『哭声/コクソン』感想とイラスト 認識を映す鏡・國村隼

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映画『哭声/コクソン』國村隼のイラスト(似顔絵)
ジャンルを変遷し、情報を攪乱し、主人公と我々観客を翻弄し続ける謎の映画『哭声/コクソン』。その中心となるのがふんどし一丁の泰然自若で正体不明の怪物を演じた我らが國村隼。彼の正体とはつまり、我々が見たい存在を具現化した最高最悪の何か……。

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作品情報

『哭声/コクソン』
哭聲 곡성/The Wailing

  • 2016年/韓国/156分
  • 監督・脚本:ナ・ホンジン
  • 撮影:ホン・ギョンピョ
  • 音楽:チャン・ヨンギュ/タルパラン
  • 出演:クァク・ドウォン/ファン・ジョンミン/國村隼/チョン・ウヒ

参考 哭声/コクソン – Wikipedia

予告編動画

解説

クスクス笑いの漏れる猟奇殺人ものかと思いきや、ゾンビや悪魔憑きがふんどし絞めて巨大な骨かついで盛大にゲロを撒き散らすオカルトサスペンスミステリーでした。

監督は『チェイサー』と『哀しき獣』のナ・ホンジン。主演は『アシュラ』のクァク・ドウォン。共演に『新しき世界』のファン・ジョンミン、『サニー 永遠の仲間たち』のチョン・ウヒなど。日本からは『シン・ゴジラ』の國村隼が参戦しております。

あらすじ

韓国の山奥にあるのどかな村“コクソン”。事件らしい事件もないこの村で、村人による自分の家族を惨殺する事件が連続して発生していた。いずれの事件でも容疑者である村人は全身が湿疹によりただれており、正気を失った状態で殺害現場に残っていた。

事件を担当することになった村の警察官ジョング(クァク・ドウォン)は、いつの頃からかこのあたりの山に住み着いたよそ者の日本人(國村隼)の不気味な噂を聞きつけ、その男がこの事件となんらかの関係があるのではないかと疑い始め、捜査を始める。

そんなある日、自分の娘にも事件の犯人たちと同じ湿疹が現れていることに気づいたジョングは、娘を救うためにある祈祷師(ファン・ジョンミン)を呼び寄せ、よそ者をさらに追いつめていくのだったが……。

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感想と評価/ネタバレ多少

一時期の勢いは失われ、かかったとしても公開規模の小さいのがあたりまえとなってしまった韓国映画。しかし今年は『お嬢さん』『アシュラ』『新感染 ファイナル・エクスプレス(クソ邦題!原題は『釜山行き』)などの期待作、話題作がいつになく目白押し。

その筆頭格と言えるのが今回ご紹介する『哭声/コクソン』であります。韓国の牛骨暴れん坊将軍ナ・ホンジンが新境地へと挑んだサスペンススリラー。ナ・ホンジンまさかのG指定映画という事前情報に一抹の不安を抱えながらも、尻尾ふりふり出かけてまいりました。

絶賛上映中の映画ですので、なるべく核心には触れずにこの感想をしたためていく所存ではありますが、うっかりネタバレをやらかす不届き者でもありますので、地雷を踏みたくないという方はどうぞこのへんでお引き取りを。んだばさっそく行ってみましょうか!

なんの映画だこれは?

映画冒頭、釣り針に丁寧に餌を付け、バカな魚を釣り上げてやろうと企むよそ者、國村隼の姿が。彼の餌に釣られて迷宮へと迷い込んだのはコクソンの村の住人か?はたまた我々観客か?ばら撒かれた餌を呑み込んでしまった愚か者のたどる末路とはいかに?

この謎のよそ者、國村隼の登場と時を同じくしてコクソンの村で頻発するようになった、村人による自分の家族惨殺事件。その真相へと真面目に迫るサスペンスミステリーなのかと思いきや、何やら様子がおかしいですぞ。あらやだ、オフビートコメディなのこれ?

ビビりな田舎の駐在さんである主人公ジョングのキャラがもはや他人事ではなく、我が身を省みる臆病さ、だらしなさ、不真面目さが自虐的な爆笑をかっさらい、すでにこの映画がいったいなんのジャンルに属するのかは迷宮の彼方。なんかわからんけどおもしれーじゃねーか!

