『たかが世界の終わり』感想とイラスト 天才が描く家族の肖像

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映画『たかが世界の終わり』ギャスパー・ウリエルのイラスト(似顔絵)
12年ぶりに一堂に会した家族水入らず。そこで噴出する、怒号、絶叫、罵り合い。ここはなんといううだるような暑さだ。ああ~鬱陶しい。ひたすら鬱陶しい。なんて鬱陶しい天才だ。グザヴィエ・ドラン、貴様天才だ!

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作品情報

『たかが世界の終わり』
Juste la fin du monde/It’s Only the End of the World

  • 2016年/カナダ、フランス/99分/PG12
  • 監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
  • 原作:ジャン=リュック・ラガルス
  • 撮影:アンドレ・トュルパン
  • 音楽:ガブリエレ・ヤレド
  • 出演:ギャスパー・ウリエル/ナタリー・バイ/ヴァンサン・カッセル/レア・セドゥ/マリオン・コティヤール

参考 たかが世界の終わり – Wikipedia

予告編動画

解説

12年ぶりの家族の再会は何も起きないサスペンスを引き起こすという家族ドラマです。原作はジャン=リュック・ラガルスの戯曲『まさに世界の終わり』で、第69回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。

監督は『Mommy/マミー』の若き天才グザヴィエ・ドラン。主演は『ハンニバル・ライジング』のギャスパー・ウリエル。共演には『恋愛日記』のナタリー・バイ、『イースタン・プロミス』のヴァンサン・カッセル、『ロブスター』のレア・セドゥ、『君と歩く世界』のマリオン・コティヤールなど。

あらすじ

若くして成功を収めた劇作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)。しかし病に侵された彼の余命は残り少なく、その事実を家族へと伝えるため、12年前に飛び出して以来一度も帰らなかった故郷へと戻ってきていた。

ルイの帰郷に有頂天の母マルティーヌ(ナタリー・バイ)と妹のシュザンヌ(レア・セドゥ)だったが、兄のアントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)はルイの突然の訪問を快く思っていないらしく、初対面となる彼の妻カトリーヌ(マリオン・コティヤール)も戸惑い気味だった。

懐かしい家族と久々の食卓を囲み、とりとめのない会話や喧嘩を静かに眺め、なんとか告白のタイミングをうかがうルイだったが、どうしても言い出すことができなかった。そんな彼の存在は家族のあいだにもやがて不穏な影響を与え始め……。

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感想と評価/ネタバレ多少

若干20歳にして監督デビューを果たし、早熟の天才として世界中に衝撃を与えたグザヴィエ・ドラン。もちろんその存在も作品も知っておりましたが、これまではどうにも食指が動かず、実はいまだに一本も彼の映画を観ていないという晩成すらしない凡才とはボクのこと。

そんな阿呆の凡才も、いよいよ早熟の天才へと挑む日がやってまいりました。大丈夫かな?バカでもわかるのかな?気づいたら夢のなかなのでは?なんて凡才らしい不安に駆られながら観てきた『たかが世界の終わり』。それではさっそくその感想をば。

天才が描く家族ドラマ

物語はいたって単純。若くして成功を収めながらも自らの死期が迫った劇作家が、長年疎遠になっていた家族のもとを訪れ、自分がもうすぐ死ぬことを伝えようとする。家族の死を前にした和解のドラマという感動の押し売り臭がプンプンとにおってくるプロットですな。

しかしそこは天才グザヴィエ・ドラン、そんな手垢まみれのお涙頂戴家族ドラマなぞはなから描く気がありません。この映画が描く家族の肖像は、結局は他人でしかないわかり合えない家族という共同体と、それでも家族は家族なんだという諦念に近い認識であります。

上映時間99分の大半は、久々に帰郷したルイに対するそれぞれの家族の一方的お喋りと、ルイという家族における異物の存在によって奏でられる不協和音=罵り合いが続くなんとも疲れる内容なのですが、これがやがてとんでもないサスペンス性を発揮してくるのですよね。

