性懲りもなく巻き起こる大量のバカと無数の穴による「またかいなぁ」案件。しかしこれは何かが違う。なんだこの怪奇趣味は?ちょっと待てどこまで行くつもりだ?貴様そこまで行ったらもう引き返せんぞ!まさか世界の終わりを!新世界の到来を!?
作品情報
ジュラシック・ワールド/炎の王国
- 原題:Jurassic World: Fallen Kingdom
- 製作:2018年/アメリカ/128分
- 監督:J・A・バヨナ
- 脚本:デレク・コノリー/コリン・トレヴォロウ
- 撮影:オスカル・ファウラ
- 音楽:マイケル・ジアッチーノ
- 出演:クリス・プラット/ブライス・ダラス・ハワード/ダニエラ・ピネダ/ジャスティン・スミス/イザベラ・サーモン/レイフ・スポール/テッド・レヴィン/トビー・ジョーンズ/ジェームズ・クロムウェル/B・D・ウォン/ジェフ・ゴールドブラム
参考 ジュラシック・ワールド/炎の王国 – Wikipedia
予告編動画
解説
ジュラシック・ワールドで起きた未曽有の大惨事から3年後。火山の噴火によって全滅の危機へと陥った恐竜たちを救うために再びイスラ・ヌブラル島へと降り立ったオーウェンとクレアだったが、実はその裏には恐るべき陰謀が隠されていたというSFパニックアドベンチャーです。
『ジュラシック・ワールド』の続編にして大ヒットシリーズ『ジュラシック・パーク』の第5作目。監督は『永遠のこどもたち』『怪物はささやく』のJ・A・バヨナで、前作の監督であるコリン・トレヴォロウは製作総指揮と脚本に回っております。
主演は前作から引き続きクリス・プラットとブライス・ダラス・ハワード。共演には主にテレビドラマで活躍していたダニエラ・ピネダ、ジャスティン・スミス、子役のイザベラ・サーモンなどに加え、大ベテランのジェームズ・クロムウェル、テッド・レヴィンも参戦。
第1作と第2作でイアン・マルコム博士役を演じたジェフ・ゴールドブラムが元気な顔を見せてくれているのも、『ザ・フライ』愛好家としてはうれしいかぎり。
前作の感想から読みたいという方はまずこちらを
感想と評価/ネタバレ有
実はあまり好きではない『ジュラシック・パーク』シリーズ。昔からアンチスピルバーグを気取っていた自分はいけ好かないガキであり、リアルタイムで本シリーズを経験しながら周囲の熱狂には背を向け、キモいホラー映画を観ては狂った奇声をあげて新世界を待望しておりました。
そんな通報案件のキチガイがついにこのシリーズを絶賛する日がやって来たのです。『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は老若男女が明るく楽しくスリルを味わえる陽性の恐竜パニック映画などでは断じてありません。これは暗く憂鬱な新世界が到来するホラー映画なのです。
本国アメリカでの賛否両論を聞きつけ、「これはもしかしたら期待できるかも?」とひそかに胸の高鳴りを感じていたボクの予感は的中したのです。『ジュラシック・ワールド/炎の王国』は自ら作り出した怪物の影に怯え、ベッドのなかで震えている我々の罪と罰を白日のもとにさらし、ついには新たなる世界が現出する悪魔の映画だったのです!
