『灼熱の魂』感想とイラスト それでもあなたを愛してる…

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映画『灼熱の魂』のイラスト
ひとつの国家で繰り広げられた宗教的、思想的対立による壮絶なる殺し合い。十字架を胸に、女子供を虐殺するのが俺らの正義。やられたらやり返す。そんな泥沼のなかでも、母は息子を想い続けるのです……。

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作品情報

『灼熱の魂』
Incendies

  • 2010年/カナダ、フランス/131分/PG12
  • 監督・脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 原作:ワジディ・ムアワッド
  • 撮影:アンドレ・トュルパン
  • 音楽:グレゴワール・エッツェル
  • 出演:ルブナ・アザバル/メリッサ・デゾルモー=プーラン/マキシム・ゴーデット/レミー・ジラール/アブデル・ガフール・エラージズ

参考 灼熱の魂 – Wikipedia

予告編動画

解説

突然亡くなった母親の遺言に従い、これまで存在すら知らなかった父と兄を捜す旅へと出た双子の姉弟がたどり着く、驚愕の真相を描いたヒューマンミステリーです。

監督は『メッセージ』と『ブレードランナー 2049』がひたすら待ち遠しいドゥニ・ヴィルヌーヴ。原作はレバノン出身の劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲『焼け焦げるたましい』。

主演は『パラダイス・ナウ』のルブナ・アザバル。共演には主にカナダのテレビで活躍するメリッサ・デゾルモー=プーラン、『静かなる叫び』のマキシム・ゴーデット、『みなさん、さようなら』のレミー・ジラールなど。

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感想と評価/ネタバレ無

日本での公開はもう6年も前になるのですね。しかしいくら年月が過ぎようとも、この映画の感想をネタバレ込みで書くことには大きな抵抗があり、旧作ではありますがネタバレなしでこの素晴らしい映画の感想をなんとか綴ってみたいと思います。

超絶ヘビーな焼け焦げる魂

『メッセージ』公開前にヴィルヌーヴの作品をすべておさらいしておこうと、久々にこの『灼熱の魂』も再見してみたのですけど、初見と変わらぬ衝撃と重さにボクのガラスの腰は大きな悲鳴をあげておりました。「頼むからもう勘弁してくれ」と。

物語は突然亡くなった母の奇妙な遺言に従い、存在すら知らなかった父と兄を捜して母の故郷である中東へとやって来た双子の姉弟が、母の人生の軌跡を追いながら血塗られた歴史とひとつの家族にまつわる因果を暴き出していくというもので、もう超絶ヘビーです。

この映画の原作はレバノン出身の劇作家ワシディ・ムアワッドの戯曲『焼け焦げるたましい』なのですが、このことから、劇中では明確にされていない母ナワルの故郷とはレバノンだと思われます。泥沼のレバノン内戦勃発前後を背景としたひとりの女性の人生の軌跡。

参考 レバノン内戦 – Wikipedia

墓場まで持っていけない想い

映画冒頭、遠景から室内へとゆるやかに移動してくるカメラワークのバックで流れるのは、けだるいトム・ヨークの歌声が物悲しいレディオヘッドの『You and Whose Army?』。ここで映し出される少年の鋭い眼光と選曲のハマり具合には戦慄を覚えます。

少年の眼光は残酷すぎる運命を呪い、トム・ヨークの歌声は他者によってゆがめられた歴史を告発し、双子の姉弟がたどる母の人生は差別、宗教、対立、殺し合い、復讐の連鎖、そして大きな家族の愛を浮かび上がらせる。

非情な現実を、残酷すぎる運命を呪いながらも、想い焦がれた愛の大きさ、深さに涙せずにはおれません。確かに墓場まで持っていくべき話かもしれませんが、黙って持っていけない怨嗟と愛というアンビバレンスがここには存在するのです。ああ~本当におもてぇーよ。

超絶ヘビーな腰にくる物語を、過去と現代、母と娘を巧みに交錯させながら、ミステリー仕立てで重厚に描き出したヴィルヌーヴの手際はとにかく老獪です。出来すぎた話、うますぎる演出がこの映画の欠点とも言えますが、それぐらいしか欠点が出てこない映画だということ。

何かと複雑なレバノンという国の歴史的背景を知っていないと、多少置いてけぼりを喰らうところも欠点と言えば欠点かな?あとは双子の姉弟にも何かしら人生の問題を設定していたほうが、この物語により説得力を与えられたかもしれませんね。さらに長くなりそうですけど。

ネタバレできない傑作!

ああ~本当はあれもこれも描きたいことが山ほどあるのですけど、ネタバレしては元も子もないのでほとんど書けません。でもね、本当にとんでもない物語で、凄い映画なんですよ!ついに母の遺言の真実に姉弟が気づいたときの、まさに息を呑む瞬間の見せ方なんて凄いんです!

