『白い肌の異常な夜』感想とイラスト イーストウッドのマゾヒズム

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映画『白い肌の異常な夜』クリント・イーストウッドのイラスト(似顔絵)
女の園へと迷い込んだイケメン一匹。我が世の春と浮かれておっては危険ぞな。最後の選択を誤れば貴兄には厳しい罰が下されるのだ……。

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作品情報

『白い肌の異常な夜』
The Beguiled

  • 1971年/アメリカ/105分
  • 監督:ドナルド・シーゲル(ドン・シーゲル)
  • 原作:トーマス・カリナン
  • 脚本:ジョン・B・シェリー/グライムス・グライス
  • 撮影:ブルース・サーティース
  • 音楽:ラロ・シフリン
  • 出演:クリント・イーストウッド/ジェラルディン・ペイジ/エリザベス・ハートマン/ジョー・アン・ハリス/パメリン・ファーディン

参考 白い肌の異常な夜 – Wikipedia

予告編動画

解説

お師匠さんに懇願して自身の暗くゆがんだマゾヒズムを充足させたのではないかといぶかってしまうサスペンス映画です。

監督は『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』の師匠ドン・シーゲル。主演は『アメリカン・スナイパー』の弟子クリント・イーストウッド。『マンハッタン無宿』『真昼の死闘』『ダーティ・ハリー』『ガントレット』と並ぶ師弟コンビものの一本です。

共演は『バウンティフルへの旅』でアカデミー主演女優賞を獲得したジェラルディン・ペイジをはじめとし、『いつか見た青い空』のエリザベス・ハートマン、『悪魔のワルツ』のパメリン・ファーディンなど。

あらすじ

南北戦争の末期。南部のとある森のなかで、戦火を逃れて女性だけで自給自足の生活を送る女学院があった。そこへと運び込まれてきた、負傷して意識が朦朧とした北軍兵士ジョン・マクバーニー伍長(クリント・イーストウッド)。

学院長のマーサ(ジェラルディン・ペイジ)は敵軍兵士である彼の処遇に戸惑うものの、やはり見捨てることはできなかった。彼女たちの手厚い看病のおかげで、日に日に回復していくマクバーニー。

しかし彼の傷が癒えるとともに、女の園へと紛れ込んだ異分子であるマクバーニー伍長の存在は、彼女たちの抑圧された欲望を刺激してしまうのであった……。

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感想と評価/ネタバレ多少

この映画が公開された1971年はまさにイーストウッドにとっての転機でした。3月にこの『白い肌の異常な夜』、11月に監督デビュー作である『恐怖のメロディ』、そして12月には彼を一躍スターダムへと伸し上げた『ダーティ・ハリー』が公開されたのです。

先鋒を務めた今回紹介させていただく『白い肌の異常な夜』は、残念ながら興行的には惨敗に終わりましたが、個人的にはこの師弟のフィルモグラフィでも非常に重要な位置を占める作品だと思っております。

なぜかって?それは異質であるがゆえにふたりの本質をついていると思うから。

アクションスターの変態性癖

男臭いB級アクションを得意とした職人ドン・シーゲル。時にマッチョとも揶揄されるアクションスターのクリント・イーストウッド。そんなふたりの男が撮った、性にまつわる怪しさムンムンのスリラー映画。

イーストウッド主演作には実はこの手の変態映画がチラホラと隠れておるのです。前述した彼の監督デビュー作である『恐怖のメロディ』をはじめとし、『荒野のストレンジャー』『ダーティ・ハリー4』『タイトロープ』『ルーキー』、もしかしたら『J・エドガー』なんかもその部類かも。

そんな彼の変態性、それは主にマゾヒズムと呼んでよいと思うのですが、それが最も色濃く反映された最高傑作がこの師匠ドン・シーゲルとのコンビ作『白い肌の異常な夜』なわけです。

