『ドント・ブリーズ』感想とイラスト 神様なんて悪い冗談さ

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映画『ドント・ブリーズ』スティーヴン・ラングのイラスト(似顔絵)
チンピラ強盗団になけなしの隠し金を狙われてしまった盲目の退役老人。危ない!逃げておじいさん!………って前言撤回!逃げろチンピラ!このじじい最強なうえに変態と来たもんだっ!

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作品情報

『ドント・ブリーズ』
Don’t Breathe

  • 2016年/アメリカ/88分/PG12
  • 監督:フェデ・アルバレス
  • 脚本:フェデ・アルバレス/ロド・サヤゲス
  • 撮影:ペドロ・ルケ
  • 音楽:ロケ・バニョス
  • 出演:スティーヴン・ラング/ジェーン・レヴィ/ディラン・ミネット/ダニエル・ソヴァット

参考 ドント・ブリーズ – Wikipedia

予告編動画

解説

不況にあえぐデトロイト。この貧困生活から脱出しようと、大金を隠し持っている盲目の老人宅へと盗みに入った若者3人が、舐めていた相手からの思わぬ反撃で窮地に陥る姿を描いたスリラー映画です。

監督は『蜘蛛の巣を払う女』のフェデ・アルバレス。主演は『アバター』のスティーヴン・ラング。共演には『この世に私の居場所なんてない』のジェーン・レヴィ、『プリズナーズ』のディラン・ミネット、『イット・フォローズ』のダニエル・ソヴァットなど。

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感想と評価/ネタバレ有

できれば劇場に足を運びたかったのに諸事情で運べなかった『ドント・ブリーズ』。「こりゃ映画館で観たらもっと楽しかっただろうなぁ」とひどく後悔いたしました。大きなスクリーン、優秀な音響、逃げ場のない暗闇のなかで観たらもっと股間がキュンキュンなったはずなのに。まあ過ぎたことは仕方がない。

まずオープニングの俯瞰映像がいいですよね。なかばゴーストタウンと化したデトロイトの住宅街。亀裂が入った道路。その真ん中で獲物をズリズリ引きずる謎の男。道路の亀裂がまるで獲物の体から流れ出たどす黒い血に思えて、冒頭からバカの好奇心をあおってきます。

舞台は経済破綻で荒廃したデトロイト。2014年の傑作ホラー『イット・フォローズ』でも舞台となっておりましたが、勝者と敗者、善と悪、生と死、この世とあの世が交錯する境界として非常に重宝する都市なのでしょうね。

うまい話にゃ裏がある

そんな閉塞感半端ない街で暮らす3人の若者。まともな職がないのか、就けないのか、就かないのかは知りませんが、彼らは現金には手をつけない軽度の空き巣を繰り返して日銭を稼いでおったわけです。そんな彼らに舞い込んできたデトロイト脱出のチャンスとなる大仕事。

交通事故で死んだ娘の賠償金30万ドルを自宅に隠し持っているとされる男の話。しかも男は高齢なうえに盲目で、こりゃもうカモがネギしょって土鍋に入って郵送されてきたってぐらいおいしい話だと、3人はよだれを垂らしながら飛びつくわけですね。「喰いてぇ!」と。

しかし彼らは「うまい話には裏がある」という日本語を知らなかったのですね。ちょろい相手と思われていた盲目の老人は退役軍人で、しかも視力を失った代わりに超人的な聴力を手に入れており、勝手知ったる彼の巣へと迷い込んだカモネギは実は彼らのほうだったのです!

息もできない恐怖

「俺たちが本当に観たかった『ホーム・アローン』」とでも言うべき、憎っくき犯罪者を問答無用に追い詰めていくブラインドマンの逆襲!『Don’t Breathe(息をするな)』というタイトルどおり、呼吸音ひとつでこちらの居場所を突き止められ、狩られてしまう恐怖。

ん?恐怖?被害者は強盗に入られた盲目じいさんのほうなのに、何ゆえ加害者に肩入れして同じ恐怖を追体験しているのだボクは?あ、でも怖い!じいさんが見えないはずの目でこっちを見てる!物音が立てれない。息もできない。見えているからこその恐怖。

通常、盲目の障害者は『暗くなるまで待って』や『見えない恐怖』のように被害者として恐怖を体験するのが決まり(?)なのですが、この『ドント・ブリーズ』ではその立場を逆転させているところが面白いですよね。障害者を恐怖の対象として描くギリギリの綱渡り。

強盗の被害者を加害者に、加害者を被害者に逆転させるという現象もまたしかりで、なんかもうどっちにも肩入れできない右往左往がボクは大好きでした。じじい頑張れ!ぶち殺せ!いやいや、さっさと逃げろお前ら!あいつはキチガイだぞ!ってもう支離滅裂な思考の混乱。

善悪の選択

どっちも被害者であり加害者でもあるという、善悪の境界がひどく曖昧なこの作品。その決定打がじいさんの自宅地下室で発見された狂気の鎖。盲目じいさんは自分の娘を轢き殺したのに無罪放免になったバカ女を拉致監禁し、あろうことか繁殖させようとしておったのです!