歴史の非情さに、運命の残酷さに呑み込まれたひとつの家族にまつわる衝撃的な愛と恨みと赦しの物語。あなたにどれだけ会いたかったか。あなたのことをどれだけ想い続けたか。忘れられない想い。消せない痛み。壊れた心。許しがたい憎悪。それでもあなたを愛している。

腰痛もちを殺しにかかる超絶ヘビーな愛と憎悪と赦しの映画『灼熱の魂』。ネタバレはしないと固く誓いましたので、もうこれ以上は何も書きますまい。この映画を観た人ならば理解してもらえるはずですし、まだ観ていない人にはなんとしても観てもらいたい。

人が人を愛し、呪い、憎悪と怒りを膨らませ、復讐の連鎖を引き起こし、そしていかに人が人を赦すか、その重たい真実と想いの深さを絶対にその目に焼きつけてほしい。いかにして呪われた鎖を断ち切るか?この映画はそのヒントを我々に与え、託しておるのです……。

個人的評価:8/10点

DVD&Blu-ray

VOD・動画配信

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コメント

  1. ミス・マープル より:

    はい、これは本当にネタバレ厳禁、そしてあまりにも非情な事実を描いていました。
    連鎖し続ける報復の歴史は、沈黙でしか断ち切れないのでしょうか。
    すごく心に残る映画でしたが、2回見る気が起きないんです。あまりに辛い。

    • スパイクロッドスパイクロッド より:

      ミス・マープルさん、コメントありがとうございます!

      もう6年も前の作品ですので、初めはネタバレ込みの長文感想を書こうと思って再見してみたのですけど、観終わったときには「やっぱりネタバレしちゃいかん映画だな」と思い直して今回の感想と相成りました。おっしゃるとおり非情で、残酷で、重たいなかに微かな光を探すといった感じの映画ですので、なかなか何度も観ようとは思えないのですよね。ボクも初見から6年ぶりに観ました。そして今度もその重たい現実に打ちのめされてしまいました。しかし忘れられない、またいつか観るであろう傑作だと思います。

  2. leaf より:

    「野火」レビュー検索からこちらにたどり着きました。
    とても的を得た言い回しも絶妙なレビューで(上から目線みたいでごめんなさい)いっきに惹き込まれ、他のも読んでみたいなと。
    これから楽しみに色々なレビューを拝読させていただきますね。

    この映画は本当にただただ衝撃的でした。
    衝撃的という事に関してはこの映画の右に出るものはないとすら思います。
    ネタバレは絶対厳禁ですね。

    こんな残酷な運命があるのか。
    二つのものが一つになった瞬間(観た人はわかると思いますが)
    えぇーーーーっ!って感じです。
    私があの母親だったらと考えずにはいられない。

    一度目はかなりゆっくりな展開に痺れを切らして少々とばした所もあり^^;
    ですが結末を見て、これは絶対もう一度観なければと思っています。

    • leafさん、コメントありがとうございます!

      『野火』とともにこの『灼熱の魂』の感想も読んでいただいたようで、誠にありがとうございます。最近は本業のほうが忙しくなりすぎて更新できず、モチベーションも下がるなか、leafさんのような方がいてくれると非常に励みになりますのでありがたいかぎりです。

      さてこの『灼熱の魂』ですが、ホントはアレもコレもソレも書きたいところをグッとこらえたのはやはり未見の方にあの「衝撃」をなるべくまっさらな状態で味わっていただきたかったからであり、残念ながら書きたくても書けないネタバレ厳禁映画なのですよねこれ。あの衝撃と、悲しみと、やるせなさと、そしてそれでもあなたを愛しているという想い。何度観てもたまりません!いや、観るたびにその衝撃は大きくなると言ってもよいかも?ですので、leafさんも是非とももう一度観てみてください!

  3. わるいノリス より:

    あれ?この映画のコメントは投稿したはずだけど・・・と思いながらの再投稿でございます。
    何を隠そうこの映画がマイ・ベスト・ヴィルヌーヴであります。

    これは旧作レンタルで見たし評判もそこそこ聞いていたので「まぁ重いドラマだろうなあ」とそこそこ身構えて鑑賞したのですが・・・OPの意味深なカッコ良さにおおっ?と思いつつ、主演の女優さんの演技力に引き込まれながら、重いと覚悟してたけどバスのシーンあたりでこれは予想以上に凄い映画なんじゃないかと思ったところで絶妙なタイミングでの姉から弟へのバトンパス!
    ウェットでマジメな話ながらこういう話の推進力やこちらを楽しませる展開もしっかりしてるのが感心と思いきや。。。

    仰られる通りの「1+1は2だよな?」のシーンでの真相解明のシーンが僕はトラウマ級に、あの静かな悲鳴が!もう!初見時は映画を見ててここまで背筋が凍ったことがあるかと思うくらいに驚かされて・・・
    そりゃ展開としてはあり得るんですがあの悲鳴の出し方と表情、そして足の紋章だけで語る静かな狂気と絶望!これこそ映画の魅力だ!!!

    肝心のフィニッシュの母から父・息子への手紙は「よくぞ言ってくれた!」と綺麗ごとを遥かに超越した力強いお言葉でもうここには出来の善し悪しとかセンスの良さは介入する余地がございません。
    本当に素晴らしい作品だと思います!一生かけて見直すと思います。こんな映画に出会えたこのブログにも感謝致します!!

    • わるいノリスさん、コメントありがとうございます!

      物語的には原作戯曲の出来の良さが大きいのでしょうが、その見せ方、構成、演出が本当に老獪な作品で、この時点ですでにヴィルヌーヴは巨匠の風格なんですよね。この映画を観て以来彼を追い続け、支持し続けたことは間違いではなかったことは、近年の『メッセージ』『ブレードランナー 2049』で証明済み。ボクも「1+1=1」の真相が判明したときの衝撃はいまだに忘れられません。そして何度観返しても、真相を知っているというのに、初見と同様、もしくはそれ以上の衝撃に何度でも打ち震えのです。知りたくはなかったが知らなければならない。殺してやりたいが愛している。そして、あなたを産んで、出会えて良かった。ああ~何度観てもこりゃたまらね~わ……。