ズルい男と醜い女

外部から隔絶されて規範的生活を送る統制のとれた集団。そこに突如として紛れ込んでくる異物。それによる集団のほころびと、異物の運命を描いておるわけですけど、要約すると男のズルさと女の醜さと相成ります。

自らの保身のために嘘八百を並び立て、ごますりおべっか自己正当化。こりゃ脈ありと見るとすぐに下半身を張りきらせ、散々その気にさせといて結局は若いピチピチのお肌に吸いつき三昧。男ってバカな子供ですね。

そんなバカな男に乗せられて、抑圧されていた性欲を抑えられなくなり、出し抜き、裏切り、嫉妬に身悶えて我を忘れる女たち。これまで規律正しい禁欲生活を続けていただけに、いったんタガが外れるともはや歯止めが効きません。

そんなズルい男と醜い女が織りなす狂気の愛憎劇。男のズルさと下半身のだらしなさが招いた事態ではありますが、この映画の男は加害者であり被害者でもあるのですよね。同時に女も被害者であり加害者でもある。

醜悪さはやがて恐怖と化す

自分たちの気持ちをもてあそんだズルい男に対して醜い女たちが下す、血も凍るような恐怖の復讐劇。男は確かにここで完膚なきまでに断罪されておるのですけど、同時に嫉妬と復讐心に燃える女の醜さも暴露されているのです。

自分の不誠実さは棚に上げて、女たちの行きすぎた断罪にブチギレて支配者気取りの男に下された女たちの最終結論は、見事なまでの手のひら返しで鮮やかの一言です。これはまた統制された集団の秩序維持のための自浄作用ともとれますよね。

すべての事を成し遂げたあとの、彼女たちのあっけらかんとした会話の恐ろしいこと恐ろしいこと。ついこないだまで「マクバーニー伍長L♡O♡V♡E♡」とかやってたくせに、いまやただの生活ゴミ扱い。醜いというよりかはひたすら怖いですわこりゃ。

マッチョが抱えるマゾヒズム

自らの不誠実が招いた結果として、女性たちからえげつない目に遭わされる男。この構図は同年公開の監督デビュー作『恐怖のメロディ』でも踏襲されております。『ルーキー』という映画でも女性に縛られて「キャー!」という目に遭ってしまう。

一部ではマッチョなアクションスターとして誤認されているイーストウッド。しかし彼の主演作と監督作をすべて観てみれば、そんな単純な人間ではない大きく深い闇を抱えた変態だということが理解できると思います。

そんな変態性を師匠の胸を借りて全開にしたのがこの『白い肌の異常な夜』。その変態性とは要約してしまうとマゾヒズム。一見するとマッチョとは真逆の性癖のような気もしますが、実はマッチョというイメージの裏返しなのかもしれません。

マッチョな自分、またはマッチョだと思われている自分のイメージゆえに、そんなイメージとは真逆ともいえるマゾヒズムに暗い欲望を悶々とさせている。それはもしかしたら師匠であるドン・シーゲルにしても同様なのかも。

本当のドン・シーゲル

ドン・シーゲルといえば男臭いB級アクションを得意とする職人監督。彼はそのイメージを甘んじて受け入れ、飄々とした軽やかさとスピードで安くて面白い映画を量産していったが、本当に撮りたかった映画はもしかしたら別にあったのかもしれない。

そのひとつがこの『白い肌の異常な夜』だったのではないでしょうか?無駄を排除した的確な演出はいつもどおりですが、人間の表と裏を観念的ともいえる謎めいた演出で描き出した手法はかなり異質です。

火照った女たちの心の声。マクバーニー伍長の不誠実さを暴くフラッシュバック。院長先生の辛抱たまらぬ性的妄想。影と鏡の巧みな使い方。これはもう娯楽映画というよりかは芸術映画の趣である。こういうところがアメリカよりもヨーロッパで評価されている所以でしょう。

