『ザ・フライ』感想とイラスト 望まない新世界

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映画『ザ・フライ』ジェフ・ゴールドブラムのイラスト(似顔絵)
テレポート実験に邁進する天才科学者の身に起こった悲劇。しかし、人が人ではなくなる悲劇の裏側に潜んだ我々の不寛容こそが、本当の悲劇なのではないだろうか……。

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作品情報

『ザ・フライ』
The Fly

  • 1986年/アメリカ/96分
  • 監督:デヴィッド・クローネンバーグ
  • 原作:ジョルジュ・ランジュラン
  • 脚本:チャールズ・エドワード・ポーグ/デヴィッド・クローネンバーグ
  • 撮影:マーク・アーウィン
  • 音楽:ハワード・ショア
  • 出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ

参考 ザ・フライ – Wikipedia

冒頭動画

ザ・フライ (字幕版)

解説

物質を転送させる研究にのめり込んでいた科学者が、自身の転送実験の際に機械へと紛れ込んだ一匹のハエと融合してしまった恐怖を描いたSFホラーです。

監督は我が心の師である『ヴィデオドローム』『イグジステンズ』のデヴィッド・クローネンバーグ。アヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭審査員特別賞、第59回アカデミー賞メイクアップ賞受賞作。

主演は『ジュラシック・ワールド/炎の王国』のジェフ・ゴールドブラムと、『テルマ&ルイーズ』のジーナ・デイヴィス。共演には続編の『ザ・フライ2 二世誕生』にも出演しているジョン・ゲッツ。クローネンバーグ自身も産婦人科医としてこっそり出演。

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感想と評価/ネタバレ有

クローネンバーグ最大のヒット作にして、デビュー時から一貫して描き続けてきたボディホラーの集大成とも言える傑作『ザ・フライ』。これ以降は肉体よりもより深い精神レベルでの変容へと潜行し出したのもうなずける完成度で、それぐらいやりきったというぶっちぎり。

それでいて泣けるホラーとも言える、彼にしては比較的わかりやすい間口の広さもこの作品の魅力のひとつで、とかく難解だ、エロキモい、家族で観るのはご法度と形容されるクローネンバーグの作品群のなかでは、最も他人におすすめしやすい普遍性を備えておるかと。

まあ容赦なく人が人ではなくなるゲロゲロゴックンを叩きつけてきますし、実はそうとう革新的なテーマを描いていた節もあり、「結局いつもどおりじゃねーか!」と思われるかもしれませんが、師匠が常に夢見ておるのは世界がひっくり返るぐらいの革命なのであります。

純粋なる天才で変態

この映画の主人公セス・ブランドルも世界がひっくり返るほどの革命、革新、進歩を子供のように目指した男。天才的頭脳をもつ彼の研究テーマは物質転送。要するにテレポート。そんな革新的発明をあと一歩のところまで完成させたブランドルは誰かに言いたくてたまらないの。

そんな彼が目をつけたのは科学者たちが集まるパーティで出会った女性記者のヴェロニカ。彼女のことをぎこちなくナンパするブランドル、もといジェフ・ゴールドブラムの完全に瞳孔が開いた危ないキモ笑顔で幕を開ける本作は、すでに孤独な男の社会との隔絶を暗示しているようにも思えます。

こんな見るからに怪しい、危ない、キモい男にホイホイ付いていくヴェロニカもどうかしているとは思いますが、すでにこの時点でブランドルの幼児的純粋さ、もとい無垢なる変態性に無自覚から惹かれていたのかもしれません。純粋なる天才で変態だけどナイーヴな男。

ってそりゃクローネンバーグ自身じゃん!というのはいつもの話で、彼の撮る映画の主人公は常に彼自身を投影させた分身なのであります。そして選ばれるのも自分によく似た俳優。今回のジェフ・ゴールドブラムもちょっと爬虫類化したクローネンバーグのようです。

肉の魅力と興奮

そんな爬虫類系だけど子供のような純粋さも併せもったブランドルに惹かれ、すぐにねんごろな関係となったふたり。孤独に研究を重ねていた男が手に入れた他者との濃密な関係。これは科学者としてのブランドルに新たなひらめきをうながす媒体となります。

