
誕生100周年に浮かれる呪われた港町アントニオ・ベイを覆う不吉な霧。その霧とともに町へと舞い戻って来た怨霊たち。彼らの底なしの恨みは、無念は見当違いに舞い上がり、ついにミセス・コブリッツへと襲いかかる!
作品情報
『ザ・フォッグ』
- 原題:The Fog
- 製作:1980年/アメリカ/90分
- 監督・音楽:ジョン・カーペンター
- 脚本:ジョン・カーペンター/デブラ・ヒル
- 撮影:ディーン・カンディ
- 出演:エイドリアン・バーボー/ジェイミー・リー・カーティス/ジャネット・リー/ハル・ホルブルック/トム・アトキンス
解説
誕生100周年記念祭を目前に控えた港町アントニオ・ベイ。不気味な霧の到来とともに不可解な現象が続発し出した呪われた町に、100年前の恨みを晴らすべく再来した亡霊たちの怒りの復讐戦が始まるというオカルトホラーです。
監督は『ハロウィン』『ゼイリブ』のホラーマイスター、ジョン・カーペンター。特殊メイクを担当するのは『遊星からの物体X』でもカーペンターと組んだロブ・ボッティンで、本作の撮影監督を務めるディーン・カンディに頼み込んで撮影へともぐり込んだ模様。
群像劇ともいえる本作の出演者は『ニューヨーク1997』のエイドリアン・バーボー、新旧絶叫クイーンであり親子共演ともなる『ハロウィン』のジェイミー・リー・カーティスと『サイコ』のジャネット・リー、『カプリコン・1』のハル・ホルブルックなど。
感想と評価/ネタバレ有
キングレコードさんの毎年恒例企画「死ぬまでにこれは観ろ!」2018年版にて大量買いしておいたBlu-rayのなかの一本、ジョン・カーペンターの1980年の監督作『ザ・フォッグ』を今回はご紹介してみたいと思います。
実は十代の頃に一度観たきりで、そのときの評価は「地味で退屈!」という身も蓋もないものだったのですが、歳を重ねて多少は人生における情緒というものを理解し出した気配すらない阿呆にはやはり地味で退屈な映画なのか?それを確認するための再鑑賞、しばしお付き合いください。
雰囲気満点怪談話
町の誕生100周年を迎えた港町アントニオ・ベイ。しかしその記念すべき日と呼応するかのように到来した濃霧とともに、町を不可思議な現象が襲い出す。霧のなかから現れた幽霊船と亡霊たち。その裏には町の誕生に隠された血塗られた歴史があったのだった……ってのが簡単なあらすじ。
「目に映るもの、感じるものはすべて、夢の中の夢でしかないのか?」というエドガー・アラン・ポーの言葉に続き、むさいジジイが無垢な少年少女の肝っ玉を雰囲気満点に揺さぶる夜中の怪談話で幕を開ける本作。そう、この『ザ・フォッグ』は雰囲気満点の怪談話なのだ。
むさいジジイが語る100年前に起きたエリザベス・デイン号座礁事件の悲劇。その悲劇に聞き入りながら顔を赤く染める少年少女。悲劇の舞台スパイビー岬のうすら寒い情景。深夜ラジオとともに映し出される夜の町並みと静かにうごめき出す怪異の前触れ。
何かが来る、何かが起こるという前兆の雰囲気醸成が抜群に巧みな本作。あいかわらず前戯上手なカーペンターの語り口は非常にクラシカルであり、言うなればノワールホラーであり、やはり怪談話なのである。ゆえにリアリティや整合性は二の次でもいいのだ。
野暮は言っちゃあいけねえよ
ちょうど100年前、ハンセン病をわずらった大富豪ブレイクが一族郎党ともに町への移住を求めてきたが、大金を積んでやって来たブレイクの船を座礁させ、皆殺しにしたうえに財産を奪い、その金によって発展を遂げたという血塗られた誕生秘話をもつアントニオ・ベイ。
この犯罪を計画、実行したのが今も称えられる町の創設者6人。騙され、殺され、金まで奪われたブレイクたちは怨霊と化し、100年の時を越えて霧とともに再び町へと現れてはあの時の復讐を果たしているというわけですが、まあ何かと突っ込みどころ満載ではあります。
100年というメモリアルに合わせて復活するブレイクたちの待ちすぎ空気読みすぎ案件。彼らの殺害計画が立案された0時から1時以外は活動を自粛する律義さ。殺害に関与した6人と同じ数の標的を求めながらほぼ無関係を狙い撃つ見当違い。いや~突っ込みどころ満載。
でもいいんです。これは教訓や、不可思議さや、理解不能の恐怖、雰囲気を味わう夜中の怪談話なのですから。「犠牲者少ね!」とか「大恐慌のわりにモブいねえ!」とか「結局カネ?やっぱりクビ!?」なんて野暮なことは言っちゃあいけません。雰囲気なのよ雰囲気。
ミセス・コブリッツ
まあそうとう野暮ったかった若き日のボクはそのへんを理解できずにこの作品を酷評していたのでしょうね。ただ無駄に歳だけは重ねた現在は直接的なものより間接的なものへの理解を深め、わかりやすく言うと、鉄棒や牛乳や三角定規に性的興奮を覚える月並みな大人になったというわけです(え?わかりにくい?)。