またかいなぁ
ジュラシック・ワールドの大惨事から3年後。イスラ・ヌブラル島で活発化した火山活動によって恐竜たちは全滅の危機を迎えていた。彼らを救うため、かつて故ジョン・ハモンドのビジネスパートナーだったロックウッド財団の支援を得たオーウェンとクレアは、3年ぶりにイスラ・ヌブラル島に上陸を果たす。
火山噴火の危機が迫るなか、最重要課題であるヴェロキラプトルの生き残りブルーを発見したオーウェンだったが、ロックウッド財団の裏切りによってブルーやほかの恐竜たちも次々と捕獲され、何かの目的のために運び出されてしまうのだった……ってのが簡単なあらすじ。
前作が第1作『ジュラシック・パーク』への熱烈なラブコールだったことを受けて、本作も第2作『ロスト・ワールド』を多分に意識していることがうかがえます。島への再上陸と、恐竜たちの本土到来。そういう意味では「またかいなぁ」案件でもあります。
まあこのシリーズ自体が毎度登場するバカどもによる「またかいなぁ」の積み重ねで成立しているわけで、散々文句を垂れながらも「またかいなぁ」を楽しむシリーズだとも言えるのですが、そういう安定安住の「またかいなぁ」に敢然と反旗を翻したのが本作『炎の王国』であり、ボクが評価しているゆえんでもあります。
幻想ホラー作家J・A・バヨナ
それは映画冒頭、ロックウッド財団の命を受けた傭兵たちがイスラ・ヌブラル島へと潜入し、前作で死んだハイブリッド恐竜インドミナックス・レックスの骨を回収するシーンから如実に表されていると言えます。
嵐が襲う島の海底でインドミナスの骨を探索する小型潜水艇。その背後に忍び寄る巨大なモササウルスの影。暗い森のなかから明滅とともにその姿をあらわにするT.レックス。深い闇、嵐、チラリズム、そして地獄の現出。いきなり振りきれたホラー演出の雨あられ。
恐竜というものを深い闇のなかからのそりと姿を現す怪物として描き出した、ホラー畑出身のJ・A・バヨナの面目躍如たる堂々の幕開けです。ボクはもうこのオープニングを観た時点で本作との相性の良さを確信いたしました。そしてその確信は最後まで揺らぐことがなかった。
いちいち恐竜を映し出すタイミングと演出が最高なんですよね。暗い穴の奥からマグマとともにそのシルエットが浮かび上がるバリオニクスなんて「ジェイソンかよ!」って感じです。恐竜をロマンの対象として描くのではなく、神を気取った人の手によって造り出された悪魔の落とし子として描いた幻想ホラー作家バヨナの真骨頂。
それは大口開けて襲いかかる直接描写のスピード感、『インポッシブル』も真っ青のスケールで展開する大噴火のディザスター感、その危機を乗り越えるスリルと興奮、恐竜同士のガチンコバトル、崩壊する島の岸壁で悲しく吠えるブラキオサウルスのエモさなどにも発揮されており、すでにこの時点で彼の集大成と言ってもよい大盤振る舞い。
さらにはあえて規模を縮小化し、一軒の屋敷を舞台にしたゴシック恐竜ホラーへと突入した後半の展開は見事な逆転の発想で、デカけりゃいいってもんではないのです。ひとりの少女が見た悪夢のように展開するゴシック恐竜ホラー。バヨナがついに完全覚醒しやがったよ!
先鋭化するテーマ
しかしまあ大量のバカと無数の欠陥が頻出する「またかいなぁ」脚本は確かに問題あり。問題ありなんだけど、そんな穴だらけをものともしないバヨナの完全覚醒した巧みな演出と、とことんまで先鋭化したテーマが素晴らしくて、ボクはいつしか穴を穴とも思わない男に(by千鳥)。
それでは本作のテーマとはなんだったのでしょう?簡単に言ってしまえば「生命倫理」。って1作目からそうだったんじゃねーの!?という突っ込みも聞こえてきそうですが、娯楽の背後でツンツンと爪楊枝で刺してきていたものを、いっきに鋭利な刃物として頭上に振りかざしてきたという意味での先鋭化なのです。
夢、進歩、欲望、探求の名のもとに神の領域である生命の創造へと踏み込んだ人間たちの罪と罰。神を気取って生命をもてあそび、それを愛玩し、消費し、救済しようとする偽りの神の傲慢欺瞞。いつになく人と恐竜との距離が近いのはそれらを明確化するためなのでしょう。
オーウェンとラプトルとの家族のような絆。恐竜たちの悲劇に涙を流すクレア。恐竜オークション。ガラス越しに重なる少女とインドラプトル。これらに胸打たれたり、共感したり、ムカついたりするわけですが、そのすべてが人の傲慢であり、欺瞞であり、大きな罪なのです。
それは主人公たちとて例外ではない。彼らも行動と結果と無意識の是非を突きつけられ、自問自答の無間地獄へと叩き落されているわけですから。こんなものが老いも若きも明るく楽しく適度なスリルを味わえる『ジュラシック・パーク』であるはずがない!これは「ワールド」、『ジュラシック・ワールド』なのだ!
ようこそジュラシック・ワールドへ!
