『FOUND ファウンド』感想とイラスト 世界を壊す兄弟愛

映画『FOUND ファウンド』のイラスト
「兄さんは生首を部屋に隠している」。はたしてこれは少年の妄想なのか?現実なのか?そんな小手先は知ったこっちゃねえ。俺の兄貴は殺人鬼だ!変態だ!でもね、兄さん、本当に、殺してくれてありがとう……。

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作品情報

『FOUND ファウンド』
Found

  • 2012年/アメリカ/103分/R15+
  • 監督:スコット・シャーマー
  • 原作:トッド・リグニー
  • 脚本:トッド・リグニー/スコット・シャーマー
  • 撮影:レヤ・テイラー
  • 出演:ギャヴィン・ブラウン/イーサン・フィルベック/フィリス・マンロー/ルーイ・ローレス

参考 Found (2012) – IMDb

予告編動画

解説

ホラーマニアでイジメられっ子の弟と殺人鬼かもしれない兄との心温まる兄弟愛を描いた低予算ホラー映画です。原作は共同脚本も務めたトッド・リグニーの同名小説。

監督はインディーズで短編を製作していたスコット・シャーマーで、これが長編デビュー作。予算わずか8000ドルで作られた映画ということで、出演俳優は誰ひとりとして知りません。「未体験ゾーンの映画たち2017」上映作品。

あらすじ

おそらくは1990年代初頭。アメリカの田舎町で両親と兄とともに暮らす11歳の少年マーティ(ギャヴィン・ブラウン)。生粋のホラーマニアであるマーティは、学校では変わり者としてイジメの対象であり、親友と呼べるのは共通の趣味をもつデヴィッドただひとりだった。

そんな彼が発見してしまった家族の秘密。兄スティーヴ(イーサン・フィルベック)のクローゼットに隠された人間の生首。それはたいてい黒人女性で、数日おきに新しい生首と入れ替わっていた。やさしかった兄は、実は凶悪な殺人鬼だったのだろうか?

恐ろしい疑念をいだきつつ孤独な学校生活を送っていたマーティは、同級生のマーカスによるイジメが原因でしばらく自宅静養することに。その事実を知ったスティーヴは、「殴られたら殴り返せ」と弟を諭し、マーティのためにあることを実行するのだったが……。

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感想と評価/ネタバレ有

「『イット・フォローズ』を越え42冠制覇!」という謳い文句のもと、なんだかよくわからない映画祭やら映画賞を受賞しまくったらしい本作。「この監督は完全に病んでいる!」なんて胸に突き刺さる賛辞なども飛び交い、いやがうえにも鑑賞意欲をそそられておりました。

しかし「未体験ゾーンの映画たち2017」はとにかくタイミングが合わないのが玉に瑕。めちゃくちゃ観たかったのに結局間に合わず、今回のレンタルDVD鑑賞と相成りました。上映に間に合わなくてもすぐDVDが発売されるのでまあいっか、と思っちゃうのも玉に瑕ですな。

身も心も懐もお寒い季節に、「完全に病んでいる」と評されるホラー映画を自宅鑑賞するというとってもホットなリラックスタイム。ああぁぁぁ…温まるわぁ……♡というわけで、心も体も頭も病んでいる監督が撮った映画、『FOUND ファウンド』の感想です。

生首ホラーに擬態した青春

「兄さんは生首を部屋に隠している」という主人公マーティのモノローグで幕を開ける本作。終始彼の視点で、独白を交えながら、ときおり「ホームビデオか?」というチープさを醸し出しているこの映画の予算はたったの8000ドル(約100万円)。

無名俳優を適当にかき集め、予算のほとんどは劇中劇である『Headless』につぎ込んだのでは?と思えるほどの安っぽさです。ですので、グロに次ぐグロを期待しているメルヘンチックな方々は多少の肩透かしを喰らうやもしれませんね。実はこれって青春映画ですから。

アメリカの田舎町の中流家庭。周りもおそらくはそういう家ばかり。つまりは非常に平均的。その平均からはみ出してしまった異端が受ける抑圧と迫害。端的に言ってしまうとまあ「イジメ」なわけですが、そんな理不尽にさらされている少年の居場所と救済と強さの渇望。

けっしてやさしくはない世界で自分を守ろうと必死にもがき続ける多感な少年の青春の葛藤。そういう意味ではホラーの体裁を借りた青春映画であった『イット・フォローズ』と比較されるのも頷けます。低予算ゆえのチープさも逆のリアルさがあったのではないでしょうか。

