神の名のもとに行われる子供へのいたずら。「いたずら」ってなんだ「いたずら」って!?貴様らのやっていることは虐待であり、犯罪であり、ひいては殺人でもあるんだよ!ふざけんなバカ野郎!
作品情報
『スポットライト 世紀のスクープ』
Spotlight
- 2015年/アメリカ/128分
- 監督:トム・マッカーシー
- 脚本:ジョン・シンガー/トム・マッカーシー
- 撮影:マサノブ・タカヤナギ
- 音楽:ハワード・ショア
- 出演:マーク・ラファロ/マイケル・キートン/レイチェル・マクアダムス/リーヴ・シュレイバー/ジョン・スラッテリー/ブライアン・ダーシー・ジェームズ/スタンリー・トゥッチ
参考 スポットライト 世紀のスクープ – Wikipedia
予告編動画
解説
「聖職者」の「聖」とはいったい何を指しているのか神様に問いただしてみたくなる実録社会派ドラマです。2003年にピューリッツァー賞を受賞した、「ボストン・グローブ」誌によるカトリック教会の児童虐待隠蔽事件告発に基づいております。
監督は『扉をたたく人』のトム・マッカーシー。出演者は『フォックスキャッチャー』のマーク・ラファロ、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のマイケル・キートン、『パッション』のレイチェル・マクアダムスなど。
第88回のアカデミー賞においては計6部門にノミネートされ、見事に作品賞と脚本賞に輝いております。
あらすじ
2001年。ボストンの日刊紙「ボストン・グローブ」に新編集局長のマーティ・バロン(リーヴ・シュレイバー)がやって来る。彼はさっそく紙面強化のため、同紙の調査報道班「スポットライト」に神父による児童への性的虐待事件の再調査を命じる。
チームのリーダーであるウォルター・“ロビー”・ロビンソン(マイケル・キートン)を中心に、4人の記者たちは地道な調査で数々の証拠をつかみ、神父による児童への性的虐待の驚くべき実態、カトリック教会の隠蔽体質へと迫っていく。
さまざまな障害や妨害に遭いながらも、事件の真相へと確実に迫っていたチームであったが、彼らの前に2001年9月11日がやって来るのであった……。
感想と評価/ネタバレ有
神父による児童への性的虐待。それを長年にわたって隠蔽し続けてきたカトリック教会。その深く大きな闇へと闘いを挑む記者たち。まだ死んではいなかった報道の力。実話ものはあまり好きなジャンルではないのですけど、これは素直に観てよかった。
「知らない事件だし、登場人物多いし、なんか難しそうだな~」なんて思っている人にこそ観てほしい。アメリカ人にとっては周知の事実であっても、我々日本人にとってはまさに知られざる衝撃の事実。知らないからこそ観て知るべきなのです。
普通に撮られた衝撃的映画
この映画を一言で表現するなら、「あえて普通に撮られた良作」となりますでしょうか?余計な演出や脚色はいらない。スポットを当てるべきは事件そのものであり、派手な演出や、意外な展開や、俳優たちの自意識過剰演技が主役なのではない。
監督の意図はここにこそあり、あえて普通に撮られたことによって見事にこの衝撃の事件を主役として浮かび上がらせておりました。抑えた演出、事実を積み重ねていく脚本、俳優たちの地味だけど重みのある演技。そして音楽。
デヴィッド・クローネンバーグとのコンビで知られるハワード・ショアの手によるスコアは、ジャンジャカ物語を煽り立てるようなものではないものの、冷ややかなピアノの旋律が静かに物語を、衝撃の真相を闇よりすくい上げておるのです。
演出も、演技も、音楽も過剰に自己主張をしない。しかしそのことによって、事件の闇や、重みや、怒りを的確に我々観客へと突きつけてくる。そういう意味ではこの映画のスタッフは最高の仕事をしたということでしょう。オスカー受賞も納得です。
神の名を語る悪魔
この映画の主人公である胸クソの悪い事件。神の権力のもとに自分を慕ってきた子供たちを毒牙にかけた無数の神父たち。神の名のもとにそんな悪魔どもを、組織を守ろうと躍起になるカトリック教会。信仰を喰い物にする亡者ども。
ニューヨーク・タイムズによる追跡調査によると、驚くべきことに過去60年間で1200人を超える聖職者が4000人以上の子供に性的虐待を加えたとのこと。いやいやそんなもんではない、この事件はもっと根深く、これは氷山の一角にすぎないという声も。
劇中に声だけで登場する元神父で現在は心理療法士のリチャード・サイプ氏によると、教会神父のおよそ6パーセントが小児性愛者、ペドフィリアであると語っております。その数字の正しさはスポットライトの面々が地道な調査によって立証することに。
これが事実だとして、この数は尋常ではないぞ!成人男性の20~25パーセントが小児性愛的傾向をもつとする怪しい調査結果なども存在するが、これはあくまで傾向であって、実際に行動に移すのとは分けて考えなければならない。
それではなぜ聖職と言われる神父でそれだけの小児性愛者、それも実際の虐待、レイプという犯罪にまで手を染めてしまう者があとをたたないのだろうか?
