『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』感想とイラスト フリードキンの狂った執念

この記事は約9分で読めます。
映画『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』フランシスコ・ラバルのイラスト(似顔絵)

肥大化した狂気の果てに産み落とされた呪われた落とし子『恐怖の報酬』。その呪いゆえに四肢をバラバラにされた我が子の手足を執念でかき集め、36年の時を経て現世へと復活させたフリードキンの狂気。狂った男は今も昔も狂い続けているなんて素敵なおとぎ話♡

スポンサーリンク

作品情報

恐怖の報酬【オリジナル完全版】

  • 原題:Sorcerer
  • 製作:1977年/アメリカ/121分
  • 監督:ウィリアム・フリードキン
  • 原作:ジョルジュ・アルノー
  • 脚本:ウォロン・グリーン
  • 撮影:ジョン・M・スティーヴンス/ディック・ブッシュ
  • 音楽:タンジェリン・ドリーム
  • 出演:ロイ・シャイダー/ブリュノ・クレメール/フランシスコ・ラバル/アミドウ/ラモン・ビエリ

参考 恐怖の報酬 (1977年の映画) – Wikipedia

予告編動画

『恐怖の報酬 オリジナル完全版』フリードキン監督メッセージ入り予告編

解説

南米の小国ポルベニールを舞台に、それぞれの事情から同国へと逃亡してきた4人の男が、どん底から這い上がるためにトラックでニトログリセリンを運ぶという危険な仕事へと志願する姿を描いた、1953年の同名フランス映画をリメイクしたサスペンスドラマです。

監督は『L.A.大捜査線/狼たちの街』のウィリアム・フリードキンで、北米での興行的惨敗によりズタズタに切り裂かれた本作を不屈の執念でよみがえらせ、【オリジナル完全版】が2013年にヴェネツィア国際映画祭、2018年にはついに本邦初公開。

主演は『ブルーサンダー』のロイ・シャイダー。共演には『まぼろし』のブリュノ・クレメール、『ビリディアナ』のフランシスコ・ラバル、『女と拳銃』のアミドウ、『フリスコ・キッド』のラモン・ビエリなど。音楽はクラウトロックバンド、タンジェリン・ドリーム。

あらすじ

対抗組織から命を狙われているアイリッシュマフィアのドミンゲス。不正取引を告発された銀行家のセラーノ。ナチス残党狩りの殺し屋ニーロ。エルサレムで爆弾テロを起こしたパレスチナ過激派のカッセム。それぞれの事情から南米の小国ポルベニールへと逃亡してきた男たち。

そこで起こった油田火災。消化のためにトラックでニトログリセリンを運ぶ危険な仕事を、高額な報酬に釣られて志願した4人の男たちだったが、ジャングルのなかを一触即発のニトロを積んで走行する恐怖は彼らの想像を絶するものであった……。

スポンサーリンク

感想と評価/ネタバレ多少

『フレンチ・コネクション』と『エクソシスト』の2作で俳優ぶん殴ってショットガンぶっ放っしながら天下をつかんだ暴君ウィリアム・フリードキン。そんな狂った王様が手にしたすべてをきれいさっぱり失う羽目へと陥ったいわくつきの作品、それが本作『恐怖の報酬』。

すべてを手にした男がその狂気が赴くままに突っ走った挙句の壮絶なる爆死。しかし彼はそんな作品を自らの最高傑作だと信じて疑わず、ズタズタに引き裂かれた本作を不屈の執念で36年ぶりによみがえらせたのです。狂った男は今なお現在進行形で狂い続けている。

素晴らしい。なんとうらやましい狂いっぷりであろうか。そんな狂人が最も狂っていたかもしれない時期に撮られた狂った作品『恐怖の報酬』。念願かなってようやっとの初鑑賞です。彼の狂気へと少しでもお近づきになれたら人生終わってパラダイスかもね~♡

何をやっているのかわからぬ狂気

アンリ=ジョルジュ・クルーゾーのオリジナルを観たのは何年前だろうか?傑作と誉れ高き作品ですが、個人的にはあまりハマらなかった記憶だけが残っております。そんなオリジナルの骨格だけを拝借し、自分流の『恐怖の報酬』を撮ろうとしたフリードキン版。

そんな心意気がカラ回ったのかなんなのか、いや元からそうだったのですが、とにかく余計な説明なんぞは最初から描く気がないとことん不親切な観客置いてけぼりで、正直オープニングから何をやっているのか何が起こっているのかさっぱりこってりわかりません。

