覗きとはアートである。本のすき間から覗き。カメラ越しに覗き。街中で覗き。戦場でも覗く。戦争と覗きがイコールで結ばれたとき、彼の「ピープ・アート」はメディアを、アメリカを、戦争を覗き見る。
作品情報
『ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン/BLUE MANHATAN II・黄昏のニューヨーク』
Greetings
- 1968年/アメリカ/88分
- 監督:ブライアン・デ・パルマ
- 脚本:チャールズ・ハーシュ/ブライアン・デ・パルマ
- 撮影:ロバート・フィオレ
- 音楽:スティーヴン・ソール/エリック・カズ/アーティ・トラウム
- 出演:ロバート・デ・ニーロ/ゲリット・グレアム/ジョナサン・ウォーデン
参考 ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン/BLUE MANHATAN2・黄昏のニューヨーク – Wikipedia
解説
若き日のデ・パルマとデ・ニーロがゴダール&ヒッチコックごっこに興じる青春コメディ映画です。
監督は『悪魔のシスター』『ボディ・ダブル』のブライアン・デ・パルマ。彼にとっての長編第3作目にあたり、単館上映ながらロングランヒットを記録し、ベルリン国際映画祭での銀熊賞受賞など、初めての成功を収めた記念すべき作品と言えるでしょうね。
主演は続編である『哀愁の摩天楼』、そしてのちの大ヒット作『アンタッチャブル』でもコンビを組んだロバート・デ・ニーロ。共演に『ファントム・オブ・パラダイス』でビーフを演じたゲリット・グレアム。
ちなみにDVD版でのタイトルは『青春のマンハッタン』となっております。
あらすじ
1960年代後半のアメリカ。ベトナムへの徴兵逃れを画策するポール(ジョナサン・ウォーデン)は、友人のロイド(ゲリット・グレアム)とジョン(ロバート・デ・ニーロ)に相談。ふたりが考える奇抜なアイデアを実践しながら、しばし現実を忘れてハシャぎ回る3人。
ケネディ暗殺に異常な関心を寄せるロイド。コンピュータデートにのめり込むポール。覗き趣味に並々ならぬ執念を燃やすジョン。それぞれの青春を謳歌しているように見える3人だったが……。
感想と評価/ネタバレ有
デ・パルマニアを標榜しておきながら実は未見であったこの長々しいタイトルの映画。『ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン/BLUE MANHATAN I・哀愁の摩天楼』という似たようなタイトルの映画もありますが、実は続編です。
正式な第1作のほうが邦題では2とされており、続編が1になっている理由は定かではありません。『アンタッチャブル』の公開にあわせてここ日本では初めてビデオリリースされたということで、おそらく販売元もよくわかっていなかったのではないでしょうか。
試されるファンとしての覚悟
ほんでまあニューヨーク時代のデ・パルマはいったいどんな映画を撮っていたのか?君に興味津々、だけど聞けずに悶々、ってな感じでドキドキワクワク、テレビの前に正座した次第なのではありますが、ボクの脳裏に浮かんだのは「苦痛」の2文字でした。
何が苦痛だって、寒さとくどさですよね。カメラは基本フィックス。のちの長回しの萌芽は見受けられるものの、動きがないので無駄に長く感じてしまう。しかもそこで繰り広げられているのはウダウダ会話劇で、これがまた面白くないのよ。
寒くてくどい。こりゃ苦痛だな。きついな。ファンとしての覚悟。覚悟が問われているのだなこの映画は!む~んなんたる試練!耐えられるか?耐えられるのかお前!?
デ・パルマ的私映画
なんて千辛万苦しておったものの、まったくの無問題でした。3人集まってバカなことをしているあいだは退屈きわまりなかったのですけど、個々に分かれて勝手な趣味に耽溺し出したあたりから格段に面白くなってくるのです。
偏執的なまでにケネディ暗殺の真相にこだわるロイド。現実逃避の果てにコンピュータでの恋人探しに没頭するポール。そして自身の覗き趣味を極めんと覗いて覗いて覗き倒すジョン。
三者三様に変態です。しかしそのすべてがデ・パルマ自身だともいえる。徴兵逃れという自身の体験をもとに、偏執的、オタク的、変態的な気質を登場人物に仮託する。要するにかなりプライベートな作品というわけですな。私映画みたいなもんか?
デ・パルマという変態嫌戦映画オタク
ケネディ暗殺に執拗にこだわるロイドの姿は完全に常軌を逸しており、その執着心は滑稽な狂気を映し出しております。この元ネタはあきらかにミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』でしょう。デ・パルマはのちに傑作『ミッドナイトクロス』でもこれを繰り返しておりますから。
コンピュータを介して女性とつながろうとするポールのオタク的アプローチもデ・パルマ自身です。彼の動機は徴兵逃れからの現実逃避ですが、その裏側には当時のアメリカの性的、文化的な激動がうかがえます。当時をよく知らないのであくまでうかがえるだけですが。
そしてデ・ニーロ演じるジョーの覗き映画への暗い情熱は、「女性を覗き見る」という行為に対するデ・パルマ自身の逃れられない宿命、そしてヒッチコックへの果てしない愛情が感じられてほっこりしてしまいますよね。これ以降もデ・パルマが作り続ける映画はまさに「ピープ・アート」そのものなのですから!
覗きこそ我が人生!
ベトナム戦争を背景に、当時のアメリカを席巻していたカルチャー、自身の変態気質、反戦的スタンス、そして映画への愛を、コミカルさを土台につなぎ合わせていったなかなかの佳作で、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞したのも、意外と政治的な内容ゆえでしょうね。
しかしそういう隠れた政治的メッセージやテーマよりも、やはり強烈に漂ってくるのはデ・パルマの映画に対する熱烈な愛情表現、ラブコールであります。
ヒッチコックはもとより、ミケランジェロ・アントニオーニ、サイレント、ゴダールをはじめとしたヌーヴェルヴァーグ。いま観ると表現は稚拙ではありますが、やはりこの頃から自分の愛する映画の引用であふれ返っておるのですよね。そらもう鬱陶しいぐらいに。
でもこれがデ・パルマなんです。引用を出発点としながらそれを見事に自分の映画へと落とし込んでいく。つまり映画とはカメラを通して世界(女?)を覗くということ。ベトナムにおいても性懲りもなくやらせの覗きに興じるデ・ニーロの姿は、アメリカの終わりを描くと同時に自己言及的でもあります。
覗きを主題として戦争とアメリカと映画と自分とをつなげる。やはりこの頃からデ・パルマはデ・パルマだ!癖が強すぎておすすめしがたい映画ではありますが、サスペンスへと転向する前の実験的ヌーヴェルヴァーグ的作風は一見の価値がありますよ。機会があったらぜひ!
個人的評価:6/10点
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