『ラビッド』感想とイラスト 無自覚が生み出す混沌

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映画『ラビッド』マリリン・チェンバースのイラスト(似顔絵)

自覚なき大量殺戮者が巻き起こす混沌。それは交通事故から始まり、腋の下の菊門から飛び出た肉棒型採血ドリルによって拡散し、ゴミのように打ち捨てられることによって終結する。ボクはただその地獄を見てるだけ……。

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作品データ

『ラビッド』
Rabid

  • 1977年/カナダ/91分
  • 監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
  • 撮影:ルネ・ヴェルジェル
  • 出演:マリリン・チェンバース/フランク・ムーア/ジョー・シルヴァー/ハワード・リシュパン

感想と評価/ネタバレ有

バイク事故によって人工皮膚の移植手術を受けた女性の体に起きる変異と、彼女を媒体として伝染していく狂人病の恐怖を描いたSFホラーです。監督は我が心の師にして稀代のインテリ変態、『マップ・トゥ・ザ・スターズ』のデヴィッド・クローネンバーグ。

クローネンバーグの視線

前回の『シーバース』で予告したとおり、今回ご紹介するのはクローネンバーグの初期傑作ホラーのひとつ『ラビッド』です。ちなみにこの作品が師匠の本邦初公開作となります。

バイクに腰掛ける本作の主人公マリリン・チェンバースのケツから始まる本作。あいかわらず寒々しい映像と、黒のライダースーツに身を包んだチェンバースのケツから始めるフェティシズムがたまりません。そしてそれを静かに、恍惚と見つめる恋人の視線。

演じるフランク・ムーアは、『デッドゾーン』のクリストファー・ウォーケンから毒気を抜いたような顔をしており、自分に似た俳優を起用したがる師匠の傾向はすでにこの時点で確立されていたということです。つまりは監督自身のキャラクターの投影。

そんな監督の生き写しである彼が熱視線を送る主は、『グリーンドア』なるハードコアポルノで人気を博した本番女優マリリン・チェンバース。「映画とは性的なファンタジーだ」と豪語するクローネンバーグの個人的趣味がここに反映されているのは言うまでもないでしょう。

ケツから棒(藪から棒的に)

監督の趣味が反映された女優、ケツ、バイク、そして事故。クローネンバーグが交通事故に対して性的な何かを感じているのは、のちの傑作『クラッシュ』を観れば一目瞭然です。交通事故と性的快感の結合。『ラビッド』の物語が交通事故から始まるのも偶然ではないはずです。

それが性的混沌への入り口、きっかけなのかもしれませんね。予期せぬ事故によって大怪我を負ったチェンバース演じるローズは、近くの整形外科病院に搬送されて緊急手術を行うことになるのですが、そこの院長がケロイドという名前の時点ですでに悪い予感しかしません。

そんなケロイド先生からまだ研究途中の中性化皮膚移植を受けたローズは、なんとか一命は取り留めたものの、のちに肉体が変容。腋の下にほぼ肛門状(女性器という説もある)の腫瘍ができ、そこからポ○チン的器官を伸ばして他人の生き血を吸わねば生存できない体に。

しかも彼女に生き血を吸われた人間は狂暴化し、見境なく他人を襲い、襲われた人間もすぐ同じ症状を発症するという感染パニックが巻き起こるのです。前作『シーバース』では科学の暴走による精神の変容を描いておりましたが、今回はそれが肉体にまで及んでいるわけです。

『シーバース』の後日譚を描いているともとれる、カナダ全土を揺るがす狂人感染パニック大暴動。美しい三段重ねの交通事故描写や、事態収拾のための超法規的戒厳令、サンタクロースの流れ弾被弾など、クローネンバーグらしい混沌世界の到来には心が洗われますなぁ。

救われない悲恋物語

『シーバース』がクローネンバーグ流のゾンビ映画だとしたら、この『ラビッド』はヴァンパイアものとも言えますが、面白いというか悲惨なのは、感染源であるローズ自身にまったくその自覚がないということ。彼女はただ腹が減ったら本能的に男を襲っているだけなのです。

自分の空腹を満たす行為が、世間を騒がせている狂人感染パニックの元凶だなんて露ほども疑っていない。自覚なき大量殺戮者の罪と罰。ある意味では無垢とも言える彼女の、本能に従った欲望が無慈悲に罰せられるのは必然なのかもしれませんが、その姿はあまりに哀れです。

暴動という祭りが終わった朝に、まさにゴミのように回収されていく固まったローズの亡骸。このあらゆるものを突き放したドライな終わり方は、クローネンバーグらしいようならしくないような、どうにも微妙な感じです。師匠プライベートでなんかあったのかな?

