
『サスペリア』の弟だなんて世間では言われてるけど、俺ホントはあいつの兄貴なんだよな。しかも異母兄弟。みんな知ってる?あいつには実は本当の弟がいるんだけど、最近、消息不明なんだ。見かけたら教えてよ。あれでけっこういい奴なんだ。
作品情報
サスペリアPART2
- 原題:Profondo Rosso/Deep Red
- 製作:1975年/イタリア/106分(劇場公開版)126分(完全版)
- 監督:ダリオ・アルジェント
- 脚本:ダリオ・アルジェント/ベルナルディーノ・ザッポーニ
- 撮影:ルイジ・クヴェイレル
- 音楽:ジョルジオ・ガスリーニ/ゴブリン
- 出演:デヴィッド・ヘミングス/ダリア・ニコロディ/ガブリエレ・ラヴィア/クララ・カラマイ
解説
惨劇と推理のあいまに主演男女が恋のコントを演じるスリラー映画です。ちなみに主演男女の恋のコントは劇場公開版ではバッサリとカットされておりますので、そのへんはまあお好みでお選びください。
監督は『オペラ座/血の喝采』のダリオ・アルジェント。主演は『欲望』のデヴィッド・ヘミングス。共演はアルジェントの公私にわたってのパートナーであるダリア・ニコロディ。音楽はのちに名コンビとなるゴブリンが初参加しております。
前述しましたとおり、劇場公開版とそれより20分長い完全版とのふたつのバージョンが存在しております。スッキリとまとまった劇場公開版を観るか?無駄が楽しい完全版を観るか?どちらを選択するかによって、その人となりが判明するかと存じます。
あらすじ
あるクリスマスの夜に起こった恐ろしい惨劇。古い童謡、悲鳴、血まみれの包丁、それにそっと近寄る子供の足……。
それから数十年後。イタリアで開かれている心霊学会の講演中に、テレパシー能力をもつ女性ヘルガ(マーシャ・メリル)が客席にいるある殺人者の存在を告げる。彼女が言うには、その人物は再び殺人を行うつもりだという。
その夜、仕事でイタリアへとやって来ていたアメリカ人作曲家のマーク(デヴィッド・ヘミングス)は、けたたましい女性の悲鳴を聞いて視線をやると、そこには今にも殺される直前のヘルガの姿があったのだった!
感想と評価/ネタバレ多少
これまたTSUTAYA発掘良品から厳選した一本。以前に紹介させていただいた『オペラ座/血の喝采』のダリオ・アルジェントの名を一躍世界へととどろかせた傑作スリラーであります。
ちなみに「PART2」と銘打たれておりますが、『サスペリア』とはまったくもって1ミリも関係ありませんから。配給会社の思惑でこんな屈辱的邦題を付けられてしまったのは、皆さんご存知のとおり。
ですが、いまさら『紅い深淵』とか言われても違和感ありまくりなので、本作にはこれを甘んじて引き受けてもらいましょう。哀れなのは正当な弟であるはずの『インフェルノ』の立場です。おかげで影の薄いこと薄いこと!
アルジェントのお家芸
現在ではダリオ・アルジェントといえばホラーという印象だと思いますが、まだこの頃は「イタリアのヒッチコック」と呼ばれていたサスペンス・ミステリー時代。そんな初期アルジェントの最高傑作がこの『サスペリアPART2』なのであります。
あくまで謎解きを基軸としながら、のちのフィールドとなるホラー的ショック描写を多用して観客の股間、ではなくて心臓を鷲づかみにして激しく揺さぶり悶絶させる。ミステリーとホラーの中間的作品としてこれがまたちょうどいい塩梅で、股間がグイグイ締め上げられます。
しかし、撮りたいイメージを優先させて肝心の謎解きが破綻してしまうというのもまた、この頃からのお家芸。ご多分に漏れずこの作品も突っ込みどころ満載なのです。
『オペラ座/血の喝采』までぶっ壊れていたらある意味よかったのですけど、フェリーニとのコンビで知られる共同脚本家のベルナルディーノ・ザッポーニが要領よくまとめ上げたのか、崩壊寸前でギリギリ踏みとどまっている感じが逆に物足らないと感じてしまうのは、少々頭のネジがゆるんでいるボクだけでしょうか?
