『グリーンブック』感想とイラスト ケンタッキーの回し者

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映画『グリーンブック』ヴィゴ・モーテンセンのイラスト(似顔絵)

物理的に設けられた人種の壁と、潜在的な差別心とのはざまで浮き彫りになる人の孤独、葛藤、勇気、そして信頼。そんな俺とお前の友情物語を後押ししたのがかのケンタッキーフライドチキン。「たまらず喰いたくなる!」と言われても、ボクあんまし好きやおまへんねん。

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作品情報

グリーンブック

  • 原題:Green Book
  • 製作:2018年/アメリカ/130分
  • 監督:ピーター・ファレリー
  • 脚本:ニック・ヴァレロンガ/ブライアン・カリー/ピーター・ファレリー
  • 撮影:ショーン・ポーター
  • 音楽:クリス・バワーズ
  • 出演:ヴィゴ・モーテンセン/マハーシャラ・アリ/リンダ・カーデリーニ

参考 グリーンブック (映画) – Wikipedia

予告編動画

解説

黒人差別が色濃く残る1960年代を舞台に、南部での演奏ツアーを企画した黒人ジャズピアニストのドクター・シャーリーと、彼の運転手兼ボディガードとして雇われたガサツなイタリア系トニー・リップとが、旅を通して深い友情で結ばれていく姿を描いた伝記ドラマです。

監督は『メリーに首ったけ』や『愛しのローズマリー』で知られるファレリー兄弟の兄ピーター・ファレリーで、本作が単独監督デビュー作。第91回アカデミー賞において、作品賞・助演男優賞・脚本賞の三冠に輝いております。

主演は『イースタン・プロミス』のヴィゴ・モーテンセンと、『ムーンライト』のマハーシャラ・アリ。共演には『ラ・ヨローナ ~泣く女~』のリンダ・カーデリーニなど。

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感想と評価/ネタバレ無

先日発表された第91回アカデミー賞において、『ROMA/ローマ』や『女王陛下のお気に入り』を押しのけて作品賞をかっさらった『グリーンブック』。この発表を聞いて、まだ観てないけどたぶん順当な、もしくは無難な選出なんだろうなぁと思いました。

常に政治的なご機嫌、顔色をうかがいながらも、けっして真に革新的な映画には賞をやらないアカデミー賞。そういう意味ではオスカーを獲得したことによって変なレッテルを張られてしまい、損な役回りを押しつけられてしまったのは、ほかならぬこの『グリーンブック』なのかもしれない。

事実ボクは「はいはい、そういう映画なんでしょ」という色眼鏡で本作を観に行きましたから。そんな差別と偏見を粉砕するまごうことなき傑作だったのか否か?それでは色眼鏡越しによる感想をどうぞ。

ディス・イズ・アカデミー賞

人種隔離制度“ジム・クロウ法”が残る1962年のアメリカ。ニューヨークのナイトクラブで用心棒を務めるイタリア系のトニー・リップは、店の改修工事によって一時的に職を失うことに。そんな彼のもとに舞い込んだ、黒人ジャズピアニストの運転手という割のいいバイト。

雇い主のドクター・シャーリーは黒人差別が根強い南部での演奏ツアーを計画しており、腕っぷしの強い運転手兼用心棒を探していたのだ。生活のためにこの仕事を引き受けたトニーだったが、旅を通して彼のなかにある変化が生まれるのだった……ってのが簡単なあらすじ。

参考 ジム・クロウ法 – Wikipedia

人種も生育環境も性格も異なる凸凹コンビが、その違いに触れることによって他者を理解し、絆を深めていく過程を、ちょっと笑えて心温まるロードムービーとして描いた『グリーンブック』。オスカー受賞の栄誉に違わぬ平凡で良い映画でしたよ、これ。

こちらの期待を何ひとつ裏切ってこない、安心安全良心的なディス・イズ・アカデミー賞。何ひとつ革新的なことはしていないが、良い映画、面白い映画、心温まる映画としてのフォーマットを忠実に、的確に、高度になぞった誰もが楽しめる娯楽映画。

いや、「誰もが楽しめる」というのはちょいと語弊があったかもしれない。旧態依然とした良い映画としての完成度が高いがゆえに、意識高い系の人たちからは総攻撃を浴びてしまったのだから。確かに批判される要素は多分にありますが、「そない怒らんでもええやねん」とも思いますなぁ。

差別か友情か?

