『ヴィデオドローム』感想とイラスト 変態が切り開く新世界

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映画『ヴィデオドローム』ジェームズ・ウッズのイラスト(似顔絵)
希代の変態映画監督が描く夢のような新世界の到来。肉体の死は終わりではなく精神の生の始まり。鳴り響く祝福のファンファーレ。ヴィデオドロームに死を!新人間よ永遠なれ!

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作品情報

『ヴィデオドローム』
Videodrome

  • 1983年/カナダ/87分
  • 監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
  • 撮影:マーク・アーウィン
  • 音楽:ハワード・ショア
  • 出演:ジェームズ・ウッズ/デボラ・ハリー/ソーニャ・スミッツ/レス・カールソン

参考 ヴィデオドローム – Wikipedia

解説

人ではない何か別のモノと融合して怪物へと変異するのは進化であり、この上ない喜びであると思うような思わないような。つまりは何がなんだかよくわからない完全無欠のカルトSFホラーであります。

監督は我が心の師である『戦慄の絆』のデヴィッド・クローネンバーグ。主演は『ヴァンパイア/最期の聖戦』のジェームズ・ウッズ。共演はロックバンド、ブロンディのボーカリストとして知られるデボラ・ハリー。

撮影監督は初期の盟友マーク・アーウィン。音楽を担当するのはいまも盟友のハワード・ショア。特殊メイクは『狼男アメリカン』でオスカーを獲得し、最も勢いがあった頃のリック・ベイカー。CG全盛のいま観ても凄い!

あらすじ

性と暴力を売りにしたカナダのケーブルテレビ局“CIVIC-TV”の社長マックス・レン(ジェームズ・ウッズ)。さらなる刺激的な映像を探し求める彼のもとに、“ヴィデオドローム”なる正体不明の海賊番組の存在が知らされる。

それには話の筋らしきものはなく、拷問と殺人が延々と繰り返されるだけの映像だったが、マックスはその生々しい迫力に魅了されてしまう。夜な夜なヴィデオドロームの鑑賞にいそしむ彼と恋人のニッキー(デボラ・ハリー)。

そんなある日、「ヴィデオドロームに出演したい」と言い残して姿を消したニッキー。なんとかヴィデオドロームの正体を探ろうと、映像の生みの親とおぼしきオブリビオン教授(ジャック・クレリー)への接触を試みるマックスだったが……。

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感想と評価/ネタバレ有

全米スマッシュヒットを飛ばした前作『スキャナーズ』の成功により、紙切れ一枚の企画書によってイケイケで製作されたという本作。しかし、完成した映画は希代の変態デヴィッド・クローネンバーグの面目躍如となる難解不快わかんない。

当然のごとく興行は製作費の半分も回収できない大惨敗に終わりましたが、ビデオ化と同時にカルト化し、『ヴィデオドローム』に毒された“新人間”を多数製造。世代的に後追いとなりますが、ボクもまたその“新人間”のひとりなのであります。

これはエンターテインメントだ!

最初にこの映画を観たとき、頭の悪いボクには何が何やらさっぱり理解不能でした。しかし繰り返し観てしまう中毒性がこの映画にはある。観るたびに新たな発見があり、印象が変わり、謎が深まり、「わかった!」と思った途端に足元をすくわれる。

つまり今回の鑑賞でもわかったようなわからないような。まあ監督本人ですら「自分でもよくわからん」と申しておりますので、他人にわからんのは当たり前。監督自身ですら深層をつかみかねる難解さがやはり最大の魅力といえるこの映画。

では難解さが売りの芸術映画なのでしょうか?確かにそういう面も多分にありますが、ただそれだけではない奇抜なSF的アイデアと、なんともいえない怪しいエロティシズムと、グロテスクな内臓表現が詰まった珠玉のエンタメ作でもあるのです。

あえて断言してしまおう。「これはエンタメ作だ!」と。センス・オブ・ワンダーな設定のなかで、ひとりの男が愛液と汚物と臓物にまみれながら新たなステージへと進むハッピーエンドな物語。誰がなんと言おうとこれはエンターテインメントだ!

マシンと交わるエロティシズム

娯楽に必要不可欠な要素。つまりはエロ。浅くても深くてもエロは必要不可欠。ではこの『ヴィデオドローム』のエロ具合はどうだろうか?実は意外にも直接的描写はソフトなのです。だいたいデボラ・ハリーが乳首を見せぬとは何事か!その手をどけんかい!