「パーク」ではなく「ワールド」となった理由がついに明らかとなる新世界の到来。自らの傲慢欺瞞による罪が招いた結果としての罰を受け入れたとも取れる、狂った新世界への突入。「ようこそジュラシック・ワールドへ」。ああ~なんと美しい響きであろうか。
そんな新世界への扉を開く鍵となったのが、ロックウッド財団の設立者ベンジャミン・ロックウッドの孫娘として登場する少女メイシー。彼女の秘密は勘のいい観客なら瞬間的に気づくでしょうが、やはりというかついに本シリーズはここまでたどり着いたのです。
後半はもう彼女の映画と言ってもいい、ゴシック恐竜ホラーという箱のなかで見る少女の悪夢とも思えるこれまたバヨナ節全開で、メイシーの部屋へと侵入してくる新たなハイブリッド恐竜インドラプトルの影なんて、まさに幻想ホラー作家J・A・バヨナの独壇場。
彼女とインドラプトル、そして恐竜たちとは対になっておるのですよね。だからこそガラス越しにその姿が重なり、彼女は自らの存在と未来に怯えて絶叫するのです。そんな彼女が新世界への扉を開いてしまうのは必然。誰がこれを止められ、非難できようか。
詰まるところ、人間とは後先考えずにその場の欲求どおりに行動してしまう生き物。我々は生まれつきリミッターが故障した欠陥品なのだ。底なしの欲望に従い、最後には自らの身体さえもむさぼり喰ってしまう怪物なのだ。その結果生まれるのが「無」なのか?新世界なのか?
クローネンバーグを敬愛し、古い価値観の崩壊による新世界の到来を夢想していたキチガイとしては、本作『炎の王国』のラストは歓喜以外の何ものでもありませんでした。ついに我々が常識としていたものが打ち壊され、世界の新しい扉が開かれた夢のような光景。
人の欲望は果てしなく、結果よりも行動を重視し、ひいては最悪の状況を現出させてしまう。その最悪の状況を、結果を受け入れる覚悟。しかし、その結果が必ずしも最悪だとは限らないのではないか?罪の結果が罰だとは決まっていないのはまさにこの世の不条理。
完結編となる『ジュラシック・ワールド3』でそれを肯定するのは危険きわまりないのでありえないとは思いますが、この新世界の到来に歓喜した者としてはしばしこの余韻に浸りたい。ボクたちの世界の終わりと、新たな世界の始まりを祝福したいのだ……。
個人的評価:7/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
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コメント
本レビューを拝読したのですが、映画のレビューに対して一字一句ここまで完全同意したのは生まれて初めてです。
私も、ジュラシックシリーズは全作観賞済みなのですが、部分的にすきな箇所等あれど作品全体として文句無しに面白いと思った作品はありませんでした。
そんなシリーズの最新作を、奇才バヨナが監督すると聞いて期待と不安で胸が一杯でしたが、私も筆者様同様に、序盤のインドミナスボーンの回収シーンで胸を打たれてからは躍った心が止まらなかったです。
後先を考えず、目先の欲求のまま行動してしまう人間という生き物が(1作目のセリフで言うなら“できるかどうか”が先行し“すべきかどうか”を考えなかったその結果)迎えてしまう新世界の幕開け。
「Wellcome to JURASSIC WORLD」の宣告が、あの俳優演じるあの人物によってなされるのもたまりません。
エンドロールの始まりとともにスクリーンに「Directed by J.A BAYONA」と映った瞬間になぜか私は号泣してしまいました(笑。
シリーズ断トツの最高傑作なのは間違いないですし、個人的には今年劇場で観た映画でもかなり上位に入るお気に入り作品になりました。
そんな作品の素晴らしいこのレビューがもっと多くの方に読んでもらえることを願っております。
たぐらぶさん、コメントありがとうございます!