本作の主眼はあくまで正反対なふたりの男のあいだに生まれる友情にあると思うのですよね。黒人差別をその根底に据え、意識的かつ無意識に設けられた壁を、個と個の接触によってゆるやかに消滅させていく小さな奇跡、俺とお前の友情物語にこそ意味のある作品。

ゆえに映画は爆発的ではなく程よいユーモアに支配され、けっしてヘビーな政治的主張が睨みを利かせてくる映画とはなっていない。あくまでふたりの男が互いを理解、信頼する過程を描いた個と個の物語である。黒人差別は今もなお重要な問題ではあるが、本作のトップにそれが君臨しているわけではない。

しかしこういうデリケートかつ重大な社会問題を扱う場合は、その本気度がやはり問われてしまうのですよね。そういう意味では本作がこの問題へと対峙しているスタンスは、マイルドで旧態依然としたキレイゴトでご都合主義的な、「白人の救世主」と言われても仕方がない。

参考 白人の救世主 – Wikipedia

そういうヌルいスタンスで差別問題を扱ってしまった失点は確かに大きく、この手の問題に対してやたらと意識の高いスパイク・リーなんかが激怒するのもわかる気がしますが、「ちょっとみんな意識高すぎない?」とも思いますね。そないに目くじら立てる映画かこれが?

粗暴だけど家族想いの男と、インテリだけど孤独な男との友情育成ロードムービーやんか。安易に黒人差別を扱ってしまった失点は確かにあるが、基本はゆるくて心温まるライトなコメディ映画でしょ?差別を扱う場合は常にヘビーでなければならん法律でもあるんかいな?

特に書くことがない

社会問題と向き合う姿勢にヘビーさを求めなければ、普通にそこそこ面白いけど3日もすれば普通すぎて忘れちゃうような映画『グリーンブック』。ボクのような変態はこういう映画の感想を書くのがいっちゃん苦手なんです。正直言って書くことが何もない。

スパイク・リーみたいに怒り狂っていたらその怒りに任せて罵詈雑言を並べることもできますが、アレはアレで恥ずかしいですしね。「アカデミー賞なんざぁ白人どものお遊戯よ!」ぐらいの姿勢で無視すればいいのに、何故そんなにオスカーにこだわるのか?

それを考えると本作のドクター・シャーリーとスパイク・リーとはけっこう似ているのかも。ガチの被差別者としての黒人でもなければ、もちろん白人でもない中途半端な立ち位置。ゆえにその構造へとことさら意識的ではありますが、その問題意識は本当にガチで差別を受けている黒人と合致しているのかどうか?

そのへんの事情にボクは詳しくありませんが、本人が気づいてないだけであんがい乖離があるんじゃないかなぁ。本作のシャーリーもそうですよね。彼の白人にとって都合のいい立ち位置が批判の的なわけですが、これは実は痛いところを衝かれてしまったせいなのかも。

シャーリーの問題は差別と同等に個人的な問題も大きい。ゆえに本作は個と個の問題と融和を描いた非常にミニマルな作品なんだと思います。そこから大きな問題へと意識を向ける入り口を用意しているだけにすぎない。まあそこが批判を受ける格好の材料なのですが。

ってなわけで、「『グリーンブック』本編について何も書いとらんぞ!」とお叱りを受けそうな今回の感想、「たいして書くこともないディス・イズ・アカデミー賞映画やねんから仕方ないやんけボケ!」と逆ギレをかましたところでお開きです。

あ、ひたすら汚く飯を喰うヴィゴ・モーテンセンは好きでしたよ。ケンタッキーの回し者のようなフライドチキンばかりが取り沙汰されておりますが、ボクあんまケンタッキー好きやありませんねん。ボクが好きなんはあの巨大ピザ。あの豪快な喰い方に憧れるわ~。

個人的評価:5/10点

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コメント

  1. わるいノリス より:

    こんばんわ。
    グリーンブックですね。どうしてオスカー作品賞ってのこう出来がいいし文句ないけどすぐ忘れちゃうような作品ばかりなのでしょうね。選定マニュアルでもあるんでしょうかね。

    差別を扱いながらも決してヘビーでないのはこれから来る新しい潮流の予感がしますが(ボヘミアンとかガーディアンズオブ~とか明るい映画が評価されてるのも同じく)、金払って「やっぱりいい映画だったな」と予想を確認しに行って終わった感が否めません(超上から目線で失礼)

