変態を隠さない男、ロマン・ポランスキー。そんな彼が狂って女装して街中を逃げ回る映画。幻の怪作がついに初DVD化だ!変態のみんな!うれしいな!
作品情報
テナント/恐怖を借りた男
- 原題:Le Locataire/The Tenant
- 製作:1976年/フランス・アメリカ/126分
- 監督:ロマン・ポランスキー
- 原作:ローラン・トポール
- 脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ
- 撮影:スヴェン・ニクヴィスト
- 音楽:フィリップ・サルド
- 出演:ロマン・ポランスキー/イザベル・アジャーニ/メルヴィン・ダグラス/シェリー・ウィンタース
解説
もともと頭のおかしいロマン・ポランスキーがさらにおかしくなっちゃう異常心理サスペンスです。原作は『ファンタスティック・プラネット』の脚本と作画で知られるローラン・トポールの『幻の下宿人』。
監督は『毛皮のヴィーナス』のロマン・ポランスキーで、ついでに脚本と主演も務めております。共演には『ポゼッション』のイザベル・アジャーニに、『合衆国最後の日』のメルヴィン・ダグラス、『狩人の夜』のシェリー・ウィンタースというベテランふたり。
残念ながら日本では劇場未公開に終わりましたが、このたびめでたく初DVD化となり、いつもお世話になっているTSUTAYA発掘良品でも取り扱いが始まりました。ところで『マクベス』のソフト化はいったいいつになるのでしょうか?
あらすじ
パリの古ぼけたアパートに空き部屋を見つけた青年トレルコフスキー(ロマン・ポランスキー)。しかし無愛想な家主(メルヴィン・ダグラス)から前の住人がこの部屋の窓から飛び降り自殺を図った事実を聞かされる。
心配になったトレルコフスキーは一命を取り留めた彼女=シモーヌを見舞うのだが、彼女はとても話が聞ける状態ではなかった。そこで出会ったシモーヌの友人ステラ(イザベル・アジャーニ)とともに帰宅した彼は、アパートにひとつしかないトイレからこちらを凝視する視線を感じて不安にかられる。
そんな不安のなかで始まった新生活。口うるさい家主や無愛想な女管理人(シェリー・ウィンタース)、奇妙な隣人たちの存在は彼の悩みの種となり、いつしかトレルコフスキーの心はある被害妄想に取り憑かれていくのだった……。
感想と評価/ネタバレ多少
1969年の8月9日。チャールズ・マンソン率いるカルト教団によって妻シャロン・テートを惨殺されたポランスキーは、もともとおかしかった頭をさらにおかしくしていきました。
彼が最も狂っていた時代に撮られた映画。『マクベス』『チャイナタウン』『テス』、そしてこの『テナント/恐怖を借りた男』。日本では残念ながら劇場未公開に終わり、1986年のビデオスルーのみで視聴困難作品と化しておりましたが、ようやくDVD化されたおかげで念願の初鑑賞であります。
狂気のアパート映画三冠王
古びたアパートの一室を借りることになった男が、自殺した前の住人の幻影、ほかの住人たちとのトラブルの果てに、精神的バランスを失っていく姿を描いた心理スリラーなのですけど、想定以上に狂った面白さで、こちらも踊り狂ってしまいましたね!
冒頭の名カメラマン、スヴェン・ニクヴィストによるアパートの全貌をスーッと舐め回していくカメラワークからして最高で、この時点ですでにもうただならぬ不穏な空気が渦巻いております。冷ややかに、しかし確実に、何かがすでに狂っている恐怖の予感。
アパートを舞台に心理的不安を描いた映画といえば、『反撥』(1965)と『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)という2本の傑作をすでに手にしていたポランスキーですが、この作品も当然そこへと仲間入りを果たし、見事に狂気のアパート映画三冠王達成です。
さらには随所で『吸血鬼』(本作と同じく自作自演作にして、妻シャロン・テートと出会った因縁のコメディホラー)的ユーモアも挿入されており、狂気と恐怖とシュールな笑いが混然一体となった得も言われぬ味わいを醸し出しており、好きな人にはたまらん旨味があるかと思います。
イメージの映画
難解だとする向きもあるかもしれませんが、それ以上に不条理で不気味な雰囲気、要するにポランスキーの突出した内的イメージを楽しむ映画というわけですな。心理的緊張がマックスに達し、歪んで広がった空間描写なんてまさに彼の悪夢的イメージの賜物です。
理解できるできないではなく、この悪夢的なイメージに溺れることができるか否か?それによって評価が大きく割れてくる、観る人を選ぶ映画ではないかと思います。
まあイメージの映画なのでわからないで当然だとさじを投げてしまっては芸がないので、足りない頭で解読に挑戦してみますと、要するにこれは『戦場のピアニスト』と同じポランスキーの言い訳映画だったのではないでしょうか?