ローズをなんとか救おうと奔走した恋人のハートが、結局は何ひとつ役に立たないという無力感もたまりません。監督自身を投影させたはずの主人公がまったく状況に参加できない、指をくわえて地獄を傍観しているだけの役立たず。やっぱこんとき師匠なんかあったの?

詰まるところこの映画は、『デッドゾーン』や『ザ・フライ』とも通じる悲恋物語であり、愛する人をどうすることもできない無力感や絶望を描いた作品だったのかもしれません。先に挙げた2作品に対して、あまりに救いがなさすぎるのが特筆すべき点ではありますが。

やっぱり師匠、このときプライベートでなんかあったんだろうなぁ………と深読みしてしまうぐらい、クローネンバーグの映画のなかでもぶっちぎりに救いのない佳作だと思いますので、どうぞプライベートでなんかあった方はこの映画を観てみてください。

なんの救いにもなりませんけどね♥

個人的評価:7/10点

救いなさすぎ映画の感想はこちら

クローネンバーグ&ホラー好きにおすすめ

コメント

  1. マーフィ より:

    こんばんは、プライベートでなにがあったわけでもありませんが、観てみました。
    イラストのシーン、完コピですね(笑)。

    ロメロ系のゾンビ終末が熱狂的なのに対して、こちらは冷たい地獄絵図って感じが独特でしたね。冷蔵庫の死体も出たりして、なんだこの寒々しさは。淡々とゴミ処理的行政組織が機能しているのも味わい深い。
    しかし、なんでまたこんな奇妙で突飛な吸血器官を思いついたのか…。まさにケツから棒…。

    • スパイクロッド より:

      マーフィさん、コメントありがとうございます!

      ロメロが描く社会風刺を盛り込んだ終末世界描写も好きですが、やはりボクはクローネンバーグの非常に個人的な趣味や問題が色濃く反映された、寒々しいまでに物事を冷静に見つめる乾いた地獄絵図が大好きなのですね。こんなB級ホラーでもひたすらクールに描く師匠のインテリ変態ぶりにはいやはや脱帽です(笑)。しかしこの『ラビッド』の救いのなさは師匠の変態作品群のなかでも飛び抜けておりまして、やはりこの時期に何かプライベートで嫌なことでもあったのかな?と詮索好きの弟子は勘ぐってしまうわけですね。『ザ・ブルード/怒りのメタファー』なんかは完全に元嫁への恨み節でしたから(笑)。

  2. ダムダム人 より:

    この作品もレンタルビデオでみました。
    最後は本当に「ゴミ」の様に扱われていて、すごかったです。
    カナダと言う国柄なのか、クローネンバーグの作品って
    冬とか秋のシーンが多い気がします。
    (寒いと言うか物悲しいと言うか、あまり明るい雰囲気ではないですよね?)

    以前、お話したとおもいますが、1985年に開催された
    「東京ファンタスティック映画祭」が公開された年に
    彼の特集が組まれた雑誌で、彼の作品の日本語版の少なさに
    と或る映画評論家が憤り(笑)を書いていました。
    「ステレオやクライム・オブ・ザ・フューチャーなどもみたいぞ!
    今なら版権も安いからお買い得なのに!!」てな感じでwww
    **この二作はかなり後になってから日本語版がでましたが、
    みていません。**

    ところで、題名の「ラピッド」ってたしか「狂犬病」の事でしたよね?
    電気関連の仕事をしている私などは「ラピッドスタート蛍光燈」を
    思い起こしてしまいます。
    余談ですが「灯」は当て字で「燈」の方が正しいと学生時代に教わりました。
    でも、「灯」の方が簡単ですよね?

    • スパイクロッド より:

      ダムダム人さん、コメントありがとうございます!

      クローネンバーグの映画で常夏とか快晴とかは観たことがないですね(笑)。いつもどんより寒々しくて物悲しい。この映画のラストなんてあまりにドライに人物を突き放していて、悲しいや哀れを通り越して「恐怖!」でありました。もはや人ではなく物というかね。もう初期の頃から唯一無比の存在を突っ走っておりまして、くだんの映画評論家と同じくもっと手軽に観られる環境を整えてくれ!と切に思います。ボクも『ステレオ』と『クライム・オブ・ザ・フューチャー』は未見ですから。

      おっしゃるとおり「ラビッド(Rabid)」とは狂犬病の意味ですが、ボクは電気関係に詳しい人間ではないので「ラピッドスタート蛍光燈」を思い出しはしませんでした(笑)。変換ではいちばん最初に「蛍光灯」と出ますが、正しくは「蛍光燈」なのですね。これでひとつ賢くなりました(笑)。

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