    けど関連記事にあるズートピアはホントに良かったなぁ・・・
    あれも差別映画ですけど動物擬人化社会への想像力とゲスワールドや小ネタの数々とテーマを超えて映画としての面白さが爆発してて、メインテーマがまるでオマケ。けど何の不満もなく何度も見たくなるような作品ですよね。
    やっぱさ、どれだけ頭で明るい作品にしよう!とか伝えたいメッセージを描こう!と思っても、制作陣のワクワクした「これやってみたら面白いんじゃね!?」という無邪気なアイデアには面白さで勝てないんじゃないかなぁとこの記事を読んでて思いました。
    ひょっとしたらお話の良さって映像・演出としての面白さへのオマケ程度なのかなぁ。

    そしてスパイク・リーに触れてるので自分も意見を一つ。
    サミュエルに抱きついたステージはとても感動的でした。けどちょっと被害者意識高すぎやしませんかアレ。そりゃ僕なんて何の不自由もないニッポンに生まれて、母親が奴隷だったとかいうこともないし、奴隷制なんて現代では決して許される制度ではないとは思うのですが・・・

     ぼかぁ奴隷やら差別映画を見るたびにこの映画が反社会になるとはこれっぽっちも思わず、むしろ更にその社会問題を拡大してるだけのような気がするのです。格差を描いて観客へ差別の現状や酷さのイメージを植え付けてるだけなんじゃないかと毎度思うのですよ。それによってデモのような行動が起こり現状を変えることもあるでしょうが、人々の意識・記憶には差別への思いが一層記憶にこびりつくでしょう。たとえ、差別制度が無くなったとは言え頭で「差別はダメなんだ」とか思いながらギクシャク異人種同士が接しようものならおそらくその不安定さがいつかは爆発を生むでしょう。過去の迫害への怒りの思いを映像化する動機は分かりますけど、ホントにこの社会を良くしようものなら黒人白人、いやもっと色んな人種が当然の如く出演してる作品の方がよっぽど効果があるでしょう。
    その意味だとあのパシフィックリム2とかいう残念映画やワイルドスピードシリーズの方が僕はよっぽど社会的メッセージのある映画だと思います。

    スミマセンついつい長くなってしまいましたが、お利口映画にはもう飽きたんだよ!!
    今回の記事や僕のコメントに触れる内容だと、今週からやるスパイダーマンのアニメがとても良さそうなので、良かったら記事にしてほしいれす!では失礼します~

    • わるいノリスさん、コメントありがとうございます!

      この『グリーンブック』はホントに普通によく出来たいい映画だと思うんですが、オスカー受賞によってその普通に良い部分が逆にマイナスになってしまったかわいそうな映画でしたよね。確かに批判される要素はあるんですけど、別に今回の批判をしてきた奴らのためにこの映画が存在するわけではないですから。テーマや社会的メッセージだけにこだわらず、純粋にもうちょっと映画としての評価をしてやれよ、とは思います。まあそう言いながらボクもそんなに評価はしていないんですけどね(笑)。それはひとえにピーター・ファレリーとしては「ヌルい」に尽きるかもしれません。差別を扱った作品だけに腰が引けちゃったのかな?もっと過激に笑かしにきてもよかったのに。

      で、まあスクパイク・リーですが、彼の意識の高さは凄いことだし理解もできるのですが、やっぱりちょっと大人げないですよね。差別のヘビーな現実を突きつけることにも一定の意義はあるでしょうが、本作のように「融和」をテーマとしたキレイゴトも未来への物語としては絶対に必要なのですから。そういう意味ではやはり『ズートピア』は破格の傑作だったのですね。そして多様性という意味でボクが推すのが石ノ森章太郎先生の『サイボーグ009』。今思うとこれってそうとう先を行った作品だったんですね。エンタメ性、多様性、そして差別もきっちりと盛り込まれておりましたから。

      『スパイダーマン:スパイダーバース』もちょっと気になりますが、その前にちょっくらイーストウッドの『運び屋』を観てきます。すべての話はそれからなのです(笑)。

  2. えるぼーロケッティア より:

    ヴィゴさんがいい味だしてていつの間にこんなにいい俳優になったんだと、アラゴルンしか知らない僕にはヴィゴ株爆上がりの、あの車の色のように爽快な清涼飲料水のような味わいの映画でした。

    スパイクリーが激怒してるとは全く知りませんでした。
    まぁ確かに彼の撮ってきたものからすれば思うところもあるのかもしれませんが、
    ご指摘通りそんなに怒らないでもいいのにと思います。

    差別を扱う上ではこういうライトな層に受ける映画も必要だと思います。
    この手の映画には珍しく、僕がみた劇場では結構若い女性もいました。
    それはやっぱりあのヴィジュアルイメージから重たい要素を感じなかったからでしょう。
    コアな映画好きがそうでない人に映画すすめるのと同じですよ。