ベラクルスでいきなりぶっ放される暗殺の弾丸の痺れるクールさとエレベーター。エルサレムで起こる常軌を逸した爆破テロのリアリズム。パリでは不正取引によってすべてからの逃避を図る車内からの銃声。ボルチモアの神をも恐れぬ教会ビンゴ大会売上金強奪からの血まみれの事故死体。

のちにド田舎で雨天決行密林ニトロぐらぐらレースへと参加することになる4人の男たちの、それぞれの事情と罪を血生臭いクールさで説明皆無に説明してみせた説明シーンなのですが、「うお、なんかわからんけどすでに狂気」が漏れに漏れ出しております。

乾いた暗殺劇の唐突さとか、ニトロの前に爆発の真髄をすでにさらしてしまったテロのリアルと視線とか、家系自慢ボンボン息子の巻き込まれた挙句の脳漿を撒き散らした逃避とかも香ばしい狂気ですが、やはり白眉は本作の主体的自己ドミンゲスのパート。

強奪の標的が教会だという時点ですでに神をも恐れぬ行為ですが、その教会からしてビンゴ大会名目で大金を集め、しかも神父の兄はマフィアのボスで教会と反社との癒着が浮かび、結婚式を迎えた花嫁の瞳にはDVの痕跡が刻まれ、強奪犯たちはしょうもない口論で盛大に事故り、唯一生き残ったドミンゲスに謎のおっさんが忠告をする。

これらに意味があるのかないのかさっぱりわかりませんが、良いも悪いもなく世界はゆるやかに狂っているパラダイス銀河が浮かび上がり、そんな世界で罪を犯した男たちは狂った祖国を追われ、同じく狂ったド田舎へと逃亡してド底辺生活を送ることとなるのです。

地獄から地獄へ

それぞれの事情により南米の小国ボルベニールへと逃亡し、ぬかるんだド底辺生活を送ることになった3人の男たち。ニーロだけがやや遅れて何やら優雅に現れますが、彼がなぜこの地へとやって来たのかこれまたさっぱりこってりわかりません。

ドミンゲスの件を考えると彼を狙ってやって来た殺し屋のようにも思えるのですが、そんなわけではまったくなく、無意味にそのへんをほっつき歩き、唐突にニトロ運搬度胸試しへと応募し、落選した腹いせに当選者のひとりを銃殺し、ちゃっかりメンバーへと滑り込む始末。

親友を殺されたカッセムが「このシオニストの人殺しめ~」と罵っておりましたので、「あ、そういうことなの?ナチス残党狩りの殺し屋なの?」となんとな~く理解しましたが、あくまでなんとな~くなので確証があるわけではなく、行動原理不明な謎のおじさまであることに変わりはない。

しかしほかの3人の想いは切実です。「早くこんなド底辺生活から抜け出したい!」と日々悶々と汗と油と泥と血反吐にまみれた肉体労働を鬱々とエンジョイしているのです。そんな彼らに訪れた反政府テロによって発生した油田火災という一世一代の大チャーンス。

この油田火災の爆発がまた常軌を逸したド迫力で、ニトロごときはなんのその。しかしその炎を消すにはニトロの爆風が必要だってんで、ようやっと狂気の密林ニトロ運搬ドライブ珍道中が開催されるわけです。そうして選ばれた4人のド底辺逃亡者たち。

どこでそんな技術を習得したのかは不明ですが、ニトロ運搬用のトラック「Sorcerer(魔術師)」と「Lazaro(聖人の名)」の2台を皆で修理、チューンナップ、魔改造していく過程の燃えるありがたみは、近年では『アクアマン』などでも示されたとおり。

そんなありがたみの上に完成したトラックが闇夜のなかでライトとともに浮かび上がり、地獄から地獄へと逃げて来た4人の男たちの地獄から脱出するための地獄巡りがついに幕開けるのです。その荷台には少しの衝撃で大爆発するニトロを載せて……。

ニトロであろうがネギトロであろうが

ドライブデートには向かない鬱蒼としたジャングルを、隣にはむさいオッサン、荷台には爆発を今か今かと待ちわびるニトロを載せ、悪路悪天候なんのそので悪夢を抜け出すための報酬求めて突き進む4人の呪われた男たち。そう、これは呪われた男たちの地獄巡りなのだ。

彼らの行く手を阻む、わずかなハンドルミスでも奈落へと真っ逆さまの山道、なかば崩れ落ちた木橋、どこまでもグリーンなジャングル、それらのギリギリドライブだけで手に汗にぎにぎお握ってしまう緊張感があり、「そういやニトロ積んでたっけ」っとたまに思い出す始末。

そしてとうとうやって来た、豪雨と強風が容赦なく打ちつけるボロンボロンに腐りきった恐怖の吊り橋。そんな吊り橋を超重量級トラックで走破しようとする完全なるキチガイの所業。常軌を逸した吊り橋効果に思わず隣のむさいオッサンにもドッキドキ♡

なんて言ってる場合ではなく、ここで描かれるまさに狂気としか呼びようがない豪雨と強風とグラグラのなかでも前に進もうとする狂人たちのド迫力には、自然というか運命というか何か巨大な存在へと負け戦を挑む呪われた男たちの必死のあがきが感じられて怒涛の興奮状態!