未成熟な聖職者
これに対するひとつの解答として、先のサイプ氏は妻帯を禁じているカトリック教会の戒律をあげています。確かに一理あるとは思いますが、それだけが理由とはどうも思えません。教会内部の閉鎖性、妻帯の禁止、権力志向、これらはすべてシステムの問題です。
それでは個人の問題とはなんなのでしょうか?それは劇中でも多少語られておりますが、神父の人間としての未成熟さにあるのではないかと思われます。「神父の癖に未成熟とは何事じゃい!」とお怒りになる気持ちはごもっとも。ボクもそう思います。
しかしよく考えてみてください。若くして聖職者としての道を選んだ彼らは、ロクな社会経験も積まず、宗教という狭いカテゴリ、システムのなかで頭でっかちな偽善を学び、厳しい戒律に縛られて毎日を生きている。これが人としての成熟でしょうか?
それを端的に表していたのが、ワンシーンだけ登場した元神父の男性。「確かにボクは子供にいたずらしたかもしれないけど、レイプはしてないよぉ」とうそぶく彼の姿は、成熟した成人男性とは程遠い子供そのものである。
つまりどういうことかと言うと、「子供が子供を喰い物にしていたのではないか?」と。宗教というシステムのゆりかごのなかで育った彼らは、神の教えのもとにおいては成熟した大人かもしれないが、人の道においては未成熟な子供にすぎない。
だから狙うのは弱い子供。どちらかといえば男児が標的とされているのも性の未成熟さゆえ。おそらく彼らの大多数は本当のLGBTなどではない。未成熟であるがゆえに性の対象の線引きが出来ず、ただ狙いやすい対象を標的にしているだけなのです。
闇はかならず暴かれる
これがボクなりに導き出した解答ではありますが、専門家ではないただの無知な未熟者ですので、どうぞ信用なさらないように。もっと複雑でさまざまな要因があることでしょう。この映画に対する唯一の不満は、ここの掘り下げが浅かったこと。
神父個人の問題を追及するよりも、カトリック教会のシステムの問題、地域的な問題、メディアの問題にスポットを当てておりましたので、どうしても個人の問題はやや置き去りにされている感がありました。ここだけが不満と言えば不満かな。
地域的な問題で重要な点は、長いものに巻かれ、事なかれ主義によって設けられた大きな壁をこじ開けたのが、ふたりの「よそ者」だったということ。これを演じたリーヴ・シュレイバーとスタンリー・トゥッチこそが真の主演とも言えるでしょう。
巨大な組織と保守的事なかれ主義によって闇へと葬られてきた忌まわしき性犯罪。これを日の当たる場所へと無理矢理引きずり出してきた報道の力。彼らの地道な調査と努力、葛藤、成果は称賛されてしかるべき功績でしょう。
しかし忘れてはならないのが、この問題を闇へと葬っていた一因を報道も担っていたということ。この事実は重くつらい。物事にはタイミングということもある。大事なのはそれをいかに逃さないか。闇はかならず暴かれる。どうかそうあってほしい。
いつになく真面目な文章に終始してしまいましたが、やはりそれだけ真面目に語るべき映画だったということ。この真面目な映画における一服の清涼剤と言えるのがマーク・ラファロの存在。どうか彼の顔芸とドタバタで心癒されてください。
個人的評価:7/10点
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