彼の研究は無機物の転送にはすでに成功していたものの、有機物に関しては失敗続きで、ヒヒの体が裏表になっちゃう肉と骨のサービス過剰提供を引き起こしておりました。この問題を打破したのがヴェロニカの一言で、肉を前にして最も大事なことは実は興奮だったのです。

俺はそれをコンピュータに教えていなかった!お肉の魅力とそれに対する興奮を!という突拍子もないお肉理論で難問を突破するあたり、クローネンバーグのお肉に対するあふれんばかりの愛情と、鋭い洞察と、深い哲学が感じられてまったくもって理解できません。

しかし凡人が及びもつかない高みでお肉を語るからこそ天才なのであり、その興奮お肉理論によってついにブランドルは有機物の転送実験に成功するのです。しかしこれが悲劇の始まりというか、眼福の到来というか、我々の眼前に人が人でなくなる瞬間が現出するのであります。

ブランドルバエ観察日記

ヴェロニカの元彼の存在に子供っぽい嫉妬と破れかぶれを起こし、泥酔した勢いで自らの転送実験を試みたブランドルでしたが、運の悪いことにテレポッド内部に一匹のハエが紛れ込んでいたのです。これによってハエとの生体融合を果たしてしまったブランドル。

やがて精神的、肉体的な変化をきたしていく彼の姿を、客観的な視点で冷静に映し出していく演出は、これもまた研究、実験の延長のようなまさに生態観察のおもむき。人類史上初となるハエとの合体生物、ブランドルバエの変化、進化を克明に記した後世に残すべき映像。

これまでにない潤沢な予算を手に入れたクローネンバーグは、当時の最新SFXを駆使したボディホラーとしての臨界点を「これでもか!」と見せつけてきよります。指先からお汁攻撃を皮切りに、人が人でなくなっていく過程を執拗に注視したまさにお肉の魅力と興奮。

必要なくなった部位をきれいに陳列しているブランドル自然史博物館なんてお金を取ってもいいレベルですし、ハエ化して固形物が食べられなくなった彼のゲロゲロ食事法も食事時にこそ観てほしいし、壁や天井を見事に渡り歩くアトラクションなんてきっと子供たちも大喜び。

な~んて魅力的なお肉に興奮して茶化してはみたものの、当人にとっては生きるか死ぬか、人間やめるかの大問題。そしてその問題は恋人ヴェロニカの身も巻き込み、もはや人ではなくなった愛する存在に対して何をしてあげるべきなのかという大問題を投げかけてくるのです。

愛ゆえに撃て!

なんとヴェロニカはブランドルの子供を身篭っていたのです!愛する人とのあいだに出来た新しい命を産むべきか産まざるべきか?思い悩む彼女が見た悪夢の生々しいネバネバとウネウネはこの映画最強の恐怖(夢のなかの産婦人科医を演じるのはクローネンバーグ自身です)。

そんな彼女の苦悩を知ってか知らずか、もはや人間らしい思考回路とはグッバイしたブランドルの発想は超絶な高みへと跳躍しており、君と僕と子供がひとつに融合して新たな理想的家族像を描き出そう!という新世界を熱く語るブヨブヨな肉の塊ブランドルバエ。

見かけも、中身も、愛した頃とはかけ離れたブヨブヨへと変貌した彼に、私はいったい何をしてあげられるのか?すんでのところで実験は失敗し、ついにはテレポッドとまで融合してさらなるバケモノと化したブランドル。愛していた人。いや、今でも愛している人。

愛する人に対して何もしてあげられない彼女に対して、わずかに残った人間性を振り絞って彼はショットガンの銃口を自分の頭部へと向けます。撃て。終わらせてくれ。それで君も僕も救われる。無言でそう訴えかける彼の黒い瞳に逡巡しながら、意を決して引き金を引く。

破裂するブランドルバエの頭部。泣き崩れるヴェロニカ。なんの余韻もなく映画はThe End。救いのない終幕ではあるが、この救いのない悲恋劇こそが多くの人の心を打ったのです。しかしこの映画における最大の悲劇とは、実は別にあったのではないかとも思えるのです。

我々の限界

この映画最大の悲劇とは、変化というか進化を社会も、恋人も、最終的には自分自身も受け入れられなかったことにあるのではないでしょうか?突然訪れた変革の兆候に、誰しもが順応、受容することができなかった悲劇。人が人でなくなることが悲劇だといったい誰が決めた?

