『ファントム・オブ・パラダイス』感想とイラスト この世の地獄で泣き叫ぶ

映画『ファントム・オブ・パラダイス』ビーフのイラスト
夢の具現化、パラダイス劇場で現出する、愛と渇望と野心の果てにめくるめく涙涙の狂乱劇。ああそうさ、この世は地獄さ。テメーみたいな奴は死んだほうがマシなのさ!

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作品情報

『ファントム・オブ・パラダイス』
Phantom of the Paradise

  • 1974年/アメリカ/92分
  • 監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ
  • 撮影:ラリー・パイザー
  • 音楽:ポール・ウィリアムズ
  • 出演:ポール・ウィリアムズ/ウィリアム・フィンレイ/ジェシカ・ハーパー

参考 ファントム・オブ・パラダイス – Wikipedia

解説

曲を盗まれ、声を奪われ、顔をつぶされ、愛する人を横取りされた孤独な作曲家が、復讐に燃える怪人“ファントム”と化してまで守りたかった芸術と愛を、『オペラ座の怪人』や『ファウスト』を基にして描いたロックンロールミュージカルです。

監督は『悪魔のシスター』『ボディ・ダブル』のブライアン・デ・パルマ。主演はデ・パルマ組の常連、というか初期の顔とも言える『悪魔の沼』のウィリアム・フィンレイ。共演にミュージシャンとしても活躍する『ベイビー・ドライバー』のポール・ウィリアムズ、『サスペリア』でお馴染みのジェシカ・ハーパーなど。

本作はアメリカよりもヨーロッパでの評価のほうが高く、アヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭ではグランプリを獲得しました。

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感想と評価/ネタバレ有

デ・パルマの最高傑作にして、ボクのオールタイムベストムービーだと言っても過言ではない『ファントム・オブ・パラダイス』、ついに当ブログで紹介する日がやってまいりました。

今回の感想のために初めてBlu-rayで鑑賞したのですが、擦り切れるほどにリプレイされてきた古ぼけた記憶が鮮やかに上書きされたような感じで、まるで初めて観るかのような興奮に歌い踊って泣き叫び、最後には滂沱の鉄砲水と化してどこぞへと流されていった次第。

何度観ても面白く、何度観ても号泣の渦へと呑み込まれる傑作中の傑作『ファントム・オブ・パラダイス』。なんとか流れ着いた僻地から帰還してまいりましたので、今からビシャビシャのドロドロでこの映画の感想を書きます。たぶん暑苦しくなるだろうけど我慢してね。

歌と踊りの地獄巡り

音楽業界の重鎮でありながら謎の人物スワン。彼はロックの殿堂“パラダイス”建設のために新たな音を探していた。そんなスワンに目をつけられた売れない青年音楽家ウィンスロー・リーチは、自作のカンタータ『ファウスト』を奪われたうえ、無実の罪で投獄されてしまう。

原盤を破壊すべく脱獄してデス・レコードへと乗り込んだウィンスローだったが、プレス機に挟まれて顔と声をつぶし、仮面の怪人“ファントム”と化して復讐のためにリハーサルへと潜入する。しかしそこで彼が見たものは、かつて恋した女性フェニックスの姿だった……。

夢の具現化“パラダイス”をめぐり、すべてを奪われた男の純粋すぎる叫びと、すべてを手に入れた男の果てしない孤独と、夢のために魂を売り渡した女の生き地獄を描いた『ファントム・オブ・パラダイス』。そんな叫びと孤独と地獄を歌と踊りによって彩る奇想天外。

冒頭から歌い踊り狂うスワンの秘蔵っ子“ジューシー・フルーツ”の存在は、パフォーマンス面における陰の功労者と言えるでしょう。ロカビリー風の『Goodbye, Eddie, Goodbye』、ビーチ・ボーイズ的『Upholstery』、KISSメイクを施した『Somebody Super Like You』。

それぞれ衣装も曲調もボーカルも替え、最後はビーフの前座にまで追いやられながらも見事なパフォーマンスを披露してくれたジューシー・フルーツは、1980年代に近田春夫の手によってジューシィ・フルーツとして転生を果たしたのは皆さんご存知のとおり(え!知らない?)。

そんなジューシー・フルーツを蹴落としたビーフを演じるゲリット・グレアムは、初期デ・パルマ作では欠かせない大学時代からの友人で、怪しいオネエキャラによって卑猥で滑稽で強烈な『Life at Last』を叩きつけてくれます。ちなみに歌はレイ・ケネディによる吹き替え。