師匠ドン・シーゲル、弟子イーストウッドのフィルモグラフィでもかなり異質でマイナーな映画ではありますが、ただのアクション監督、ただのアクションスターではないふたりの本質が垣間見れる傑作だと個人的には思っています。

未見の方は機会がありましたらぜ是非とも鑑賞してみてください。男たるもの最後の最後に選択を誤っては万死に値するということが痛感できますので。

個人的評価:9/10点

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コメント

  1. こんばんは。
    この映画の存在は知っていましたが、内容は今回初めて知りました。
    こんな内容だったんですね。
    題名からして、ちょっと変な映画とは思っていましたが・・・(^_^;)
    いやいや、内容を知ってますます興味が沸きました(笑)

  2. スパイクロッド より:

    バニーマンさんコメントありがとうございます!
    ドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド主演といえばやはり『ダーティ・ハリー』でして、この『白い肌の異常な夜』はマイナーな存在ですから。彼らのフィルモグラフィではかなり異質な部類で、好き嫌いも分かれるかとは思いますが、もっと再評価されてもいい隠れた傑作だと個人的には思っております。機会があったらぜひご鑑賞してみてください。

  3. koolhand より:

    この映画とても好きなんです
    はじめてみた時は日曜日の昼間に民放で流れたのですが、ラストの何事もなかったように過ごす女性の群集心理が暫く頭から離れませんでした
    最近見た、「荒野のストレンジャー」にも似た空気を感じていたので、今回の記事を読んで納得でした!

  4. スパイクロッド より:

    koolhandさんコメントありがとうございます!
    こんな映画を真昼間の民放で流すなんてなんとも勇気のある放送局です。っていうか昔はこういうけっこうやばい映画もけっこう流してたんですけどね。今ではとんとお見かけしません。『荒野のストレンジャー』もなんとも摩訶不思議な映画でありますけど、あれはイーストウッドという俳優がいかに死神であるかを描いた傑作のひとつだと思っております。『ダーティ・ハリー』も、『ペイルライダー』も、『許されざる者』も、み~んな死神です。

  5. 宵乃 より:

    こんにちは!
    こちらで記事をお見かけしてから、ずっと再見したいと思っていたんですよ。やっと観られました。
    いやはや、本当に隠れた名作ですよね。とくにエイミーの豹変ぶりにはゾ~っとしました。
    イーストウッドとドン・シーゲルのマゾヒズムを表しているという解釈が面白いです。そう考えてみると、自ら墓穴を掘りまくっている主人公にも納得。妄想シーンも楽しそうに演じていましたね~(笑)

  6. スパイクロッド より:

    宵乃さんコメントありがとうございます!
    再見なさったんですね。何度観ても面白い、素晴らしい映画だと思いますので、ボクの記事をきっかけにご覧になられたということで感激もひとしおです。残念ながらマイナー扱いですからね(笑)。エイミーのあの豹変ぶりは、あの年でもやはり「女」に変わりはないということですね。その扱いをイーストウッドは間違ってしまった。やっぱりくら~いマゾヒズムの映画だと思います。

  7. おーい生茶 より:

    この映画はレアなイーストウッドが見られて面白かったです
    イーストウッド映画ではグラントリノの次に好きです。

    前半は「モテすぎてうらやま死刑」、後半は「イケメンざまあw」と謎の爽快感がありました。
    ソフィア・コッポラよりアキバ系監督がギャルゲーっぽくリメイクした方が面白そうな内容ですね。
    いい映画を教えていただき感謝です!

    • おーい生茶さん、コメントありがとうございます!

      ドン・シーゲル&クリント・イーストウッドの師弟コンビによる最高傑作だと思うのですけど、どうにも知名度は低いですからね。しかしこんな超絶濃いぃ映画を何故ソフィア・コッポラのような薄味スカシ芸監督がリメイクしようと思ったのか理解に苦しみます。まだギャルゲーみたいなポップに下世話なリメイクなら理解できます。ある意味その路線でこれをやられると相当怖いような気もしますしね(笑)。