主人公はポランスキーだった
覗き趣味や女装、マゾヒズムなどの性癖開陳。外国人ゆえの孤独感と疎外感。周囲の過干渉と無理解によって精神的崩壊をきたす小心者の男。これって絶対にポランスキー自身ですよね?
自分の変態は自分自身のせいではなく、環境が引き起こしたのであると。だから許してくれ、俺の変態を!ということだったのではないでしょうか?それゆえの自作自演。そりゃハマリ役ですわな。自分自身を演じておるわけですから。
もはや途中からポランスキー自身にも、そして我々観客にも、何が現実で何が妄想なのか区別がつかなくなってきて、恐怖と不安のなかで変態キチガイ街道をフラフラとさまよい歩き、よくわからないがひたすら恐ろしいラストへと到達し、絶望と狂気と歓喜の咆哮をあげるのです。
このラストに隠された何やら暗いユーモアこそが、ポランスキーの天才で変態たるゆえんではないかと思います。狂った自分を、変態な性癖を、「だからどうした?」としてあざ笑って覗き込むさも当然。「俺は狂ってるし世界も狂ってんだよ」とでも言いたそうではないですか。
『マクベス』を待ち焦がれて
この翌年にジャック・ニコルソン邸で当時13歳の子役モデルと性的関係を結び、逮捕、実刑、トンズラをかましたというのは有名な話ですけど、それはまた別の話。でもこの事実からも、ポランスキーの変態ぶりの一端がうかがえるかと思います。
「ポランスキーが女装して逃げ回る映画」という押井守が著書で語っていた名言を目にして以来、いつかは観てみたい映画ランキングの上位に位置していた『テナント/恐怖を借りた男』。こんなカルト映画をDVD化してくれるなんていい時代になったもんですよね。
あとは『マクベス』のDVD化を残すのみ!お願いだからどっか出して!!
個人的評価:8/10点
コメント
これ、見てみたい~!
原作も読んでみたいです。
関係ないけど『ポゼッション』のアジャーニはすごかったですね…
ゆきやままさんコメントありがとうございます!
原作はあの『ファンタスティック・プラネット』のローラン・トポールですからね!実はボクも未読ですけど、ぜひ読んでみたいです。映画の出来はもう変態ポランスキー全開!って感じで問答無用におすすめです!『ポゼッション』のイザベル・アジャーニの変態ぶりはもう強烈ですけど、この映画の彼女はメガネをかけたちょっと不思議ちゃんです。それはそれで魅力的でありますよ。
いやあ、最高でしたよ。「テナント/恐怖を借りた男」。
初ポランスキー映画でしたが、結構自分好みかもしれません。
それにしても確かにポランスキーさん、ハマリ役でしたね。
ボンドレイクさん、コメントありがとうございます!
いや~最高でしたでしょ!『テナント/恐怖を借りた男』!初ポランスキー映画がこれでしかも最高だなんてあなた最高ですよボンドレイクさん!この映画を気に入ったのであれば、同じくポランスキーが自作自演している『吸血鬼』や、ポランスキーそっくりのマチュー・アマルリックに自分を演じさせた『毛皮のヴィーナス』なんかもおすすめですよ。恐怖アパート映画としては『反撥』と『ローズマリーの赤ちゃん』も絶品ですので、どうぞ機会がありましたらお試しあれ!