「ジェシカを死ぬほど怖がらせてやるぜ!」とノリノリのスタッフ、演者の皆さま、メンヘライジメもほどほどに。追い込まれたメンヘラは何をしでかすか予測不可能ですので。
作品情報
呪われたジェシカ
- 原題:Let’s Scare Jessica to Death
- 製作:1971年/アメリカ/89分
- 監督:ジョン・ハンコック
- 脚本:ラルフ・ローズ/ノーマン・ジョナス
- 撮影:ボブ・ボールドウィン
- 音楽:オーヴィル・ストーバー
- 出演:ゾーラ・ランパート/バートン・ヘイマン/ケヴィン・オコナー/マリクレア・コステロ
参考 Let’s Scare Jessica to Death (1971) – IMDb
解説
メンヘラのジェシカさんが寄ってたかって死ぬほど怖い目に遭わされてしまう、1970年代の隠れた傑作ホラーのひとつです。
監督は若き日のデ・ニーロが出ているらしい『バング・ザ・ドラム』のジョン・ハンコック。主演は『エクソシスト3』のゾーラ・ランパート。共演には『クルージング』のバートン・ヘイマン、『ブリンクス』のケヴィン・オコナーなど。
あらすじ
精神を病んで長期入院していたジェシカ(ゾーラ・ランパート)。彼女は療養を兼ねて夫のダンカン(バートン・ヘイマン)と友人のウッディ(ケヴィン・オコナー)とともに、コネチカット州の田舎町へと引っ越してきたのだった。
ところが引っ越し先の農場には、家出娘のエミリー(マリクレア・コステロ)がすでに住み着いており、驚く一同。最初は戸惑いながらも彼女の存在を受け入れ、しばらくのあいだ共同生活をすることになった4人。
しかしこのエミリーの存在が、排他的な町の空気が、奇妙な噂話が、ふたたび不安定なジェシカを追い込み始め、やがて彼女を現実なのか悪夢なのかわからない怪異な現象の渦へと巻き込んでいくのであった……。
感想と評価/ネタバレ多少
いちおう日本でも劇場公開はされたものの、その後は数回テレビ放映されただけで、DVDはおろかビデオすら発売されていなかった幻のホラー映画『呪われたジェシカ』。ずっと気になっておりました。
数年前にオンデマンドDVD化はされたのですけど、このたびパラマウントの「甦る映画遺産」シリーズで廉価版が一般発売。同時にTSUTAYA発掘良品での取り扱いも始まり、このたび念願の初鑑賞と相成りました。ありがたや~ありがたや~。
嫌な空気が死ぬほど怖い
『Let’s Scare Jessica to Death(ジェシカを死ぬほど怖がらせよう)』という原題どおり、メンヘラのジェシカを徹底的にイジメ倒すなんとも意地の悪い映画です。それはイコール、この手のホラー映画として非常に良質な証明であり、最大の賛辞でもあるのですけどね。
「これは夢?それとも悪夢?狂気か正気か、もう私にはわからない……」湖畔のボートでひとり遠くを見つめるジェシカのモノローグで幕を開ける本作。すでに嫌な空気が充満しております。この映画の最重要ポイントはこの「嫌な空気」にこそあるのです。
実は昨今のホラー映画のような直接的ショック描写は数えるほどしかありません。あるのはひたすら漂う「嫌な空気」。それでも、いや、だからこそ怖い。恐怖とは視覚的なものだけではなく、想像して、感じるものだということがよくわかりますね。
不安定さが生み出す恐怖
霊柩車、墓石のトレース、無愛想な老人、謎の少女、ロッキングチェア、ささやき声、古ぼけた写真、霧、音、音楽。どれも単体ではたいした意味をなさないが、見せ方、合わせ方、タイミングなどの工夫によって、得も言われぬ恐怖を作り出す。
町の排他的な老人のひとりが、夫の頭を「ペチッ」と叩いたときのなんとも言えない違和感と不気味さ。この老人がほとんど素人とおぼしき無表情演技なのもシュールすぎ。こういう何げないひとコマひとコマがとにかく怖いのです。
そしてこの映画における最大の恐怖ポイントなのが、メンタルに大きな問題を抱えている主人公ジェシカ自身なのであります。彼女の心の不安定さを彼女自身、周囲の人間、そして我々観客も知っている。これがこの映画における恐怖の肝。
すべてはジェシカ自身へと
頭とお尻がつながった円環の構造をなした、主人公ジェシカの回想、彼女の主観的物語なわけですけど、その語り部であるジェシカの見たもの、聞いたもの、体験したことを、彼女自身もそうですけど、我々観客も信じることができないのですよね。
現実に起こった怪談話なのか?それともおそろしく手の込んだペテンなのか?はたまたすべてはジェシカの妄想なのか?「これは夢?それとも悪夢?狂気か正気か、もう私にはわからない……」という円環で曖昧に幕を閉じる本作。
しかしこの中途半端な曖昧さこそがこの映画の恐怖の正体。わからないからこそ怖い。答えがないからこそ怖い。ロマン・ポランスキーの名作『ローズマリーの赤ちゃん』、以前に紹介した『SF/ボディ・スナッチャー』とも通じる恐怖のかたちです。
前述した2作が明確なオチを用意していたのに対して、曖昧さを終始貫きとおしているのも良かったと思います。どのオチを選択していたとしても、きっと陳腐な映画になってしまっていたことでしょうね。
最後に、主人公のジェシカを演じたゾーラ・ランパートの印象的な低音ボイスと痩身、ぎこちない笑顔に会話、危なっかしいメンヘラ女の迫真性も忘れがたいのです。とりわけ痛々しすぎる心の声がたまりません!
個人的評価:8/10点
コメント
だんだん「自画像」が角ばってきましたね。
晴雨堂ミカエルさん、コメントありがとうございます!
もともと柔らかい絵が描けないのですよ。
昔はそれがコンプレックスでしたけど、
いまはもうそれでもいいかなって感じです。
っていうか、これでも丸くなったほうなんですよ♪