『ミッドサマー』感想とイラスト その居場所で満足ですか?

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映画『ミッドサマー』フローレンス・ピューのイラスト(似顔絵)

太陽が沈まないピーカンスウェーデンで90年に一度開催される、ホルガーどもによるホルガのためのホルガ的祝祭。そこにあたしの席はありますか?え?すでに準備万端、用意周到、ではごめんあそばせ。あら、クマちゃんが焼かれるのね。うふふふふ

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作品情報

ミッドサマー

  • 原題:Midsommar
  • 製作:2019年/アメリカ、スウェーデン/147分/R15+
  • 監督・脚本:アリ・アスター
  • 撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ
  • 音楽:ボビー・クルリック
  • 出演:フローレンス・ピュー/ジャック・レイナー/ヴィルヘルム・ブロムグレン/ウィリアム・ジャクソン・ハーパー/ウィル・ポールター

参考 映画『ミッドサマー』公式サイト

予告編動画

解説

最愛の家族を失い、恋人との関係もギクシャクし出して精神的に不安定になった女性が、友人たちと訪れたスウェーデンの奥地で90年に一度開催される“夏至祭”に参加したことにより、思いもよらない恐怖と解放と狂気を得るというフェスティバルホラーです。

監督はデビュー作『ヘレディタリー/継承』で「21世紀最高のホラー映画」との賛辞を得た新鋭アリ・アスター。主演はマーベル映画『ブラック・ウィドウ』への出演も決まった、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のフローレンス・ピュー。

共演には『KIN/キン』のジャック・レイナー、『パターソン』のウィリアム・ジャクソン・ハーパー、『レヴェナント:蘇えりし者』のウィル・ポールター、『ベニスに死す』のビョルン・アンドレセンなど。

あらすじ

破局寸前だったダニーとクリスチャンのカップル。しかし、双極性障害を抱えるダニーの妹が両親を巻き込んでの自殺を図ったことにより、精神的に不安定になったダニーを支えるためにも、しばらく傍にいることを選択したクリスチャン。

翌年の夏。ダニーとクリスチャンは友人のペレの故郷、スウェーデンの奥地で90年に一度だけ開催されるという貴重な夏至祭に参加することに。太陽が沈まない白夜で開催される白昼夢のような光景に圧倒されるふたりだったが、徐々にその裏に隠された闇へと呑み込まれ出すのであった……。

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感想と評価/ネタバレ多少

デビュー作『ヘレディタリー/継承』で全世界のホラー映画ファンに恐怖と笑いをお届けした新鋭アリ・アスター。そんな恐怖と笑いは紙一重、表裏一体であることを若いくせに熟知した男の新作は、何やらよくわからぬフェスティバル(祝祭)ホラーだってさ。

祝祭ホラーと聞いて真っ先に『ウィッカーマン』を思い浮かべるあなたとはきっとお友達になれそうだ。あ、ニコケイのほうのを思い浮かべた人とは絶対に友達にはなれないからそのへんよろしくな!ってなわけで、フェスティバルホラー『ミッドサマー』の歌って踊ってラリった感想です。

緊張感と笑いがみなぎるキリキリした人間関係

前作『ヘレディタリー/継承』を恐怖映画としてではなく爆笑映画として評価したボク。

それでは「恐怖の歴史を覆すフェスティバルスリラー」とも評される、本作『ミッドサマー』はどうだったのでしょう?ほかの方の感想とは異なるかもしれませんが、ボクはこの『ミッドサマー』を観ることによって、「あ、この人やっぱホラーの人じゃないな」という確信をいだきました。

前作『ヘレディタリー/継承』でも顕著でしたが、すべてを理詰めでコントロールする非常に理性的な人ですよね。ホラーとは不条理の沼にこそ発生するものだと個人的には思っておりますので、この合理性はやはりホラーではない。ゆえに怖さは微塵も感じませんでした。怖さはね。