なんて感じのソフトSM描写にとどまっておるのです。しかし、それでもこの映画はすこぶるエロティック。何がエロいって、機械が、内臓が、雰囲気が、映像が、何から何まで怪しくいやらしいの!うふ~んクローネンバーグ師匠はやっぱり変態の神だ!

日本製ポルノ『サムライ・ドリームズ』はとりあえず置いといて、マックスとニッキーが初めて過ごした夜のクールな怪しさから始まり、脈打つビデオテープ、マックスを誘うテレビ、機械と人体との交接、融合、赤い部屋、打ちつけられる鞭etc.

マックスの自室で、赤い拷問部屋で、現実で、幻覚で繰り広げられるひたすらクールで、怪しく、気持ちが悪い、イメージとしての性行為。直接的ではないメタファーにあふれておるからこそ、これらはギンギンにエロいのです。

白眉はマックスの腹部に開いた女性器を想起させる割れ目に、脈打つビデオテープを、そして男性器の象徴である銃をグリグリと突き入れる描写でしょうね。気持ち悪いと思うかもしれません。ボクも思います。でも同時にとてつもなくエロいのです。

のちにクローネンバーグは『クラッシュ』という車と交わる人間の姿を描いてましたが、こちらはテレビと、ビデオと、銃と交わる人間。つまりはマシンとの融合。これをエロいと感じるかどうか?感じたあなたはもう立派な変態の仲間入り。ようこそ。

抗しがたい暴力の魔力

エロとともに人を惹きつけてやまないもの、それは暴力。「あたしゃ暴力なんて大嫌いよ!」と言う人もおられるでしょう。同感です。ボクも大嫌いです。でもそれは現実においての話。フィクションの世界においては暴力大好き♡

それは大なり小なり皆同じはず。だからこそこの世界には作り物の暴力があふれ、娯楽として享受、消費されまくっているのです。この映画の主人公マックスも同じ。現実的に暴力を愛好しているわけではないが、どうしようもなくそれに惹かれてしまう。

恋人ニッキーの耳にピアスの穴を開けるシーン。彼女が自分の乳房にタバコの火を押し付けるシーン。ここでのマックスの反応は暴力を志向している人間のそれではありません。しかし、『ヴィデオドローム』に初めて触れたときの彼はあきらかに興奮していた。

商売になるから?確かにそれもあるかもしれませんが、もっと大きいのは抑えがたい興味と興奮。現実に暴力を志向している人間ではないが、映像を介した作り物とも本物ともつかない暴力には魅了されてしまう人間の性。タブーに対する危険な憧れ。

実は希代の変態監督クローネンバーグも一緒。現実的行為としての変態を志向している人間ではなく、健全なる脳内変態。最も正しい変態としての在り方。つまりはこの映画の主人公マックスはクローネンバーグ自身の投影なのであります。

主演のジェームズ・ウッズの風貌もクローネンバーグにそっくり。っていうかクローネンバーグが起用する役者はみんな彼にそっくり。監督自身の風貌、思考、フェティシズムを投影された主人公。これはクローネンバーグ自身を描いた映画なわけです。

変態の深層

監督自身もつかみかねる自己の深層を投影させた映画。そんなものが他人に理解できるわけがありません。しかしこの映画をじっくりと観察することにより、クローネンバーグという変態監督の断片なら覗き見ることができます。

エロとグロは言うに及ばず、マシンへの偏愛、周囲と適合できない疎外感、無神論者、変化と進化の渇望、混沌と革命への期待、現実への不信、破壊願望など。なんだか危ない深層ばかりですが、安心してください。あくまで脳内変態ですから。

それではクローネンバーグは本気ではないのでしょうか?もちろん本気です。彼にとっては現実も妄想も空想も同じ。すべてが現実であり、ヴァーチャルである。ただ世の中そんなに甘くはないということです。やはり異端は排除される運命にありますから。

危険な思想や変態性は脳内でとどめておくのが賢いやり方。他人や社会に迷惑をかけてはいけませんからね。ただクローネンバーグは芸術家である以上、生あるかぎり毒電波を発信し続ける。我々はそれを受信し、新たな世界の到来を待ち続けるのです。

ヴィデオドロームに死を!

