『沈黙 -サイレンス-』感想とイラスト 神は意外と黙らない

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映画『沈黙 -サイレンス-』塚本晋也のイラスト(似顔絵)
「信じる者は救われる」って、誰が救ってくれるって言うんだい?神かい?違うね。人を救えるのは人だよ。神は黙ってそれを見ているだけ。だからこそ神は尊いのだよ……。

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作品情報

『沈黙 -サイレンス-』
Silence

  • 2016年/アメリカ/162分/PG12
  • 監督:マーティン・スコセッシ
  • 原作:遠藤周作
  • 脚本:ジェイ・コックス/マーティン・スコセッシ
  • 撮影:ロドリゴ・プリエト
  • 音楽:キム・アレン・クルーゲ/キャスリン・クルーゲ
  • 出演:アンドリュー・ガーフィールド/アダム・ドライヴァー/窪塚洋介/イッセー尾形/浅野忠信/塚本晋也/リーアム・ニーソン

参考 沈黙 -サイレンス- – Wikipedia

予告編動画

解説

神の沈黙は静寂を起こし、黙して語らず内なる神を呼び覚ますという歴史ドラマです。原作は戦後日本文学の代表作として高く評価される遠藤周作の『沈黙』。

監督はこの原作の映画化を熱望し、28年の時を経てついに完成へとこぎつけた『タクシードライバー』のマーティン・スコセッシ。主演は『ハクソー・リッジ』のアンドリュー・ガーフィールド。

共演には『ハングリー・ハーツ』のアダム・ドライヴァー、『誘拐の掟』のリーアム・ニーソンなど。日本人キャストとして窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、加瀬亮など多数が参加しております。

あらすじ

17世紀、江戸時代初期。イエズス会の宣教師として日本へと渡ったフェレイラ神父(リーアム・ニーソン)が棄教したという噂がローマへと届く。彼の弟子であったロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)は噂を信じられず、真相を確かめるべく日本行きを決意。

同行するのはフェレイラのもとで共に学んだガルペ(アダム・ドライヴァー)と、マカオで出会った日本人キチジロー(窪塚洋介)。キリシタンであったキチジローの手引きで日本へとたどり着いたふたりの神父は、長崎の隠れキリシタン集落“トモギ村”へと潜入する。

長崎奉行、井上筑後守(イッセー尾形)の厳しい弾圧に耐えながら、なおも信仰を捨てようとしない村人たちと心を通わせ、キリスト教の布教、そしてフェレイラ神父の消息を探るふたりだったが、やがて彼らの存在は井上筑後守の知るところとなり……。

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感想と評価/ネタバレ有

人間としてのイエス・キリストに迫った『最後の誘惑』がキリスト教関連団体からの集中砲火を浴びたマーティン・スコセッシ。もともと気の弱いお方なのでさぞかし落ち込んだことでしょう。そんなときに出会ったのがこの映画の原作である遠藤周作の『沈黙』。

そんな運命的出会いからかれこれもう28年。時に「撮る撮る詐欺だ!」と叩かれながらも、ついにこうして日の目を見たわけであります。長年の想いが結実したスコセッシ渾身の宗教ドラマ。それでは原作未読の無知な阿呆による『沈黙 -サイレンス-』の感想をどうぞ。

わかりやすいけど重くて深い

上にも書きましたとおり、遠藤周作の原作は未読ですし、篠田正浩による最初の映画化作品も未見です。んなわけで阿呆の特権としてまっさらな気持ちでこの映画を観てまいりました。ついでに空気を読まない阿呆ですので、けっこうなネタバレだらけになるのもご容赦ください。

物語は、尊敬する師匠が日本で棄教(圧力から信仰を棄てること)したと聞きつけ、「ホンマかいな!?」と日本にやって来たふたりのパードレ(神父)が、日本におけるキリスト教の実態を見せつけられ、詰めに詰め寄られて最後に自身も棄教するというもの。

空気を読まないさっそくのネタバレですが、わかりきった物語のなかで何を語るのか?何を見せるのか?という映画だと勝手に思っておりますので、勝手にネタバレ三昧しちゃいますよ。というわけで物語としては容易に先が読めるベタなものだったこの映画。

なんでもかんでもきっちり見せて説明してくれるいつものスコセッシ演出も相まって、予想以上にわかりやすい映画でありました。しかしそのわかりやすさのなかで描かれているテーマは重くて深い。無知な阿呆がはたしてこの重くて深いテーマを語れるのであろうか?

