『ビガイルド 欲望のめざめ』感想とイラスト 漂白リメイク薄口仕立て

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映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』ニコール・キッドマンのイラスト(似顔絵)

閉ざされた女の園を舞台に、迷い込んだ男のキノコをめぐる女たちの視線、衣装、裁縫のたしなみ。こんな濃いぃ食材を前にして、まさか薄口調理法が試されるとは……。

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作品情報

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』

  • 原題:The Beguiled
  • 製作:2017年/アメリカ/93分/PG12
  • 監督・脚本:ソフィア・コッポラ
  • 原作:トーマス・カリナン
  • 撮影:フィリップ・ル・スール
  • 音楽:フェニックス
  • 出演:ニコール・キッドマン/コリン・ファレル/キルステン・ダンスト/エル・ファニング/ウーナ・ローレンス

参考 The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ – Wikipedia

予告編動画

解説

南北戦争末期の1864年を舞台に、女子だけの寄宿学校に運び込まれた負傷兵の存在が、やがて彼女たちの奥底に眠っていた欲望と嫉妬をあぶり出していくという愛憎スリラーです。

監督は『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィア・コッポラ。原作はトーマス・カリナンで、1971年に監督ドン・シーゲル、主演クリント・イーストウッドによって一度映画化されており、今作はそれを女性視点によって再構成したリメイク作となります。

主演は『聖なる鹿殺し』のニコール・キッドマン。共演には『ロブスター』のコリン・ファレル、『メランコリア』のキルステン・ダンスト、『ネオン・デーモン』のエル・ファニング、『ナイスガイズ!』のアンガーリー・ライスなど。

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感想と評価/ネタバレ有

同一原作を映画化したドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド主演による1971年の傑作『白い肌の異常な夜』。どうやらソフィアは「あれのリメイクではない」と言い張っているらしいが、オリジナルを知っている者にとっては比較するなと言われても無理な話。

とりわけ『白い肌の異常な夜』をドン・シーゲルの最高傑作として崇めているボクといたしましては、がっつりこってり比較しながら鑑賞してまいりました。あえて言いますがこれは『白い肌の異常な夜』のリメイクです。オリジナルの毒気をきれいに漂白したリメイクです。

同一原作だから似てて当たり前なのですが、あくまでベースにあるのは『白い肌の異常な夜』であり、そこから何を抜き、何を足すかに注力しただけの印象で、しかもその選択のすべてがボクの趣味とは真逆だった。まさかあんな濃い映画がこんな薄味になってしまうとは……。

何を抜いたのか

南北戦争末期の1864年バージニア州。鬱蒼とした森のなかにひっそりとたたずむ女子だけの寄宿学校に、負傷した北軍兵士マクバニーが運び込まれてくる。敵兵の処遇に戸惑う園長のマーサだったが、傷を負った彼を見捨てることもできず、やむなく学校で匿うことに。

戦火を離れ、女子だけの自給自足生活を送る彼女たちにとって、マクバニーの存在は抑圧された生活に訪れた予期せぬ刺激であり、彼の回復とともにその刺激はさらなる変化を遂げ、ひとりの闖入者をめぐる欲望と嫉妬が渦巻き始めるのだった……。

南北戦争を背景に、女の園へと迷い込んだ男が体験するどろんどろんの愛憎スリラー。ドン・シーゲル版はその時代性や背景とともに、人間の表と裏、抑圧と解放、罪と罰を娯楽と芸術のはざまでいつもより大きく逸脱してみせた傑作であり、何度観ても鳥肌が立ちます。

そんな傑作『白い肌の異常な夜』をベースとしながら、ソフィア・コッポラはまず戦争をさらに後方へと追いやり、重要な役割を担っていた黒人奴隷の存在を消し去り、女たちの情欲と嫉妬と独占欲がぶつかり合うバトルを漂白し、鬼気迫る手術シーンをぶった切ります。

これによってどろんどろんだった愛憎劇はその姿かたちを変え、毒気を抜かれた上品で静謐なまどろみ映画へと変貌いたします。サスペンスとしての緊張感は消え去り、人間の複雑な表裏は一面化され、ただ森の奥深くで幽閉されているような真っ白い女たちが浮かび上がる映画。

オリジナルの大事な要素をあえて抜き出したソフィアの意図は、『白い肌の異常な夜』を自分の映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』にするため。それは映画監督して100パーセント正しい。正しいのだが、映画をつまらなくしてしまっては元も子もないのでは?

