『ザ・ブルード/怒りのメタファー』感想とイラスト 絞めて絞めて締め上げたい

映画『ザ・ブルード/怒りのメタファー』サマンサ・エッガーのイラスト(似顔絵)

醜い怒りをポコポコ産み落とす憎っくき嫁。僕はそれをなんとか止めるため、嫁の首を全身全霊渾身の力を込めて、絞めて絞めて締め上げるのみ!ああ~なんて素晴らしい魂の救済!

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作品データ

『ザ・ブルード/怒りのメタファー』
The Brood

  • 1979年/カナダ/91分
  • 監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
  • 撮影:マーク・アーウィン
  • 音楽:ハワード・ショア
  • 出演:アート・ヒンドル/サマンサ・エッガー/オリヴァー・リード/シンディ・ハインズ

感想と評価/ネタバレ有

ある精神科医のもとで治療という名の実験を施されている女性。やがて彼女の怒りは実体を伴った恐怖として人々を襲い始めるというホラー映画です。監督はカナダが生んだ稀代の変態で天才デヴィッド・クローネンバーグ。『シーバース』『ラビッド』に続く初期傑作ホラーの大トリ作となります。

怒りのクローネンバーグ

トロント郊外の治療施設で、著名な精神科医ラグラン博士から“サイコ・プラズミック”という最先端セラピーを受ける人妻のノーラ。しかし治療の効果はいまだ表れず、ノーラとの面会を終えた娘キャンディの体に無数のアザを発見した夫フランクは不信感を募らせていく。

そんなときに発生した、ノーラの両親とキャンディの担任の連続惨殺事件。その裏側で怪しくうごめく小さな影。何者かによって連れ去られたキャンディ。フランクは娘を救うため、意を決して妻ノーラが入院している治療施設へと乗り込むのだったが……。

『シーバース』『ラビッド』に続く「科学・医療の暴走による人体の変容」を描いた『ザ・ブルード/怒りのメタファー』。本作制作時、クローネンバーグは最初の妻と娘の親権をめぐって泥沼の離婚調停を繰り広げていたのはファンにとっては有名な話です。

そのときの不満、恐怖、恨み、そして怒りを盛大にぶちまけたのがこの映画というわけ。そういう意味では、クローネンバーグのフィルモグラフィにおいて最もパーソナルな私映画的作品と言えるでしょうね。しかし面白いことに、初期クローネンバーグ作のなかでは最もわかりやすいエンタメ作だとも言えるのです。

殴って殴って殴り殺す

主にトラウマに基づく怒りの感情を体外に腫瘍というかたちで現出させる治療法サイコ・プラズミック。この研究の最適な実験材料であったノーラは、腹からせり出した子宮外子宮によって怒りの産物、ブルード(胎児)と呼ばれるコビトどもをポコポコ出産するのです!

このブルードどもはノーラの怒りの代行者であり、彼女の怒りを忠実に実行していくのです。自分を虐待した母親を、それを黙って見ていた父親を、夫フランクに近寄った担任教師を、金槌で、スノーグローブで、ひたすら殴って殴って殴り殺す小さな体に大きなパワー。

このあまりに原始的な殺害方法が素敵に実直で胸躍ります。わかりやすい怒りと恐怖を渾身の力で叩きつけた血祭り劇。クローネンバーグにしてはひねりのない直球勝負ですが、それだけ元嫁に対する恨みつらみが大きかったということ。彼女の醜さを、怒りを、恐怖を、この呪いのフィルムに焼きつけてやるのだ!