信仰と現実

この映画で描かれていたテーマとはつまり、「真の信仰のあり方」みたいなものだと思われます。不信心きわりないボクなんかにとっては思わず腰が引けてしまう深遠なるテーマでありますが、信仰心と現実の残酷さとはスコセッシにとって切っても切り離せない永遠のテーマ。

この『沈黙 -サイレンス-』では主に4パターンの信仰のあり方が提示されております。正規の教えのもとに布教活動を試みるパードレ。なかば異教と化した教えを救いとしてすがる農民。教えに対する裏切りと赦しを繰り返すキチジロー。そして棄教したとおぼしき奉行たち。

現実の不寛容さのなかで形成された4つの信仰のかたち。おそらくは元キリシタンだと思われる井上筑後守や通辞は、現実を生きるために宗教を棄てたのでしょう。そんな彼らによってもたらされたキリシタンたちの受難。神を信じるがあまり彼らに科せられる狂気の弾圧。

井上筑後守が劇中でも語っているとおり、農民たちは元のかたちからは大きく逸脱したキリスト教らしきものを信仰しているわけであり、この矛盾はロドリゴらパードレをおおいに苦しめる要因となります。ゆがんだ信仰のもと、現実から弾圧され、神の名のもとに死んでいく。

彼らに与え、それがゆがんだかたちで伝播してゆき、その信仰を理由にかけがえのない命が奪われていく。救いを与えるはずの宗教が彼らを、そして自分自身を苦しめる結果を生むという矛盾した現実。パードレとして守るべきものと、人間として守りたいもの。

そんな宗教と現実のはざまでもがき苦しむパードレ、農民たちを尻目に、最も無自覚に、自分に正直に、信仰のあるべきかたちを体現していたのがほかならぬキチジローだったのではないでしょうか。

キチジローに投影された信心

イタリア系移民の家に生まれ、マフィアが牛耳る移民社会における暴力の現実を目の当たりにしながら、一時はカトリックの司祭を目指していたスコセッシ。そして、カトリックの家に生まれ自身も信者でありながら、最後までカトリックに馴染めなかったと言われる遠藤周作。

ふたりが自分を投影した人物こそがキチジローなのだと思われます。突きつけられる現実の重さの前に、幾度もかたちだけは信仰を棄て去るポーズを続けながら、自身の内に存在する信心だけは最後まで失わない。いや、失えない、棄て去ることができないと言うべきか。

キチジローがユダ的狂言回しとしての存在を割り当てられているのは明白で、彼の裏切りと赦しのリフレインはある意味においてはコント的でもありますが、それによる主人公との対比、そして信仰の揺らぎと試練はこの映画におけるテーマを見事に表しております。

現実を生きる人間性のなかで、人はいかに神を信じ、信仰すればよいのか?人を救うべき宗教によって、信者が不幸になってもよいのか?理念と現実の残酷すぎる板挟みのなかで、主人公ロドリゴが選択した決断は最良のものであり、後ろ指をさされるようなものではありません。

現実における外側がいかなるかたちに変化、変異しようとも、自身における内側の核さえ守られていればそれは十分信仰に値する。ボクのような不信心を絵にかいたような俗物は、「それでいいじゃないか、それで十分じゃないか」と思ってしまいます。

