『何がジェーンに起ったか?』感想とイラスト 白くぬれ!

映画『何がジェーンに起ったか?』ベティ・デイヴィスのイラスト(似顔絵)
みんなのアイドル、ベイビー・ジェーン・ハドソン。長い沈黙を破り真っ白い砂浜へと舞い降りた白塗りの天使。私が勝者だ。私こそがスターだ。すべてを白く塗りつぶせ!

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作品情報

『何がジェーンに起ったか?』
What Ever Happened to Baby Jane?

  • 1962年/アメリカ/134分
  • 監督:ロバート・アルドリッチ
  • 原作:ヘンリー・ファレル
  • 脚本:ルーカス・ヘラー
  • 撮影:アーネスト・ホーラー
  • 音楽:フランク・デ・ヴォール
  • 出演:ベティ・デイヴィス/ジョーン・クロフォード/ヴィクター・ブオノ/アンナ・リー/メイディ・ノーマン

参考 何がジェーンに起ったか? – Wikipedia

予告編動画

解説

人気子役から凋落し精神を病んだ妹と、成長して大女優になりながらも事故で車椅子となった姉。ともに老年へと差し掛かった姉妹の長年の愛憎劇の果てを描いたサイコスリラーです。

監督は『傷だらけの挽歌』『カリフォルニア・ドールズ』のロバート・アルドリッチ。主演は同系統の作品『ふるえて眠れ』でもアルドリッチと組んだベティ・デイヴィスと、狂気の虐待女として名高い『大砂塵』のジョーン・クロフォード。

低予算ながら興行・批評ともに大きな成功を収めた本作は、第35回アカデミー賞で主演女優賞、助演男優賞、撮影賞(白黒)、衣装デザイン賞(白黒)音響賞の5部門にノミネートを果たし、見事に衣装デザイン賞でノーマ・コックがオスカーに輝いております。

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感想と評価/ネタバレ有

往年の名女優ふたりを競演させ、低予算ながら大ヒットを飛ばしたアルドリッチの『何がジェーンに起ったか?』。大好きな作品で何度も観ているのですが、ブログで紹介するためにまたまた観返してしまいました。んでもってやっぱおもしれー!こえー!せつねー!

このギットギトに濃厚な味つけは軽くご飯3杯はいけるお米天国で、脂っこすぎて胸焼け必至なのですが、それでも食べ尽くしちゃうこの心地よい満腹感よ。男臭さを信条とする骨太職人監督は、実は女の情念によるバトルを描かせても凄かった。それではさっそくその感想をば。

マウント合戦

人気子役としてステージ上で喝采を浴びるベイビー・ジェーン・ハドソン。わずか6歳にして家族の生活を支える彼女の存在は特別で、それに羨望と嫉妬の視線を送る姉ブランチの姿が。光のジェーンと影のブランチ。しかし時とともにその立場は逆転することに。

映画の時代。成長して実力派人気女優へと躍り出たブランチに対し、もはや過去の人と化したジェーン。子供時代とは逆転した姉妹の関係性はあるとき悲劇を呼び、ブランチは脊椎を痛めて車椅子生活に。ジェーンはその代償として姉の面倒を見ることになったのだが……。

長年にわたる姉妹の愛憎劇の果て。ともに老年へと差し掛かったふたりだけの生活。身動きの取れない姉と、頭の狂った妹。外部との接触が極端に遮断された屋敷のなかで繰り広げられる女たちの恐ろしいまでの心理戦。その根底にあるのはアルドリッチの乾いた視点です。

夫婦、親子、姉妹ですら、そこに人間がふたり以上いれば生まれるのは主導権争い、マウント合戦。血のつながりや、愛情や、絆などとは関係なく、人間が存在する場所では必ず生じるどちらが強いのか?生き残るのか?勝ち残るのかという根源的な玉の取り合い。