家族の再会を包む恐怖

ルイは芸術家らしい繊細かつ内向的な性格で、どうやらゲイでもあるらしく、下世話であけすけで攻撃的なほかの家族とはどうにも馴染めないのです。家族と久々に会い、自分の死期を告白することを「怖い」とも語っております。家族だけど理解できないのですよね。

そんなルイは懐かしい家族との団欒のなかでも多くは語らず、曖昧な微笑みを浮かべているだけ。そんな彼や家族の顔を、極端に被写体へと接近したどアップ映像でつないでいく演出は、ロングの画を好むボクとしてはあまり好きではないものの、これは素直に凄かった。

どうでもいいとも思える会話のなかで映し出される彼らの顔。そこには素直な喜びが、どうしていいかわからない戸惑いが、どうしようもない焦燥が、抑えがたい苛立ちが、そして恐怖がありありと刻まれていた。とりわけ豪華キャストによる目の演技が素晴らしかったですよね。

家族と会うことを、彼らと話すことを「怖い」と語っていたルイ。しかしその想いはほかの家族とて同じ。自分たちとは明らかに違う人種であるルイという存在は、彼らにとってもある種の「恐怖」なわけです。理解し合えない家族が同じ時間を過ごすことの恐怖。

このなんともいえない緊張感がこの延々お喋り映画の根幹を支えており、怒号絶叫罵り合いが続くひたすら疲れ、ムカつき、イライラするこの時間をギリギリで持ちこたえる予防線となっておりました。単なるお喋りクソ映画ではない、とてつもないサスペンス性の内包。

何も起きないサスペンス

ルイが自分の死をいつ家族に告げるのかということも一種のサスペンスですが、それ以上にこの家族が奏でる不協和音自体が表面的には何も起こらないサスペンスなのです。ボクはこの映画を観ながら心底イライラし、それと同時にヒリヒリ恐怖しておりました。

極論してしまうと、この家族はとうの昔に壊れているのだと思います。そんな崩壊も丸ごと含めてこの家族は家族として成立していた。その壊れているのに維持されていた家族を作ったのはほかならぬルイの不在であり、それを表面化させてしまったのもルイの突然の訪問。

ルイがいだいていた家族への恐怖以上に、この家族はルイの存在を恐れていた。とりわけ兄アントワーヌの苛立ち、怒り、そして恐怖は計り知れません。芸術家として成功したルイへの嫉妬や劣等感とともに、理解できない弟が持ち込んでくるかもしれない何かに恐怖する焦燥。

そんなアントワーヌの心の動揺がついにピークへと達した、兄弟ふたりきりのドライブからクライマックスへ向けての尋常ではない緊張感と不安、そして恐怖は並のサスペンス映画ではとうてい太刀打ちできない衝撃がありました。これといった何かが発生しないサスペンス。

特に最後の夕食シーンの演出にはまさに戦慄を覚えましたね。こんなとてつもない仕事ができてしまうグザヴィエ・ドランという男はやはり天才か!こんな映画を20代後半の若造が撮っただなんていまだに信じられませんが、それが彼が天才と呼ばれるゆえんなのでしょうね。

家族の距離感

正直に申しましてこの『たかが世界の終わり』は好きなタイプの映画ではありません。しかし好みではないからといって無視できるような作品でもない。比較対象が見つからない、この独特の世界と切れ味は好き嫌い抜きにして一見の価値が十分すぎるぐらいにあると思います。

家族というものをどうとらえているかによって評価が大きく違ってくる映画でもありますが、しょせん家族とて他人なのです。ボク自身も馬の合わない家族がおります。向こうもボクのことをそう思っているでしょう。であるならば、距離を置いた関係こそが賢いやり方です。

神経をすり減らして一緒にいるよりも、適度な距離を置いて付き合うことこそがお互いのため。どんなに馬が合わなくても、理解できなくても、嫌いでも、家族は家族なのですから。その事実はどうやっても揺るぎようがありません。家族は選べないのです。

理解できない、相容れない、信じられなくてあたりまえ。それでも切り離せないのが家族という因果、因縁のようなものなのだと思います。ルイはこの帰郷に恐怖を感じながら、同時に自分の死を餌にした和解、慰め、絆の確認といった家族に対する甘い幻想があったのでしょう。

しかしそんなものは最初から存在していなかった、家族という共同体の現実をただ突きつけ、なんらの解答も提示しないクライマックスのやるせなさは尋常ではありません。これぞ天才のなせる業か!?好きではないけど心の底から感服いたしましたぞ!

