科学の暴走によって生まれた悲運の超能力者たち。非情な運命によって戦うことを余儀なくされた彼ら。その勝敗の行方は我々の未来をも左右する。世界が変わる時。新人類の誕生じゃ!
作品情報
『スキャナーズ』
- 原題:Scanners
- 製作:1981年/カナダ/103分
- 監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
- 撮影:マーク・アーウィン
- 音楽:ハワード・ショア
- 出演:スティーヴン・ラック/ジェニファー・オニール/マイケル・アイアンサイド/パトリック・マクグーハン/ローレンス・デイン
予告編動画
解説
科学の暴走によってこの世に生を受けた、他者の脳内をスキャンしてコントロールする超能力者(スキャナー)たちの孤独感と戦いを描いたSFスリラーです。
監督はこの作品の全米大ヒットによっていよいよ世界へと飛び出したカナダのド変態デヴィッド・クローネンバーグ。特殊メイクを担当したのは『エクソシスト』『タクシードライバー』などで名高いディック・スミス。
主演は『戦慄の絆』のスティーヴン・ラック。共演は「カナダのジャック・ニコルソン」ことマイケル・アイアンサイド、『超高層プロフェッショナル』のジェニファー・オニール、伝説的テレビシリーズ『プリズナーNo.6』のパトリック・マクグーハンなど。
本作の大ヒットを受けてシリーズ化し、計5作が作られておりますが、クローネンバーグはかかわっておりませんので無視してくださって結構です。事実ボクも観ておりませんから。
感想と評価/ネタバレ有
先日75歳の誕生日を迎えた我が心の師クローネンバーグの出世作『スキャナーズ』。リストア版のBlu-rayを手に入れたこともあって久々に鑑賞してみましたが、サイキックバトル映画の礎でありながら、後続作品とは一線を画すどこを切ってもクローネンバーグ印の怪作。
こんな怪作が全米1位を記録した理由は、やはりみんな大好きハゲ頭ぼっかんデロデロのお祭り騒ぎにあると思うのですが、「祭りだ祭りだワッショイワッショイ」とただ浮かれるだけではない本作の真の魅力を、本日は血管もりもりさせながら解説してみたいと思います。
異端者の孤独
要人警護の国際的警備保障会社コンセック。超能力の利用を推し進めていた同社の研究所へと運び込まれた浮浪者のカメロン。責任者のルース博士の言によると、カメロンも超能力者(スキャナー)のひとりであり、その力が必要になったのだと告げられる。
カメロンに与えられた任務とは、反社会的なスキャナーを結集して世界を塗り替えようと画策する凶悪スキャナー、ダリル・レボックの殺害にあった。レボックの居場所を探るために行動を開始したカメロンだったが、その過程で彼は思いもよらない事実を知ることとなる……ってのが簡単なあらすじ。
善と悪のスキャナーが激突するサイキックバトルアクション!現代にこの映画を再現するならおのずとそうなるでしょう。しかしクローネンバーグはそんなものに興味はない。興味があるのは異端者の孤独と、肉体と精神の変容、そして異なる存在との結合による新世界の到来。
いつもどおり冷たく寂しいカナダの景観を背景に繰り広げられる、普通からはじき出された哀しき能力者たちの孤独と戦い。主人公のカメロンは初登場時からすでに社会でゴミのように扱われる狂人であり、彼の生気のない顔面はまさにこの世界の住人ではないあかし。
抑制できないスキャナーの能力は常に頭のなかを他者の思考が駆け巡っているような塩梅で、その異常性を群れとしての人と対比させたシーンにおける彼らの視線は、冷たく残酷に彼らとカメロンとの境界にまっすぐな線を引きます。「貴様は人間ではない」と。
それは彼がレボック捜索の過程で出会ったほかのスキャナーにしても同様で、人体彫刻によってギリギリ正気を保っているピアス、怪しい自己啓発セミナーのような連帯で孤独感を癒すキムの組織、そしてレボックも自己と他者の破壊によって自我を保つ哀れな能力者のひとり。
頭部破壊はクローネンバーグ印
そんなレボック初登場シーンはやはり映画史に残る芸術は爆発だ!超能力による人体大爆発といえば1978年の『フューリー』が有名ですが、あちらのケレンミに対してこちらは瞬発的な質実剛健さで、どちらも好きですがてらいのないクローネンバーグのほうがやや優勢か?
上の動画は少々刺激が強いのでビギナーの方は回避したほうが賢明かと思われますが、ここで重要なのはハゲの頭部は内側から破裂しているということ。ゆえにデロデロ。レボックによって脳内をスキャンされたハゲは、内側からそのハゲ頭をデロデロと破壊されておるのです。
つまりは精神への侵入と肉体の変容。これぞまさにクローネンバーグ印!レボックの額に開いた穴ぼこもその変奏であり、彼とカメロンとの最終決戦もまたしかり。派手な能力を駆使して天地を揺るがすサイキックバトルなどというものには一片の興味もないのであります。
確かに予算と技術と時代の都合もあるでしょうが、それ以上にクローネンバーグが描きたかった超能力者同士の戦いとは、精神と精神がぶつかり合う内的な対立であり、それによって引き起こされる外部、つまりは肉体の変容、あるいは破壊だったのだと思われます。
科学がもたらす変化
そんなスキャナーたちの能力を一時的に抑える薬エフェメロル。エフェメロルとレボックとのつながりを知ったカメロンは、コンセック内にレボックの内通者がいることを突き止め、事態はいよいよ混迷の度合いを増し、整合性は崩れ、ルース博士は意味不明に壊れてゆきます。
ルース博士が発明した新薬エフェメロルと、それに興味をもったコンセックによるライププロジェクト。もともとは妊婦用の睡眠薬として1946年に発売された新薬だったが、実は副作用があり、これを服用した妊婦の胎児は突然変異でスキャナー化していたというわけ。
科学・医療の暴走が人体へと影響を及ぼすという設定は、サイエンス小僧であったクローネンバーグらしいリアリティのある設定で、かなりの突貫工事であった脚本の杜撰さをわずかながら救っております。それでは科学の暴走によってもたらされた変化は悲劇なのか進化なのか?
