バビロンに巣食う有象無象の怪物たち。死者がよみがえり、生者が黄泉をさまよい出す。汝らを救うてやろうぞ。その名は変態の神、デヴィッド・クローネンバーグ!
作品情報
マップ・トゥ・ザ・スターズ
- 原題:Maps to the Stars
- 製作:2014年/カナダ、アメリカ、ドイツ、フランス/112分/R15+
- 監督:デヴィッド・クローネンバーグ
- 脚本:ブルース・ワグナー
- 撮影:ピーター・サシツキー
- 音楽:ハワード・ショア
- 出演:ジュリアン・ムーア/ミア・ワシコウスカ/ジョン・キューザック/オリヴィア・ウィリアムズ/エヴァン・バード/ロバート・パティンソン/サラ・ガドン
予告編動画
解説
変態ハリウッドセレブ一家の呪われた血脈を描いた、ホラーというかサスペンスというかブラックコメディというか、まあ一種の風刺ドラマです。
監督は変態の神様である『ヴィデオドローム』のデヴィッド・クローネンバーグ。本作はフランスの映画批評誌「カイエ・ディ・シネマ」が選出した2014年度の映画ベストテンにおいて、見事に第4位に輝きました。恐ろしい話ですね。
出演陣は『キングスマン:ゴールデン・サークル』のジュリアン・ムーアを筆頭に、『クリムゾン・ピーク』のミア・ワシコウスカ、『真夜中のサバナ』のジョン・キューザック、『ゴーストライター』のオリヴィア・ウィリアムズ、『シークレット・オブ・モンスター』のロバート・パティンソン、『複製された男』のサラ・ガドンなど。
あらすじ
ハリウッドのセレブ一家、ワイス家。著名なセラピストである父のスタッフォード(ジョン・キューザック)に、子役スターの息子ベンジー(エヴァン・バード)と、彼のマネージャーを務める母のクリスティーナ(オリヴィア・ウィリアムズ)。
一見すると幸福そのものの成功者にしか見えない彼らだったが、その裏側にはさまざまな問題や危機感を抱えており、内実は爆発寸前でもあった。
そんなある日、スタッフォードの患者である落ち目の女優ハヴァナ(ジュリアン・ムーア)が、顔に火傷の痕がある少女アガサ(ミア・ワシコウスカ)を個人秘書に雇ったことにより、彼らの人生の歯車は大きく狂い出してしまうのだった……。
感想と評価/ネタバレ多少
意外なことに、アメリカ、そしてハリウッドでの初めての撮影となる、クローネンバーグ師匠71歳の初体験映画です。
過去の大傑作と肩を並べるほどの仕上がりではないものの、いやはや相も変わらず邪悪で、グロテスクで、難解で、変態な映画でありましたな。つまりはいつもどおり最高だったということです!
クローネンバーグ流おとぎ話
実際にハリウッドでリムジンの運転手をしていた脚本家による、ハリウッド内幕ものという触れ込みでした。『サンセット大通り』?『マルホランド・ドライブ』?『ザ・プレイヤー』?いやいや、どれとも違います。
やはりこれはクローネンバーグの映画としか言いようがありませんね。しかも、ハリウッド内幕ものというよりかは、もっと普遍的な人間のグロテスクさ、業を描いているような気がいたします。
いわゆるセレブと呼ばれる連中の、醜悪で軽薄で滑稽な実態を、近そうで大きく離れた立場から徹底的にこき下ろしているわけですけど、最終的な到達点はひとつの家族にまつわる呪われた血筋であり、呪縛です。
この裏にあるのは実は神話でして、決着のつけ方はどこか寓話的でもあります。怪物と化した人間たちの破滅と救済を、クローネンバーグ流のおとぎ話として描いていたのでしょうかね?
クローネンバーグ流ハッピーエンド
しかし、今回あらためてDVDで観直してみたのですけど、やっぱり難解で「よくわからない」としか言いようがないような気もいたします。このポンコツ脳髄でわからないなりに頭をひねった結論を無理から出してみますと、「表と裏の境界の崩壊」だったのかな?
虚像と実像。秘密と真実。生者と死者。そして火と水。相反するふたつのあいだの境界が曖昧になり、何が表で、何が裏だったのかわからなくなる。その混沌の末に訪れる彼らの変容は、怪物と化した人間の究極の救済劇。それぞれの呪縛からの解放。
なるほど、これはいつもどおりバッドエンドに見せかけたハッピーエンドであったのか。あくまでクローネンバーグの脳内における話ですけどね。毎度のことながら多数の賛同は得られんでしょうが、ボクはこの救済を絶対的に支持いたします!