もっと壊れていてもよかったと思うものの、それでも十分に穴だらけであるお家芸的スポンジ脚本のマイナス要素を、強力なケレンミで勢いよく蹴散らしてしまうのもまたアルジェントのお家芸。その最大の原動力となっているのが圧倒的な画力(えぢから)なのです。
ビジュアリストとしての底力
ホラーではなくサスペンスだというのに、執拗かつ過剰な残酷描写で観客の目を楽しませてくれるのは本当に頼もしいかぎり。一発目からかなり飛ばしておりますが、やはり白眉は最後のエレベータとネックレスか?しかし市中引きずり回しのうえ頭部粉砕の刑も捨てがたい。
小道具の使い方、見せ方も秀逸です。ビー玉やオモチャ、童謡、皮手袋、絵画、多種多様な人形、とりわけジョルダーニ殺害時に登場するカラクリ人形には肝がつぶれます!頭部を破壊されたあとのジダバタした動きがまた不気味なんだわこれが!
そしてこの作品で最も注目すべきなのが、ビジュアリストとしてのアルジェントの底知れぬ実力!原色の色彩感覚に、美しい構図と配置、距離感、視点、どれをとっても素晴らしい!
特に映画冒頭の夜の街並みの切り取り方!アメリカの画家エドワード・ホッパーの『ナイトホークス』を参考にしたというこの映像は本当に素晴らしい!ここから最初の凶行へとつながるカメラの動き、細かいカットも必見です。

アルジェントの発明
多彩なギミック、過剰な残酷描写と並び、この映画の恐怖、興味、興奮を無遠慮にあおり立ててくれておるのが、本作で初コラボレートとなったゴブリンの音楽です。
ジョルジオ・ガスリーニという作曲家も参加しておりますが、やはり注目すべきは無駄にプログレ、過剰にプログレ、派手にプログレしておるゴブリンなのであります。凶行シーンのたびに唸りをあげる彼らのプログレが、この映画を普通ではない異質な何かへと押し上げているのは疑いようのない事実でしょう。
ホラー映画とプログレッシブロックとの融合。『エクソシスト』とマイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』という先例はありますが、より密接に、よりプログレに融合しているという意味では、これはアルジェントの発明と言ってもいいでしょうね。
恋のコント
連続殺人の真相、残酷な凶行描写とあわせて、この作品の魅力のひとつと言えるのが主演男女の恋のコントであります。解説に書きましたとおり、これは完全版でしかお目にかかれない貴重なシーンなのですよ。
頼りない男と勝ち気な女のほんわかした恋の駆け引き。これを貴重だと思うか、それとも不要だと思うか?ちゃんとした映画を望んでおられる方には無用の長物でしょうが、ちゃんとしていない映画を志向しておられる方にはこんな貴重なものはありません。
ありていに言ってしまえば緊張と緩和ですが、ただそれだけではない、無駄な長さとゆるさが普通ではない狂った味わいを醸し出してくれておるのです。これがあるからこそショック描写が活きてくる。っていうかこれ単体でも十分に楽しいんですけどね。
驚愕の挑戦的映像トリック
最後となりましたが、この映画を語るうえで避けては通れない挑戦的演出。そう、映画史に残ると言っても過言ではない驚愕の映像トリックであります。
アルジェントの監督デビュー作である『歓びの毒牙』のブラッシュアップ版ともいえる演出なのですが、より挑戦的に、より衝撃的にそれをやってのけてしまった鮮やかな手際。これだけでも本作には十分に観る価値があります。
真犯人の正体うんぬんよりも、こんなことをやってしまう、思いついてしまうアルジェントの想像力、そして挑戦精神のほうに驚愕してしまうのですよね。はたして初見でこのアルジェントからの挑戦状に打ち勝った方はおられのでしょうか?
個人的評価:7/10点
コメント
おはようございます。
この作品は「歓びの毒牙」とともに印象に残ってるんですが(ごっちゃになってるとも言う 汗)、まだ観た映画全ての感想を記録してなかった頃に観たので、完全版を観たのか劇場版を観たのかわからないんですよ~。
二種類あることも知らなかった!
グロよりも、あのトリックの衝撃が印象に残るってすごいことですよね。もちろん私は騙されました!
