ブエノスアイレスのとある住宅街を襲ったあっちとこっちの衝突現象。嫁は壁をバウンドし、息子は土気色の顔面で朝食を貪り、謎の怪人は深夜にマッパで徘徊三昧。ここにはドラマもテーマも理屈も存在しやしねーのよ。あんたぁ、それじゃ不満かい?
作品情報
テリファイド
- 原題:Aterrados/Terrified
- 製作:2017年/アルゼンチン/87分/R15+
- 監督・脚本:デミアン・ルグナ
- 撮影:マリアーノ・スアレス
- 出演:マクシ・ギヨーネ/ノルベルト・ゴンサロ/エルビラ・オネット/ジョージ・ルイス
予告編動画
解説
ブエノスアイレスのとある住宅街で続発する謎の怪現象。その恐ろしい現象を目撃した刑事のフネスは、事態を解明すべく著名な超常現象研究家たちと問題の住宅街へと乗り込んだものの、そこで彼らを待ち受けていたものは想像を絶する恐怖だったというホラー映画です。
監督は『ザ・ホスピタル』の脚本家デミアン・ルグナで、これが監督第2作目。各国のファンタスティック系映画祭で絶賛された本作は、なんとすでにかのギレルモ・デル・トロ・プロデュースによってハリウッドリメイクが決定している模様。
ちなみにリメイク版の監督もデミアン・ルグナが務めるようで、デル・トロさん、自信のルーツである南米とハリウッドの橋渡し役をちゃんと務めていて頼もしいかぎりです。
参考 ホラー映画「テリファイド」をギレルモ・デル・トロ製作でリメイク – 映画.com
感想と評価/ネタバレ多少
観たい映画は数あれど行ける時間は限られている「未体験ゾーンの映画たち」。てなわけでいつもどおりの自宅鑑賞となった、各国の映画祭でバカ受け、デル・トロ絶賛、ハリウッドリメイク決定とホップステップジャンプしたアルゼンチン産ホラー『テリファイド』。
ジャケ写を観るかぎりでは同じく未体験ゾーンで公開された『ゲヘナ』と見分けがつきませんが、ジャケは似てても中身は雲泥。ホラー映画における恐怖、不安、底なし感と真摯に対峙した骨太な作品で、余計なものがない恐怖の真髄には股間が引き締まる激痛です。
不純を排したピュアホラー
不気味な怪現象が頻発しているブエノスアイレスの住宅街。排水溝から聞こえてくる話し声、家中を破壊するポルターガイスト現象、闇に蠢く怪しい人影、墓場からよみがえった子供の死体……。それらを目撃した刑事のフネスは恐怖に震え、超常現象に詳しい検視官のハノへと助けを求める。
時を同じくして同地へとやって来た超常現象研究家の権威、アルブレック博士らの協力も仰ぎ、事態解明のために問題の住宅街で一夜を過ごすことになった一同だったが、そこには彼らの想像を上回る邪悪な存在が巣食っていたのだった……ってのが簡単なあらすじ。
いきなりですが、昨今のホラー映画は純粋正当なるホラーと言えるのだろうか?青春(『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』)、家族(『クワイエット・プレイス』)、差別(ゲット・アウト』)、宗教(『ヘレディタリー/継承』)など、いまやホラーはそれ単体では成立しなくなっているのかもしれない。
異なるジャンルと複合化することでしか存在を許されなくなった絶滅危惧種ホラー映画。ホラー映画とはただひたすらに「恐怖」を追求するだけでその存在価値を誇っていたのではなかったか?ホラーに不純物はいらねえ。「恐怖」ただ一点のみがホラーの存在意義なのさ。
前置きが長くなりましたが、つまりその存在意義をただひたすらに追求したのが本作『テリファイド』だと言えるでしょう。余計なものは一切ありません。ここにあるのはただ「恐怖」のみ。ゆえにドラマ、テーマ、理屈、解決を求める方はどうぞお引き取りください。
それらを超えた純粋なる恐怖の醍醐味だけがこの『テリファイド』にはあるのです。日常に潜む小さな「音」という定番の怪異から、段取りをすっ飛ばしていきなり現実化するありえない光景のドッタンバッタン、土気色の朝食に恐れおののき、ふと我に返ってクスクスしてしまう恐怖と笑いの紙一重。