ホラーマニアの受難

この映画の舞台設定はおそらく1990年代初頭のアメリカ。携帯電話が登場しないことや、レンタルDVDではなくビデオであることからもそれはうかがえます。兄弟の会話で『ヘル・レイザー』や『ミディアン』というキュートなタイトルが飛び交うことからも確実でしょう。

『ヘル・レイザー』は1987年、『ミディアン』は1990年製作のホラー映画。ともに監督はクライヴ・バーカー。

あえて時代設定をぼかしていた『イット・フォローズ』とまたしてもつながりましたが、1990年代初頭がアメリカにとってどういう時代であったのか無知なボクにはいまいちよくわかりません。しかし日本に置き換えて考えてみると、それはホラー受難の時代ではないでしょうか?

例の宮崎勤事件により、ホラーマニアがシリアルキラー予備軍として差別、糾弾された暗黒時代。この映画の主人公である兄弟も生粋のホラーマニアで、どうやら社会的なヒエラルキーでも最下層に位置している模様。社会に適合できないホラーマニアは現実と空想を混同する。

家族に、社会に不満を持っているらしい兄は、ホラー映画に刺激されてマニア垂涎の生首コレクターと化したのでは?兄がボウリングバッグに隠していた生首を発見したその日から、マーティはそんな現実なのか妄想なのかわからない疑念に取り憑かれ出します。

兄のお宝である生首の存在。これが現実なのかそれともマーティの妄想なのか、どちらともつかない曖昧さで進行する物語はなかなかの不穏さです。兄がおかしいのか?それともマーティ自身がおかしいのか?いやいや、実はこの世界自体がおかしかったのです。

壊れた世界

マーティが受けるイジメ。彼が通う学校の子供を理不尽に支配、管理する狂気の指導方針。父親の差別と封建的暴力。母親の体裁と逃避。宗教の欺瞞とキレイゴトと救いのなさ。寛容ではなく、救いも提示せず、道を外れた子供を守ってはくれないこの社会の生きづらさ。

前述した兄のお宝生首は現実なのか妄想なのかという問題は、実はあっさり現実だと肯定されてしまいます。そういう小手先で引っ張る物語ではなく、渾身の直球で胸元をえぐってくる映画だったということ。お前の住む世界は狂っていて、家庭は壊れていて、兄は殺人鬼だ!

グロゴアスプラッターではなく、主人公マーティを取り巻く現実の悲惨さをしつこく描写していくこの映画。その実ホラーの体裁を借りた悩める青春映画だった本作のハイライトは、この理不尽な社会に対して決然と「NO!」を突きつけたマーティの覚醒にあると言えます。

世界への宣戦布告

唯一の親友からの裏切り。両親の無理解。灰と化した宝物。そんな孤独な彼を抱きしめてくれたのは、狂った殺人鬼である兄のスティーヴ。兄の胸に抱かれながら、「殺してくれて、ありがとう」と感謝するマーティの言葉のなんと残酷で素直でせつないことか!

自分をイジメていた張本人の頭と体を見事に分離せしめてくれた恩人への感謝の言葉。兄スティーヴについて多くは語られない映画でありますが、想像するにマーティと同じような少年時代を過ごしていたのではないでしょうか?ゆえに彼だけは守りたいと思った。

同じように周囲に馴染めない少年だったスティーヴは、父の無理解、母の無関心を呪い、空想の世界に耽溺し、いつしか黒人の生首を切断することによって自己救済を果たしていた。そんな彼が唯一気にかけていたのが、同じ境遇に身を置く弟マーティの存在。

そんな兄スティーヴの狂ったやさしさに感化されたマーティは、ついに自分を守るために覚醒を果たします。いかがわしい宗教セラピーのような会合で出会った同級生。マーティのことを「ホモ野郎」とののしるこのクズに対して放たれた彼の世界への反逆証明。

弱い者を残酷に虐げ続けるこの腐った世界への宣戦布告!「耐えることの重要性」を阿呆のように説教していたこのセラピーがいかに無意味であるかを見せつけた見事な演出です。これまで散々耐えてきた弱者にさらに耐え続けろなどというバカに叩きつけた怒りの鉄拳。

現実はお前らが考えているよりずっと残酷だ。いや、お前ら自身がこの残酷な世界を作った張本人だ!マーティよ、ただ阿呆のように信じ、耐え続ける必要などどこにもないのだぞ!バカに対しては時として暴力が有効な場合もある。さあ、正々堂々と言ってやれ!

「次やればまた殴るぞ。地獄に落ちろ!」

正気を保つな!