「イタリアのヒッチコック」と呼ばれていたのも納得です。
邦題のことは、これだから配給会社は~って感じかな(笑)
この作品も大好きです!!
初めて見たのはTBS。
今ではとても放送出来ないですが、昔はコレくらい平気で放送していました。
(東京12チャンネル**だったと思います**で「プリズン」を放送した時は驚きました。)
アルジェントは「さすぺりあ」や「いんふぇるの」などのオカルトよりも
これや「しゃどぅ」の様なサスペンス物の方が出来はよい気がします。
(魔女三部作の最後が何であんなに成ったんだろう?しくしく)
さて、この作品をみると、いつも思うことがあります。
マークが壁を壊して封印された部屋を見つけるシーンがありますが、
これと同じ演出をしたアニメ(原作有り)が有るのをしっていますか??
それは今から10年位前に放送していた「モンスター」。
主人公を追うルンゲ警部がバラの屋敷の写真をと或る人物に見せ
「慌てて塗りこめた様に見える」と言い「壊していいですか?」と聞くシーンが
あります。
これを観てすぐに私は「紅い深遠」だ!!!と思いました。
宵乃さんコメントありがとうございます!
劇場公開版と完全版。どちらを選択するかは個人の趣味の問題ですが、いろんなバージョンがあるのはこちら側としては不便ですよね。『ブレードランナー』なんていったいどれを選べばいいのやら(笑)。
あの衝撃的映像トリックを予備知識なしの初見で見破れる人なんていないでしょうね。ボクも初見のときは何度も巻き戻して観直しましたよ。これの元ネタともいえる『歓びの毒牙』も久々に観たくなってきたな~。
ダムダム人さんコメントありがとうございます!
ボクもどちらかといえば初期のサスペンス・ミステリー時代を支持する人間ですね。代表作である魔女3部作にしても、結局褒められるのは『サスペリア』ぐらいですから。やはりオカルトではなく現実的サスペンスを基軸としながら、味付けとしてホラー描写を入れてほしいもんです。
ボクは漫画も読まないアニメも観ない変人ですので、『モンスター』という作品も正直ほとんど知りません。ですので隠された部屋の演出が同じだというのもまったく知りませんでした。ただたまたま読んだ部分の絵だか絵本だかが、この『サスペリアPART2』ではなく『歓びの毒牙』に似てるな~なんて印象をもったようなもってないような。本当にうろ覚えなのですいませんです。
はじめまして。おじゃまします。
イラストお上手ですね!!
私はジャーロ映画好き・アルジェント好きですので、ついつい高得点になってしまうんですけど、たしかにマークとジャンナのラブラブ場面とかいらないですよね(笑。
私はそういうくだらない場面(能天気な警察とか)も好きなんですが…
ほかの記事も読ませてもらいます。
ゆきやままさんコメントありがとうございます!初めての訪問でいろいろと散策していただいたみたいで、非常に恐縮であります。
ボクはあまりジャーロには詳しくなく、唯一アルジェントを観ている程度なのですけど、中でもこの『サスペリアPART2』は大好きですね。ゆきやままさんと同じく、主演男女の無意味な恋のコントも大好きです(笑)。ポンコツ車のくだりとか、腕相撲のくだりとか。こういうヌルい描写があるからこそ残酷描写が効いてくる。というわけでボク的には「完全版」推しであります!
私は恋のコントがあるノーカット版を迷わず選びますね。
アルジェントの「歓びの毒牙」を観た事があります。数年前に十三のシアター7でノーカット字幕版を観ました。スパイクロッド氏はご覧になられましたか?
普通のミステリーでしたね。「土曜ワイド劇場」の明智小五郎シリーズにあってもおかしくない内容でした。観ていて、アルジェントもこんな時代があったのかと微笑ましくなりました。
晴雨堂ミカエルさんコメントありがとうございます!
そうですよね!やっぱりどちらかを選択するなら完全版ですよね!あの恋のコントがあるからこそこの映画には意味がある!なけりゃただの悪趣味なホラーまがいのサスペンスです。
ボクはけっこう『歓びの毒牙』好きですよ。ノーカット版だったのかどうかは定かではありませんけど、あれはあれで面白かったと思います。