『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』感想とイラスト むき出しの人間性

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映画『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』ルトガー・ハウアーのイラスト(似顔絵)
ポール・バーホーベン渾身のアメリカデビュー作。怒りを胸に、肉欲と血をスクリーンいっぱいに撒き散らす心洗われる感動巨編。ああ~人間ってなんて素晴らしい生き物なんでしょう。

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作品情報

『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』
Flesh + Blood

  • 1985年/アメリカ、オランダ/128分
  • 監督:ポール・バーホーベン
  • 脚本:ポール・バーホーベン/ジェラード・ソェットマン
  • 撮影:ヤン・デ・ボン
  • 音楽:ベイジル・ポールドゥリス
  • 出演:ルトガー・ハウアー/ジェニファー・ジェイソン・リー/トム・バーリンソン/ジャック・トンプソン/フェルナンド・ヒルベック

参考 グレート・ウォリアーズ/欲望の剣 – Wikipedia

解説

領主によって裏切られた傭兵たちが、神の啓示を受けて欲と血にまみれた壮絶な復讐劇を繰り広げるという、オランダの爆弾小僧ポール・バーホーベンがアメリカへと乗り込んで放った、ぜんぜんグレートではないキチガイどもによる肉欲残虐歴史アクションです。

監督は『ロボコップ』や『スターシップ・トゥルーパーズ』などで知られる残虐大王ポール・バーホーベン。主演は『ブレードランナー』『ヒッチャー』などのセクシー怪優ルトガー・ハウアー。

共演には『イグジステンズ』のジェニファー・ジェイソン・リー、『スノーリバー/輝く大地の果てに』のトム・バーリンソン、『戦場のメリークリスマス』のジャック・トンプソン、『ゴングなき戦い』のスーザン・ティレルなど。

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感想と評価/ネタバレ有

母国オランダで数々のヒット作を撮りながらも、批評家からは「低俗背徳冒涜変態野郎」として攻撃されまくっていたバーホーベン。そんな彼に飛躍のチャンスを与えたのがかのスピルバーグ。ハリウッドへと招待されたバーホーベンが最初に手がけた作品がこの『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』というわけです。

残念ながらここ日本では劇場未公開に終わりましたが、これがすこぶる面白いの!バーホーベン最大の武器であるエロとグロが、まだエンタメ化されていない無秩序さでそこら中に散乱しているとでも申しましょうか、とにかく半端ではないクズっぷりが美しいの!

グレイトなゲスっぷり

舞台は中世末期。領主が奪われた自分の城を取り戻すべく攻撃を仕掛けるところから映画は始まります。しかしここに理想や信念は存在しない。あるのは「取られたら取り返す」「勝てば官軍」「お前のモノは俺のモノ」という美しい人間のあるべき姿が描かれておるのです。

略奪、殺人、強姦。なんの憂いもなく破壊と蹂躙の限りを尽くす女房子供娼婦まで引き連れた生活共同体ともいえる軍隊。そのなかにこの映画の主人公マーティンもおります。しかし狡猾な領主の裏切りに遭い、一文無しで放り出されてしまうマーティンとその仲間たち。

このオープニングの時点でバーホーベン節が容赦なく炸裂!前述した傭兵たちによる蛮行。頭をパックリ割られて痙攣する美貌の尼さん。彼女の乳を、股間を狙い撃つカメラ。死産した我が子を樽に詰めて足で泥水へと沈めるマーティン。何から何までグレイトです!

これ以降も木彫りの聖マーティン像を見つけてカルト組織化し、揃いの赤い衣装に身を包んで神の名のもとに肉欲の限りを尽くすマーティンたち。縛り首にされた腐乱死体の下で愛を語るとってもメルヘンな若い男女。そんなヒロインを襲う誘拐、強姦、服従。

彼女を救い出そうと立ち上がった領主の息子の前に現れる舌を切り取られた少女。恒例の全員スッポンポンで風呂入るぞ!ペストの蔓延。ペスト菌まみれの犬肉攻撃。ゲロ。人間ダーツ。裏切り。仲間割れ。etc.etc.

生きるための選択

この映画に存在しているのは素晴らしく美しい汚物の数々のみ。領主に裏切られたマーティンたちの姿はまだ同情を誘うものだったが、そこからのカルト集団化、破壊、肉欲、利己主義、裏切り合戦の醜さには一片たりとも共感できる部分が存在しない。これが主人公ってあんた!

深遠なる悪の魅力なぞは放棄し、ひたすら欲望むき出しの小悪党ぶりを発揮している主人公マーティン。それに対抗する真の意味での主人公ともいえる引き裂かれた若い男女。唯一の文明人であった領主の息子が、愛と怒りから徐々に外道化していく姿もたまりません。

しかしこの作品における最大の白眉は、ジェニファー・ジェイソン・リー演じるアグネス姫にあるでしょう。実年齢23歳だが未成年にしか見えない危ない魅力を惜しげもなく披露しながら、愛と保身のあいだでせわしなく揺れ動く彼女の生き残り戦術。

これには嫌悪感と同情心と共感がない交ぜになってもう大変!ロバート・アルドリッチの傑作『傷だらけの挽歌』におけるバーバラ嬢を思い出します。捕らわれの姫が命のためにやむなく選択する演技と愛のあいだで見る地獄。いったい誰がこれを責められようか?