スコセッシはもっとやれる子

唯一無二な信仰のかたちを押しつけるのではなく、現実世界における多様な信仰のあり方を肯定した映画、それがこの『沈黙 -サイレンス-』なのではないでしょうか?単純な正否、善悪を決めつけるのではなく、歴史の暴力を公平な眼差しで描いた視点もまたしかり。

人間の苦難を前にして沈黙を続ける神の存在にしても、沈黙しているからこそ、その存在が意識されるような気がいたします。沈黙しているのはただ黙っているわけではなく、意図して喋らない、あえて言葉にしないという意味合いもあるのですから。

そういう意味においては、原作どおりなのかどうかは未読なので知りませんが、ロドリゴが神の声を聞くシーンにはガッカリしてしまいました。ロドリゴの内なる声とも解釈できますが、ああいうわかりやすいかたちで救いや神の存在を提示するべきではなかったと思いますね。

言葉として、画としてわかりやすく提示してしまうスコセッシの悪い癖が、特に後半は顕著に出てしまった印象です。演出やこれまで散々語ってきたテーマにしても、それほど野心的な試みがあるわけではなく、「スコセッシとしては並の映画」というのがボクの評価です。

イッセー尾形の怪演、塚本晋也の熱演、浅野忠信の妙演、そして窪塚洋介のあまりに見事な存在感に比して、アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライヴァー、リーアム・ニーソンたち海外勢の弱さが目立ったキャスティングもあまり評価できません。

上のほうで散々語ってきたテーマにしても、宗教というものをビタイチ信じていないボクには勝手な考察は可能でも、いまいち心に響いてくるものがなかったというのが実際。「お上も形式だけでいいって言ってんだから、さっさと踏め!さっさと転べ!」ってなもんです。

というわけで、「オスカーノミネートならず!(撮影賞のみ)」も納得な、ボク的には「お前スコセッシもっとやれるだろう?」映画でした。雑談からの加瀬亮チョンパも、もっともっとケレンが欲しかったのよねぇ~。

個人的評価:5/10点

DVD&Blu-ray

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ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

VOD・動画配信

『沈黙 -サイレンス-』が定額見放題なおすすめ動画配信サービスはNetflix、(2019年1月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。

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コメント

  1. D-DAY より:

    こんにちは。自分も原作未読なので何とも言えないんですが
    日本俳優陣のキャラが立ちすぎて、パードレ側に感情移入出来ずに
    最後まで乗り切れなかったというか、乗せてくれなかったというか…
    まぁ、自分が日本人であるってのもデカいんですけど。

    八百万の神々ので、キリスト教は無理っすよとしか。

    日本人のメンタリティを表現しきれていたと思えず
    単にキリスト教を弾圧した酷い国だと、海外の方の目に
    映りはしないかと心配になってしまいました。

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      D-DAYさん、コメントありがとうございます!

      窪塚洋介、イッセー尾形、浅野忠信、塚本晋也、それ以外の方々も含めて本当に日本人俳優の頑張りは素晴らしかったですよね!ちょこっとしか出てませんでしたけど片桐はいりさんなんかめちゃくちゃ上手かった!同じ日本人としてどうしても彼らのほうに肩入れしてしまうという部分もありますが、それを差し引いてもパードレ側に感情移入できなかったというのは理解できます。結局のところ日本人のほとんどが一神教としての宗教を信じておりませんからね。イッセー尾形演じる奉行の言葉にもあったように、やはり日本の国柄には合わんのだと思います。

      確かにキリシタンたちに対する拷問を含めた弾圧は凄惨なものでしたが、それは日本という国を運営していくうえでやむを得ない当時の政治方針であるということも併せて描いてくれておりましたので、それほど日本バッシングは気にしなくてもよいのではないかと思います。それにキリスト教、宣教師というものが他国の価値観、文化にいかに介入し、そしてそれがやがて侵略の布石となったという暴力的強制性もニュアンスとしてはありましたので、そういう点ではけっこう平等な、公平な視点で描かれていた映画ではなかったでしょうか。まあそれでも響かんもんは響かんのですけどね。