『ラ・ジュテ』感想とイラスト 君に会いに行くよ

映画『ラ・ジュテ』エチエンヌ・ベッケルのイラスト(似顔絵)
送迎台(La Jetée)で脳裏に焼きついた忘れられないイメージ。時を越え、男は記憶のなかの女とふたたび出会う。それは終わりの始まりであり、始まるための終わりでもあったのだ。

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作品情報

『ラ・ジュテ』
La Jetée

  • 1962年/フランス/28分
  • 監督・脚本:クリス・マルケル
  • 撮影:クリス・マルケル/ジャン・チアボー
  • 音楽:トレヴァー・ダンカン
  • 出演:エレーヌ・シャトラン/ダフォ・アニシ/ジャック・ルドー

参考 ラ・ジュテ – Wikipedia

予告編動画

Blu-ray『ラ・ジュテ デジタル修復版』1分CM

解説

第三次世界大戦によって廃墟と化したパリを舞台に、人類存続のために過去と未来へとタイムトラベルを重ねる男に焼きついた記憶を描いた異色短編SF映画です。

監督はヌーヴェルヴァーグでも特異な位置を占める『サン・ソレイユ』のクリス・マルケル。スチール写真のモンタージュによって構成された、「フォトロマン」と称される非常に特殊な作品であります。

元ネタとなったのはヒッチコックの『めまい』で、それは隔世遺伝としてテリー・ギリアムによるリメイク作『12モンキーズ』にも受け継がれております。本作に影響を受けた代表作としてはほかにゴダールの『アルファヴィル』、押井守の『紅い眼鏡』などが挙げられます。

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感想と評価/ネタバレ有

『ラ・ジュテ』観てみました。といっても先ごろ発売されたデジタル修復版によるBlu-rayではなく、以前に出たHDニューマスター版によるDVD鑑賞です。ずっと気にはなっていたものの未見でしたので、これを機に初鑑賞してみて気に入ったらBlu-ray買おうという算段です。

で、観てみた結論ですが、大枚をはたいてまでBlu-ray盤を買うほどではないものの、人生で一度は観ておくべき映画だと思いました。映画って、人生って結局はやったもん勝ちだよね、ってことがしみじみと理解できる野心作で、完全なる勝ち逃げ映画でありましたから。

止まった映画

第三次世界大戦後のパリ。核兵器の使用によって地上に住めなくなった人間たちは地下へと生活の場を移し、一部の戦勝者たちによる敗者の奴隷的な支配が行われていた。支配者たちは人類滅亡の危機を防ぐため、奴隷同然の敗者を使ってタイムトラベルの実験を試みる。

その目的は未来から必要物資を調達することにあったが、タイムトラベルが人体に与える影響は計り知れず、被験者はすべて廃人となるか死亡に終わった。そこで選ばれたのが過去の記憶に異様な執着を見せる男で、まず手始めに過去へと送られることになったのだが……。

時間と記憶をめぐるひとりの男の永劫回帰。始まりと終わりがきれいにつながった円環を表現するために、マルケルが採用した演出技法が“フォトロマン”なるもの。これは通常どおり撮影されたフィルムの一枚を切り取り、スチール写真の連続として映し出す特殊な技法。

つまりこの『ラ・ジュテ』には動画がないということ。白黒スチール写真のモンタージュにナレーション、心音、字幕も出ないささやき声だけで構成されたきわめて特殊な映画なのです。この『ラ・ジュテ』を観ると映画とはいったいなんじゃろな?と思いますね。

動画という運動を奪った先にあるひとつひとつのコマの力。映画における動画の絶対権力を奪ってもなんら損なわれることない映画的魅力。映画とは動いてなんぼという意見もあるでしょうが、静止していることによって喚起される心の動きもまた計り知れないのです。

この『ラ・ジュテ』の影響を受け、気づいたら止まっている映画の魅力に憑かれた監督が押井守なのでしょう。あえて止まることによって観客の意識を覚醒せしめる映画。魅惑的なスチールとスチールの行間は、観客が勝手に補完、補正して彼らのなかでの新たな映画を紡ぎ出す。

