巻き起こすカオス。まさにカオス。その存在に対するなんらの説明もないのがまたカオスでありまして、本作最強の衝撃シーンかも。

そんな類人猿を模した人間の謎モンキーパフォーマンスもまた衝撃、そしてカオスで、マイノリティからスノッブへと叩きつけた反逆表明とも取れますが、その圧倒的暴力性を目の前にした人間たちの沈黙、恐怖、逃亡、怒り、集団ヒステリーは居心地悪いどころの話ではない。

これをやったパフォーマーも狂ってるし、それを強制体験させられたスノッブたちの言動はしごくまっとうだと思う反面、ひとりの反撃をきっかけにそれが集団リンチへと発展して容赦なく打ち捨てられるという最後はいったいなんなんだこりゃ!お前ら全員狂ってる!

スクエアの外側

という叫びがまたブーメランして自分に突き刺さるから始末に負えないこの作品。詰まるところ、俺もお前もあなたも私もみ~んな根っ子では「狂ってんだよ!」という現実を平等に突きつけてきていて、それを認識したうえで「さあどうしよっか?」と問うてきてるわけですね。

性悪説と言ってしまえば単純な話ですが、それを前提にしないと人間の善性は獲得、発揮できないものなのかもしれません。それを象徴的に表したのが「ザ・スクエア」なのでしょう。そう規定された枠内のなかではそれを行えるが、その外に出たらはたしてどうなのか?

醜悪な広告に怒るSNSでの反応。それに対する釈明会見を開いたクリスティアンに浴びせかけられる記者たちの正義の質問。これらのスクエア内における彼らの言動は正しいようにも思えますが、その外側により大きなスクエアが広がっていることに気づいているのかどうか?

この限定的スクエア内において正義の声をあげている彼らは、より大きなスクエア内では物乞いを風景として無視する傍観者の一員にすぎません。そしてそれは我々観客の姿でもある。それを自覚するところからしか「思いやりと信頼」の獲得は始まらないのかもしれません。

投げられた時限爆弾

しかしこの作品は最後まで意地が悪い。「思いやりと信頼」のスクエアを実践する娘のチアリーディング大会を観戦したのち、クリスティアンは娘とともに自分の「犯罪」を告発したあの少年の家へと詫びを入れるために向かいます。すべてをゼロから再出発するために。

だがその願いはかなわない。同マンションに住む老人によると、「いたような気がするが最近は見ない。引っ越したのでは?」との話。仕方なく親子は帰路につき、車中のなんともいえない表情で映画はThe End。この結末をどう取るかは意見が分かれるところでしょう。

自他ともに認める性格の悪さを誇るボクの見解は、「少年は死んだ」です。最悪でしょう。最悪ですけど、性格の悪いボクにはそうとしか考えられない。その事実を知らぬまま、クリスティアンは罪悪感を生涯かかえ、「思いやりと信頼」とはなんなのかを考えて生きていかなければならない。

前作以上に最高最悪なぶっちぎりに底意地悪い映画です。もうひとつ付け加えると、あの逆脅迫状の主と少年とは別人なのではないかと思っています。そうなるとさらなる皮肉が浮かび上がってきますが、パルム・ドールにふさわしい傑作なのかどうかと問われると疑問符も。

すべてがテーマへと結びついてはいるものの、短いエピソードを数珠つなぎした構成はやや散漫で、それが150分の長尺で繰り返されるのもけっこうしんどいものがあり、もう少し話の焦点は絞ったほうがよかったかな?全方位へと毒を吹きかけるための戦略かもしれないけど。

ひとりの男、ひとつの家族に焦点を絞った『フレンチアルプスで起きたこと』のほうがボク的には好みですが、その悪意や皮肉、不条理感はこの『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でさらなる高みへとのぼった印象で、意地悪映画がお好きな方にはちょっとたまらんものがあるかも。

しかしその底意地の悪さはボクやあなた自身へも放り投げられた時限爆弾であり、チクタクチクタク心を蝕んでやがては大爆発を引き起こすかもしれませんのでご用心を。

個人的評価:6/10点

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コメント

  1. おーい生茶 より:

    パルムドール受賞作ですがイマイチでした。
    スパイクロッドさんが指摘されたように僕も尺が長いと思います。

    逆脅迫状の送り主は誰か?、について僕は3パターン予想していました。
    1.ネットに晒そうとする少年
    2.スクープ欲しさに揺すろうとする女性記者
    3.上司に責任転嫁される前に先んじて裏切ろうとする黒人男性、です。

    ラストの解釈に関してはさすがの洞察で僕との観賞力の差を痛感します。

    映画内では風刺演出の連発でよくここまで詰め込んだな、と感心。
    テスラ乗りの主人公、チンパンジーに比せられる米国女性、再生数だけで広告提案するYouTube。
    この辺りにカンヌ審査員の思惑が透けて見えます。
    謝罪会見が閲覧数を稼げるコンテンツになっているのは日本も同じ。
    炎上当事者もスクエア(テレビやスマホ画面)映えを意識していて役者のようです。

    ただ、毒っ気が強すぎる気もします。
    優雅さに欠けるのは監督がまだ40代前半だからでしょうか?
    アルドリッチ監督の「悪徳」を見たときも同じことを感じました。
    愛されキャラが欲しかったです。
    「スクエア」は主人公の部下の黒人男性、「悪徳」は仕送りする田舎出の女優を
    膨らませられたと思います。

    ところで「万引き家族」のレビューはされる予定あるのでしょうか?

    • おーい生茶さん、こちらにもコメントありがとうございます!返信が遅くなってしまって申し訳ありません。

      そうですね、底意地の悪い風刺のきいたいい映画だとは思うのですが、やはり尺の長さと良い意味での遊び心、余裕がなかったのがマイナスポイントでしょうか。同じ性格悪い監督でもそのてんヨルゴス・ランティモスはしっかり笑わせた背後からグサリと刺してきますから。まあこのへんは好みでしょうか?

      『万引き家族』ですかぁ。観てないし今のところはレビューをする予定はありません。っていうか仕事の忙しさを言い訳に最近は更新をさぼっているナマケモノでして、とりあえず来月あたりは立て直したいと思っておりますので、どうぞよしなに、よしなに……。