昔も今も変わらずに美しいと思うロビン・ライト。彼女の女優としての失敗は、名前の末尾に「ペン」を付けてしまったこと。その最悪の選択のせいで監督やモロ出し俳優からイジメられ三昧。ああ~参加したい!
作品情報
『コングレス未来学会議』
כנס העתידנים/The Congress
- 2013年/イスラエル、ドイツ、ポーランド、フランス、ベルギー、ルクセンブルク/120分
- 監督・脚本:アリ・フォルマン
- 原作:スタニスワフ・レム
- 撮影:ミハウ・エングレルト
- 音楽:マックス・リヒター
- 出演:ロビン・ライト/ハーヴェイ・カイテル/コディ・スミット・マクフィー/ポール・ジアマッティ/ダニー・ヒューストン/ジョン・ハム(声)
予告編動画
解説
現実と自分の不確かさのなかで母はついに息子を取り戻すというラリラリパッパーなカルトSF映画です。原作はスタニスワフ・レムの『泰平ヨンの未来学会議』。『惑星ソラリス』の原作者として有名なポーランドの作家です。
監督は『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン。主演は『ブレードランナー 2049』のロビン・ライト。共演に『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』のハーヴェイ・カイテル、『コズモポリス』のポール・ジアマッティ、『モールス』のコディ・スミット=マクフィーなど。
あらすじ
2014年のハリウッド。難病の息子(コディ・スミット・マクフィー)を抱える落ち目の女優ロビン・ライト(本人)は、大手映画会社ミラマウントから全身スキャンのオファーを受ける。
これは生身の俳優の姿をデジタルデータ化し、絶頂期の姿のままで複数の映画に使用できるという独占契約であった。しかしそれと引き換えにロビンは今後いっさいの女優活動が禁止されるという。悩んだ末に彼女は契約書にサイン。多額の契約金を得て芸能界を引退する。
20年後。若さを保ったロビンのCGキャラクターは絶大な人気を博し、それは一種のカリスマと化していた。かたや本当のロビンは60代の老女となっていたが、そんな彼女のもとにミラマウントから「コングレス未来学会議」への出席が求められる……。
感想と評価/ネタバレ多少
変な映画を観てしまった。そして凄い映画を観てしまった。こういう変で凄い映画は大好物だというのに、その変で凄いところをきちんと言語化できない自分の低能が腹立たしい。なんとかならんかこの頭。
バカだから感想書くのや~めた。と開き直って鼻クソほじっててもバカは永久に回復の兆しを見せないので、バカはバカなりになんとかこの映画的興奮を言語化しようと只今パソコンの前に正座した次第。さてさて、ちゃんと伝わる文章を書けるかな?
重層化された女優
いきなりモロ出し俳優ハーヴェイ・カイテル演じるマネージャーから、こんこんと人格否定されるロビン・ライト演じるロビン・ライト。なんかややこしいですが、女優ロビン・ライトが自分自身を演じているというわけです。
ロビン・ライトが女優ロビン・ライトを演じ、映画のなかで女優ロビン・ライトとして演技をする。なんとも重層的なややこしい話ですが、映画を通して映画について語り、現実と虚構の関係なんかも描いておるわけで、そりゃ複雑で重層的で難解にもなりますわな、こりゃ。
冒頭からいつもモロ出しの自分は棚に上げてロビンにきっつ~い説教をかましているハーヴェイ。いわく、「お前はいつも最悪の選択ばかりしてきた」。落ち目の女優になんたるきっつ~いお言葉。
現実のロビンもはっきり申しましてそのとおりなわけでして、ここでも重層的な嫌がらせというか構造が苦笑いとともに浮かび上がります。そしてこの「最悪の選択」という言葉がこの映画のキー。この映画におけるロビンを象徴する言葉として最後まで貫かれておるのです。
ハリウッドの未来は明るいか?
この映画でロビンが犯した最初の最悪の選択。それはミラマウントに自身のデータを売っぱらってしまったこと。これは映画の未来、というよりかはハリウッドの現在進行形の未来をコケにしておるわけですな。
もはやCGによってすべてが再現可能になりつつあるハリウッド。ここで必要とされるのはキャラクターとしての「顔」であり、俳優としての「顔」ではない。俳優不要論。これからの映画にもはや俳優は不要であり、必要とされるのは会社の思惑によって自由自在に動かせるキャラクターというわけ。
これまでも会社の、監督の、観客の望む演技を君はしてきただけなのだから、はなから君に自由意思などというものは存在しない!だからさっさとサインしやがれこのクソババア!と、詰めに詰め寄られて最悪の選択としてサインをしてしまうロビン。
この俳優スキャンによって作り出された映画の底抜けの薄っぺらさが、なんとも皮肉で面白いのですよね。ブッシュ親子をこれまたコケにしたクソコメディに、CGロビン主演の人気SFシリーズ『エージャントR』。どちらもクソしょうもなさそう。
最先端の技術を駆使して作られたハリウッド映画のクソしょうもなさ。そしてそれをカリスマ化してありがたがる民衆。ガチで喧嘩売ってますね。だからアメリカ以外の国からお金集めて作ったわけだ。そりゃハリウッドが金出すわきゃないわな。
驚愕の映像トリップ体験
全身スキャンを受け入れてから20年。ロビンは契約更新のためにミラマウントから「コングレス未来学会議」に招待されるのですが、会議が行われるアブラハマシティはすべてがアニメ化される世界。こっからのアニメパートが超絶凄いのです!