血のつながった姉妹でありながら、いや、血のつながった姉妹であるからこそ生まれる強く抑えがたい憎悪の感情。お前のせいだ!お前のせいだ!!お前のせいだっ!!!そんな狂気のマウント合戦は食事すら気が抜けないサスペンスを生み出し、狂ったジェーンの笑い声が屋敷中にこだまするのです。

加害者と被害者

この『何がジェーンに起ったか?』から影響を受けたと思われる『ミザリー』のような、監禁系の定番である暴力性を極力抑え、あくまでねっとりとした心理戦に重きを置いているのもこの作品の特徴で、その粘っこい緊張感には逃れられない、離れられない因果を感じます。

ジェーンによる巧みな心理攻撃に追いつめられながら、助けを呼ぶことも、逃げ出すこともできず、ただ狂騒的に部屋のなかを車椅子で回転し続けるブランチの姿を真俯瞰でとらえた映像がそれを的確に表しており、絶妙な構図満載の本作でも屈指の名ショットと言えるでしょう。

いまだに自分を人気子役ベイビー・ジェーン・ハドソンだと信じている妹の狂気に苦しめられる、哀れな被害者である姉のブランチ。モンスターが支配する籠のなかに閉じ込められたかわいそうな小鳥。狂った妹の姿に恐怖し、それに囚われた姉の悲惨さに同情をする我々観客。

しかしそういう加害者と被害者の構図が一面的なものにすぎないのはすでに映画冒頭で暗示されております。人気子役としての名声を一身に集め、思うがままに振る舞う妹ジェーンを見つめる姉ブランチの憎悪の視線と呪いの言葉。忘れるもんか!死んでも忘れてやるもんかっ!

勝つか負けるか

ブランチが下半身不随となった自動車事故の原因は、酒に酔ったジェーンによる殺人未遂の結果だと、世間も、そして記憶にないジェーン自身も思い込んでいました。しかし真相は別にありました。ブランチの怪我の原因は彼女による妹ジェーンの殺人未遂の結果だったのです!

人気女優としての名声をほしいままにし、その権力を使ってジェーンにも細々と仕事を回してやっていたブランチ。しかしジェーンはそれに恩義を感じるどころか、あるパーティの席上でブランチを笑いものにし、それが許しがたかったブランチはジェーンに突発的な殺意を抱く。

その結果起こったのが、自身の脊椎損傷。すべては長年にわたるマウント合戦が引き起こした悲劇だったのです。人気子役である妹とそれに虐げられている姉。人気女優へと成長した姉と落ちぶれた妹。どちらが勝つか?上か?生き残るかのふたりだけの生存戦争。

人気女優へと登り詰めたブランチが、かつての栄光は見る影もなくなったジェーンへと仕事を回してやっていたのは、姉妹の愛情や、同情や、思いやりなどでは断じてありません。これは子供時代の復讐です。立場が逆転した今だからこそ行える勝者による敗者の嘲笑です。

しかしジェーンはそれを認めなかった。今でも自分のほうが勝者なのだと主張した。それがブランチには我慢ならなかった。私が上だ!私が勝者だ!私こそが光!私はお前の姉なのだ!!そんな積年の恨みが爆発した結果の悲劇。これは互いに複雑な贖罪意識を生み、さらに事態をややこしいことにするのです。

長く醜い戦いの終わり

世間も本人も、ジェーンによる悪行の結果だと思い込んでくれたことをいいことに、真相を隠したブランチは、負い目から彼女を切り捨てられないことに。対してジェーンは、記憶にはない姉の殺害未遂という自身の罪に怯え、その狂気をさらに加速させていくことに。

ジェーンによるブランチいじめは彼女の贖罪意識の裏返しです。それに耐え続けて最終的な決断が下せないのはブランチのジェーンに対する贖罪意識の縛りです。早期に離れていればこんな悲劇は起きなかったと思いますが、それができないからこその因果であり、家族なのです。

憎んでも憎み足りない相手だが、それでも愛しているという二律背反。殺してやりたいほどの相手なのに、それでも離れることができない血の強さ。詰まるところ、あいつがいるから自分もいる。光があるから影ができる。生まれながらにして愛し合い、憎み合う運命。

ラストの海岸で生まれた一時の平穏と罪の告白は、生まれたときから愛憎のマウント合戦を行う宿命にあった姉妹に訪れた最初で最後の平和であり、ふたりのマウント合戦の終結も意味しています。それではいったい最後に誰が、どちらが勝ったのでしょうか?