このへんが混沌としている常識を超えたクローネンバーグの思考こそが魅力であり、不可解であり、興味深い謎なのであります。科学の暴走によって生まれた悲劇の子。彼らに与えられた新たな能力とそれによる孤独。それはいったい幸福なのか不幸なのか?
兄弟スキャン合戦
その答えはついに対峙したカメロンとレボックとの最終対決によって、ややわかりにくく提示されております。レボックに捕まったカメロンとキム。彼の拠点でエフェメロルとライププロジェクトの真実を聞かされたカメロンは、レボックから共闘を持ちかけられます。
レボックの野望とは、秘密裏にばら撒かれたエフェメロルによって大量のスキャナーを生み出し、彼らを従えて世界を塗り替えようという壮大な狂気の沙汰。そんな世界を転覆させる革命の右腕として俺のもとに来い!我が愛すべき弟よ!という衝撃のラブコール。
そう、実はレボックとカメロンは兄弟で、父親であるルース博士の実験によりエフェメロルを投与された最初のスキャナーだったのです。しかしカメロンはレボックの誘いを「お前は父親と同じだ」として断ります。業を煮やしたレボックはカメロンをスキャンして取り込もうと。
ついに始まる兄弟間の熾烈なスキャン合戦。現代のサイキック映画ならここで飛んだり発射したりの派手なエフェクトが展開されるのでしょうが、前述しましたとおりクローネンバーグはそんな見せかけに興味はありません。あるのは内的対立と外的変化。
ゆえに両者は必死の顔芸で緊迫の精神的対決をむぎぎぎぃんぐぅと表現し、その衝突の結果として血管もりもり、白目むきむき、内臓どろどろ、血液ぴゅうぅぅ、生皮ぼろりん、眼球びちょん、人体発火だんごおぉぉおおぉという外的変化を演出して勝敗不明のまま暗転します。
勝敗の行方
はたして勝ったのはどちらなのでしょう?目を覚ましたキムが兄弟対決の行われていた部屋に入ってみると、そこには苦悶の表情を浮かべる一体の焼死体が。カメロンは死んだのか?と思った矢先、部屋の隅から彼女を呼ぶ声が聞こえ、「僕だよ、カメロンだ」と答えます。
しかしその姿はレボックそのもの。違うのは額の傷痕が消えていることと瞳の色。「僕たちは勝った、勝ったんだ…」とやさしく微笑むレボック(カメロン?)。そして画面はホワイトアウト。なんとも意味深な終わり方であり、この薄気味悪い幸福感にはゾクゾクします。
単純に考えると逆にカメロンがレボックの体を乗っ取り、レボックはカメロンの体内で焼死したと解釈できるでしょう。ではなぜ「僕」ではなく「僕たち」の複数形なのか?これはカメロンとキムを指しているとも思えますが、ボクの解釈では違います。
この映画の勝者はカメロンとレボックだ!彼ら兄弟は熾烈なスキャン合戦の過程で高度な精神融合を果たし、新たな個体として生まれ変わったのです!ゆえに「僕」という一人称は消え去り、「僕たち」という新たな概念を獲得した新人類誕生の瞬間!ハッピーバースデイ!
とまあ浮かれ踊っておりますが、これが世界にとっての幸福なのか不幸なのかは正直わかりません。これから誕生してくる数万を超えるスキャナー新生児。彼らの指導者となる新生カメロンは世界をどう塗り替えるのか?その未来の不透明さにこそゾクゾクしてしまうのです。
ゾクゾクすると言えばマイケル・アイアンサイドの爽やかな微笑で幕を閉じたことも関係しているでしょうね。あれだけ凶悪な顔芸で場を支配していた彼の、まるで憑き物が落ちたようなやさしい笑顔でホワイトアウト。ああ~薄気味わりぃ!ゾクゾクするぅ!抱いてぇぇ♡
個人的評価:8/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
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コメント
有名な顔面破裂シーンは「そろそろ破裂来るな」と分かっていても強烈でした。
ラストの兄弟バトルでの目玉ボローンには声が出ました。
工房シーンの美術もアイアンサイドの芝居も良かったです。
アメコミ映画もこれくらい面白かったらいいのですが。
おーい生茶さん、コメントありがとうございます!
あのハゲ頭大爆発は確か最初の構想ではオープニングに持ってくる予定だったんですよね。でも刺激が強いとかなんとかであの位置になったとか(違ったかな?)。構成としてはあれで正解だったと思いますね。あそこにあのふがふが大爆発があることによって映画が締まっていると思います。比較的地味なサイキックバトルが展開される作品ではありますが、やはりクローネンバーグ特有の世界観が秀逸なんですよね。マイケル・アイアンサイドも最高!これを現在のアメコミ映画に求めるのは無理ってもんですわ!