『ベティ・ブープ』や『ポパイ』で知られるマックス・フライシャー的ないわゆるグニャグニャした動きのアニメーションなのですけど、これがすこぶるポップで奇怪で気持ちが悪い。つまり最高。自由すぎてついていけない。
本来は自由であるべきアニメーションがどんどん現実に縛られていくなか、ひたすら自由なアニメーション描写を突きつめながらも、それがあくまで現実と地続きであるということを示した驚愕のアニメパート。凄すぎます!
あまりの情報量の多さと、現実と妄想が複雑に入り乱れる複雑怪奇な世界観。ちょっと気を抜くともう完全に置いてけぼり。置いてけぼりに怒るのか?ポカ~ンとするのか?それとも置いてけぼりを楽しむか?
ドラッグトリップ的な、というかまんまドラッグトリップな映像世界の洪水に翻弄されて、その意味を正確に理解できたなどとはとても申せませんが、ボクはこの置いてけぼりを心底楽しんだ。こんな強烈な映像体験はそうそうできませんぜ!
最後の最悪の選択
自分を自分たらしめているものとはなんなのか?そもそも現実とはなんなのか?現実と虚構の違いとは?虚構もまた現実のひとつなのでは?な~んて押井守的な哲学問答を足りない頭で身の程知らずに考えてしまう。ホントに凄い映画です!
60代の老女の自分。若い姿のままでスクリーンで活躍する自分。自分の姿を模した他人。アニメキャラクター化した自分。どれが本当の自分で、自分とはいったいなんだったのかよくわからなくなっていくロビン・ライト。そんな彼女に残された最後のよりどころは、もういちど息子アーロンに会いたいという切実なる想い。
常に「最悪の選択」をしてきた彼女は、この映画のラストでも性懲りもなく「最悪の選択」をしてしまいます。一見すると何が起こったのかよくわからない、これまたいかようにも解釈可能な多義的なオチでして、最後の最後まで置いてけぼりです。
この置いてけぼりに対するボクなりの解釈を簡単に述べさせていただきますと、母の狂気の愛、またはゆがんだ愛、となりますでしょうか。それが最悪の選択だったのか最良の選択だったのかは意見が分かれるところでしょう。
ただこの選択に救いがあったのは、狂気であろうがゆがんでいようが、そこには厳然とした「愛」があったということです。
う~む、結局のところまだよく咀嚼しきれていないのですけど、とてつもない映画体験であるということだけは保証できます。好きか嫌いかは別にしてね。とりあえず、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』がまた観たくなってしまった!
個人的評価:9/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
『コングレス未来学会議』が観られる動画配信サービスはTSUTAYA TV、U-NEXT、。おすすめは毎月もらえるポイントによって視聴可能なTSUTAYA TV(2018年12月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。
コメント
ご無沙汰してます!
いやはや、確かに80年代の押井守のオマージュを観ているような…。
また、非常にディストピア映画でもありました。クスリで仮想現実に溺れる未来のアメリカ社会。貧困大衆がトリップして、退廃した街の光景は…。ネット廃人ならぬネット廃国家…(笑えない)。
なかなか凄い映画体験でした。
PS
不謹慎かも知れませんが、インフルエンザの時は「復活の日」を観て過ごします。
ハリーさんお久しぶりです。コメントありがとうございます!
押井守の描く夢にはどこか艶っぽさがあるというか、『ビューティフル・ドリーマー』なんて謳っているぐらいだからある意味では美しい夢だったりするのですけど、この『コングレス未来学会議』の描く夢はもっと乾いているというか、非常にシニカルなのですよね。まあ結局のところ現実社会の生き写しなわけですから、そらグロテスクにもなりますわな。アニメパートから実写パートへと戻った瞬間の退廃感にはたまらんものがありました。
実は『復活の日』は観たことがありません。深作欣二のSFなら観てみたい気も?ようやくインフルエンザも治りましたので、これからはドシドシ更新していきたいと思います。