『僕の村は戦場だった』感想とイラスト 美少年は記憶のなかで輝く

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戦場に生きる美少年の忘れられない甘美な思い出。芸術至上主義者アンドレイ・タルコフスキーが送る衝撃の監督デビュー作。驚くべきことに、話が理解できます!

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作品情報

僕の村は戦場だった

  • 原題:Иваново детство/Ivan’s Childhood
  • 製作:1962年/ソ連/94分
  • 監督:アンドレイ・タルコフスキー
  • 原作:ウラジミール・ボゴモーロフ
  • 脚本:ウラジミール・ボゴモーロフ/ミハイル・パパワ
  • 撮影:ワジーム・ユーソフ
  • 音楽:V・オフチンニコフ
  • 出演:コーリャ・ブルリャーエフ/V・ズブコフ/Ye・ジャリコフ/S・クルイロフ/N・グリニコ

参考 僕の村は戦場だった – Wikipedia

解説

第二次世界大戦、独ソ戦を背景に、美しい少年の殺伐とした「今」と甘美な「あの頃」を描いた戦争ドラマです。

監督は『惑星ソラリス』のアンドレイ・タルコフスキーで、これが長編デビュー作。1962年のヴェネツィア国際映画祭でサン・マルコ金獅子賞を獲得するものの、表現の問題をめぐって著名な作家と哲学者とのあいだで論戦が勃発。頭のいい人たちの喧嘩はわけがわかりません。

あらすじ

第二次大戦中のソビエト。ドイツ軍に両親と妹を殺された12歳の少年イワン(コーリャ・ブルリャーエフ)は、その小さな体を活かしてソビエト赤軍の偵察任務に協力していた。

しかし、これ以上幼き少年に危険な任務を遂行させるのは酷だとして、イワンは幼年学校へ入ることを命じられる。かたくなにそれを拒否するイワン。いまや彼の心を支配しているのは、家族を奪ったドイツ軍に対する復讐心だけだったのだ……。

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感想と評価/ネタバレ多少

『惑星ソラリス』に続く、アンドレイ・タルコフスキーの難解映画鑑賞祭り第2弾『僕の村は戦場だった』の感想です。代役というかたちで回ってきた長編デビュー作なのですけど、気負いや若書きの稚拙さがまったく感じられない驚愕すべき完成度の高さです!

デビュー作にして(しかも代役)すでにタルコフスキー映画以外の何ものでもありません!しかもありがたいことに、なんとなんと話が理解できるのですよ!

戦争によって奪われたあの頃

ウラジーミル・ボゴモーロフのベストセラー小説『イワン』をもとに、第二次大戦中の独ソ戦で斥候を務める12歳の少年の過酷な今と甘美な記憶を描いた、「戦争の犠牲となる子供」といういわゆる反戦映画のたぐいです。

しかしこの手の短絡的なカテゴライズは、正しいようで間違っているような気がいたします。タルコフスキーがこの映画で最も描きたかったこと。それは戦争の愚かさやむなしさではなく、少年の忘れられない想い、記憶の絶対的な力にあるのではないでしょうか?

それを対照的に際立たせんがための暗黒の戦争。そのために用意された戦争という状況とまでは申しませんけど、あくまで上位に位置するのは記憶のほうなのだと思います。

神話の中の少年

何ものにも代えがたいほどにきらびやかに光り輝いていた記憶の断片。その圧倒的存在感は現実をはるかに凌駕しており、これこそが現実であり、現実こそが一時の夢であるかのようです。

記憶というのは良い思い出も悪い思い出も、総じて事実よりも誇張されてメモリされておるものですけど、この神話的に美化された記憶のなかを浮遊する少年の美しさたるや!

