『サムライ』感想とイラスト 男も惚れるアラン・ドロン

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映画『サムライ』アラン・ドロンのイラスト(似顔絵)
殺し屋としてのあるべき姿を究めた男。孤独、虚無、ストイック、そして美意識。その果てに彼が求めたものとはなんだったのか?それは男としての、殺し屋としての最後の美学!

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作品情報

『サムライ』
Le Samouraï

  • 1967年/フランス、イタリア/105分
  • 監督・脚本:ジャン=ピエール・メルヴィル
  • 撮影:アンリ・ドカエ
  • 音楽:フランソワ・ド・ルーベ
  • 出演:アラン・ドロン/フランソワ・ペリエ/ナタリー・ドロン/カティ・ロジェ

参考 サムライ (映画) – Wikipedia

予告編動画

解説

男たるもの、いや殺し屋たるもの、外出の折には徹底して帽子のひさしの角度にこだわらなければならないというフレンチ・ノワールの傑作中の傑作です。

監督は『影の軍隊』のジャン=ピエール・メルヴィル。ヌーヴェルヴァーグの精神的お父ちゃんです。主演は男も惚れる色男アラン・ドロン。共演は『カビリアの夜』のフランソワ・ペリエ、当時のアランの妻でこれが映画デビュー作となるナタリー・ドロンなど。

あらすじ

寒々としたパリのアパートで、一羽の小鳥とともに暮らす一匹狼の殺し屋ジェフ・コステロ(アラン・ドロン)。多額の報酬を受け取り、常に完璧な仕事をこなすジェフだったが、彼の心は彼のアパートのように荒涼とした孤独感が支配していた。

そんなある日、いつものように依頼された殺しを完遂したジェフだったが、逃走時にピアニストのヴァレリー(カティ・ロジェ)に顔を見られてしまう。容疑者のひとりとして警察に連行されるジェフ。しかしヴァレリーは彼を犯人ではないと証言するのだった……。

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感想と評価/ネタバレ有

ウォルター・ヒルの『ザ・ドライバー』、ジョン・ウーの『狼/男たちの挽歌・最終章』、そして北野武の『ソナチネ』などに影響を与えたとされる本作。ほかにも影響を受けた作品をあげていったらきりがないほどの傑作。それがこの『サムライ』という映画なのです。

ボクもおよそ15年ほど前に深夜放送でたまたま目にして以来、今なお忘れがたい鮮烈な作品のひとつとして忘れっぽい記憶に刻まれておりました。しかしDVDは長らく廃盤状態、レンタルにもないときては、その記憶を確認するすべもなくただむなしく時だけが過ぎていく毎日。

そんなこの映画のBlu-rayがとうとう発売されたのです!貧乏なボクはなかなか手が出せずに指をくわえて涙を流しておったのですけど、このたびようやく手に入れました!そして久々に観ました!あの頃のボクの記憶は正しかったのか否か?それではさっそくその感想をば。

サムライの孤独

映画冒頭でまず映し出されるのは、殺し屋の主人公ジェフ・コステロが住むアパートの一室。闇が強調された暗い室内。暗くてよくわからないがベッドに横たわる男。鳴き声がするのでどうやら小鳥を飼っているようだ。家具らしきものはほとんど見当たらない。

窓の外では雨が降っているようで、その向こうの景色は何やら現実感に乏しいと思ったら、どうやらスクリーン・プロセスのようだ。特典のブックレットによるとマンハッタンの景色らしい。しかしこの暗く不気味なフィックスの長回しはどこかで観た記憶が。

そうか。押井守の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』における草薙素子の居室だ。あれも少佐の孤独感と虚無感を表現した秀逸なショットだったが、元ネタはこれだったのか。つまりはコステロを支配しているのも圧倒的な孤独感と虚無感というわけ。

そんな映像にかぶさって、「サムライの孤独ほど深いものはない。さらに深い孤独があるとすれば、ジャングルに生きるトラのそれだけだ 《武士道》より」というエピグラフが現れるが、これはメルヴィルによるフェイクで、実際は彼自身が考え出した文句である。

そして突然、小刻みに伸縮し出し、グラグラ揺れ出す画面。なんという思いきった不安感の醸成であろうか。孤独、虚無、そして不安。ジェフ・コステロという男の内面を映し出した映画史に残るオープニングの誕生です。これに魅了された観客はすでにメルヴィルの術中にまんまとハマってしまっておるのです。

移動する映画

しかし物語としては、孤独な殺し屋が仕事の現場を目撃されたことにより、警察と組織の両方から追われ、最後に静かに命を落とすという非常に単純で、言ってみれば面白味のないものです。そんなありきたりな物語を劇的に変化させているのが異質な演出でしょうね。

前述したオープニングからしてすでに異質ですが、こんなものはまだまだ序の口。映画が始まってから最初のセリフにまで要した時間はおよそ9分。これ以降も必要最低限の会話しか交わされません。つまりはこの映画においてセリフは重要な意味をもたないということ。

ついでに動機や理由、説明もこの映画では不要なものとして意図的に削除されております。ではこの映画に何があるのかと申しましたら、それはもう行動しかないでしょう。すべては登場人物、いやジェフ・コステロという人間の一挙手一投足に集約されておるのです。