    可愛い女の子にパシフィックリムの素晴らしさを熱弁しポカーンとしたその子が好きだといったトワイライトを鼻で笑い「この子は何もわかってない」という態度をとってドン引かれた経験がスパイクリー監督を始めとする意識高い人にはないんですよ。

    この手の映画のライトさは後に控える様々な映画を見てもらう前の「入り口」として重要です。
    「それでも夜は明ける」級のヘビーさを持った映画をみるのはそういう映画を経てからでなんら問題ないと思います。
    何事もわざわざハードモードからはじめる必要はないのです。

    第一こういうことでいちいち怒ってたらそういう面倒くさい人たちなんだと距離置かれるだけでしょうにねぇ。

    とまぁいろいろ脱線しましたが映画自体は純粋に楽しめました。
    ただ優等生タイプの映画なのであんまり熱心に語るのも難しい、
    強いて言えばやはりヴィゴさんのあのキャラクターが作中一番語りどころがあり面白いキャラだった。
    ケンタッキー州でフライドチキンだ!と無邪気にはしゃぐおっさんが可愛い、差別問題も重くなりすぎないよう配慮がなされている後味の良いそんな映画があったっていいじゃないか、と僕は結構好きな映画でした。

    • えるぼーロケッティアさん、コメントありがとうございます!

      ヴィゴとアリ、つまりはトニーとシャーリーの友情物語として非常にいい映画なのですよね。肝はそこなのです。そこをまず楽しんだうえで、その背後に横たわる黒人差別の問題へと思いをはせるきっかけになればよいのですよ。いきなり『それでも夜は明ける』や『マンディンゴ』のようなヘビー級を観ても、ただただ重い、怖い、嫌だ、と拒否される可能性もあるのですから。ボクが観た劇場でも老若男女が観に来ていて色とりどりでしたよ。オスカー受賞という箔と、差別を扱いながらもどこか爽やかそうなビジュアルイメージの賜物ですよね。何事もライト層を無視してはブームは起こせんのですから。

      しかしそれは我々映画オタクとて同じこと。面倒臭い人間になっては楽しく世の中渡っていけませんからね。ボクも若かりし頃はえるぼーロケッティアさんと同じような過ちを繰り返して人から距離を置かれたもんです。『タイタニック』を観てデカプーが死ぬシーンで爆笑してはいかんのだと人生で学びました。心で笑って顔で泣くのが大人のたしなみ。まだ十代のボクにはそのへんの心の機微がわかってなかったんだなぁ~。

  3. star より:

    お疲れ様でございます。

    女王陛下のお気に入りの感想で、開口が広くなっちゃって複雑などとヌカしておきながら何ですが、この作品、私実はかなり気に入っております

    オッサン二人のロードムービーにも関わらず日本でも結構なヒットになっていることからも分かるように、尖ってもいなければ差別にまつわるハードな展開も抑えめな優等生的な作りなんですが、
    ポイントポイントでちゃんと強く印象に残るシーンを入れてきており、娯楽作として優秀でありながらも唯一性を保っていると思いました(この点はスパイクロッドさんとは少し見解が分かれてしまいましたね)

    あと、音楽使いの上手さも印象的でした
    ピアニストのロードムービーでこれがお粗末だと途端に萎えるところですが、さすがはファレリー、抜かりがない

    スパイク・リーはじめとする黒人の映画人からの批判が間違っているとか的外れだとは、非黒人である私の口から言うことは出来ません
    でも、この作品を観た後で、肌の色や性格や好きな物が違う人が交流することで生まれるものにネガティブな感情を抱く人はいないはずです
    それは決して無価値ではないし、少なくとも私はこの映画を観た後とてもポジティブな感情と共に劇場を後にすることができましたよ

    • starさん、こちらにもコメントありがとうございます!重ねて返信が遅くなってしまって申し訳ありません。

      すいません、もうなかば映画の内容忘れちゃったんですけど(おいおい)、いい映画はいい映画でしたよね(ホントかよ?)。同系統の作品で批判を浴びた1989年のオスカー受賞作『ドライビング・ミス・デイジー』もボクは嫌いじゃないですよ。視点や立場が違えば評価が違ってくるのも必然。むしろ直接的当事者ではないボクら日本人にはこれぐらいのほうがちょうど良いのかもしれません。キレイゴトだろうと映画なんですから、希望を描いて悪いわけがない。でも差別という点においては、なにげに最も凄かったのはイーストウッドの『運び屋』のような気がしますね。いや~あれは本当に凄かった。