愚直に職務を全うして人命を救いながらも、キモデブ子供部屋おじさんゆえに英雄から容疑者へと転落した男リチャード・ジュエル。これは誰にも起こりえる事件であり、誰もが起こしえる事件なのかもしれませんよ。
作品情報
リチャード・ジュエル
- 原題:Richard Jewell
- 製作:2019年/アメリカ/131分
- 監督:クリント・イーストウッド
- 原作:マリー・ブレナー
- 脚本:ビリー・レイ
- 撮影:イヴ・ベランジェ
- 音楽:アルトゥロ・サンドヴァル
- 出演:ポール・ウォルター・ハウザー/サム・ロックウェル/キャシー・ベイツ/ジョン・ハム/オリヴィア・ワイルド
参考 リチャード・ジュエル (映画) – Wikipedia
予告編動画
解説
1996年のアトランタオリンピックで発生した爆弾テロ。その第一発見者として英雄扱いされながら、のちにFBIやマスコミから容疑者として仕立て上げられたデブでミリオタの最底辺子供部屋おじさん、リチャード・ジュエルの苦難と闘いを描いた実話系サスペンスドラマです。
監督は『運び屋』のクリント・イーストウッド。御年89歳にして毎年のように新作を発表する生ける伝説で、本作はそんな彼が近年憑かれたように撮り続けている実話映画化作品に連なる一作。題材となったのは英雄から一転して容疑者にされてしまった実在の警備員リチャード・ジュエル。
そんな不運なデブを演じるのは『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のポール・ウォルター・ハウザー。共演には『スリー・ビルボード』のサム・ロックウェル、『ミザリー』のキャシー・ベイツ、『ベイビー・ドライバー』のジョン・ハム、『ラザロ・エフェクト』のオリヴィア・ワイルドなど。
あらすじ
1996年、オリンピック開催中のアトランタ。警備員のリチャード・ジュエルは、音楽イベント開催中のセンテニアル公園で爆弾の入ったリュックを発見し、観客の迅速な避難を促したことによって被害を最小限に抑え、一時的に国家の英雄のような扱いを受ける。
しかしFBIが第一発見者であるリチャードに疑いを向け始め、その情報を嗅ぎつけた地元紙による報道によって彼の状況は一変。英雄から容疑者として嫌疑と非難の目を向けられることになった彼は、旧知の弁護士ワトソンに助けを求めるのだったが……。
感想と評価/ネタバレ無
御大クリント・イーストウッドの実話映画化シリーズ最新作。ご本人登場による奇怪な再現VTRとして運命の一瞬へと収斂した『15時17分、パリ行き』(2017)と、御大自ら久々の主演を果たして実話と自分と虚構とをミクスチャした『運び屋』(2018)。
この2作によって実話映画化シリーズはいちおうの完成形を見たと個人的には判断しておりましたので、正直なところ本作にはあまり関心がありませんでした。公開日すら忘れていた始末。「え?あっ!もうやってたの!?」ってことでいそいそとマイカー(チャリ)で出かけた次第。
久々の映画館は緊張します。おしっこ漏れそうです。尿漏れの危機と対峙しながら臨む2020年最初の映画鑑賞『リチャード・ジュエル』。何度も「ジュエル」を「ジョエル」と打ち間違えて修正しているのはきっとボクがストレンジャーなピアノ・マンだから。オ~ネスティ~♪
ポリコレからこぼれた男
相も変わらずちゃんとした映画レビューが書けないので適当に字数を稼いでいます。親と同居している最底辺労働者は何かと稼がんとならんのです。容姿はいかついスキンヘッド。不純で不快に不謹慎な創作物を好み、反体制を気取り、革命を夢み、時折闇夜に奇声を上げる頭部粉砕釘バット。
ボクの近辺で何やら怪しい事件が発生したら真っ先にボクが疑われることでしょう。『リチャード・ジュエル』とはつまりそういう映画です。社会の規格から落第した欠陥ポンコツ品を犯罪予備軍、不穏分子ととらえ、寄ってたかってタコ殴りにするストレス発散リンチ映画です。
リチャード・ジュエルとはまさにタコ殴りしやすい格好の標的でした。醜いデブで、銃器を愛するミリオタで、制服や肩書きに憧れながら定職には就けず、高齢の母親と同居する子供部屋おじさんで、融通の利かない正義感だけを振りかざす欠陥ポンコツ品。
そんなポンコツが律義に職務を全うしたことによって多くの人命を救い、一時的に英雄視されるものの、規格から外れた欠陥を嫌う標準的社会から犯罪者として糾弾される、イーストウッド流の逆ポリコレ映画。要するに現在のハリウッドの潮流に喧嘩を売っているわけですね。
ジュエルはまさに下層白人の象徴であり、それは容易にトランプ支持層と結びつけられ、ヘイト予備軍として現在のポリコレ庇護下にはいないものの、彼もまた別のヘイト被害者になりうる可能性が常に存在する。つまりは世の中そう単純じゃーねぇよって話。
右も左も、上流も中流も下流も、男も女も、大人も子供も、自己の安定、安寧を図るために常に犠牲者を探しているもの。その標的にされる可能性は誰にだってある。この映画を観て「酷い!怖い!許せない!」とは誰だって思えるが、現実の自分に立ち返ってそれに加担しない自信はあるのか?って話。
正直ボクにはないですよ。世論に、印象に、差別に踊らされる可能性は人並み以上に持ち合わせたボンクラです。だからこそ権力や、情報や、印象に左右されない確固たる自分の確立が必要なのですが、イーストウッドが求める理想とはイーストウッドだからこそ体現できているのですよね。
そんなイーストウッドの反権力志向(あえてのメディアも含む)と、それに依らない確固たる自分の確立(リバタリアニズム?)という理想を託されたのが、本作の主人公リチャード・ジュエル。およそヒーロー足りえないポンコツの精神的成長をテーマとした本作『リチャード・ジュエル』。
正直、過去の実話映画化作品における傑作群と比較すると一枚は落ちる、何やら淡白すぎるこなれた仕上がりではありますが、イーストウッド流のブラックコメディとしては相当面白いかもしれません。ええ、実はこれってブラックコメディなのよ(個人的意見)。
そういうもんとして気楽に観たら、このこなれた淡白さもちょうどいい塩梅かもしれません。『愛のそよ風』『ファイヤーフォックス』『ルーキー』『トゥルー・クライム』。長いキャリアのなかで箸休め的な一品を盛り込んでくるのもまたイーストウッド。傑作ばかりでもつまらんのです。
個人的評価:6/10点
コメント
更新ありがとうございます。
リチャード・ジュエルはまだ見てないのですが今結構面白い映画多いですよね
フォードVSフェラーリおジョジョラビットは見ましたが良かったです。
また見る機会ありましたら感想よろしくおねがいします。
通りすがりさん、コメントありがとうございます!
『フォードVSフェラーリ』も『ジョジョ・ラビット』も観たいのですが、なかなか時間が取れないんですよね。観たら必ず感想を書きますのでまた覗きに来てやってください!