『デビッド・クローネンバーグのシーバース』感想とイラスト 若い頃から変態です

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映画『シーバース』リン・ローリイのイラスト(似顔絵)
人間とは思考しすぎる生き物である。そんな我々の足かせとなっている理性が不気味な寄生虫によって破壊されたとき、世界の新たな扉が開き、この世のパラダイスが現出するのだ!

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作品情報

『デビッド・クローネンバーグのシーバース』
Shivers/The Parasite Murders/They Came from Within

  • 1975年/カナダ/87分
  • 監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
  • 撮影:ロバート・サード
  • 出演:ポール・ハンプトン/ジョー・シルヴァー/リン・ローリイ/アラン・ミジコフスキー/スーザン・ペトリ

参考 Shivers (1975) – IMDb

解説

モントリオール郊外の孤島に建てられた高層マンションを舞台に、人間の理性を破壊し、本能のままに行動させる寄生虫による驚愕の感染パニックを描いたSFホラーです。

監督はカナダが生んだ稀代の天才にして変態、『ヴィデオドローム』のデヴィッド・クローネンバーグで、本作が商業映画デビュー作。主演は『黄金のプロジェクター』のポール・ハンプトン。共演には『デストラップ・死の罠』のジョー・シルヴァー、『処刑軍団ザップ』のリン・ローリイ、『恐怖の振子』のバーバラ・スティールなど。

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感想と評価/ネタバレ有

我が心の師、クローネンバーグ師匠の記念すべき商業用長編デビュー作です。残念ながらここ日本では劇場未公開に終わり、『SF人喰い生物の島/謎の生命体大襲来』や『恐怖の人喰い生物』などのタイトルでテレビ放送されただけに終わった、悲運の作品でもあります。

もともとはポルノ映画として書かれた脚本だったらしいのですが、師匠のアクロバティックにぶっ飛んだエロティシズムはプロデューサーたちの理解を超え、ポルノではなくホラー映画として製作された模様。

しかし劇中でも語られたとおり、この『シーバース』はとにかくすべてがエロティックなのです。高層マンションも、ハゲのおっさんも、唇の端から流れ落ちる鮮血も、ほぼウ○コな寄生虫も、交通事故も、本能の赴くまま行動する人間たちも、とにかくすべてがエロティック!

この世のパラダイス!

舞台はモントリオール郊外の孤島、スターライナー島に建てられた高層マンション。マンションの見学にやって来た若夫婦と、ハゲの親父に襲われるボーイッシュな美少女とのクロスカッティングがすでにたまりません。美少女が制服らしきものを着ているのも非常に変態的。

何やら興奮しまくったハゲ親父にパンツ丸出しで絞め殺される哀れな美少女。息絶えた美少女の服をひっぺがし、自身も生い茂った胸毛を豪快に開陳し、おもむろに美少女の腹かっさばいて内臓の調子を確認するハゲ親父の鋭い眼光。ああ~なんたるエロティックな光景。

前述しましたとおり、この『シーバース』がいかにエロティックであるか、すでにこの時点で健全なる皆々さまは同意のことと存じます。実は眼光鋭いハゲ親父は医者で、美少女にある実験を施していたのですが、その結果を確認した彼は恐ろしくなって自殺してしまいます。

その実験とは、理性によってがんじがらめにされた人間の本能を解放し、世界を快楽の渦へと巻き込もうというワンダフルなもの。そのために被験者である美少女の体内に、催淫効果と性病を併せ持つ寄生虫を飼わせ、経過を見守っていたというわけなのです。

しかしウ○コ寄生虫のパワーは想像以上で、ぶっちぎりニンフォマニアと化した美少女はマンション中の男とまぐわって寄生虫をばら撒き、豪華クルーズを謳っていた高層マンションは色キチガイどもの巣窟となってしまうという、この世のパラダイスが現出するわけです!