そして忘れてはならないのが意外な低音でパワフルな歌声を聴かせてくれる『サスペリア』のジェシカ・ハーパーで、『Special to Me』『Old Souls』の2曲で我々の耳を楽しませてくれておりますが、実は最も印象的なのはあの目にも楽しいへんてこダンスでありましょうな。

どんたこどんたこやりながら袖へとはけていく謎ダンスはやはり舞台出身の賜物で、彼女のどんたこがスワンのハートを射止めたのは想像に難くありません(違うって?)。そしてこれらすべての曲を作詞作曲したのがスワンことポール・ウィリアムズで、彼こそが表の功労者。

カーペンターズなどへの楽曲提供で知られていた彼が、それら代表曲とはかけ離れた引き出しの豊富さを見せつけた色とりどりの楽曲と、とっつぁん坊や的ルックスを活かした悪魔的人物の怪演。彼がいなければこのロックミュージカルは成立しなかったと言えるでしょう。

めくるめく映像マジック

ポール・ウィリアムズの楽曲と存在なくしては成立しなかった傑作『ファントム・オブ・パラダイス』。しかしそれを生かすも殺すも監督次第。しごくあたりまえのことですが、やはりこの作品を傑作足らしめている最大の功労者はデ・パルマ本人だと言えるでしょう。

のちに映像派、技巧派として大きく飛躍するデ・パルマですが、1974年当時はヌーヴェルヴァーグの影響下にあるアート系の前衛作家としての側面も残っており、そのバランスがちょうど良かったからこそ、この作品は忘れがたいカルト作として我々の脳裏に刻み込まれたのです。

冒頭のジューシー・フルーツによる演奏シーンからすでにその片鱗はうかがえ、前景だけではなくその背後で行われているモブの動きにまで神経が行き届いており、それはウィンスローが切々と歌い上げる『ファウスト』でさらなるこだわりの高みへと登り詰めます。

陶酔したようにピアノを弾きながら歌うウィンスローの周囲をゆっくりと旋回していくカメラと、その芸術に見向きもしないモブとの隔絶を示した、あまりに美しくも残酷な360度旋回。ここですでにウィンスローの過去と、現在と、未来が暗示されているとも言えます。

そしてウィンスローの曲が奪われ、投獄され、顔と声をつぶされるまでの過程をハイスピード編集で描き出した前衛的な実験精神と、顔の右半分がつぶれたウィンスローの姿を哀切たっぷりに描き出した怪奇趣味。このへんはもうヌーヴェルヴァーグでありサイレントでしょう。

ここを境にいよいよ映画はデ・パルマ演出の独壇場と化し、一人称視点による怪人ファントムの誕生と画面分割による復讐の幕開けを映し出します。リハ中のジューシー・フルーツ。彼らが乗る車に仕掛けられた爆弾。リハを見つめるスワンと、復讐を見届けるウィンスロー。

これらをおそらくは一発勝負であろう画面分割によって撮影した緊張感は、撮影時と劇中、そしてそれを鑑賞している観客たちの緊張感が見事にシンクロする離れ業。そんな離れ業はスワンとてお手のもので、フェニックスを餌にウィンスローをやすやすと懐柔してしまいます。

スワンと終身契約を結んだウィンスローの缶詰め作曲シーンにおける映像表現も、恋と時間と楽譜と鍵盤と孤独が幾重にも折り重なった素晴らしいもので、バックで流れるポール・ウィリアムズ自身の歌声によるファントムのテーマ、『Beauty and the Beast』も哀愁を誘う。

そしてついに訪れるパラダイスの開演。スワンに騙されたことを知ったウィンスローによるビーフ襲撃シーンは、『サイコ』のシャワーシーンを完全再現しながらコミカルにオトした秀逸な演出で、「フェニックス以外の者がその歌を歌えば必ず死ぬ!」との警告を発します。

その警告が現実のものと化すビーフ感電死シーンのコマ抜き編集はもはや神がかった素晴らしさで、何度観てもそのアホらしくも美しい悲喜劇に心がビリビリ痺れます。ビーフの死すら演目のひとつとして熱狂する観客たちを鎮めたのは、フェニックスの歌声でした。

これにより一夜にしてスターへと躍り出たフェニックス。成功と引き換えにスワンの所有物であることを受け入れたフェニックスは、ウィンスローの忠告も聞かずにスワンの腕へと抱かれます。ベッドの上で抱き合うスワンとフェニックス。それを天窓から覗くウィンスロー。