これ以降も怒涛の変遷を見せ、突然『エクソシスト』化したと思ったら、感染パニック、ゾンビホラーへとへんげし、果ては『羅生門』?いやいやそうじゃない『エンゼル・ハート』だ!とジャンルをひととおり往来したあげく破壊しにかかっていてもうなんのこっちゃ。

裁かれる罪人

これは要するに、いま我々が見ているものや、感じたこと、気づいたこと、思ったことがいかに当てにならないかという現実の証明であり、ナ・ホンジンという監督の悪意の賜物でもあります。その悪意はもちろん、映画の登場人物たちにも残酷なまでに向けられています。

閉鎖的な村に闖入してきた異物に対する村人たちの噂話、先入観、排他精神。証拠ではなく、雑多な情報に惑わされた主人公ジョングの迷走ならびに暴走は、気弱で気のいい近所のおじさんのアホ面の皮をはぎ、それもまた罪のひとつであることを白日のもとにさらけ出します。

この映画のなかでばら撒かれた情報を鵜呑みにし、思い込み、迷走し、あげくに泣き叫ぶという醜態をさらすのは我々観客も主人公ジョングも同じ。ジャンルを変遷し、現実と夢を交錯させ、真実とまやかしを曖昧にした監督の悪意に翻弄された哀れな罪人たちよ。

無力な信仰

盛大な目くらましによって登場人物と観客を奇妙な笑いと不気味さに満ちた迷宮へと誘い込んだ監督ナ・ホンジンの性格の悪さ(褒めてますよ)は、情報攪乱作戦だけにとどまらず、その悪意の矛先はさまざまな対象へと向けられておりホントに性格悪いのです(褒めてますよ)。

韓国の「青龍映画賞」で日本人初となる、男優助演賞と一般投票による人気スター賞の2冠に輝いた國村隼氏に対する、ふんどし一丁での泥んこ遊び、生肉かぶりつき、滝行、森林全力疾走という老体イジメなぞはまだまだ序の口。この監督の悪意はこんなもんじゃ収まらない。

悪魔のイメージを植えつける夢オチ、犯人死亡の「ポキッ」にインサートしてくる焼肉、ウィリアム・フリードキン並の子役虐待、真偽定かならぬ毒キノコ加工食品報道、G指定なんのそののグロっぷり、そして最もこの監督の性格の悪さが表れているのがキリスト教の無能さ。

ナ・ホンジン監督はキリスト教徒らしいのですけど、この『哭声/コクソン』におけるキリスト教はクソの役にも立たない。信じる者は救われないし、祈りは届かないし、事態を把握、状況に接触することすらかなわないという、まさに無用の長物紙クズ同然。

自分が信仰している宗教を超自然的存在の対立軸として道化のように描くなんて、性格ひん曲がってないとできやしません(しつこいようですが褒めてます)。これはスコセッシの『沈黙 -サイレンス-』やヴィルヌーヴの『プリズナーズ』と真逆のようでいて相似にも思えます。

認識力の限界

のどかな田舎の村で巻き起こる肉親による連続家族惨殺事件。怪しいよそ者。謎の湿疹。悪魔憑き。湧き上がる疑念。思い込み。詰まるところこの『哭声/コクソン』という映画が何を描いていたのかというと、人間の認識力の限界ではなかろうかと思います。

人は自分の見たいようにしか物事を見ない。だって「言ったって信じないだろう?」。決定的なその瞬間でさえ、人間は物事の本質を見極めることができず、つねに最悪の選択をしてしまう。まあ真偽定かならぬ情報に踊らされた人間の末路とはとかくこういうものですわ。

この映画が面白いのは、登場人物のみならず我々観客をもそういう状況に翻弄しようと画策している点であり、ジャンルを往来しながらミスリードにミスリードを重ねて我々ボンクラの頭を攪乱せしめている不安で不穏で不可解な展開は、ナ・ホンジンの新境地と言えましょう。

まあその着地点は意外と収まるべきところに収まったという感じで、散々こねくり回したわりにはそれほど驚きはないのですけど、これは前作『哀しき獣』ほどのゴリ押しパワーには欠けていたのが原因であり、脚本の詰めの甘さが露呈した結果かと思われます。

どうせやるならもっと悪夢的、観念的な出口の見えないエンドレスラビリンスにしてもよかったかと思います。ちょっと画的に見せすぎですかね?「なんだかよくわからない」という声も聞こえてきますが、あれはもう見たまんまでいいような気がします。

ふんどしに注目!

