世の男性諸君。ちょっとした失言で嫁が殴りかかってきたり、深夜に幼子を連れて散歩に出かけたりし出したら、気をつけましょう。それは何かのサインかも……。
作品情報
『真夜中のゆりかご』
En chance til/A Second Chance
- 2014年/デンマーク/102分
- 監督:スサンネ・ビア
- 脚本:アナス・トマス・イェンセン
- 撮影:ミケール・スニーマン
- 音楽:ヨハン・セーデルクヴィスト
- 出演:ニコライ・コスタ=ワルドー/ウルリク・トムセン/マリア・ボネヴィー/ニコライ・リー・コス/リッケ・マイ・アナスン
参考 En chance til (2014) – IMDb
予告編動画
解説
やはり男に女は永遠にわからんのではないかとガクブルしてしまうサスペンス・ドラマです。
監督は『ある愛の風景』のスサンネ・ビア。脚本は『悪党に粛清を』のアナス・トマス・イェンセン。主演は『ヘッドハンター』のニコライ・コスター=ワルドー。共演にスサンネ・ビア作品の常連ウルリク・トムセンなど。
あらすじ
妻のアナ(マリア・ボネヴィー)と生まれたばかりの息子に囲まれ、幸せな毎日を送っていた刑事のアンドレアス(ニコライ・コスター=ワルドー)。
そんなある日、同僚のシモン(ウルリク・トムセン)と向かった通報先で、薬物依存の男女によって育児放棄された糞尿まみれの乳児を発見。なんとかその乳児を保護しようと動くものの、法律の壁に阻まれてどうすることもできなかった。
そんな理不尽に怒りを覚えながら、愛する我が子によりいっそうの愛情を注いでいたアンドレアスだったが、思わぬ悲劇と試練がこの夫婦の身を襲うのであった……。
感想と評価/ネタバレ多少
デンマーク出身の女性監督スサンネ・ビア。不勉強ながら存在を知っていたような知らなかったような。というわけで、この『真夜中のゆりかご』が彼女の映画初鑑賞となります。
デンマーク映画といえばやはり「ドグマ95」を否応なく想起しますが、このスサンネ・ビアもその影響下から出発した模様。しかし自分、ドグマは正直苦手です。ただし、ドグマを経た映画は大好きです。
近年のラース・フォン・トリアー作品。トマス・ヴィンターベアの『偽りなき者』。って、よく考えたらそれぐらいしか観てないのでは?こりゃあんまり偉そうなことは言えませんな。てなわけで『真夜中のゆりかご』の感想です。
ズルいほど画になるデンマーク
ある程度ドグマのルールに従って撮られている本作。重要なシーンではあえて音楽を流さず、セットは使わず、自然光によって撮影された映像群の美しさ。ズルいほど画になってしまう北欧という舞台。
結局「ドグマ95」などという運動の提唱は、北欧という地の利あってのものなのではないでしょうか?林、湖、橋、そのすべてを覆う曇天。どんよりとした冷たい美しさを放つこれらの景色と、悲しく残酷な物語との相乗効果。
北欧映画でカラッと明るい映画なんて撮れませんわな。ひたすら冷たく、寂しく、悲しい。そんな曇天模様の空の下、つぼみのままで揺れながら、この映画は微かな光を探し求めていたのでしょうか?
バカ親どもの茶番劇
しかし、物語として、サスペンスとしては如何なものだろうか?陳腐な三文サスペンスのために用意されたおバカな登場人物たち。
許しがたいジャンキーカップルのネグレクト。突然、癇癪を起こしたようにわめき散らして「死んでやる~そんなことしたら死んでやる~」と脅迫する主人公の嫁。そんな嫁にあたふたしちゃって思わず一線を踏み越えてしまう刑事にあるまじき主人公。
物語の筋書きのために踊らされる思慮に欠けたバカ親どもが巻き起こす大騒動。う~ん無理がある。リアリティがない。頭のいいサスペンスかと思っていたのに、こいつは雰囲気だけのとんだ茶番だ!
嘘を真にするドグマ95
児童虐待と、正義と不正のはざまで右往左往するバカ親たち。こんな茶番劇どう転がしていくつもりだ?なんて半分あくびなんかして観ておったのですけど、バカ刑事の暴挙に対するモヒカン男の突飛な反撃によって物語は一変。
モヒカンなりに知恵を絞った計画によって、よりいっそう正義と不正とのあいだで身動きがとれなくなる主人公の板挟み。そこに追い討ちをかけてくる嫁の無責任すぎる現実逃避。
さらに無理のありすぎる筋書きのような気もしますが、ここで効いてきているのがドグマ95的演出なのです。いわゆる映画的演出が施されていないので、荒唐無稽でありながら荒唐無稽に見えない。なるほど、これがドグマの有効活用方法であったのか。
ちょびっとネタバレ
しかし、いろんな意味で精神的に追いつめられたと思える嫁の行動には、「あ~あ~えらいこっちゃどうすんねんなこれ?」といったんは同情したものの、見事に騙されてしまった驚愕の、そう、驚愕の事実!
ネタバレ覚悟で多少のヒントを提出しますと、なんとまさかの『ゴーン・ガール』!なるほど!前半の嫁のなんかイラッとくる描写はすべて伏線であったのか!
これにはやられた!見事に騙された!司法解剖するよ~ってシーンで、「ん?待てよ。まさかこれは!?」と気づいたものの時すでに遅し。これによってさらなる難問を主人公に、そして我々観客に突きつけてきておったわけですな。
あの子に光あれ
児童虐待を中核に、善悪の揺らぎというか一概には判断できない人間性を描いたこの映画。劇映画でありながら劇映画的演出を排除した見せ方と、前半の伏線を回収する驚愕の事実の突きつけ方が秀逸な、観て損はない秀作だったと思いますね。
しかし、この映画を観ていてつくづく思いましたね。やっぱり男に女はわからない!いきなり梯子を外されて真下へと転落した主人公の姿は、同じく女性を理解しえないボクの姿でもあります。あんなにイケメンではありませんが。
ラストで曇天に射し込んだ一筋の光。その光はこの先も輝き続けるのかどうか?女性を理解しない主人公にもボクにもその未来は見通せませんが、願わくばそうあってほしいと思います。
個人的評価:7/10点
DVD&Blu-ray
VOD・動画配信
『真夜中のゆりかご』が観られる動画配信サービスはU-NEXT、Hulu。ともに定額見放題なのでおすすめです(2018年12月現在。最新の配信状況は各公式サイトにてご確認ください)。
コメント
同じくラストに一筋の希望がさしたのを感じました。
序盤からいやに嫁の挙動が不審だな、と思っていたけれど、
まさかああなるとは、予測できませんでした。
何が「正義」かは簡単には決められないということでしょうか。
TBが送られなかったのでコメントのみ残しますね(^-^;
ミス・マープルさんコメントありがとうございます!
曇天模様に射し込んだ一筋の希望の光。これがやりたかったんでしょうね。同じく嫁の怪しい言動には違和感を覚えながらも、いわゆる育児ノイローゼみたいなもんだろうと軽く思っておりましたので、ボクも見事に騙されてしまいました。善悪の価値観、基準が揺らいでしまう映画でしたね。ホントに人間ってわかりませんわ。