『刑事マディガン』感想とイラスト 白黒つけないカフェオーレ

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映画『刑事マディガン』リチャード・ウィドマークのイラスト(似顔絵)

『ダーティハリー』へとつながるドン・シーゲル渾身のポリスアクション!というのは真っ赤な嘘で、これはひとりの刑事を中心として人生の複雑さを描いた白黒つけないカフェオーレなのです。

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作品情報

『刑事マディガン』

  • 原題:Madigan
  • 製作:1967年/アメリカ/101分
  • 監督:ドナルド・シーゲル(ドン・シーゲル)
  • 原作:リチャード・ドハティ
  • 脚本:ヘンリー・シムーン/エイブラハム・ポロンスキー
  • 撮影:ラッセル・メティ
  • 音楽:ドン・コスタ
  • 出演:リチャード・ウィドマーク/ヘンリー・フォンダ/インガー・スティーヴンス/ハリー・ガーディノ/ジェームズ・ホイットモア/スーザン・クラーク

参考 刑事マディガン – Wikipedia

解説

ニューヨークを舞台に、容疑者に拳銃を奪われた刑事マディガンの必死の捜査と、彼を取り巻く周囲の人間たちとの絆、対立、葛藤、苦悩を描いたポリスアクションドラマです。

監督は『突破口!』のドン・シーゲル。主演は『合衆国最後の日』のリチャード・ウィドマーク。共演には『ウエスタン』のヘンリー・フォンダ、『奴らを高く吊るせ!』のインガー・スティーヴンス、『ダーティハリー』のハリー・ガーディノ、『ショーシャンクの空に』のジェームズ・ホイットモア、『地球爆破作戦』のスーザン・クラークなど。

本作公開後の1972年に、ウィドマーク演じるマディガンのみを拝借するかたちでテレビドラマ化された『鬼刑事マディガン』という作品も存在します。が、この映画版とはまったくもって縁もゆかりもなく、本当にただ主人公を拝借しただけですのでご注意を。

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感想と評価/ネタバレ多少

前回紹介した『殺人者たち』に続くドン・シーゲル1967年の監督作。のちの『マンハッタン無宿』『ダーティハリー』へとつながるドン・シーゲル渾身のポリスアクションということで、これまた未見でしたが調子に乗ってホイホイ財布の紐を引きちぎってしまいました。

しかし鑑賞後の率直な感想としては、『マンハッタン無宿』から『ダーティハリー』へとつながる系譜とはちと違うだろ?って印象です。ポリスアクションというよりかは警察群像ドラマといったおもむきで、期待していたものとはちょいと異なる映画を見せられたかな?

人生のグレーゾーン

物語はニューヨーク市警の刑事マディガンと相棒のロコが、殺人容疑のかけられたギャング、ベネッシュの摘発へと赴いた折、お取込み中だった22歳の魔女的眉毛嬢ロジータのパイオツに気を取られている隙に拳銃を奪われて逃走されるという大失態から始まります。

本部長から72時間の猶予を得たふたりが、奪われた拳銃を取り戻すために決死の大追跡を開始するという流れなら『ダーティハリー』の系譜と言っても差し支えないでしょう。しかしこの事件は本作のきっかけに過ぎず、それとは関係無関係に描出されるマディガンを中心とした群像ドラマこそが本作の眼目。

ゆえにハード路線ではなくどちらかと言えばゆるめな人情ドラマ的側面のほうが強い。現場主義で昇進には見向きもしないマディガンと月並みな幸せを求める奥方との溝。厳格なラッセル本部長が抱える親友の汚職疑惑と人妻との不倫関係。対照的なふたりが抱えるさまざまな人生の問題。

『刑事マディガン』とはこのふたりの生き方を通して、人生とは白か黒かの二者択一ではなく極めてグレーに出来上がっており、白と黒とが混ぜ合わさったグレーの渦のなかで最良だと思える選択をしていくことこそが人間的誠実さなのだと描いているように思えます。

そういう人間の多面性、複雑さを理解したうえで、刑事としての、自分としての生き方を貫き通したのがマディガンであり、今回の事件を通してその複雑さの一片を知って自らの人生に少しの変化をもたらしたのがラッセル本部長。ひとりは死んでひとりは生き返った。

苦く悲しいラストではありますが、そういう残酷な現実の上で成立する希望の萌芽を描いている視点はドン・シーゲルらしく、けっして単純ではない人生の複雑さを描いた群像劇としてなかなか見ごたえがあったと思います。

ほかが面白すぎるのだ

が、しかし、やっぱりこの手の感傷はシーゲルには似合わないんだよなぁ。視点としてはウエットよりもシニカル、ドライに近いのだけど、中途半端な群像劇スタイルによっていつものタイトさやシャープさが損なわれていてやや散漫なのである。

拳銃強奪事件と汚職疑惑がまったくリンクしないのも気持ちが悪いし、72時間という時間制限がまったく効果を発揮していないのも考えもので、刑事アクションとしてのキレと緊張感には大きく欠けるのだ。つまりは群像劇としても刑事アクションとしても中途半端などっちつかず状態。

まあこの失敗を糧として例のあのお方と出会い、『マンハッタン無宿』そして『ダーティハリー』へと大きく飛翔したと思えば感慨もひとしおですが、『刑事マディガン』単体で考えるとドン・シーゲルのなかでは失敗作でしょうね。なんせほかが面白すぎますから。

個人的評価:5/10点

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傑作刑事アクション映画の感想はこちら

コメント

  1. 赤間俊秀 より:

    イラストが面白いから、このサイトを訪れたのですが。
    ドン・シーゲルというアクション映画の巨匠の、まだ一流になる前の映画
    「刑事マディガン」という、
    どちらかというと地味な映画を、ここまで長所と足りない点を的確に批評しているのは、このサイトが一番でした。勉強になりました。