陽光、井戸、果実、雨、海岸、空、母と妹。そんな甘美な記憶のイメージのなかでもひときわ輝く少年の美しさは、もはやこの世のものとは思えません!いや、事実すでにこの世のものではないのか?なんと哀れな……。

だからこその美しさ。失ったからの美しさ。取り戻せないからの渇望。記憶の呪縛。現実からの解放。飛翔。疾走。ああ~すでに自分でも何を言っているのかよくわからなくなってきた。

対照的に現実の彼は、もはや少年ではない「何か」へと変わってしまっておるのでしょうね。しかしながら美少年ぶりは健在です。それゆえなのかなんなのか、彼とその周囲の大人たちとの関係が何やら怪しげで、よからぬ想像が頭をもたげてきよります。

いや、そう考える自分が不謹慎きわまりないのか?でもどうにも意図的にこれをやっているような気がしないでもない。まさかのショタコン映画!?というゲスな勘ぐりはこのへんで自制しておきましょう。

ちちくり反戦映画

ショタコン監督…ではなかった、希代の映像詩人タルコフスキーの詩情豊かな映像美は、このデビュー作からしてすでに確立されており、その唯一無二な世界に吸い込まれそうになります。

美しくも不気味なモノクロ映像のなかで象徴的に映し出される火と水。長回しによるゆるやかなカメラワーク。浮遊感。音。とりわけ注目すべきは、白樺の林で繰り広げられる戦争そっちのけのちちくりあいであります!

どこまでも続く白樺の林のなかで、官能的な恋の駆け引きを繰り広げる男女の姿を、圧巻の長回し、その流れのなかでインとアウトを繰り返すふたりの位置関係、微かに聞こえるキツツキが白樺の幹をつつく音、そしてやがて到達するあまりに鮮烈で忘れがたいキスシーン。なんなのこれ!?凄すぎるっしょ!!

もうこの一連のシーンを観られただけでボクは感無量です!当時のソ連の情勢を考えれば、かの戦争はすべて美化されなければならないはずなのに、戦争そっちのけのちちくりあいを驚愕の長回しで見せつける。

きっと当局には怒られたことでしょうけど、これって実は非常に重要なシーンですよね。「戦争は悲惨なんだ!」と声高に叫ぶより、はるかに反戦的メッセージにあふれております。そんなことよりちちくりあいのほうが大事なんだよ!

ちちくりあい的反戦メッセージと、少年のまばゆい記憶の断片。デビュー作ということもあって、自己の内面へと潜行していくような難解さはまだなく、物語のわかりやすさと詩的映像の塩梅がちょうどよく、自分的には問答無用の傑作だと思いますね。

ラストシーンのこの身を引き裂かれるような美しい記憶には、恥ずかしながら滂沱の嵐でした。

個人的評価:9/10点

DVD&Blu-ray

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コメント

  1.  コメントが滞り愛想なしですみません。携帯からコメントできなくなったのがコメント数激減の原因です。
     この映画は好きな作品です。タルコフスキー監督の作品の中で最も話の展開が解り易いですね。
     この作品から湿気った風景にこだわりを魅せているので、監督はこのころから好きだったのかと感心させられます。
     暖かい夏の日差しと少年の笑顔から、暗くどんよりして冷たく湿っている世界と憎しみの種火がついたままの無表情な少年の対比は見事です。
     上半身裸で走る少年少女のアップを描いて作品内容に誤解を生じさせる演出を期待していたのですが、昨今の表現規制を警戒しての御判断ですか?

  2. スパイクロッド より:

    ミカエルさん、コメントありがとうございます!
    いやいや、こうしてコメントしていただけるだけでありがたい話なので、
    数の問題ではありません。その気持ちだけで感無量です!
    ホントにタルコフスキーの映画は難解なやつばかりなので、
    ボクのような頭の悪い奴にはこれぐらいのわかりやすさがちょうどよかったです。
    わかりやすいからといってタルコフスキーらしさがないわけではありませんしね。
    おっしゃるとおりもうこの頃から水が大好きなのですよね。
    美しい水、怪しい水、暗い水、各種取りそろえておりました。
    なぜそういう景色が好きなのかはよくわかりませんが、
    彼の撮るそういう景色の魔力にはすごいものがありますよね!
    ミカエルさんの期待しておられたイラストは多少頭をよぎったのですけど、
    そこは自主規制ということでシルエットにさせていただきました。
    でもそういうご時世ですからね。ボクも唐突にそのシーンが表れたときには、
    少々驚いて「ギョッ!」としてしまいました。
    あたりまえのことといえばあたりまえのことだというのに身構えてしまう。
    別にそういう趣味があるわけではないのに、
    何かいけないものを見てしまったような居心地の悪さを覚えてしまう。
    禁止されると余計にやりたくなってしまう性分ではありますが、
    そういうものに不快感を覚える方もいるだろうとの判断でありまして、
    その点はどうぞご了承ください。