結局のところこの『ヴィデオドローム』という映画はいったいなんだったのだろうか?謎のスナッフビデオに取り憑かれた男が、そのビデオの力により脳腫瘍をわずらい、腫瘍の影響によって現実と幻覚の境界が曖昧になっていく。

それを仕組んだ犯人は保守的伝道師で、主人公を洗脳して“ヴィデオドローム”の拡散を計画していたのだが、新たな知覚を得た主人公の覚醒によって倒され、彼は次のステージへと進むために自らの頭を銃で撃ち抜く。

要約するとこんな話なわけですけど、要約したところでなんのこっちゃわかりませんね。ボクなりのネタバレ解説、解釈を述べさせていただくと、これはクローネンバーグ自身の闘争の記録と、人体の拡張、変革を描いた映画だったのではないでしょうか?

エロとグロと危険な思想をまき散らす映画作家が余儀なくされた、旧態依然とした保守派との対決。それを下敷きに、クローネンバーグが求める変革と、人間の進化を描いた映画。テレビと融合することにより、人の脳は、知覚は拡張される。

これを現在のネット社会と照らし合わせたら理解が早いでしょう。つまりはあまりにも早すぎた傑作だったということ。もはやすべての現実は妄想と盲信の集合体でしかない。要はあなたはどちらの側に付くのか?はるか以前から戦争は始まっていたんだ。

さあ!ともに叫ぼうではないか!「ヴィデオドロームに死を!新人間よ永遠なれ!」

個人的評価:9/10点

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コメント

  1. ミス・マープル より:

    かなり前に見ましたが、まさに「意味不明」の映画でした。
    カナダで公開されたものの、難解過ぎて客が入らず、製作費の半分も
    回収できなかったというのもすごく納得。

  2. スパイクロッド より:

    ミス・マープルさんコメントありがとうございます!
    この映画を初見で理解できたなんて人はおそらくいないでしょうね。ボクも何度も観て、解説を読んで、ようやく少し理解できたかな?と思った途端に足元をすくわれる。そんな映画だと思います。ただ理解はできなくてもハマってしまったら一生抜け出せない。やはりデヴィッド・クローネンバーグはボクの永遠の心の師です。

  3. ダムダム人 より:

    この作品を知ったのはその頃発売していた、ビデオソフトを
    紹介する雑誌でした。
    記事を書いた人はものすごいクローネンバーグファンで
    彼の作品の公開率が低い事を嘆き、「なんで彼の作品をもっと公開しないんだ
    配給会社の人間くたばれー!!」と熱くなっていました。
    **その時、取り上げていたのは「ステレオ」「クライム・オブ・ザ・フューチャー」あと「ファースト・カンパニー」でした。**
    この映画ってカナダの電気会社が税金対策で作ったと言う話を聞いたことありますが
    本当でしょうか??
    この作品を見たのは1985年で「欧日協会ユーロスペース」が
    前の場所にあった時でした。
    ちょっと遅れたので頭の数分は見落としましたが…
    やはり一度だけでは、難解で後になってビデオソフトを手に入れて
    何度か見てようやくテーマが判るようになりました。
    当初、ビデオテープをVHSにするつもりだったそうですが
    大きいためベーターにしたそうです。
    でも、今にしてみるとマニアックな仕様が多いベータにして正解だと思います。
    (かく言う私も基本はベータでした。レンタルビデオみるために泣く泣くVHSも
    買いましたが…)

  4. スパイクロッド より:

    ダムダム人さんコメントありがとうございます!
    ボクはこの映画が日本で初公開された当時はまだまだお子ちゃまでしたので、もっとストレートなグロゲチョ映画の『死霊のはらわた』なんかを好んで観ておりましたね。まあそんな映画を好んで観ている小学生もかなり危ない奴ですけど(笑)。というわけで、この『ヴィデオドローム』を観たのはかなりあとになってからなのですけど、決定的にクローネンバーグを心の師とあがめるきっかけになった作品と言ってもいいでしょうね。何が何やらわからぬものの、とてつもない衝撃を受けたのを今でも覚えております。ですのでそのライターさんの気持ちは痛いほどよくわかりますね。現在でもクローネンバーグの初期作品は視聴困難ですから。
    電気会社がどうだったかは定かではありませんが、当時のカナダでは国産映画に出資すると税金を免除してもらえるという法律が存在したらしく、資産家たちはこぞって映画への出資を行っていたようです。この『ヴィデオドローム』もそういう恩恵のもとに製作された映画のようですが、完成した映画を観た出資者たちはきっと血相を変えたことでしょうね。「なんだこれは!???!?」と(笑)。