ところでこの映画を観終わって、「あ、ルイってもしかしたら死なないかも」と思ったのはボクだけでしょうか?いや、別に何か根拠があって言っているわけではないのですけど、あのラストを観てなんとなくそう思ったのですよね。「あれ?死なねーんじゃねーか?」って。

なんの根拠もありませんので、「なんで?」とは聞かないでね♡

個人的評価:7/10点

DVD&Blu-ray

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スパイクロッド

映画を観たらとりあえず感想とイラストを書く(描く)人畜無害な釘バット。ちなみにイラストはぺんてるの筆ペン一本によるアナログ描き。

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コメント

  1. YUKi より:

    初めまして。
    いつもレビュー楽しみに拝見しています!

    わたしもルイ死なないかも‥と思いました。

    ハトが息も絶え絶えに呼吸し続けてましたよね。
    ルイ、このまま切迫感や罪悪感を抱えながら
    生きていくんじゃないかと。
    ネタバレコメントだったらすみません。
    削除してくださいませ。

    あと、突然失礼いたしました。

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      YUKiさん、コメントありがとうございます!

      賛同していただいて恐縮です。ネタバレですけど構わずいっちゃいましょう(笑)。ルイは家族に対する甘い幻想を抱えて帰郷したわけですけど、その甘えは見事なまでに粉々に打ち砕かれたわけですよね。「家族なんて結局は他人だ」という厳しい現実と、自分自身の甘さと弱さを突きつけられて。でもこれによってある種の憑き物が落ちたのではないかとボクは思っております。そういう現実を受け入れて、甘えを捨てて、これからも生きていくのではなかろうかと?YUKiさんがおっしゃられるように切迫感や罪悪感、そして痛みを抱えながら。鳩時計のハトがルイを追い出しにかかったのは、「さっさとここから出て自分の人生を生きろ」という意味なのでは?瀕死のハトは身代わりでは?とかまあいろいろ考えて、「ルイは死なない」という結論を導き出したのですけど、記事本文に書きましたとおりたいした根拠足りえてませんね。でもお互い、「そう思っちまったもんはしょうがねえ」って話ですよね(笑)。

  2. ハリー より:

    ご無沙汰しております。
    いやぁー、盛大な家族喧嘩ドラマを見せてもらいました!それを、サスペンスタッチにコーティングしているところが、日本の同じ主題のドラマには出来ない技で、なかなか。
    「何も起こらないサスペンス」とは言い得て妙。
    あと、ルイは「死なない」という見方も当然できる幕切れでしたね。監督狙ってる?

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      ハリーさん、ご無沙汰しております!そしてコメントありがとうございます!

      家族と仲のいい、良好な関係を築けている方にはあんまりズシッと響いてこないかもしれませんけど、ボクのように家族ですら一歩距離を置いていたり、溝があったりする人間には、この家族が共有する時間の胃が痛くなるような緊張感にはなかなかたまらないものがありましたね。ホント、何も起こらないのにサスペンスなのです。ルイの未来についてはあまり同意見は聞こえてこないのですけど、やっぱり「死なない」という未来もありそうな気がします。そういう結論を出していない、放棄したような感じに見えましたもんね。

  3. なんぽ より:

    ルイは一生家族と会うことがないように思えます、、、、

    • なんぽさん、コメントありがとうございます!

      ボクはなんかルイが死なないように思ったんですけど、あれが家族との最後の時間だったことには同意します。でもね、会おうが会うまいが家族は家族なんですよねぇ……。