海岸線、高台、灯台、教会といった素晴らしい舞台設定のなかで、シネスコにこだわり続けるカーペンターによる「長方形の芸術」が発揮され、美しい構図によって切り取られる怪異が始まった町の情景、生き物のようにうごめく霧、被害者の目線に興奮するわけです。
そこに被さってくるカーペンター自身による叙情的なスコアもやっぱりいいんだわ。そして本作の主役とも言える霧。ホラー映画における恐怖効果のサポート的立場にある霧そのものを恐怖の対象とし、逆再生によってまるで生きているかのように映し出したアイデア。
そんな生命をもったかのような霧のなかから現れる亡霊たちの痺れるシルエット!このカッチョよさだけで彼らの無駄に我慢強い律義さと見当違いと無計画さは忘れるね。やっぱり金も首もみんなみんな欲しいんじゃ~と舞い戻った華麗なるチョンパも寸止め加減が美しい。
現代の感覚から観るとそうとう控えめで地味なホラー作品『ザ・フォッグ』。しかし恐怖とは必ずしも直接的ではなく間接的なものである事実を美しくも不気味な怪談話として披露した本作は、やっぱり「地味で退屈!」だけど「それが面白い!」と確認したおっさんは成長したのか否か?
ただひとつ確実に言えることは、「ミセス・コブリッツはなんにも悪いことしてへんやん!」という魂の叫びなのであります。
個人的評価:6/10点
コメント
この映画、BD発売待ってたんですよね。
でも、スパイクロッドさんと同じで私も初見のとき雰囲気十分な宣伝に乗って観たけど感想は「つまらない❓」でした。もう一度確かめたくて2回目も10年くらい前に見たけど、やっばり❓でした。なんか、ストーリー的には疑問符ばかりだし、100年かけて出てきてやってることは通り魔みたいだし…。それでもBD買わせる雰囲気を持ってるんですよね、この映画。要はあの幽霊が並んでる絵だけでいいんですよね。もうそれだけでこの映画が成り立っちゃうという、不思議な映画です。
カーペンターは映画の世界の雰囲気作りが凄く上手いですよね。現実と繋がってるけど気がつくと全く違う異世界にいるという。
私的には初見のとき、ハロウィンの生真面目な役でお気に入りだったジェイミー・リー・カーチスが、ちょっとあばずれっぽい役でショックを受けた記憶をいまだに引きずってます。どうでもいいことですが…。
ブッチさん、コメントありがとうございます!
初期のカーペンターは恐怖の対象をあまり明確には描かないので、正直ちょっと拍子抜けな部分はあるんですよね。『ハロウィン』なんかもいま観るとそうとう控えめで、現代のゴア描写に慣れた状態で観ると「あれ?」となってしまいます(笑)。しかしその控えめで抽象的でなんともいえない雰囲気醸成が歳とってくると楽しくなってくるから不思議ですよね。おっしゃるとおり霧のなかからシルエットで現れる幽霊たちの立ち姿だけでいいんです。この映画はあれを描いただけで成立しているのです。
『ハロウィン』では性に憶病な「おぼこ」として描かれていたジェイミ・リー・カーティスが、いきなりヒッチハイクした相手とカットが変わったらもうベッドインしてるという描写ですよね。ボクはあれは好きです(笑)。逆転のイメージとしてもそうですが、何よりあのあっさり加減がカーペンターらしいと思うんですよねぇ。
お久しぶりです!
この作品、今は無き「日曜洋画劇場」で見た記憶があります。
(たしか神父の吹き替えをジョウタツヤさんがしていた記憶があります)
ご指摘のとおり、時間厳守の亡霊は今にすれば律儀すぎて
笑えますよね?
たしかこの作品も後に他の監督がリメイクしていると
思いますが、あまり芳しくない評だった気がします。
閑話休題
先日、フリードキン版の「恐怖の報酬」を見てきました。
残念ながら、日本公開版(テレビ放送版?)に有ったシーンは
ざっくり切られていてちょっと残念でした。
ダムダム人さんお久しぶりです!コメントありがとうございます!
深夜の怪談話を成立させるためにかなり突っ込みどころ満載の設定ではあるのですが、その突っ込みも含めて見事に深夜の怪談話を成立させてみせた本作の演出をボクはあらためて評価します。いま観ると逆に新鮮かもしれませんね。ちなみにリメイク版の製作にはカーペンター自身もかかわっていたようですが、おっしゃるとおり評価はあまり芳しいものではありませんでした。まあヒットはしたようですけど。
ああ~うらやましいなぁ!ダムダム人さんは『恐怖の報酬』を観たのですね!ボクはちょっと行けそうにありません(泣)。Blu-rayの発売待ちになりそうですが、いろいろなバージョン違いを収録してくれるとうれしいですね。