とりわけこの映画は徹底的に移動にこだわっております。ジェフの取り調べのために警察署内を縦横無尽に移動しまくるフランソワ・ペリエ演じる警部の図という、素晴らしく無意味な誰得演出もありますが、やはりこの映画の肝はジェフ・コステロという男の行動すべて。

特に彼の物言わぬ移動シーンのなんとまあ絵になることか。なかでも特筆すべきは警察の尾行をまくために、地下鉄を乗り継いで乗り継いで移動に移動を重ねるシークエンスでしょうね。この偏執的なまでに彼の移動、行動にこだわるメルヴィルの演出は尋常ではありません。

もうひとつ尋常ではない演出が、釈放されたジェフがこれまた移動に移動を重ね、ついに陸橋の上で依頼人の代理にして実は暗殺者である男と対峙した瞬間の、とてつもない緊張感と時間の切り取り方。果てしない移動の果てにたどり着いた死神との一瞬の遭遇。

行動、移動の果てにあるのは死へのいざない。ジェフの行動には無意味なことに固執する虚無があり、彼の移動には、背中には常に孤独感がはりつき、その移動の先には死が待っている。これがジェフ・コステロという男。これが彼のすべて。そして望むもの。

死に場所を求めて

ストイックなまでに無駄を削ぎ落としながら、 こだわるところには偏執的なまでにこだわり、完璧なる暗殺者としての姿を究めたジェフ・コステロ。しかしその先にあったのは圧倒的孤独と虚無でしかなかった。何かを究めた者が行き着く先は無。

あと彼に残されている選択は「いかにして死ぬか」ということだけ。つまりこの『サムライ』という映画は、道を究めた孤独な男が自らに課せられた最後の大仕事、「死」へと突き進んでいく話だったというわけ。いや、極論すればもうすでに死んでいたといっても過言ではない。

あとは実質的にいつ、どこで、どのように死ぬか?であれば、陸橋の上で対面した暗殺者によって引導を渡されてもよかったわけですが、それでは絵にならない。完璧なる殺し屋は、死にざまもやはり完璧でなくてはならない。それが無自覚な彼の美学なのです。

彼が選択した自らの死に場所、最後の花道は、惚れた女の目の前でした。なんたるロマンチシズム。なんという散りぎわの美学。ジェフ・コステロ。あんた最期の最期までカッコいい完璧な男だったよ……。

愛しのアラン・ドロン様

その完璧なまでにカッコよくも悲しい殺し屋ジェフ・コステロを演じたのが、当時31歳のアラン・ドロン。この映画におけるメルヴィルの演出は他の追随を許さない唯一無二のノワール映画を生み出したが、主演アラン・ドロンの存在がなければその魅力は半減したことでしょう。

それぐらいこの映画におけるアラン・ドロンは美しく、悲しく、渋いのです。薄暗い居室でタバコをふかすシルエット。コートのポケットに両手を突っ込みただ歩く姿。無数の鍵束と前方を見据える視線。外出時に帽子のひさしをピリッとなぞる指先の動き。

彼の一挙手一投足が美しく、悲しく、渋いのです。そんな彼の行動を細部まで徹底的に執拗にしつこいぐらいに映し出していく監督メルヴィルの視線は、まるでアラン・ドロンに恋をしたよう。そう。メルヴィルも、我々観客も彼に恋をした。片想いとは知りながら……。

いや、片想いだったのは我々観客だけか?メルヴィルとアラン・ドロンは相思相愛の仲だったのだから。メルヴィルが急死したとき(享年55歳)、アラン・ドロンは南仏から車を飛ばして駆けつけるものの、ショックのあまり階段から転げ落ちたといいます。

ああ~うらやましい。あのアラン・ドロンからそこまで想われていたなんて(変な意味じゃなくてね)。メルヴィルとアラン・ドロンが組んだ作品は3本。この『サムライ』を皮切りに、『仁義』(1970)『リスボン特急』(1972)と続きます。

『仁義』だけが未見ですので、これもまた近いうちに鑑賞してみましょう。孤独な殺し屋を演じるアラン・ドロンの行動、美学、そして死にざまを耽美な映像哲学としてフィルムに焼きつけてみせた傑作ノワール映画。ボクのポンコツな記憶はけっこう正しかったのだ!

個人的評価:8/10点

DVD&Blu-ray

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コメント

  1. (눈_눈) より:

    未見かつ、レビュー読んだ限り好みの映画では無いものの……

    BDのジャケットかっけー!

    綺麗すぎて、僕の中の殺し屋のイメージでは無いけど、けれどもこれは、そりゃあ俳優やりますわなあ。

    恥ずかしながらアラン・ドロン、はじめて顔を知りました。

    • スパイクロッドspikerod より:

      (눈_눈)さん、コメントありがとうございます!

      ボクもアラン・ドロンの映画は言うほど観てないのですけど、やはり印象的なのはこの『サムライ』とルネ・クレマンの『太陽がいっぱい』ですかね。『太陽がいっぱい』は20代の美しいドロン。そして『サムライ』は30代に入って美しさとともに渋さも手に入れたドロンの姿が堪能できますよ。男でも惚れる美しさです!