主人公ジョングを演じたクァク・ドウォンの愛らしい中デブ感と、その愛らしさが哀れで悲惨にゆがんでいく後半。『エクソシスト』ならびに『震える舌』も真っ青の絶叫悶絶肢体ビンビン演技を見せつけてくれた子役のキム・ファニ。チョン・ウヒのもったいぶりぶり。

韓国映画らしい顔芸満載、やりすぎ盛りすぎ俳優陣の熱演怪演も素晴らしく、なかでも特筆すべきはひたすらいかがわしい祈祷師を演じたファン・ジョンミンと、我らが國村隼その人でありましょう。このふたりによる祈祷バトルは怪しい魅力満載でもはやお祭りです♡

國村隼が老体に鞭打って、ふんどし一丁で森の中を泥んこ四足歩行、鹿肉モリモリなんて眼福以外の何ものでもありませんでしたし、ファン・ジョンミンのゲロゲロの勢いと美しさと長尺には心洗われること必至であります!映画史に残るふんどしとゲロであります!

特にこのふんどしは映画の謎を紐解く重要なガジェットともなっており、未見の方はぜひともふんどし出現シーンに注視してご鑑賞ください。ふんどしを見ればこの映画もふんどしのごとくわかるのです。その違和感にぜひともご注視いただきたい!

ふんどしの出現によって始まり、ふんどしによって惑わされ、ふんどしによってつながるふんどし映画。それがこの『哭声/コクソン』なのでありますから!

個人的評価:7/10点

DVD&Blu-ray

VOD・動画配信

『哭声/コクソン』が定額見放題なおすすめ動画配信サービスはHulu(2018年12月現在。最新の配信状況はHuluのサイトにてご確認ください)。

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スパイクロッド

映画を観たらとりあえず感想とイラストを書く(描く)人畜無害な釘バット。ちなみにイラストはぺんてるの筆ペン一本によるアナログ描き。

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コメント

  1. ミス・マープル より:

    これを見ようか考え中なんですよね。
    「お嬢さん」も見たいし。
    ふんどし一丁の國村さん演技も期待できますね。
    といって「ラ・ラ・ランド」の2回目の鑑賞をしてしまいました。

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      ミス・マープルさん、コメントありがとうございます!

      『ラ・ラ・ランド』と同じくけっこう賛否両論になりそうですが、観て損はない作品だと思いますよ。今年は韓国映画が久々に元気でして、この『哭声/コクソン』をはじめとして、『お嬢さん』『アシュラ』『新感染 ファイナル・エクスプレス(重ねて言いますがクソ邦題!)』など、どれを観ようか迷いますよね。って結局全部観るでしょうけどね(笑)。

  2. より:

    この作品の凄い所は俺は誰より映画を見た百戦錬磨で、どの展開でも動じないぞって人ほどそれ以上の百戦錬磨の監督にマウント取られてタコ殴りされる作りだと思いますね
    素晴らしい展開でした

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      丸さん、コメントありがとうございます!

      確かに、従来の映画の流れや展開を熟知している人ほど騙されるというか、こちらの浅はかな先読みの上を軽々と飛び越えていく映画でしたよね。「で、結局なんだったんだろう?」という感覚こそを楽しむ映画というか。謎を解く解かないは実は関係なく、そういう不可思議な感覚こそが快感だと教えてくれる映画でした。

  3. ハリー より:

    ご無沙汰しております。
    期待に胸躍らせ、やっと観賞できました。
    うーん、確かに悪意に溢れる作品ですね。それでいて、スパイクロッドさんのご指摘のように、オチは予想の範囲内・・・。
    ラストで思いもかけない仕掛けを作れていれば傑作ものでしたね。惜しい!

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      ハリーさん、コメントありがとうございます!

      悪意と不穏が渦巻いて、結局は予想の範囲内のオチへと落ち着いたような落ち着いてないような?「見えた!」と思ったはずの真相が時とともに揺らいでくるというか、他人の感想を読むとぐらついてくるというか、見えていたはずのものが実は見えていなかったかもしれないと不安になってくる気持ち悪さ。これはやはり完全なるスルメ映画のたぐいで、正直なところこの時の自分の感想にもはや自信がもてないという始末。こりゃもっかい観なきゃなりませんが、なかなか観れていないのは自分の不徳の致すところ。