夢が崩れ、尊厳を奪われ、国家のための美しい武器として奉仕させられる女スパイ。彼女が騙し、騙され、闘った先に求めたものとはなんだったのか?あれ?元のまんまなんじゃ……。
作品情報
『レッド・スパロー』
- 原題:Red Sparrow
- 製作:2018年/アメリカ/140分/R15+
- 監督:フランシス・ローレンス
- 原作:ジェイソン・マシューズ
- 脚本:ジャスティン・ヘイス
- 撮影:ジョー・ウィレムズ
- 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
- 出演:ジェニファー・ローレンス/ジョエル・エドガートン/マティアス・スーナールツ/ジェレミー・アイアンズ/シャーロット・ランプリング
予告編動画
解説
足の怪我でバレリーナとしての道を断たれた女性が、ロシア情報庁の美しい武器“スパロー”として危険なミッションへと身を投じていく姿を描いたエロティックスパイサスペンスです。
原作はジェイソン・マシューズによる同名スパイ小説で、マシューズは元CIA捜査官として30年間も諜報活動を行ってきたガチ中のガチだとのこと。
監督は『ハンガー・ゲーム』シリーズのフランシス・ローレンス。主演は『パッセンジャー』のジェニファー・ローレンス。共演に『ザ・ギフト』のジョエル・エドガートン、『君と歩く世界』のマティアス・スーナールツ、『戦慄の絆』のジェレミー・アイアンズなど。
感想と評価/ネタバレ有
話題作、注目作が並ぶ3月後半の超激戦区において、『トレイン・ミッション』に続いてボクが選んだのが『レッド・スパロー』。実話ものにはあまり興味がないので『ヴァレリアン』との二択だったのですが、大傑作『マザー!』を観た影響もあってジェニローを選びました。
『マザー!』と同じくジェニファー・ローレンスが脱がされてぶん殴られて酷い目に遭う映画なのですが、そこは演者が同じでも監督の力量の差か、無駄に長いだけの退屈なスパイ映画でしたね。「え?今の時代になんでこんなにダサいの?」って感じなんです。
最初の10分で映画はわかる
足の怪我によってボリショイ・バレエ団での地位を失ったドミニカ・エゴロワ。病気の母親を抱える彼女は、叔父の仲介によってロシア情報庁の訓練施設へと送られ、そこで標的の心理を巧みに操り、自らの肉体を武器として諜報活動を行う“スパロー”として育成される。
彼女のスパローとしての初任務は、CIAとひそかに通じているロシア情報庁内部の裏切り者、モグラ(二重スパイ)の情報を得ることで、モグラと通じているCIA諜報員のネイト・ナッシュへと接触を試みるのだったが……ってのが簡単なあらすじ。
その映画が面白いのか、自分と合うのかどうかは、最初の10分を観ればだいたいわかるもの。この『レッド・スパロー』に関してはものの数分でわかりましたよね。「あかん!こりゃ絶対に合わんわ!」と。その予感はおおむね最後まで変わることがなく140分が過ぎました。
この映画の冒頭で映し出されるのは、ドミニカの公演中の事故と、ネイトとモグラとの接触。それがロシア警察に目撃されるまでをクロスカッティングで描いているのですが、これがまあ野暮ったくてダサいの。なんの変化も面白味もなくてただ並列的につなげているだけ。
これを観た瞬間に「合わん!」と思いました。大事な導入部でこんな平凡なことしかできない映画が面白くなるわきゃないというボクの直感はおおむね的中で、「これは本当に現代の映画なのだろうか?」という疑問が最後までダラダラと続いておりましたね。
ジェニローの映画
「現代の映画なのか?」という疑問は時代性の曖昧さにも言えることで、おそらく意図的だとは思うのですがこの映画は時代設定がはっきりしていません。設定は現代なのに空気感は冷戦時代といった妙な塩梅なのです。たぶんですけど監督は時代を特定されたくなかったのでは?
それはハニートラップという古風な諜報活動のリアリティをなんとか維持するための方便でもありますが、それ以上にすべての事柄を明確にしない、特定されたくない意識の表れだとも思うのです。彼らは何をめぐって諜報対決をしているのか?国家の影が薄いのはなぜなのか?
国も、戦う理由も、時代も、あえて特定させない曖昧さのなかで浮かび上がってくるのは、ドミニカ・エゴロワただひとりですよね。夢が崩れ、尊厳を奪われ、権力に奉仕する犬としての生活のなかで、彼女が何を考え、苦しみ、決断し、行動した結果を描いた映画。
ゆえにこの『レッド・スパロー』はジェニファー・ローレンスの映画であり、それこそ捨て身で乳首をさらし、大股開き、血と反吐と暴力のなかで虎視眈々と加虐者への反撃をうかがうフェミニズム映画でもあったのですが、いかんせんサスペンスとしての緊張感が弱すぎるか。
彼女に寄り添いすぎた映画は彼女の意思も明白にしすぎており、このミッションが復讐でありサヴァイヴのための大博打であることは火を見るよりも明らかですし、この大博打に勝つ可能性もたいへん低く、つまりは「んなアホな~」な話となってしまうわけですな。
せめてモグラの正体にもうひとひねりが欲しかったところですが、これもキャスティングの時点で怪しいジェレミー・アイアンズへと着地する意外性のなさ。プーチン似の叔父上マティアス・スーナールツをもっと活用できていたらよかったのですが、これもまた定石ですわな。
結局のところドミニカ=ジェニファー・ローレンスのドラマを描くことが目的であり、サスペンスはどうでもよかったのか?と邪推してしまうぐらいにそっち方面の緊張感はゆるゆるでしたね。これもまた細部をきちんと特定しない曖昧さが招いた結果かも。
スペシャルな存在
ゆるゆるなサスペンスに比して、陰惨な暴力描写が続くのは変態の至福だと言いたいところですが、これにしたところでただ陰惨なだけの工夫のない見せ方が続き、つまりは最初に戻って演出がとにかく野暮ったくてダサいの。やっぱり最初の10分で映画は決まるね。
結局この映画で素直に面白かったのはスパロー養成所での訓練シーンだけなのかも。あそこだけは良かった。国家への服従と、スパローとしての技術を学ぶ場で、従う振りをしながら自らの特殊性を誇示するドミニカの矜持。ランプリングには見抜かれてましたけどね。
彼女が求めたのは自分が特別だという誇りと、愛する母の身の安全。そうとう無茶な大博打によって母の安全は確保できましたが、彼女の誇りは守られたのかどうか?彼女は新たなスペシャルとしての地位を手に入れますが、それは一生続く修羅の道をも暗示させます。
いや、これはバレリーナの頃から変わっていないのかもしれない。あの頃から彼女は権力の下で踊るスペシャルだった。彼女がこの因果から逃れる道があったとするならば、それは復讐のためにその手を血で染めるべきではなかったってことかな。ちゃんちゃん。
あ、最後にご忠告。この映画にエロティックなギンギンを求めておられる未見の男性諸氏もおられるかとは思いますが、残念、この映画全然エロくないです。この映画のエロはすべて権力によって蹂躙された不快なものとして描かれておりますから。その点では偉かったよね。
個人的評価:4/10点
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