クローネンバーグのカオス

色キチガイの巣窟と化したマンションで繰り広げられる阿鼻叫喚と酒池肉林。これを地獄と見るか、天国と見るかは人それぞれでしょうが、そういう二律背反性とでも申しましょうか、善と悪、美と醜、快と不快が入り混じった混沌こそがクローネンバーグ映画の醍醐味。

ここで行われている阿鼻叫喚は一見すると悲劇以外の何ものでもないが、あの酒池肉林はどう見ても喜劇であり、寄生虫に乗っ取られる前の人間の生活はどこか不幸さが漂うが、完全に本能の怪物と化した彼らの表情は幸福そのものであり、つまりは「どっちなの?」って話。

悲劇を描いているようで実は喜劇であり、不幸を描いているようで実は幸福であり、批判しているようで実は肯定している混沌さこそがクローネンバーグ映画の面白さであり、その実この『シーバース』で描き出される世界の終わりは、新たな世界の始まりでもあるのですよね。

映画の序盤、嫁や恋人のアプローチを冷たくあしらっていたむっつり顔の男どもが、寄生虫に理性を破壊され、本能に支配されたあとの幸福そうな性欲むき出し顔がすべてを物語っております。古い価値観をぶち壊す変態どものニンフォマニア革命。待ち望んだ新世界の到来。

既成概念にとらわれることなく、常に革新を目指し、新たなる世界を求め続けるクローネンバーグの真骨頂ですな。デビュー作からしてすでにクローネンバーグはクローネンバーグだったというわけです。稀代の天才で変態は、今も昔もフルスピードでぶっちぎっておるのです!

次回予告

次回は同じく師匠の初期傑作ホラー、マリリン・チェンバース主演の『ラビッド』の感想記事をアップする予定ですので、お好きな方はこうご期待!そして来月には『戦慄の絆』を満を持してレビューするつもりです!ついに、ついにボクは『戦慄の絆』を観るのだ!

個人的評価:7/10点

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コメント

  1. ダムダム人 より:

    この作品、むかし「漢局」で放送したのを録画してみました。
    ただ、変なカットだったので、話が少々分かりづらかったです。
    (その後、ビデオレンタルでみて、疑問などもはっきりしました。)

    驚いたのは、最後が「めでたし、めでたし」では無く、
    被害が拡大していった事でした。
    (アメリカの映画なら、概ねそうなるでしょうね?)

    あと、クリニックの看護師さんが、いきなり着替えを始めたのは
    かなり驚きました。

    最近、いくつかクローネン・バーグの作品の紹介が有ったので
    コメントしたいと思います。
    (デッド・ゾーンは、まだですよね?この作品も大好きです
    監督らしくないかも知れませんが…)

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      ダムダム人さん、コメントありがとうございます!

      商業映画デビュー作からしていきなりのバッドエンド。さすがはクローネンバーグ師匠です。しかしこの映画のラストで描かれる世界の終わりは新たな始まりでもあり、クローネンバーグにとっては古い価値観が破壊された喜ぶべき革命の瞬間でもあると思います。そういう意味では実は「めでたし、めでたし」映画でもあるのですよね。

      妙にエロいリン・ローリイ演じる看護婦が、主人公の医者が電話をしている横でいきなり服を脱ぎだすシーン。ボクも初見ではびっくりして、彼女はすでに寄生虫に感染してるのかな?とも思いましたが、あれは要するに「誘っている」わけなのですよね。そんな彼女のアプローチを理性的にやんわりと断る主人公。人の幸福を邪魔しているのはこの理性的に考えすぎる脳ミソだ!もっと本能のおもむくままに危険へと飛び込め!人は変わるべきだ!というクローネンバーグの求める妄想の具現化なのでしょうね。

      あ、『デッド・ゾーン』の感想も近いうちに書きたいと思っておりますよ。師匠の作品をすべてレビューしようと思って、いまは古い順に観返していっている途中であります。次の次ぐらいには必ず書く予定ですので、ひそかに期待しておいてください。