ここにきてもはや積み荷がニトロであるという問題などは些末なことになってしまった。ニトロであろうがネギトロであろうがこの興奮は変わらない。それがはたして良いことなのか悪いことなのか?っていうかあんだけ揺れても別にニトロ大丈夫なのね。

ニトロ、ああ~ニトロ、ニトロ!ニトロよ!そうなのだ、本作の問題はニトロ運搬の恐怖を土台としながら、その肝心のニトロ自体にどうにも興味がないようなのだ。ニトロ運搬の恐怖とは違うところで物語、ドラマ、スリルを転がそうとしていてニトロ放置プレイなのだ。

まあ面白いから別にいいといえばいいのじゃが、やっぱニトロがかわいそうじゃんかよ!オリジナルとは違う部分で勝負したい気持ちはわかるけど、これじゃニトロちゃん刺身のツマよ。そういう狂気の方向がね、ボクはね、ちょっと引っかかってね、う~ん……。

狂気を縛れ亀甲に

ニトロでありながらニトロを忘れさせ、ついにはニトロそのものをどうでもよくしてしまった狂気もまたキチガイ帝王フリードキンらしくて心躍るものの、見境をなくした狂気が破滅へと向かうのはまた必然であり、この作品の失敗、帝王の失墜は起こるべくして起こったとも言えるでしょう。

個人的な見解ですが、規制、縛り、抑制のなかでこそ真の狂気が踊り狂うのです。狂人を野放しにしてはいけません。その先にあるのは破滅です。ゆえにちょっときつめの亀甲で縛り上げ、その縄の隙間からどうしようもなく漏れ出てくる狂気を愛でるのが乙なのよ。

同じく狂人を野放しにしたせいで起きた悲劇はコッポラの『地獄の黙示録』しかり。類似の作品としては『アギーレ/神の怒り』と『フィツカラルド』も想起しますが、ヘルツォークは最初から野放しみたいなもんなのでちょっと事情が異なるかな?

しかし、誇大妄想的な狂気がジャングルへと向かうのは必然なのでしょうかね?何を好き好んで地獄へと向かうのか?詰まるところどこへ行っても地獄は続き、因果応報的に自らの罪がどこまでも追いかけてくるのですから。ほぼ火星でラリッてロイ・シャイダーのようにね。

誰もが自分の犯した罪から逃れることはできず、どこに行こうが地獄は続き、世界にはタンジェリン・ドリームと乾いた銃声が木霊する。これらをぶった切った「短縮版」の狙いは狂気のスポイルにあったのでしょうが、この作品から狂気を除いていったい何が残る?

正直なところ映画としては失敗作だ。でも面白いのはそこに底なしの狂気があるから。ウィリアム・フリードキンが夢想した底なしの狂気。それが際限なくだだ漏れているからこそ本作はギリギリ面白いのではなかろうか?な~んてボクなんかは思うのですけどね。

個人的評価:7/10点

DVD&Blu-ray

だだ洩れ狂気映画の感想ならこちらも

コメント

  1. おーい生茶 より:

    スパイクロッドんさん、お久しぶりです。
    ついにレビューが来ましたか。待っていましたよ。

    僕は「命がけのトラック移動」だけの話で見たかったですね。
    これだけなら90分尺でスマッシュヒットしたと思います。
    もうマッドマックスをフランチャイズ化すればいいんですよ。
    暴走MADトラック映画をフリードキン監督に撮ってほしいです。

    今年はご多忙だったようですね。
    一行感想付きで2019年のベスト10映画を書くのは難しいでしょうか?
    またキャリー、ハロウィン(1978)の記事も読みたいです。

    最後になりますが「バニシング・消失(1988)」という映画はご覧になりましたか?
    まあまあ面白かったですよ。

    • おーい生茶さん、コメントありがとうございます!