偉大なる闘士

ペストの蔓延による終末観や、キリスト教的欺瞞を暴く内容からは、イングマール・ベルイマンの傑作『第七の封印』との共通点も見いだせます。っていうか、バーホーベンなりの『第七の封印』だったとも思える内容。高尚さのかけらもありゃしませんけどね。

これは人間の人間らしさを欲望むき出しの汚物まみれでキラキラ描き出したエンターテインメント大作。息つく暇のない怒涛の外道展開はまさにバーホーベンの真骨頂で、ペストの感染力の速さなんてもはやリアリティうんぬんの問題ではない。映画はスピード感こそ命!

観る者を絶対に飽きさせないバーホーベンの過剰なまでのサービス精神。わたくし心が洗われましたよ。良識派は眉をひそめるやもしれませんが、人間のクズにはたまらない珠玉の娯楽映画だと思います。ボクと同じ人間のクズには超絶おすすめしたい逸品です!

この作品も例に漏れず興行的成功に反する批評家からの攻撃にさらされたバーホーベンは、ついに母国オランダをあとにし、本気でハリウッドへと殴り込みをかけます。怒りを胸に海を渡ったバーホーベン。そこで彼が手にしたのが皆さんご存知、『ロボコップ』の脚本でした。

個人的評価:9/10点

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コメント

  1. マーフィ より:

    わーい、バーホーヘン映画だー。
    親が子供向け特撮みたいなもんだろうと油断して、まだあどけなかった小学生のぼくに『ロボコップ』を見せてくれたのが間違いのはじまりだったような気がしています。

    ベルイマンとの共通点の指摘は面白いです。『処女の泉』でも舌が抜かれた羊飼いが出て来たりしてましたね。あちらの処女は頭割られて死んでしまったけど、こちらの処女たちは頭割られても乱暴されても生き抜いてみせるというのも面白いです。
    ひょっとしたら、バーホーヘンも『処女の泉』で涙に暮れて、タフな女の子が生き抜いてみせる娯楽映画が撮りたくなったのかもしれませんね(笑)

    • スパイクロッドspikerod より:

      マーフィさん、コメントありがとうございます!

      ええ。バーホーベンですよバーホーベン!ボクも小学生のときにオリジナル『ロボコップ』の洗礼を受けたひとりですので、同じくあれによって大きく道を踏み外してしまったような気がします(笑)。とっても素敵ないばら道ですけどね。

      ベルイマンの『第七の封印』との共通点は、少し前にちょうどそちらも再見していた影響もあるかとは思うのですけど、このレビュー記事作成後に偶然ですがバーホーベンのオールタイムベストテンというのを見る機会があり、なんとその中に『第七の封印』が入っていたので自分でもびっくりした次第です。あながち見当違いではなかった模様です。よくよく考えるとベルイマンの映画もけっこうゲスいですからね。芸術性によってオブラートに包んではおりますが。

  2. ブッチ より:

    今まであまり意識してなかったのですが、スパイクロッドさんの映画評を読んで、この作品を鑑賞してみました。

    うーん、これは…下品だ…。

    バーホーベンの映画はいくつか見て、「なんか下品な映画作る人だな〜」くらいの印象しか持っていなかったのですが、こんな筋金入りの人だとは思いませんでした。
    登場人物も、描き方も、とっ散らかってるところも全てが下品。一見、歴史大作っぽいところも下品。下品さもここまで突き抜けると、仰るように何か神々しさが漂って来るもんなんですね〜。
    でも、なんなんでしょうか、見た時は辟易としても、もう一度あの汚物たちを見たくなってしまうこの感覚は。生命力そのものを感じてしまうこの感覚は?
    実は「第七の封印」も併せて再見してみたのですが、ほぼ同じ内容に見えました。下品だけど。
    邦題の「グレートウォリアーズ」というのもどこまで考えてるのか分かりませんが振り切れてて素敵ですね。

    • ブッチさん、コメントありがとうございます!

      バーホーベンの映画はとにかく下品です。思いっきり振りきれています。「これが人間ってもんなんじゃ!」といっさいの迷いがありません。それはもうバーホーベン自身のキャラクターが如実に表しておるかと。エネルギッシュで、パワフルで、底抜けに下品な歩く生命力の塊。『スターシップ・トゥルーパーズ』撮影時に、男女共同シャワーシーンに躊躇する役者どもを尻目に、「バカ野郎なにやってんだテメーら!」とまず自分が全裸になって撮影を敢行するという底抜けのパワーと意味不明な豪胆さと無類の変態性。何事も行きすぎると神が宿るとも言いますが、バーホーベンの映画にはそれがあるのでしょうね。