永遠のベイビー・ジェーン・ハドソン

一時代を築いた往年の名女優がドロドロのバトルを繰り広げる低俗さが受け、大ヒットを飛ばした本作ですが、その撮影中に主演女優ふたりによる映画顔負けのバトルが繰り広げられていたのは有名な話。それを題材とした連続ドラマも製作されているほどです。

参考 フュード/確執 ベティ vs ジョーン 公式サイト | 映画・海外ドラマのスターチャンネル[BS10]

過去の栄光などかなぐり捨て、捨て身で狂気の白塗りオバケと化し、オスカーノミネートまでされたベティ・デイヴィス。対して必死の若作りによってなんとか過去の美と栄光を取り戻そうと躍起になったジョーン・クロフォード。劇中の役柄とは対照的なふたり。

どちらが勝ったのか?それはこの映画を観た方なら自明のことでしょうね。後半はまさにベティ・デイヴィスの独壇場。この『何がジェーンに起ったか?』は彼女のために製作されたと言っても過言ではない。震えるばかりの狂気と、焦燥と、滑稽さと、哀れさと、痛々しさ。

ラストシーン。瀕死のブランチがその後に一命をとりとめたとはボクにはとうてい思えない。対してジェーンはどうだろうか?海水浴に来ていた若者たちを観客に見立て、うれしそうに、優雅に、美しく舞い踊るベイビー・ジェーン・ハドソン。彼女は晴れて光り輝く夢のなかだ!

この結末に勝者はいない。だって戦うべき相手が消失してしまったのだから。戦う相手がいなくなれば彼女はひとりだ。たったひとりで死ぬまで歌い、踊り狂うのだ。永遠のベイビー・ジェーン・ハドソンとして!

個人的評価:8/10点

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コメント

  1. マーフィ より:

    こんばんは。
    楳図かずお先生がモロに真似ている漫画作品を先に読んでいたので、「あれと同じじゃん!」と思ってオチの展開を察してしまったのが残念だった記憶があります。
    でも最後の海岸での喪失感と解放感はやっぱり格別でした。長年の妄執からの解放がうれしくも悲しい。
    階段下で蹴りくれるシーンも最高。

    それにしても先日の『ザ・フライ』の感想とあわせて読むと、スパイクさんがアッチ側に行ってしまわないか心配になりますね(笑)。こういう狂気というか変態?への感度が特殊に思えて、毎度感想を楽しませていただいておりますです。

    • スパイクロッド より:

      マーフィさん、コメントありがとうございます!

      『おろち』の一篇である『血』ですね。ボクは映画のほうが先だったので、「楳図先生ったら影響受けすぎ!」と思ったもんですが、こういうのってどちらを先に見たかによって大きく評価が変わってきますよね。『ミザリー』なんかもそうとう影響受けてそうですけど、あちらは監禁系の花形である暴力のにおいを終始発散させているのに対し、『何がジェーンに起ったか?』はあくまで心理戦をメインとしており、直接的暴力はまさにあの階段下での見事な蹴りぐらいのもので、それでこれだけの恐怖を生み出すのですからやはりたいしたもんです。

      マーフィさんご安心ください。ボクは節度をもった脳内変態であると自負しておりますし、いくら狂いたくても狂ってしまう勇気は持ち合わせていない臆病者でもあり、だからこそアッチ側へのアンテナだけはビンビンに暴れ狂い、恋い焦がれているだけの人畜無害な凡人なのであります(そう思い込んでいるのは本人だけで、すでにアッチ側へと片足突っ込んでいる可能性は十分にありますが(笑))。