本作はけっこう評価が割れており、ボクの観測範囲では「否」のほうが優勢でしたので賛同してただけてなんとも心強いです!やはりシリーズでもかなり異色の作品なので、これまでのシリーズに思い入れのある方には納得できない部分も多いのでしょうね。しかし逆に、これまでのシリーズに納得できない部分が多かった人間にとっては、、そういう不満を払拭してくれるそうとう突っ込んだ問題作であり、まあ評価が割れるのも致し方ないところもあるでしょう。
新3部作の中間に位置するつなぎの作品ということで、バヨナ自身も確信犯的にこのシリーズの可能性を広げるような世界観の継承と拡大と破壊を行っているようなかなり危なっかしいところがあり、こんな危ないバトンを渡されたトレヴォロウがどのように最終作をまとめるのか、正直、期待とともに不安も大きいです。シリーズの枠内に強引に収めるのか?それとも行き着くとこまで突き進むのか?そうとう無責任に危険なバトンを渡されたコリン・トレヴォロウの真価が問われるところでしょうね。
こちらの記事と、夜這いするインドラプトルのじれったい手つきの予告がなければ恐らくこの映画を観に行ってはいないでしょう。期待以上でした。
まず出し惜しみすることなく序盤からどんどん恐竜に暴れさせる(特に今回草食恐竜も活躍する)とこがいいですね、仰られる通りの「またかいなぁ映画」がホラー演出によって新しいものとして楽しめるのは予想外でした。
オープニングの雨のなかのレックス登場といい、土管から肉食恐竜が迫ってきたり、エレベーターをパチパチやったりと、この監督には詳しくないのですが照明を使った演出が特に素晴らしいなぁと思いました。
「神の意思とも言える自然生態系を弄んだその結果」、つまりこの記事で書かれてる生命倫理を描いた映画として最近ではポンジュノのオクジャがありましたが、信者の自分ですら物足りない!と思ってたので近いテーマを扱った今回の演出や地獄の幕開けには溜息すら出ました。
それにしてもクレアおばさんはホント美しいというより可愛いですね。自分より二周り以上年上なのに普通に萌えます。加えてクリスプラットの野生的でコミカルだけどヒーローのようなカッコ良さも素晴らしい。
このシリーズはそこまで好きではないんですが、このヒーローとヒロインのコンビなら何作作っても観れるような気がします。ってそれはお前の好みの問題だろ!
最後に・・・
恐竜オークションで慰めブルーたんの映像流してたらインドラプトルの何倍の値段がついていたのかちょっと気になりました。
わるいノリスさん、コメントありがとうございます!
この映画って前半と後半でガラリと映画の作風が変わるのですよね。島を舞台にした恐竜ディザスターパニックムービーとしてはまだ『ジュラシック』シリーズの残り香を感じさせるわりと陽性な恐竜映画でしたが、後半の展開に至っては完全なる恐竜ゴシックホラーですから。神を気取った人の手によって造り出されたモンスターの悲哀と恐怖を、より距離感を近くして描き出したバヨナのセンスにはやはり確かなものがあると思います。
J・A・バヨナという監督はわりと職人的にいろんな映画を撮っているのですが、家族の問題や成長を容赦のない残酷さのなかでエモーショナルに描きつつ圧倒的ビジュアルセンスで攻め立ててくるギレルモ・デル・トロ門下生であり、その才能はいよいよ本作によって花開いたという感じですかね?主役であるオーウェンとクレアにも難しい命題を突きつけてきているあたりが彼の真骨頂であり、明るく楽しくならないゆえんでもあるのですが。
しかしあのブルーたんの映像は反則ですよね。おじさんは泣いちゃいましたよ。こういう描写もバヨナの得意とするところだと思います。
子供の頃の恐竜大好き時代に見た一作目は夢のような世界で大好きでした。当時ニュースで琥珀の中の蚊と共に語られたDNA解析による恐竜復活の可能性という飛ばしにすら純粋にワクワクしたものです。
数年後の2以降はなんとなく惰性で見ており今回もそんな感じでしたが、これはなかなかワクワク面白かったです。緩急ありつつ割とテンポ良く進んだからかもしれない。
ただ、もう僕のティラノ先生は絶対王者じゃないんだなあというのはちょっと寂しい。サイズもビジュアルインパクトも。
最近忙しくて来れなかった間にたくさん記事が増えていて幸せ。
(눈_눈)さん、お久しぶりです!コメントありがとうございます!
ボクはガキの頃からひねくれ者のアンチスピルバーグでしたので、『ジュラシック・パーク』シリーズで一番好きなのはジョー・ジョンストンが監督した第3作目というおかしなガキでしたが、本作『ジュラシックワールド/炎の王国』だけは手放しで絶賛します。テンポという意味では前半と後半の2部構成になっているような演出が面白いですよね。テンポよくシリーズを踏襲していくような前半と、明らかにその枠をはみ出して暴走し出しているとも思える後半の展開。そして続編へと放り投げたあまりにムチャクチャな結末。ボクは好きです。そうとう好きです!
P.S. ホントはもっとたくさんの記事を書きたかったのですが、ボクのほうも本業が阿呆のような忙しさで思ったほど増やせなかったのが残念です。引き続き地獄の社畜生活を続行中ですので、更新のスピードはかなり遅いかと思われますが、何かの折にふと思い出したらいつでも遊びに来てやってください!