世界の中心で俺を叫ぶ

そういう意味では観客の意識、感性に委ねられた映画なわけですが、それでいて他者、つまりは観客が入り込む隙間を徹底的に閉じているのがこの映画のまた面白いところ。ある記憶に取り憑かれた男が見続ける永遠に目覚めることのない夢。言うなれば死人が見る夢。

先の大戦の記憶と、冷戦の空気感による核戦争後のディストピア化というプロットは平凡そのものですが、それをあくまでひとりの男の閉じた世界として描いた演出スタイルが画期的なのです。ここで描かれている世界とは彼の世界であり、ここで生まれ、ここで死ぬための世界。

男が少年期に見たと信じている、オルリー空港の送迎台(La Jetée)で出会ったひとりの女性とある男の死。まぶたの裏へと焼きついたけっして消えないイメージの囚われ人である男は、タイムトラベルの苦痛に耐え、恋い焦がれた記憶のなかの女との逢瀬を重ねるのです。

彼女の笑顔、顔にかかる髪、視線、寝顔、まばたき(この映画唯一の動画)、うなじ、すべてが美しい。しかしその美しさは果たして本当の美しさなのだろうか?劇中で語られた「自分が話しかけないとき彼女は死んでいる」という意味深なナレーションの意味とは?

男と女が出かけた剥製だらけの博物館。すでに死んでいる動物たちではあるが、スチールで映し出される彼らの姿は生きているときと変わりない。生きているように死んだ世界。死んだように生きる記憶の箱庭。永遠に回り続ける甘美な夢のグロテスクな心地よさ。

この手の考察系映画をレビューしたときの常として、すでに自分でも何を書いているのかよくわからなくなってきましたが、つまりは世界とは俺のモノだということ。世界も、時間も、彼女もすべて、俺のメモリーの一部。俺がここで生まれ、死ぬための一部だということ。

4000円はたけーよ!

シャープな白黒スチールの連続のなかで、俺が生まれ、死ぬことを繰り返す記憶の箱庭を、まるで死者の夢のように映し出した美しくもグロテスクな映画『ラ・ジュテ』。ほぼSF的なガジェットなど存在しない安い映画ですが、そんなものはなくてもSFは成立するのです。

むしろ「『With The Beatles』かい!」と突っ込んでしまうような未来人描写のほうが蛇足であり、この映画の世界観をやや壊してしまっていたのは残念なところ。過去の記憶へと耽溺するための布石として必要だったのはわかりますが、もろもろ含めてちょっと適当すぎたかも。

With The Beatles
EMI Catalogue

しかしラストのスチールの連続であることを忘れさせる切迫感と、終わりこそが始まりであったことを告げる記憶へと焼きついた彼女の顔は鮮烈そのもので、この顔へとふたたび到達するために男は時を越え、記憶を漂い、覚めることのない夢を見続けるのです。

時間と記憶をテーマに、あえて静止したスチールの連続によって構成された異色SF映画『ラ・ジュテ』。この特殊な演出技法に飽きる寸前で幕切れる上映時間も正解でしたし、何より誰もやらなかったことを真っ先にやったチャレンジ精神の勝利だとも言えるでしょう。

そんな実験精神あふれる芸術的野心作はやはりきれいな画質で観たいもの。大塚明夫氏の新録ナレーションが付いたBlu-ray盤で観たい気もするのですが、上映時間30分に満たないものに4000円を支払うのは正直腰が引けます。かと言って廉価盤が出るともとうてい思えない。

やっぱりボクはBlu-ray盤購入はスルーですね。でも本当に人生で一度は観ておくべき映画だと思いますよ。特にこれを原案としたギリアムの『12モンキーズ』が好きな方は是非ご鑑賞を。『めまい』→『ラ・ジュテ』→『12モンキーズ』と進めてみるのもまた一興かと。

個人的評価:7/10点

DVD&Blu-ray

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スパイクロッド

映画を観たらとりあえず感想とイラストを書く(描く)人畜無害な釘バット。ちなみにイラストはぺんてるの筆ペン一本によるアナログ描き。

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