あなたは今の人生に満足していますか?もう一度人生をやり直したいとは思いませんか?あなたが望むのなら別人の人生を体験させてあげましょう。さあ失われた時を取り戻すのです!ドーーーーーーーン!
作品情報
セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身
- 原題:Seconds
- 製作:1966年/アメリカ/106分
- 監督:ジョン・フランケンハイマー
- 原作:デヴィッド・イーリイ
- 脚本:ルイス・ジョン・カリーノ
- 撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ
- 音楽:ジェリー・ゴールドスミス
- 出演:ロック・ハドソン/サロメ・ジェンズ/ジョン・ランドルフ
参考 セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身 – wikipedia
解説
生真面目な中年男が「別人になろう!俺は別人になるのだ!」とむなしい努力を続けるSFサスペンスです。
監督は『フレンチ・コネクション2』『ブラック・サンデー』などの職人ジョン・フランケンハイマー。主演はハリウッド屈指のイケメン俳優と呼ばれながら、のちにゲイであることを告白してAIDSにより亡くなった『ガン・ファイター』のロック・ハドソン。
共演は赤狩りによって一度はハリウッドを追われた『セルピコ』のジョン・ランドルフ。奇妙な偶然ですが、ほかにもウィル・ギア、ジェフ・コーリーを含む3人が、この映画によってハリウッド復帰を果たしております。
あらすじ
平凡な中年銀行員のアーサー・ハミルトン(ジョン・ランドルフ)。安定はしているが刺激の少ない退屈な日常を送っていた彼のもとに、死んだはずの友人から奇怪な電話がかかってくる。
その電話に導かれ、謎の企業の扉を叩いた彼に出された提案は、「他人になってもういちど人生をやり直してみませんか?」という驚くべきものだった!
感想と評価/ネタバレ多少
「恐怖のかたちは千差万別 ホラーじゃないけど怖い映画5選」という記事のなかで紹介させていただいた、非ホラー映画だけどすこぶる怖い映画のひとつです。
ちなみにこの作品も以前に紹介させていただいたマイナーホラーの傑作『呪われたジェシカ』と同じく、TSUTAYA発掘良品での取り扱いが始まったことによってようやく鑑賞することができました。ありがとう!ありがとうTSUTAYA発掘良品!
不穏なタイトルバック
望みどおりの幸福な人生を獲得しなすったわずかな幸せ者を除いて、おそらくは誰もが抱えているであろう「人生こんなはずではなかった」という想い。「できることなら人生をやり直してみたい!」と誰しも一度ぐらいは考えたことがあるのでは?
そんな心の奥底へと隠された願いをややSFチックに叶えてくれるのがこの映画。しかしですねぇ、奇想天外なアイデアもさることながら、やはりこの映画最大の魅力は映像の力に尽きるのではないかと思っております。
タイトルバックからしてすでにホラー映画ではないのにホラー色全開!デザインはヒッチコック映画でお馴染みのかのソール・バス。『フェイズIV/戦慄!昆虫パニック』という傑作もものにしている天才グラフィックデザイナーであります。
人体のパーツに対する極端な接写、歪んだレンズ、シンプルなロゴ、ジェリー・ゴールドスミスによる神経を逆なでするスコア。何が何やらまだこの時点ではわからぬものの、もうすでに只ならぬ雰囲気に呑み込まれてしまう勢いです。
主人公の非現実的体験
ようやく本編が始まったと思ったら、今度はいきなりカメラの位置が変!主人公を尾行している男の顔面クローズアップドリー撮影、肩乗せ一人称カメラ、やけに低い視点など、フィルム・ノワール調で撮られた謎めいたオープニングシークエンス。
この詳細はわからないけど何やら異常な事態がすでに起こっている感は素晴らしく、早くもボクのハートはこの異様な映画の虜になってしまいました。
その後も何かに怯える主人公、死んだはずの友人からかかってきた電話、その指示に従っての行動、たどり着いた会社での体験と、それなりに物語は着々と進行していくものの、話が皆目わからんのですよ。
でも面白い!そして怖い!それはとりもなおさず映像の力がとにかく尋常ではないから!時代はすでにカラーが主流となっていたのに、あえてモノクロで撮影された主人公の道行きがなんともシュールで恐ろしい!
この不可解な事態に翻弄される主人公と同様に、我々観客も何ひとつ真相がつかめないまま、不安と恐怖と焦燥のなかで、この地獄の映像巡りを続けなければならないのです。
壮大ないやがらせなのか?主人公の白昼夢なのか?何かの陰謀なのか?主人公と観客を迷走させて一種の異世界へと誘い込む前半の一大シークエンスは本当に圧巻です。とりわけ一服盛られた主人公が見る夢うつつは必見!
不気味に歪んで広がった室内。その中をうつろに歩く主人公。その先にあるもの。そこで行われる行為。いや~怖い!現実にしろ悪夢にしろ怖い!
ここで映し出される悪夢的映像の連なりは、フランケンハイマーの1962年の傑作『影なき狙撃者』の洗脳シーンを彷彿とさせるもので、1964年の『5月の7日間』(未見)とあわせて、フランケンハイマーによるパラノイア3部作と呼ばれている模様。
もうここまでで正直お腹いっぱいですが、まだ映画の三分の一を消化したのみ。悪夢の終着駅はまだまだ先なのであります。
早すぎた傑作
まあ物語としての現実的な道筋が見え出したあたりで、やや映画としては失速してしまうのが残念ですけど、それでもやっぱり恐ろしい映画に違いはありません。
現代であれば実現可能そうな他人への転身。主人公のアイデンティティの喪失。初公開時はカットされたという怪しげな祝祭。秘密を共有した組織の自己防衛本能。以前の自分の本当の姿。魚眼レンズによる手術台。いや~やっぱりこりゃ怖いわ!
当時はこのあまりにも先鋭的すぎる実験精神が敬遠され、興行的にも批評的にもあまりいい評価は得られなかったようですけど、現代では早すぎた傑作としての再評価が進み、広くお手軽に観られる環境がようやく整ってきました。
ホントにこういう企画はどんどんやっていってほしいので、お願いしますよTSUTAYA発掘良品さん!さ~て次は同じくフランケンハイマー監督作の『プロフェシー/恐怖の予言』でも観てみようかな?
個人的評価:7/10点
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