ここからマーティの世界への闘いが幕開けるのかといったらそうはならず、スティーヴの自己救済とも言える狂気の果てへと一直線が描かれたラストはちょっと残念なような気もします。でもここで満を持して展開された血みどろ家族崩壊劇はまさにトラウマ級ですけどね。

予算はありませんので、ここでもすべてを見せるような野暮なことはいたしません。ベッドに縛りつけられたマーティと、隣室から聞こえてくる両親と兄の阿鼻叫喚だけで恐ろしい惨劇を観客に、そしてマーティに想像させる見事な演出です。見えないゆえに逆に怖い。

見えないといえば、仕事の途中と最後でマーティのもとへとフラッとやって来たスティーヴの分身は、日本版では黒く塗りつぶされて見えないのですけど、なんとフルボッキだったという素敵な逸話まである始末!ついに勃ち上がったのだな青年よ!

「お前のためだ。いつかわかる。俺に感謝する」と語る覚醒したフルボッキ兄さんのスティーヴ。マーティ救済のために兄から届けられた最後のプレゼントは、この狂った世界を、壊れた家族を浄化させてくれる素敵な家族団欒風景。この幸福なラストショットに括目せよ!

確かにホラー映画は一部のバカには悪影響かもしれない。しかし、多数派に対する少数派の反逆という意味においては、これによって救われる阿呆もおるわけなのです。そのへんをわかってらっしゃるこの監督。やっぱ完全に病んでいて頭おかしいよ!ありがとう!

個人的評価:8/10点

DVD&Blu-ray

劇中劇『Headless』

この『Found ファウンド』で最もお金がかかっていたのは、おそらく劇中劇として登場する謎のマイナーホラー映画『Headless』でしょう。兄スティーヴが影響を受け、模倣したと思われる悪趣味スプラッターホラー。

ガイコツマスクの変態が、さらった女性を縛りつけ、乳房をぶった切り、あふれる鮮血にむしゃぶりつき、切り落とした生首のお目目をいただき、辛抱たまらず生首自身に挿入する。物語もへったくれもないただ悪趣味なだけのグロゴアホラーですが、これがけっこう人気なの。

なんとスピンオフとして2015年に長編映画化されておるのです!日本ではまだ劇場未公開ですが、この『FOUND ファウンド』の評判次第では劇場公開、DVD発売もあるやもしれません。てなわけでその来たるべき事態に備え、こちらの予告編で予習をしておいてくださいね。

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コメント

  1. アネモネ より:

    こちらのブログでのラストが凄い映画から興味を持って見て見ましたが・・・打ちのめされました。劇中劇「Headless」の容赦ないゴア描写に辟易としつつも、美しい夕日をバックに繰り広げられる兄弟愛描写に「青春映画じゃん」と油断してたらクライマックスの血みどろ大宴会にやられてしまいました。
    思えばスティーブは何故あそこまで狂ってしまったのでしょう。やられたらやり返せというのも理解できるけどその加減は「小石をぶつけられたらボウリング球でぶちのめせ」というレベルでそれじゃ世間で通用しないよってのが自分の考えです。両親をそんなに憎むならとっとと家出ればいいのに・・とか。最後は母親レ○プしようとしてるし・・・。弟を守るためというよりそれはあくまできっかけで、フラストレーションを餌に生首コレクションで飼い慣らしていた自分の中のモンスターを思いきり解放したのが最後の大暴れではないでしょうか。
    しかし兄弟はどちらも美少年で演技もいい。夕日のシーン含め映像美も低予算とは思えないくらい。最後の大殺戮も「ぼくのエリ」をちょっと思い出してああいうのも嫌いではない。血糊の量はかなり違いますが。しかし実際に見た直後の現在かなり打ちのめされてます・・・。あのラストシーン・・・。

    • スパイクロッド より:

      アネモネさん、コメントありがとうございます!

      うちの記事を読んで『FOUND ファウンド』を観ていただいたということで、こりゃもうなんともうれしいこってす!

      しかしこれは打ちのめされるのですよね。ちゃんと青春映画してて彼らの気持ちもわかるだけにダメージがデカい。自らの鬱屈を生首コレクションによって解消していた時点でスティーブの狂気は決定的なものでして、ラストの阿鼻叫喚は彼自身のストレス発散、しがらみからの解放を目論んだ爆発であることは明白ですが、そこには確かに弟マーティの存在もあるから始末に悪い。マーティにとっては大きなお世話、ありがた迷惑以外の何ものでもありませんけどね。あれが一番のトラウマですから(笑)。