ハエとひとつになって見える世界。誰も見たことのない新世界。その先の可能性を摘み取ってしまったのは我々の既成概念であり、異端を許すことができない不寛容にあります。常に世界がひっくり返るような変革を夢見るクローネンバーグがこれを容認するはずがありません。

しかし彼は現実を知っているのです。異端は社会から忌み嫌われ、迫害され、抹殺される運命にあることを。だから内なる変革を遂げた彼の映画の主人公たちは、危険分子としてこの世界における居場所を剥奪されるのです。脳漿ぶちまけたブランドルバエのように。

確かに誰もハエと合体したいなんて望まないでしょう。しかしそれは程度の問題であり、社会の本流から外れた異端を認めることができない、我々を縛りつけている既成概念こそが悲劇であると、この『ザ・フライ』は、クローネンバーグは訴えているように思えます。

ハエと合体したこと、頭も体もおかしくなったこと、愛する人を傷つけたこと、彼女に無理から引き金を引かせたことが悲劇なのではなく、そういう事態を引き起こしてしまった我々の限界こそが最大の悲劇なのである。そう考えるのはちょっと頭のおかしいボクだけだろうか?

個人的評価:8/10点

DVD&Blu-ray

ザ・フライ Blu-ray
ジェフ・ゴールドブラム

VOD・動画配信

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コメント

  1. おーい生茶 より:

    すごい熱量の解説記事ですね。
    でもわかります。僕も鑑賞後は放心状態になりましたから。
    急いで元ネタの「ハエ男の恐怖」を見ましたよ。
    こちらもまあまあ良かったのですが比較するとクローネンバーグ監督の想像力にうなります。
    昨今リメイク映画は多いですがザ・フライは最強リメイク映画だと思います!
    僕が当作を採点するなら10点満点です!

    • おーい生茶さん、コメントありがとうございます!

      『ザ・フライ』のレビューは満を持してでしたので、そりゃもう熱くもなります!熱くなりすぎてビギナーの方には引かれること請け合いです(笑)。この作品は「泣けるホラー」「実はラブストーリー」なんて紹介されることが多いと思うのですが、「それだけじゃない!それ以上に辛く悲しい限界があるんだ!」という積年の想いが詰まっておるのです。ゆえに暑苦しい。鬱陶しい。自慢のレビューと相成りました(笑)。

      昨今のリメイク映画の乱発はイコール想像力の欠如だとは思うのですが、『ザ・フライ』と『遊星からの物体X』ぐらい振りきれたら評価もできるのですがね。あ、そうそう、『サスペリア』のリメイクはリメイクじゃないような気もするけどあれはあれで凄く面白かったですよ。

  2. おーい生茶 より:

    なるほど。
    居場所のない男がここではないどこかに行きたい、と作った転送機に入ると地獄行き。
    ドロドロ人間のターミネーター2にはまだカッコ良さがありますがハエ男は本当に悲惨。
    クローネンバーグ監督は「3D版ザ・フライ」を作ってくれないかなあ。

    そうですね、「物体X」を忘れていました。
    あの映画からさらに「ミスト」が作られるんですよね。
    僕はなぜか怪物ホラーよりババアホラーの方がツボです。

    新サスペリアは予告動画を見ただけですがスパイクロッドさんのレビューは読みましたよ。
    画面に密室感と湿度を感じないからパスしたのですがどうしようかなあ。
    ババアがいい感じで疾走しそうだけどホラー映画で150分はなあ。
    サスペリア2は好きなんです。ババアの映画だったし。

    • おーい生茶さん、再度のコメントありがとうございます!

      「3D版ザ・フライ」ですか!恐ろしいけど観てみたいですね(笑)。

      しかしリメイクと言ってもオリジナル映画と原作付き映画のリメイクはまた意味合いが違ってきますからね。『ザ・フライ』も『遊星からの物体X』も原作付き、しかも初代の映画版を監督した人物はすでに鬼籍に入っておりましたので、そういう意味では好き勝手に出来る自由度は高ったと思います。でも『サスペリア』はオリジナル映画だしそれを撮った監督もまだご健在なわけですからね。そういう意味ではやっちゃ~いかんリメイクではなかったかとも思います。まあ疾走するババアはホンマに怖いし面白いんですけどね(笑)。機会があったらこちらもぜひ観てみてください!