ただやっぱり爆笑なのよねぇ~♡実はなかば崩壊した人間関係というものを意地悪く客観視したブラックジョーク的視点が最高で、ホント理詰めで意地悪く冷静に人間を観察し、その真実の姿や関係を暴き出していく性格の悪さは非常にボク好みです。

映画冒頭、双極性障害を患う妹からの不吉なメールに、これまた不安神経症的な姉のダニーが動揺し、恋人のクリスチャンに電話をかけるシーンから性格ブスが滲み出ております。電話をかけるダニーの顔面をアップでとらえたショットとその顔面力の素晴らしさ。

そしてその電話のあとで彼女とクリスチャンとの関係を揶揄するバーでの友人たちとのやりとり。いわゆるメンヘラの厄介さと、その関係にうんざりしている恋人と、それをネタにバカ話をする無責任な野次馬。すでにこの時点でここにダニーの居場所はない。

なのに、とち狂った妹の両親を巻き添えにした無理心中によって、この崩壊しかかった関係性を持続せざるを得ない状態へと置くさっそくの意地悪さ。慟哭するダニーを抱き、「あ、俺これでこの女と別れられねーや」と途方に暮れて虚空を見つめるクリスチャンに笑ってしまったのはボクだけだろうか?

そういう性格ブス的視点が前半で最高潮に達したのが、男友達だけで計画していたスウェーデン旅行にクリスチャンが勝手にダニーを誘い、「お前たちが誘えと言った」というていで口裏を合わせろ、となったときの招かれざる客として登場したダニーを迎えるなんとも気まずい空間描写。

それぞれの空々しい会話劇のリアルさと、移動と、間と、空気はホントに底意地の悪い爆笑ポイント。ここで爆笑してしまうボクも底意地が悪いのでしょうが、唯一あからさまな善意を見せるペレの薄気味悪さにも注目で、わかりやすすぎるぐらいにわかりやすい伏線ともなっております。

そんな伏線へとちゃっかり乗っかり、北欧の神秘スウェーデンへと降り立ち、ペレの故郷ホルガへと到達する一行。ここでさっそく登場するのが皆さま伊藤英明でお馴染みのマジックマッシュルーム。本作はドラッグムービーと形容してもいいぐらいにキマってラリってグニョグニョなんです。

ここでも早くマジック伊藤をキメたい男連中と、ホントは嫌なのに場の空気に流されてマッシュルーム英明をキメてしまうダニーという、厄介な人間関係のしがらみが執拗にリフレインされております。男友達の冷ややかな視線、恋人の憐れみと同情、でもそれにすがるしかない自分の居場所。

んでまあみんな仲良くマジック伊藤マッシュルーム英明化して、キマってラリってポカーンとただ座っているトリップ加減が笑えるのなんの!とりわけウィル・ポールターの絶妙に人をイラつかせるイキりとヘタれ、ダニーの「みんな私を笑ってる」からの逃走爆睡6時間寝坊がたまりません!

そんな逃走爆睡6時間女ダニーを見下ろす男どもの視線がまた痛々しい爆笑ポイントなのですが、ついに一行が訪れたホルガで目撃する、太陽が沈まないピーカン世界で、真っ白けっけで珍妙に踊り狂い、ときおり怪奇音を発し、顔面に笑顔を張りつけたホルガーどもがさらなる爆笑をグルーヴしております。

厄介なメンヘラ女のキリキリした人間関係を意地悪く描写し、家族、恋人、友人との関係に依存しながらすでにそれが崩壊している現実を突きつけ、カルト集団の定番ともいえるドラッグをキメて伊藤英明化し、そんなカルトの珍妙な実態をひたすらピーカンな白々しさで滑稽かつ不穏に描き出す行き先のわからない前半。

近くから遠くから、上から下から、意地の悪い視点でそんな関係性を観察、記録しているこの前半部分は素晴らしく、『ヘレディタリー/継承』を軽々と超えてきそうな期待感に胸が高鳴ったもんです。あの瞬間、アッテストゥパン(Ättestupa)の瞬間までは……。

その居場所で満足ですか?