日常的異常描写
呪われた血脈に縛られた怪物たちに訪れる終わりという名の救済劇。以前のような直接的グロテスクさがやや鳴りを潜めたぶん、内にこもった嫌らしさがどんどん増幅されているのも、薄気味悪くて我々クローネンバーグ信者にはたまりません。
虚飾の裏の焦燥。内なる狂気。傷痕。そこにいるはずのないモノ。いてはいけないモノ。それらを乾いたセンスでさも当然なことのように描いているのが、とにかく不気味で恐怖で滑稽なのです。
異常を異常として描かない居心地の悪さとでも申しましょうか。年とってさらに底意地が悪くなったような気がしますね。もちろん褒め言葉ですけど。
ジュリアン・ムーアに拍手!
年増ハリウッド女優のえげつないあがきを体現したジュリアン・ムーア。徹底的にうさん臭いジョン・キューザック。美しすぎる亡霊のサラ・ガドン。異形の子役としての危なっかしさが半端ないエヴァン・バード。地味な危険性をはらんだエキセントリック少女のミア・ワシコウスカ。
出演陣もクローネンバーグの演出にこたえて見事な怪演を披露してくれておりました。とりわけ念願の役を獲得できると判明したときに見せた、ジュリアン・ムーアの邪悪な純真さがたまりませんよね。吐き気をもよおすほどの醜悪さと少女のような無邪気さに度肝を抜かれます。
難点としては、登場人物が多いこともあってやや散漫だったということでしょうか。ロバート・パティンソンの立ち位置なんていまいち不明なのですけど、実は彼だけがただの凡人なんですよね。はてさて、怪物たちの世界を覗き見た彼がこの先どのような変質を遂げるのか?こうご期待!
個人的評価:7/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
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コメント
クローネンバーグって、変態の神様なのですか?(笑)
あんまりこの人の作品って観ていないんですが、かなり好みが分かれることは間違いないと思います。
人には勧められませんね。
ロバート・パティンソンの役は立ち位置不明どころか、存在感がなさすぎでした。
りおさん、コメントありがとうございます!
まあ「変態の神様」という肩書はボクが勝手に言っているだけですけどね(笑)
でも世界に名だたるインテリ変態の代表格だとは思います。
いちどハマったら抜けられない監督なんですよね~。
もはやボクは脱出不可能になっております(笑)
こんにちわ!
いやはや、色々な見方が出来ると思いますが、私にはとてもキリスト教的な寓話に見えましたね。
現代のソドムとゴモラよろしくハリウッドを舞台に、近親相姦にまつわる罪と罰。話の中にちらつく、「火」のイメージ。ソドムとゴモラは硫黄に焼かれるんですよね。
やっぱりこれってハッピーエンドな気がしてきました。
ハリーさんコメントありがとうございます!
神話であり寓話である。ハリーさんのおっしゃるとおりだと思います。淫らな行為にふけって罪を犯したバビロンの怪物たちは、神の光によって裁きを受けましたが、それは同時に救いでもある。ボクはこの作品を劇場鑑賞時から一貫してハッピーエンドだとほざいてきましたが、数少ない賛同者がいて「ホッ」としております。普通に観たらただの悲劇でしかありませんからね(笑)。
お盆休みに、TSUTAYAで借りて見たい、と思いました。
前作「コズモポリス」が、個人的に最高傑作だと感じているため、
今作も期待しています。クローネンバーグ作品は、小学生の頃からファンです。
このブログを読んで、「変態・万歳!」と叫びたくなりました。
彼からは、他の映画作家にはない、素晴らしい高揚感をもらいます。
スパイクロッドさんを応援しています!
権矢さん、コメントありがとうございます!
小学生の頃からクローネンバーグのファンとはもう生粋のド変態ですね!いや~素晴らしい!この『マップ・トゥ・ザ・スターズ』がお盆にふさわしい映画かどうかは微妙なところですが、面白いことには太鼓判を押せますよ。あ!ご先祖さまも帰ってらっしゃいますから意外とお盆向きかもしれません!しかも超絶美しいご先祖さま!これだけでも眼福確実だと思います!ボクも『コズモポリス』は大好きな映画でありまして、これも近いうちにレビューしたいと思っております。っていうか師匠の映画はすべておすすめですので、早いとこ前作レビューを完遂したいと思っておるところであります!
あ、応援しごく恐縮であります!