自分から大切な娘を奪った罪として、新たな子宝を頂戴するために。しかし、じいさんの人生を捧げた壮大なプロジェクトは愚かな強盗の闖入によって頓挫してしまいます。バカ女とともに天に召された新たな命への償いとして、今度はてめえが俺の子を孕みやがれ!

強盗三人衆の紅一点ロッキーを縛って吊るしてお股を開いて、陰毛交じりの白濁液を注入しようとするじいさん。神に祈るロッキーに対し、「神なんて悪い冗談だ」と冷たく言い放つ。娘を奪われ、司法に絶望し、神に裏切られ、善悪を超越しモンスターと化したじいさん。

これはおそらく『プリズナーズ』と同じ神への挑戦でしょう。人工授精を選択しているのもその象徴だと思われます。神への絶望から神への反逆を選択したブラインドマン。思えばこの映画は最初から善悪の選択の物語でもありました。ゆえにその境界が曖昧だったのでしょう。

良い子=アレックス、悪い子=マネー、普通の子=ロッキー。イモ欽的にわかりやすく色分けされた強盗三人衆も、強盗している時点で全員悪い子なのではありますが、常に選択の機会を迫られていたわけです。まあ欲と私情に流されて間違った選択ばかりしているのですけど。

この選択のドラマをもっと突き詰めてもよかったとは思いますが、早々とマネーが退場してしまったので致し方ありません。その後もロッキーは選択の道を誤り続けるのですが、気合と根性と人生を変えたいという強い想いによって、なんとかこの地獄を切り抜けるのですね。

続編期待!

ボク的にはじいさんの地下室の秘密が本作のハイライトだと思っておりますので、その後の展開はまあオマケのようなもんです。どうせなら地下室のくだりでバッドエンドでもよかったぐらい。だって、ロッキーが救われるべき根拠はどう考えても薄いでしょ、って話。

そういう意味ではラストのパンチがやや弱いのですよね。でも非常にシンプルな物語を、ゴアに頼らない心理的緊張と恐怖の畳みかけによって、思いのほか濃密に88分を突き抜けた良作スリラーだったと言えるでしょう。これを日本公開してくれただけでもありがたい話。

っていうかあらためて映画館で観られなかったのが悔やまれますなぁ。劇場で観ていたらもう1点ぐらいプラスになっていたかも。ああ~残念。でも続編もやる気満々の終わり方だったわけですから、次こそは絶対に映画館で観るぞ!(って出来が良い保証はないが……)

個人的評価:7/10点

DVD&Blu-ray

VOD・動画配信

『ドント・ブリーズ』が観られる動画配信サービスはU-NEXTTSUTAYA TV、。おすすめは毎月もらえるポイントで視聴可能なU-NEXT(2018年12月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。

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コメント

  1. OGAWATORY より:

    こんにちは!いつも楽しく拝読しております!!
    私は本作を劇場で鑑賞してきました。
    そしてスパイクロッドさんの仰る様に、劇場スクリーンだからこそ得られる緊迫感&緊張感と云うものがある映画でしたね。
    感想にも綴られているザーメンの件は、可なりガイキチな名シーンではないでしょうか!!?
    (隣の席にいた女性二人組みは、其のシーンがツボだったみたいです)

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      OGAWATORYさん、コメントありがとうございます!

      うらやましい!OGAWATORYさんは劇場で観たのですね。やはり映画館という特殊な環境においてこそ真価が発揮される映画というのがありますから、ボクもできれば劇場で観たかったのですけど、なんせ上映館数が少なすぎましたわ。ホラー映画はどんどんそういう状況が顕著になってきておりますね。「感動!泣ける!号泣!」のゴリ推しもよいのですが、たまにはこういうガイキチ映画も大々的に推してほしいもんです。気持ち悪いものを気持ち良いと思う変態もおるのですから(笑)。

  2. 通行人 より:

    以前から気になっていて、先日VODで観ました。
    同じくこれは映画館で見るべきだったと少し後悔。
    しかし、深夜に1人で観ていて怖かったので映画館の圧倒的な世界で
    最後まで観ることができたかどうか・・・w

    ミザリーともまた違ったとても斬新な作品でした。
    私の名作コレクション入りです、続編期待したいけど失望しそうですが。

    私的にはロッキーの妹が解放されて、間接的にじいさんの無念も幾ばくかはらされた、
    と思いたいです。

    • 通行人さん、コメントありがとうございます!

      ホントにこれは是非とも劇場で観ておきたい一本でしたね。ホラー映画はどうしても公開本数、規模ともに縮小傾向で困ったもんです。こういうホラー映画こそ自由に身動きの取れない暗闇の中で見るのが醍醐味。続編が公開されたら是非とも映画館で観たいとは思いますが、どうかな?通行人さんと同じく失望しそうだなぁ。