何を足したのか

それでは抜いた部分に彼女は何を足したのか?足したというか強調した、いや、詰まるところそこにしか興味がないということなのかもしれませんが、これはつまり「女性」ということですよね。ただこの一点を描くためだけに、ほかのすべてはきれいさっぱり切り捨てたのです。

女の美しさと醜さ、抑圧と解放、欲望と嫉妬、深い森と霧のなかに隔絶、幽閉されたそんな女の世界を蠱惑的に描くことだけが目的であり、そこには戦争も、奴隷制度の問題も、男も、サスペンスも無用の長物。ただ美しくも不気味で悲しい女の世界を描ければそれでいい。

だから起用される女優も、生々しさよりもどこか作り物めいたお人形感が漂い、確かに美しく怪しくもあるが実存感はひたすら希薄。日本ではブサイク女優として名高いキルステン・ダンスト(失礼)が、唯一生身の女性らしい存在感を見せていたというのはなんとも皮肉。

実はボクはソフィア・コッポラの映画を観るのはこれが初めてで、彼女がどういう映画を撮るのかまったく予備知識がなかったのですが、基本は女性を描くことだけに注力している人で、しかも肝心な部分まではあえて突っ込まないふんわりスカシ芸の監督なのですかね?

そういうどこか深層をつかませない芸風が受けている監督なのだとしたら、この映画のリメイクは最も不向きな人選だったのではないでしょうか?要するにジャンル映画を撮る器ではないということ。雰囲気だけで中身がありそうに装ってもつまらんもんはつまらんのじゃ!

私映画でも撮ってれば?

女の園へと迷い込んだイケメンが、保身のためにあの手この手で女たちをたぶらかし、禁欲生活を続けていた女どもはそれによって素直な欲望へと目覚め、嫉妬と独占欲の闘争の果てに男の足はちょん切られ、キノコにあたって彼女らの世界の外へと打ち捨てられる物語。

簡単なあらすじを文字に起こしてみるとただこれだけで面白そうですが、まったくこれっぽちも面白くならなかったのは、すべてに対して真には切り込まないふんわりスカシ芸のなせるわざか?自然光による美しい撮影がうんぬんったってんなもんは映画の面白さとは関係ねーよ!

薄味で旨い料理と、濃い味つけにしなければ不味い料理とがある事実をもっと認識すべきですな。固く閉ざされた子宮的女の園へと迷い込んできた男が、本能的に発するその男性性によって去勢されるというプロットは抜群なだけに、それを活かす方策をもっと練らなければ。

自分のやりたいことだけ描きたいのであれば、ジャンル映画なんか撮らずにずっと私映画的なものを撮ればいいのでは。ソフィア・コッポラさん、『ゴッドファーザー PART III』を観たときからボクはあなたのことが嫌いでしたが、今回でもっと嫌いになってしまいました。

あ、学園のテラスから双眼鏡で外部を確認するロングショットは好きでしたよ。内と外の距離感が如実に伝わる映像で、総じてロングの画は素晴らしかったですね。ただ自然光にこだわった学園内の映像は……ってさらなる罵詈雑言が続きそうなので、ここらで自重してお開きに。

さらにあ、この映画が気に入った方も気に入らなかった方も、オリジナルである『白い肌の異常な夜』をまだ観てないというのであれば、是が非でも観てくだされ。同じ食材なのに調理法によってここまで味が変わってくるのかと実感いただけますので。是非に!是非に!

個人的評価:3/10点

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