怒りで我を忘れない

思いがけず私怨を映画のなかでぶちまけてしまったクローネンバーグ。しかし結果的にはそのむき出しの怒りがプラスへと働き、彼にしては明確でわかりやすい恐怖映画へと仕上がっていたのは面白い点ですし、それでいて彼特有の冷徹さを失っていないのもさすが。

いつもどおりの寒々しい映像のなかで、淡々と事象を見つめるような冷徹な視線。イタコ療法とも言えるサイコ・プラズミックの実践シーンなんてその最たる例ですし、憎っくき嫁の醜悪さの原因に両親による虐待をもってきたのもなんともいえないバランス感覚。

嫁の醜悪さにもちゃんと理由があって、殴って殴って殴り殺されるだけの罪を彼らもまた犯しており、それを見ながら僕(クローネンバーグ)はわけもわからず右往左往。いつもどおり自分自身の代役である主人公が想いはあるのに役立たずなのも絶妙に痛々しいポイント。

そんなうすら寒い家族崩壊劇をさらに際立たせる、これが初タッグとなる盟友ハワード・ショアのメインテーマからして神経をキリキリ攻撃してくる嫌がらせが半端なかったですし、寒色のなかでひときわ映える原色のパーカーの鮮烈さ、したたる鮮血の粘り気もたまりません。

絞めて絞めて締め上げる

そんなクローネンバーグらしからぬようでらしさ全開のこの映画における白眉は、嫁の醜悪さが白日のもとにさらされるクライマックスでありましょう。コビトどもにさらわれた娘キャンディを救い出すため、意を決してノーラが入院している診療所へと乗り込むフランク。

主治医であるラグランはノーラを実験台として利用しながらも、暴走し出した彼女の力を抑えきれず手に負えなくなった模様。ノーラの怒りとブルードの行動とは密接に結びついているので、絶対に彼女を怒らせるな、怒らせたらみんなおっちぬぞ、とのありがたいご忠告。

かくしてフランクは「やり直そう」「君のことを愛している」と嘘八百の大根芝居でノーラのそばへとにじり寄るのですが、すべてを見透かしたようなノーラは「あら、これを見てもそんなことが言えるのかしら♥」と自らの隠された秘部をご開陳いたすのであります。

彼女の腹部からせり出したあまりに生々しい子宮外子宮。そこで育まれる不気味な胎児。愛おしそうにその血を舐め回すノーラ。お、お、俺の嫁は、内面のみならずとうとう姿かたちまでここまで醜く汚れておったのか。こ、こ、怖い。き、き、キモい。し、し、死ね!

全身の力という力を指先へと結集し、渾身のやる気と願いと力を込めて嫁の首を絞めて絞めて締め上げるフランク。もといクローネンバーグ!ノーラを演じるサマンサ・エッガーが彼の元嫁に似ているのはけっして偶然ではない。クローネンバーグは心の底からこうして、嫁の首を絞めて絞めて締め上げたかったのだ!

一生ついていきます

つまりこの『ザ・ブルード/怒りのメタファー』という映画は、クローネンバーグの絞めて絞めて締め上げたい欲望、渇望、願望をフィルムのなかで現実化させた、彼の魂の浄化映画だったというわけです。ドン引きしてはいけませんよ、彼はこれによって救われたのですから。

自分が監督する映画のなかで、自分自身の代役である主人公が、憎っくき嫁とそっくりな女優を力の限り絞め殺す魂の浄化映画。この映画によってクローネンバーグは自分自身を救済したのです!絞めて絞めて絞め尽くすことによって、彼の魂は清らかに浄化されたのです!

ただし、娘のキャンディがまったく救われていないのはご愛敬。母親から虐待を受け、両親の離婚騒動に翻弄され、挙句の果てに死ぬような恐怖を味わわされる。終始、感情をあらわにしなかった彼女の演技とは思えない心の底からの絶叫は、あまりに哀れでいたたまれません。

しかも、母ノーラの醜さが彼女にも遺伝しているかもしれないという含みをもたせたあのエンディング。クローネンバーグ師匠、あなたは救われたかもしれないが娘はまったく救われておりません!そんな、そんな冷徹なあなたが大好きです。一生ついていきます♥

個人的評価:7/10点

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