ここでとうとうホラー映画としての直接的なグロ描写に踏みきってきたわけですが、そのグロさに耐えられなかったというわけではございません。そんなヘナチョコな胃腸はしておりません。ただまあ予想どおりの展開、見せ方に心底ガッカリしたのであります。

ここからの展開、結末にボクの予想を上回るような驚きは存在せず、「うんうん、そうね、そうなるだろうね」としか思えませんでした。こうなった最大の原因は、アリ・アスターのすべてをきちんとコントロールする合理性と、不条理を好むボクとの相性の悪さがあるかと思われます。

前段でも何度か匂わせておりましたが、ちょっとわかりやすすぎるぐらいの親切設計で伏線をちゃんと見えるかたちでバラ撒き、きちんとそれを回収し、収まるべきところにストンと収まる腑に落ちた感。ここには恐怖を醸成する不条理さや曖昧さは存在せず、すべてが理にかなっております。

ゆえにこれはホラーではない。まあ監督自身も「ホラーではない」と語っているので、それを理由に非難をするのは的外れかもしれませんが、本作のすべてを事前に直接的な絵なり言動なりによって説明してしまっている作法はいかがなもんなんでしょう?

ボク自身、たいした鑑識眼や知識を有しているわけではないので、ちゃんとすべてを拾っているわけではありませんが、そんなボクでもほぼ物語の流れが読めてしまう親切さがはたして必要だったのか否か?「そういう監督なんだ」と言われてしまったらそれまでで、まあ「相性が悪かった」としか言いようがないのかな?

最後に、本作『ミッドサマー』がいったい何を描いていたのかといえば、「主人公ダニーの本当の居場所」ということなのでしょうね。ただこれを「開放感」だとか「爽快」だとか言ってしまうのもまた違う気がして、「おいおいお前らカルトに呑み込まれるぞ」とも危惧してしまいます。

詰まるところ本作『ミッドサマー』は、何かに依存して生きづらさを抱えている女性の自分の居場所探しだったわけですが、自分を縛り続けていた家族、恋人、友人から解放され、安易な共感、共鳴によって受け入れられた先も、また新たな縛り、依存でしかないのでありますから。

その嘘っぱちは、あの業火のなかで痛みと恐怖に絶叫するウルフとイングマールが示したとおり。ただそんな嘘っぱちにでもすがらなければとかくこの世は生きづらいのも確か。でもね、自分を無条件に受け入れてくれてそうな居心地のいい場所ほど裏には汚物があふれておるもんなんですよ。

個人的評価:4/10点

VOD・動画配信

アリ・アスターのデビュー作『ヘレディタリー/継承』が定額見放題なおすすめ動画配信サービスはTSUTAYA TV(2020年2月現在。最新の配信状況はTSUTAYA TVの公式サイトにてご確認ください)。

不条理ホラーの感想はこちら

ホラー映画好きにおすすめ

コメント

  1. 描いてるとこみたい。 より:

    初めまして、お忙しいところ失礼いたします。

    いつも独自性の強い評と返信コメント力に”面白がらせて”頂いています。
    恥ずかしながら、『へレディタリー 継承』や本作は未見なのですが、
    <「おいおいお前ら〜…>の下りに興味を持ってしまいました。

    自分は、この後の危惧だけで「ホラーっ(ゲキ怖)!!」となったのですが、
    (本当に観てないのでダメですが)”それは別ジャンル”、”それでもホラー濃度低っ”と言うことなのか、厄介な内容なのを承知の上で質問させて下さい。

  2. 匿名 より:

    伊藤英明とマジック・マッシュルームが一体化しててワロタ

  3. 通りすがり より:

    ダニーはメンヘラで普通の男からしたら面倒なのは同意だけど、それ以上にクリスチャンがクズだと思ったので、こういう見方もあるのだなと興味深かった。
    この映画はダニーに共感するか、クリスチャンに共感するかでかなり印象が変わる映画なんだろうな。