現実を侵食する超現実的な怪異は、まるでそれがさも当然のようなシュールな現実感とリアルな白昼夢感をもって我々ボンクラの脳髄を刺激し、恐怖と笑いのせわしない反復運動を強制し、「ひ、ひひひひ」というひきつった痙攣的笑みを我々の顔面に張りつけるのです。
バスルームで壁にタックルし続ける永久機関と化した嫁や、いつもの朝食タイムにきちんと鎮座している死んだような顔をしたすでに死んでいるはずの息子や、どうやら隙間がたいへんお好きなようなマッパの怪人の美尻などに、痙攣的な恐怖と笑いを禁じ得ないのです。
そんな怪異が続出する住宅街に秘められた謎を解明するため、意気揚々と現れたほぼジジイとババアという構成による超常現象バスターズが体験する、この世の地獄というか、あの世との境い目というか、クトゥルフ的な力の前に喫する完全敗北がまたたまらんわけですな。
まあ後半は若干の息切れを起こして失速した感もありますが、状況の説明をしているようでしていない、またはさせない首ポッキンからのそのまま猛ダッシュ婆さんという眼福に象徴されるように、余計なものはあえて排除した潔いまでのホラー映画精神には感服するばかり。
原題の「Aterrados」、英題の「Terrified」がそのままズバリ「恐怖」を意味するとおり、あくまでホラー映画の真髄、醍醐味である「恐怖」そのものへと焦点を絞り、その恐怖の先に浮かび上がるシュールな「笑い」までも描いてみせた本作『テリファイド』。
デル・トロ先生がお気に召したのも納得な快作で、今からハリウッド版リメイクが楽しみですな。ただ予算が増えたからって余計なものを付け足しちゃ元も子もございませんぜ。あえてさらに削るぐらいの勢いで、より純粋なる「恐怖」と「笑い」を追及してほしいもんです。
個人的評価:6/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
『テリファイド』が定額見放題のおすすめ動画配信サービスはNetflix(2019年4月現在。最新の配信状況はNetflixのサイトにてご確認ください)。
コメント
更新お疲れ様です。
テリファイド、見たかったんですけどねえ。
如何せん未体験ゾーンは上映回数が限られていて運が良くないと観られないのがなんとも…
自分は心霊系耐性は低いものの、スプラッタやモンスター、ゾンビやクトゥルフ系は好物なので、大きな画面でそれらのてんこ盛りフルコースを観ることが出来なかったのは残念至極です
そういえば、スパイクロッドさんは、今回の未体験ゾーン一番の掘り出し物だったザ・マミー(トム・クルーズのミイラ映画ではない)はご覧になられましたか?
こちらもデル・トロ先生大絶賛の現代メキシコ版パンズ・ラビリンスとでも言うべき(邦題以外は)傑作でしたので、もしご覧になられたならレビューを拝見してみたい次第です
starさん、こちらにもコメントを頂いていたのにホントに返信が遅くなってしまって申し訳すぎて申し訳ありません。
「ホラー映画とはなんぞや?」という原点に立ち返った作品で、ボクもできれば大画面で観たかったですね。『ザ・マミー』もレンタルが解禁されたらもちろん観る予定ですよ!(ちゃんとレビューが書けるかどうかは現状では明言できず、そのへんはどうぞお察しください……)
スパイクロッドさん、お久しぶりです。
こちらの映画は怖かったです。
話や映像にではありません。
当作のモチーフの元ネタにアタリがついた時ゾッとしました。
これゴキブリですよね?
キッチンの排水口の下で音がしたり、スキマに隠れたり、光を怖がったり。
妻が左右の壁に当たるのは殺虫剤を食らってのたうち回る姿に重なりませんか?
ほかにも頭部を潰されたり、家を燃やすのはバルサンのことだったり。
気持ち悪いコメントですいません。
おーい生茶さん、こちらにもコメントありがとうございます!
なるほどゴキブリですか(笑)。言われてみれば確かにそういう特徴を有した内容ではありましたね。そういえば身体が変形してるのになかなか死なないってのもそうなのかな(笑)。しかし変なこと考えますね。いや、いい意味で(笑)。