愛する人が悪魔の腕に抱かれる光景を、雨のなか、ただ何もできずに覗き続け、むせび泣く男のあまりに悲痛な声にならない慟哭の叫び。それを監視カメラ映像によって覗いているスワンの視線。そんな残酷な覗きの多重構造をさらに覗いている我々観客の涙にかすんだ眼球。

稀代の覗き映像作家として名をはせるデ・パルマの覗き映像のなかでも、これは屈指の名演出だと言えるでしょう。すべてに絶望したウィンスローは自らの胸にナイフを突き立て、この生き地獄とおさらばすることを選択しますが、彼は死なない。死ねないのであります。

そんなウィンスローにスワンはあのとき交わした終身契約書を見せ、お前はもはや自分の意志では死ねない体なのだと告げます。その分厚い終身契約書には小さくこう記されていました。「本契約はスワンと共に満了する」。

この世は地獄さ

つまりこれは悪魔の契約であり、ウィンスローはスワンの肉体が滅びるまで解放されない永遠の奴隷だというわけです。それではなぜスワンにこんな契約が可能なのか?それは彼自身もはるか昔に永遠の若さと引き換えに悪魔と契約を交わしたガチ中のガチだったから。

それと同じ終身契約をウィンスローと、さらにはフェニックスとも結んだというわけ。スワンの命あるかぎりウィンスローは曲を書き続け、フェニックスは歌い続けなければならない。悪魔に魂を売り渡した者と、そんな亡者に魅入られた者たちが集うこの世のパラダイス。

底なしの欲望と、報われない愛と、狂乱のエンターテインメントと、この世の地獄が現出するパラダイス劇場。なんという阿鼻叫喚の壮絶なまでのクライマックスだろうか。ボクはもうこの世の地獄が現出した狂乱劇を観るたびに涙があふれてあふれて止まらなくなるのだ。

ここにはスワンの底なしの自己愛が招いた底なしの孤独による自滅と、ウィンスローの求めても求めても届かない愛への渇望と、フェニックスの夢に夢見てすべてを投げ打った生き地獄が狂った群衆の歓声とともにこだましており、ボクも泣きながらその輪へと加わるのです。

そんな狂乱のクライマックスを締めくくるかのように流れてくる、ポール・ウィリアムズによる本作屈指の名曲『The Hell Of it』。どうやらこの訳詞はとんでも誤訳らしいのですが、ボクは大好きなので載せちゃいます。英語も日本語もおぼつかないから気にしない~。

何の取り柄もなく 人にも好かれないなら
死んじまえ 悪い事は言わない
生きたところで負け犬
死ねば音楽ぐらいは残る
お前が死ねば みんな喜ぶ
ダラダラと いつまでも生き続けるより
思いきりよく燃え尽きよう

音楽すら残せない凡人はいったいどうしたらよいのか頭を抱えますが、「テメーみたいな奴は生きてたって仕方ねーんだからさっさと死んじまえ、そのほうが世のため人のためだ」と自殺をそそのかしてくるあまりに辛辣な歌詞には危険な魅力が満載です。

この映画の、そして現実の地獄っぷりを表した素晴らしい歌詞だとボクは思いますが(誤訳らしいけど)、ハートの弱い人は聞き流したほうが賢明でしょうね。でもね、ホントこのとおり「この世は地獄」なわけですよ。でもね、だからこそボクは生きる価値があると思いますよ。

参考 雑記:誤訳という地獄 – 儘にならぬは浮世の謀り

個人的評価:10/10点

DVD&Blu-ray

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コメント

  1. わるいノリス より:

    この映画は10代の時一度見ただけでしたが
    階段を1段どころか3段飛ばしで上るようなテンポと勢いの振りきれ加減、
    スワンの気持ち悪さやヒロインの危うさを抱えるアイドル感、
    何よりあのやりすぎロックミュージカルの迫力は一生忘れないと思います。
    自分はミュージシャンのハシクレですが、あんなんスクリーン越しの癖に、生のライブですらあれ以上のパフォーマンスがホント数える程度もないもん。

    誰が見たって面白い文句なしの10点満点映画ってのは同感ですね!

    • スパイクロッド より:

      わるいノリスさん、コメントありがとうございます!

      ボクはもう10回以上観てますね(笑)。んでもってそのたびに泣き崩れております(涙)。この映画のライブ感は、ミュージカル映画と言いながら「いっせーの」って感じで急に歌い出さないリアルさにあるのでしょうね。デ・パルマ自身もそういうミュージカル映画にはしたくなかったと何かのインタビューで答えておりました。

      しかしわるいノリスさんはミュージシャンだったのですね!凄い!