      確かに一触即発のニトロを積んでジャングルをトラックで突っ切る!という設定だけで充分面白くなるネタですからね、もっと単純なスリルとサスペンスとアクションで攻めてもよかったとは思いますが、まあそのへんはフリードキンですのでハナからやる気はなかったのでしょうね(笑)。

      正直、本業の忙しさと怠け癖によってかなりブログを放置してしまっているのですが、まあやめる気はないので現状はボチボチと更新していくつもりです。『キャリー』に『ハロウィン』そして『バニシング・消失』。全部レビューしたい作品ばかりですがいったいいつになることやら……(トホホ…)。

  2. わるいノリス より:

    今年見た作品の中では個人的にかなり好きな作品です。
    やっぱCGなんて外道なんですよ、いくら技術が進んでも不自然なので冷めるじゃないですか。バーフバリみたいにあからさまにワザと感満載にしてアゲるなんて裏技もありますけど。
    俺がみたいのはこのむさくるしく生々しいアナログのキリキリ感なんだよ!ということで吊り橋シーンは射精モノでしたね。序盤のなんか分らんけど凄い勢いで酷過ぎるド底辺生活へ為す術もなく連れていかれる感も好きです。アナログと言えば今は聞かなくなったアナログシンセサイザーの音楽もアガりますねぇ!

    実は邦題がかなりまともな映画なのかなと思ってます。
    高額の報酬を手に入れたけど、もう昔いた国には戻れない。この危険な任務で得られた本当の報酬は、あの時命懸けで共に戦った仲間たちとの時間だったのではないかと思わせるラストと一瞬の至福の儚さにどうしても男の浪漫(死語)のような物を感じてぼかぁこの結末は大好きです。

    う~ん、ニトロの描写ですかぁ
    確かにトラックがちょっと動いたらニトロがクイクイ動くシーンが挟まれていましたけどもうちょっとヒヤヒヤする描写も欲しかったですね。けど目的地まで担いで歩いてた時の一心不乱の表情も僕は結構精神狂ってると思いました。あと爆発したら一瞬だよ?という北野武のような唐突な暴力性の映像もあったので多少はいいかなぁ。

    • わるいノリスさん、コメントありがとうございます!

      やっぱりこの時代の映画には現代にはない生々しさがあって、映像からダイレクトに伝わってくる肉体性や狂気や切迫感が違うんですよね。その世界で生きて狂って死んでいく生々しさ。嘘なんだけど嘘じゃないリアリズムがキリキリこの身を締め上げる快感があると思います。

      ただ観たくても観られない時間が長すぎて期待が膨らみすぎていたのか、残念ながらその高くなりすぎたハードルは越えられなかったという印象です。タンジェリン・ドリームはめちゃくちゃ良かったですけどね!

  3. ダムダム人 より:

    あけましておめでとうございます
    本年もよろしくお願いいたします

    この作品をはじめて観たのはテレビで
    40年くらい前でした。
    (ヨドチョウさんのところですwww)
    一昨年劇場で完全版を見たのですが
    短縮版に有ったシーンが無くてがっかりしました。
    以下は私が覚えているシーンです、

    ・ニトロを確保するために小屋に行くシーンが有るのですが
     初めの小屋はゲリラに奪われていてなくて、
     更に奥にある小屋に向かう
     完全版ではいきなり奥にある小屋に向かっていました。

    ・ナマコ道といわれるデコボコ道を走るシーン
     運転していたニーロが怖気づいて、ゆっくり走らせようとするのを
     ドミンゲスが早く走ったほうが振動が少ないといって
      アクセルを思い切り踏む

    そして昨年末、ソフトが発売されてかなり高いのを
    買ったのですが、それにも収録されていませんでしたorz
    *それを収録されたのもある様なのですが…**

    >ニーロだけがやや遅れて云々
    確かに初めは彼がここに来た理由はわかりませんでしたが
    彼の『しごと(笑)』が<アレ>なので後になってわかりました。
    (作品ではすごく判りづらいのでちがうかもしれませんが…)

    あと、最後の方でトリップメータが設定した所に着いたのに
    何も無い場所でしたよね?
    アレって設定した数値を間違えたのでしょうか?
    それとニトロは手で運んだのでしょうか?
    (かなり重そうだし無理が有り過ぎwww)

    毎度の事ながら長くてすみませんm(_ _)m

    • ダムダム人さん、コメントありがとうございます!

      短縮版にはあって完全版にはないシーンがあったんですね!それは知りませんでした!ゲリラに奪われて云々ってのはけっこう重要な情報だと思うんですけど、なんで削っちゃったのかな?あの油田火災の原因が反政府ゲリラによるテロ工作だってのもわかりくいので、そういうシーンがあったら観客の理解の手助けになるのに。まあそういう不親切さが逆にフリードキンらしいっちゃらしいんですけど、あえて不親切に作ったものを説明のために配給会社によって復活させられたんでしょうね。で、またそれを削ったと(笑)。